ヴォルカニック・ワイン・アワード | The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト)

エンポルダ~輝きを取り戻すカタルーニャの遺産

2021年9月11日 土曜日 • 6 分で読めます
View from Cap de Creus vineyard

この記事のやや短いバージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。現在入手可能な70以上のワインのテイスティング・ノートはEmpordà revisited を参照のこと。

カタルーニャ人はその文化の保護に情熱を注ぐ。その想いの強さはカタルーニャ北東部の自然と地質学的な独自性を取り戻すためにクラブメッドのバケーション用施設を全て排除してしまったほどだ。確かにオートキャンプ場よろしく景色の中に入り込んだ430もの建物を全て取り除いたことで、この地の「再自然化」は全く新しいレベルまで到達できたのだろう。

この動きは1998年、海辺の街カダケスや著名なレストラン、エル・ブジからさらに奥地に入る、岩がちなクレウス岬を自然公園に指定した宣言に触発されたものだ。2010年までにクラブメッドはこの土地から姿を消し、現在クラブメッドがあったトゥデラの類まれな岩肌とクレウス岬の土地、海、空気、そして生態系からなる古代からの遺産は往時の姿のままの自然を取り戻した。

8月のある土曜の朝、私はクレウス岬を訪れた。慎重に手入れを施された小道はそれを辿るランナーやサイクリストたちのまとう色鮮やかなライクラ(訳注:繊維の名称)で彩られていた。私を迎えてくれたのはエネルギッシュなアンナ・エスペルトで、家族経営のエスペルトでワインを造っている人物だ。172ヘクタールに及ぶその畑はほとんどが地元のアペレーション、エンポルダに属する。ただし、巨大なペレラーダ事業の方がワインの販売数は多い。

ヴィラジューガにある、旅行者に寄り添うエスペルトの近代的なワイナリーはそこからかなり内陸に入った場所にあり、いくつかの異なる地域に点在する畑のブドウを利用している。だがアンナ・エスペルトの心が最も動かされるのは、海の見えるクレウス岬を望む場所に彼女が創り出した畑から得られるものであることは一目瞭然だろう。「この場所にいるだけで安らぐんです」彼女は深く青い地中海や、はるか遠くに見えるリゾート地ロザスからなるパノラマを眺めながら微笑んだ。この地にある彼女の畑には、彼女の父が発掘した青銅器時代の巨石が横たわる。

ブドウの根に致命的なフィロキセラがカタルーニャで初めて発見されたのは1879年、エスペルトも一部のブドウ畑を所有するラボスの街だ。それ以前には、この場所はワイン王国だったのである。20世紀に入るころには、1万ヘクタールもの畑があったこのワイン産地は完全に消え失せてしまった。かつてブドウ栽培のために苦労を重ねて築き上げた3万kmに及ぶ石造りの段々畑は、ごく最近になって復活したこの地でその痕跡がわずかに見られるのみで、現在生産をしている畑もわずか1821ヘクタールだけだ。

エスペルトがブドウ畑をここに作った理由の一つは、クレウス岬のブドウ栽培の歴史に敬意を表したためだった。ブドウの主幹が非常に細かく、樹齢はせいぜい数年と考えられるほどに見えたが、実はこの地がブドウにとって非常に厳しい環境であるためだった。ブドウ畑には冷たいトラムンターナ(風)が山を越えて北から吹き付けるのに加え、海からの風にもさらされる。自然公園の推進者たちは生物学的多様性の促進に熱心で、ブドウは多くの植物よりも森林火災に強いとみなしている。なにしろエスペルトによれば2021年には今のところ153㎜しか降雨がないのだ。「通常の」夏でも非常に乾燥し、山火事のリスクが高いのがこの地域だ。

数値の正確さは干ばつを経験した痛みと、彼女自身の科学的背景によるものだ。彼女は生物学者になるはずだった。ところが祖父のワイン造りを受け継ぐこととなり、単にセラーの手伝い程度しかしたことのなかった彼女は、2000年にカリフォルニアからこの地に戻ってきたのだ。そこでは大きな困難が待ち受けていた。19年前、彼女がクレウス岬に25ヘクタールのブドウを植えたのは、周囲の人に推奨する意味もあった。彼女はブドウをしなやかで水分要求量の少ない自立型の株仕立てではなく、ワイヤーを使って垣根に仕立てた自身の決断を最初の間違いだったと話していたが、いずれにしても2017年以降そこからとれるブドウで造った単一畑の品種表記ワインはなかなか印象的なものだった。

彼女はワインメーカーであるザビ・マルティネス(Xavi Martínez)とともに企画してくれたテイスティングには、ニック(訳注:ジャンシスの夫、ニック・ランダー)と我がチームのフェラン・センテレス(Ferran Centelles)も同席した。そのテイスティング会場はブドウ畑の下に続く並木道の終点で、私が経験した中でも最も雰囲気のある場所だった。「ここでスープを作りながら1日を終えたい」と彼女が話した農家の廃墟が傍らにたたずんでいた(下の写真)。

彼女は比較的新しいこれら単一品種の畑に、クレウス岬の中で特に思い入れのある場所にちなんだ名をつけた。彼らが「キレのあるクラレット品種」と呼ぶピカポリャ(Picapolla)から造られる白ワインはプラ・デ・トゥデラという名で、例のクラブメッドの跡地で、彼女が特に泳ぐのが好きなビーチにちなんでいる。「私はいつも車にタオルを乗せているんですよ」彼女はそう話してくれたが、滅多にそれを使うことはないそうだ。赤ワインはこの地ではリェドネール(Lledoner、時にはLladonerと書く)・ネグレと呼ばれるガルナッチャで作られ、ヴィンテージを重ねるごとにスリムになり、フレッシュさが増すワインだ。これはエル・ブジを見下ろす、松に覆われた岩場にちなんでカラ・ロステリャと呼ばれている。

