ヴォルカニック・ワイン・アワード | The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト) | Mission Blind Tasting

エスカとその仲間たち(特別掲載)

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訳注:先日翻訳・掲載した「ブドウの幹に巣食う病魔~フィロキセラよりも悪性か?」に多くの反響をいただきました。
病害の実情を理解するためには、該当記事内からリンクされていた約2年前の記事が役に立つと考えられたため、今回特別に翻訳して掲載します。

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これはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。

2011のテイスティングのためブルゴーニュとローヌを巡っていた今回の旅の間に、私は不安を抱えたヴィニュロンに多く出会った。これは成長期の天候に恵まれず収穫量が少なかった2012年の問題点として広く共有されてはいないのだが、実は非常に深刻で長期的な問題である。

それは私が最初に立ち寄ったコート・ド・ニュイでのことだった。よく手入れされたジュヴレイ・シャンベルタンのドゥニ・バシュレ(Denis Bachelet)のセラーで私は初めてその危機を知った。彼は温厚な人物で素晴らしくバランスのとれたワインを作り、物事に尾ひれを付けるような人物ではない。しかし彼は明らかに自分のブドウの健康状態、特に毎年10~20%ものブドウがエスカという木の幹の感染症によって枯れていく現状に不安を抱いていた。

バシュレのセラーの先にある世界的に有名なドメーヌ・アルマン・ルソーのエリック・ルソー(Eric Rousseau)は彼の所有する偉大なピノ・ノワールもまた枯れ続けていることを教えてくれた。例えば、樹齢50年の1級畑カズティエ(Cazetiers)のブドウは今、かなりの割合で毎年植え替えを迫られるというのだ。シャトーヌフ・デュ・パプでは、ポール・ヴァンサン・アヴリル(Paul-Vincent Avril)の秘蔵っ子とも言えるクロ・ド・パプの畑も1ヘクタール当たり100本ものブドウを毎年感染症によって失っている。そして最悪なことに効果的な対処法はないのである。

さらに非常に不幸なことに、現在わかっている限りエスカは若木よりも古木、少なくとも樹齢が10年を超えるブドウへの感染力が高いのである。なぜ不幸だと述べたかというと、その土地の環境に馴染んだ古木は根が地中深くに張り、収量がやや低いため、そこから作られたワインは若木から作られたものより高品質で複雑な味わいとなることが広く知られているためである。だから多くのラベルに「Old Vines」「Vieilles Vignes」「Vinhas Velhas」(訳注:全て古木の意)などと高らかに宣言されているのである。近い将来、ヴィニュロンに畑で樹齢を尋ねたら、植え替えられた若木を含む平均的な樹齢ではなく最も樹齢の高いブドウのそれを答える日が来るのではないかという一抹の不安を覚える。

しかし、エスカは若木にも認めらるようになってきており、ペトリ病(black goo) のように色のついた浸出液を伴う。幹や葉には奇妙な模様の脱色が見られ、縞模様や斑点が見られることが多い(IFV(the Institut Français de la Vigne et du Vin)提供のこの写真でよくわかるだろう)。葉、それに続いて茎が成長期の真っただ中に突然萎れ、ブドウは房ごと落ち、その木は突然死を迎える。最初の兆候が見られてからどれぐらいの期間で木が枯死しまうのか予測することは不可能だが、急速に、特に雨の続いた後の渇いた夏の日には数日という単位で枯れることもある。(トップ左の写真はイーデン・リサーチplc提供のものだが、エスカに感染した樹齢27年のブドウの幹に見られる症状である)

更にあと2つ、1999年に設立された国際ブドウ樹疾病委員会(The International Council on Grapevine Trunk Diseases)の話題を独占している重大事象がある。ユーティパ・ダイバック(eutypa dieback)、別名ユーティピオーズ(eutypiose)と、最近知られるようになったボトリオスフェリア・ダイバック(botryosphaeria dieback)あるいはブラック・デッド・アーム(BDA)である。これらは全て最近、特に昨年からその被害が明るみに出てきたものである。

昨年9月にIFVが発表した公式文書によると、エスカとBDAの発生率の増加は2012年、降雨量が記録的に多かった春とそれに続いた初夏の猛暑がブドウにストレスを与え、抵抗力を下げたことが原因である可能性が指摘されている。この時ひどい畑ではブドウの50%が失われた。

偉大な品種として知られボルドーのメドックで元も高貴な品種とされているカベルネ・ソーヴィニヨンとソーヴィニヨン・ブランは、これら3つの感染症に特に弱いことが今世紀初頭から知られるようになった。さらに懸念されていることはブルゴーニュのピノ・ノワールなど、以前はこれらに抵抗性があると考えられていた品種にまで病害が広がっている点である。ボーヌのオリヴィエ・バーンスタイン(Olivier Bernstein)によると、エスカは特にシャルドネ、1980年代に植えられたものに多く感染が認められているそうだ。

膨大なモニタリングとこの感染症に関与する菌類の同定が行われているにも関わらず、これほどまでに感染が拡大している理由はほとんどわかっていない。今世紀初頭までは対策としてブドウ畑にヒ素を撒いていたが、当然のことながら現在では禁止されている。このことが近年のブドウの幹の感染症の広がりと関連がある可能性はある。

もちろん、これはフランスに限ったことではない。現在イタリアでも広く見られる現象であり、スペインも北部から南部まで感染が広がっていると考えられる。現在スペインの生産者の中には民間療法的な治療を試みているものもいる。ブドウの幹を引き裂いてそこに石を挟み、原因となっている菌を乾燥により死滅させ、翌年はその裂け目の下から新梢を取るというものだ。ううん、神に祈るしかない。(写真はデイヴィッド・サーストン博士、コーネル大学の植物病理学名誉教授提供)

この病害はドイツでは(まだ?)深刻ではないがスイス同様少しずつ増加している。かすかな希望はイタリアで開発された新しい剪定方法で、原因菌の拡散を食い止める望みを託されている。この感染症が蔓延したのは菌そのものではなく剪定によるという説もある。剪定しながら殺菌剤を注入できる剪定器具もある。

この状況は19世紀終盤にヨーロッパに蔓延した病害の波を思い起こさせる。ウドンコ病、ベト病に続き、忌々しいフィロキセラがヨーロッパのブドウに致命的な影響をもたらしたあの時代である。このため一時期フランスのワイン生産の灯は消えかけ、フィロキセラ耐性のあるアメリカ系品種の発見によってなんとか息を吹き返した。その時以来、ほとんどのヨーロッパのブドウと現在世界で生産されるワインの97%を占めるヨーロッパ系ブドウ品種はフィロキセラ耐性のあるアメリカ系台木に接ぎ木されているのである。

マイケル・アネロー(Mickaël Anneraud)はメドックの地方農工会議所メドック支部長だが、彼は台木の性質がカギを握ると考えている。彼は自分の所有する大きく被害を受けている場所で、たとえ隣接していても樹齢が25~40年のブドウは樹齢20年前後の物に比べて影響が明らかに少ないことに気づいた。 20年前に一般的に使われていた台木は25~40年前に使われていたものよりはるかに樹勢が弱いものである。彼は樹勢(木によって異なる葉の茂り方の傾向)との関連を調べてみる価値があると考えている。

一方、ブルゴーニュ人は巨大かつ資本に富み、ワインに注力しているボルドー大学のような機関がないため、絶望的な思いを抱えている。苗木商が若木の消毒の手抜きをしているとも言う説もある。10年ほど前にコルクで同様の問題が露見しているからだ。ムルソーのドミニク・ラフォンは2012年は過酷な気温変化と降雨の影響でエスカが猛威を振るったが、根本的な問題は苗木商にあると考えている。彼は現在一般的な台木と穂木をつなぐオメガ型の接ぎ木法は機械化することができ、手で行わなくてはならない伝統的な切接ぎに対し苗木商の省力化が可能だが、これが感染症蔓延の原因ではないかとみているのだ。彼は苗木商に「ゆっくりやって!お金なら払うから!」と言いたいと話していた。

原文

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