これらの特別なキュヴェは同じ価格で販売されているので、スペイン市場は白ワインに比較的高い価格がつくことに抵抗はなくなったのだろうかと考えてしまったのだが、白の方が生産量は少ないものの、赤よりも早く売り切れるのだと聞かされた。エスペルトによれば、「長いことエンポルダは赤ワインの産地と考えられてきましたが、今我々は白ワインにも注力すべきだと学びました。特に地元品種であるリェドネール・ブラン(グルナッシュ・ブラン)、リェドネール・ロイグ(グルナッシュ・グリ)、カリニェナ・ブランカ(カリニャン・ブラン)にね」。

アンナ・エスペルトは家族所有の畑をこっそり有機栽培に切り替えたのだが、そのことを農薬販売業に携わる父親に話すのは日曜のランチで彼がかなり酔っぱらった時まで待ったのだと教えてくれた。

エスペルトは地元のグルナッシュ・グリを復活させた先駆者でもある。この品種は比較的広く栽培されている果皮の白いグルナッシュ・ブランよりも間違いなく面白く、香り高いワインを生み出す。実は以前、ピレネー山脈を越えたフランス側でカリニャン・ブランをテイスティングした私にとって、この品種にはあまり良い印象はないのだが、エンポルダ・バージョンのカリニャン・ブランを1,2種類飲んで、それが証明された。ただし、彼らのスタイリッシュなワイナリーでテイスティングした、14か月間古いフレンチオークで熟成させたラ・ヴィニェタ(La Vinyeta)のミクロヴァンズ(Microvins)2019にはすっかり魅了された。そのワインは重厚かつ生き生きとし、印象的なグリップだったが、ラ・ヴィニェタの共同設立者で、下の写真で「Rumble in the Jungle」のTシャツを着てチーズを持っているジョセップ・セッラも、アンナ・エスペルトも、この品種にはそれほどの風味がない点は認めた。おそらく単一品種ワインとしてよりも、ブレンドの1品種として終わるブドウなのだろう。

ラ・ヴィニェタはジョセップとマルタ・セッラによって2002年に設立されたが、こちらも非常に面白いワイナリーだ。ジョセップの兄(弟)はバルセロナでデザイナーをしているため、そこから得られる情報も活用している。ミクロヴァンズのラベル(下の写真)はまさに、有用かつオタクな情報を非常に賢い手法で提供している好例だ。さらにラ・ヴィニェタのチームはアウトドアのカフェや羊、自社製のチーズやオリーブオイルなどで来訪者を惹きつける方法を地元の人々に見せつけた。ラ・ヴィニェタの周囲だけはまるでカリフォルニアのような雰囲気だ。

エンポルダはまさに今、現在進行形の土地だ。国際品種称賛の時期はとうに過ぎ、今、地元で最も栽培されている2つの品種、リェドネール・ネグレとカリニェナ・ネグレ、すなわちグルナッシュとカリニャンに注力している。これら品種はカタルーニャで最も高い価格がつく産地、プリオラトの主要品種でもある。エンポルダのブドウや、その果皮の色の薄い変異種の平均樹齢は驚くほど高いのだが、非常に小さい地域であるため、プリオラトほど名声が高まることはないだろう。最近テイスティングした73本のエンポルダのワインのうち、最上のワインの中には一握りしかない協同組合の単一畑のワインもあり、とても嬉しくなった。なにもかも一つの発酵槽に投げ入れていた時代から見れば、歓迎すべき進歩だろう。

エンポルダは地質的にも気候的にも、ピレネー山脈を越え、バニュルスの故郷でもあるルーションのイメージを強く反映している。そのため、最高品質のワインの中には、様々な製法で作られたアルコールが強く、甘口のものがあり、中には非常に魅力的なものもあった。だが、それらに紙面を無駄に割くことはやめておこう。今の世の中は、その種の素晴らしいワインに対する興味が不思議なほど薄いことがわかっているからだ。でももちろん、辛口と同時にそんな甘口にも興味を持ってもらえる時代が来ることを私は願っている。

わくわくするエンポルダのワイン

以下のワインには全て20点満点中17点以上を付けた。だがこれらをイギリスで入手することは非常に困難で、アメリカでも同様である点はとても残念だ。

白ワイン
Clos d'Agon, Clos d'Agon 2018 13.5%

Espelt, Pla de Tudela 2018 12.5%
€36.90 RRP in Spain

赤ワイン
Perelada, Aires de Garbet 2017 14.5%
€40 RRP in Spain

Perelada, Finca La Garriga Samsó 2016 13.5%

Espelt, Cala Rostella 2018 and 2017 14.8%
€36.90 RRP in Spain

Masia Serra, Aroa 2018 13.5%
€26 RRP in Spain

Mas Vida, Vida Nua 2017 14%

Roig Parals, Camí de Cormes Vinyes Centenàries Carinyena 2018 14.5%
€26 RRP in Spain; £60 (2007)

Sota els Àngles 2019 13%

La Vinyeta, Microvins Carinyena Negra Bota 2018 15%

Sweet
Masia Serra, Ino NV 16%

Vinyes dels Aspres, Bac de les Ginesteres NV 15%
£36.50 Albion Wine Shippers

これらエンポルダの全てと、その他のワインのテイスティング・ノートはこちらで。また世界の取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

原文

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