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最高のワイン、最高の頭脳

Saturday 1 July 2017 • 6 分で読めます
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この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

ワインのプロの会合というと一定のパターンがある。集まって、テイスティングして、時には食べて、解散する。たいていの場合はそこに到着した時よりも世の中に好意的な気持ちになって。

だが2週間前ニックと私はそれよりはるかに知的なものと思われる会に招待された。招待状には「ワインビジネスに関わる最高峰の頭脳を集め、国際政治、経済文化、技術界の優れた人物たちと共にキャンプ・デーヴィッドのようなスタイルで行うこの会合は次の10年の行方を決める大きな話題やトレンドを理解することを目的としています」と明示されていた。

この差出人はシンクタンクの指揮に関わるキャリアを持っていた人物だとすぐにわかった。そして我々がもしニコラ・シエラ・ロレ(Nicole Sierra- Rolet)の異文化交流会にそれほど関心があったわけでも招待に喜んだわけでもなかったとしたら、決め手は今月初旬に開催されたこのファイン・マインド・フォー・ファイン・ワイン(訳注;最高のワインのための最高の頭脳の意)の会場だったと言えよう。私は南ローヌにある彼女のシェーヌ・ブルー(Chêne Bleu)というワイナリーは以前から知っており、そこに彼女と夫でロンドン証券取引所頭取のザヴィエ・ロレ(Xavier Rolet)が惜しみなく注いだ愛情と大金のことも知っているが、訪問したことはなかった。今回は完ぺきな言い訳になると思ったのだ。

もちろんその最高の頭脳というものには彼自身も含まれており、毎年恒例のロンドン市長官邸でのディナーが急にキャンセルになったこともあり、予定よりもかなり早く私たちに合流した。他にはチャタム・ハウスのディレクターで、コネクティビティ・イニシアティブ設立者であるエリザベス・リンダー(Elizabeth Linder)を擁立したロビン・ニブレット(Robin Niblett)もいた。

彼女のシリコン・ヴァレーでの経験がこのイベントの特徴とも言える異文化交流的な空気を生み出していた。彼女は明らかにクラフトビールがアルコール飲料の選択肢だった文化からセント・ジェームスのワイン文化への転換を楽しんでおり、実際WSETのコースにも参加している。

彼女の本業は企業幹部、政府関係者、政治家を21世紀のデジタル世界へ引き込むことだ。その問題点の一つが、彼らが「普通であること」に乗り気でない点だが、今日意思の疎通はその舞台を個別に与えられた数多くの個人の声が元になっている。ユーチューブの方が議会議事録よりはるかに説得力が高いのだ。

彼女はアマチュアリズムの台頭と専門家への信頼の減少という点を強く主張した。事実これはほぼすべてのディスカッションを通したテーマであり、特にワイン批評に関しては最も関連性の高い話題だった。さらに彼女はインスタグラマーをブランド・アンバサダーにすることでワイン業界は利益を得られると提案した。私は警察も今やソーシャルメディアを非常に有効に活用し、失踪者の捜索や市民の暴動の監視に役立っているという彼女の話にひきつけられた。現代ではメディアが報道する警察情報よりも警察のアップデートを信頼する人の方が明らかに多いのだ。

ザヴィエ・ロレの最高の頭脳と経済の知識をワインビジネスへ応用するならば、その極端な細分化とインフレ規制(inflationary regulation)への異論を唱えることだ。彼はワイン生産が今や(財力のある退職者にとってはロマンティックだとしても)若者にとっては経済的に魅力的なものではない点を不安視しており、ビジネスのダイナミックな集積によって彼らが資本を得やすく、ほんの一握りの業者が流通を担っているこの世界にもっと力をつけられるような状況を期待したいと述べた。そのどれもが間違いなく健全で公正なアドバイスだったが、もう一つの強い流れ、信頼性とトレーサビリティを伴う究極なまでの個人主義とは相いれないようにも思えた。

参加者全員は上の写真にあるような特別なシェーヌ・ブルーのネーム・バッジを渡された。ワイン業界からの参加者にはパリスの審判を1976年に企画したスティーヴン・スパリエ、彼の教え子のミシェル・ベタンヌ、フランスで最も著名なワイン・ライターであるアンドリュー・カイヤールMW、イギリスのワイン・ライターからワイン・マーケッターへ転身したロバートジョセフがいた。多くが食と飲み物の流行の関連性について述べた。

消費者が食事をする場所が三ツ星の高級レストランからカジュアルな店へと移り変わっていくにつれ、最高のワインの定義もかつてに比べると無限と思われるほど広くなった。その傾向は今でも続いている。死の瀬戸際にあると言える2016年のボルドー・プリムールの期間中、このシンクタンクは(私のインボックスとウェブサイトから推察するに)それにはほとんど興味を示していなかった。関連するメンバーズ・フォーラムのスレッドの閲覧数は昨年の7分の1しかなかった。

現代のワイン愛好家は世界中の非常に広い範囲のワインにこれまでにないほど興味を持っている。そして品質の評価に単一の客観的な物差しは存在しないし、それはもちろん価格でもない。だが工業的に生産されたビールとクラフトビールの区別は非常に明確なのに対し、ワインのパッケージから得られる視覚的な手掛かりはないに等しい。ワイン生産者はこの消費者と最も強くつながることのできる道具、ラベルについてもっと考えるべきだろう。

より効果的に消費者とコミュニケーションを取るというワインビジネス界のニーズはディスカッションでも常に取り上げられるテーマだった。才能や一貫性を備えてソーシャルメディアを利用している生産者はほとんどいない。ミンター・ディアル(Minter Dial)は技術系からの参加者だが、QRコードや拡張現実、仮想現実などを使えば消費者の教育や彼らへの情報提供の機会は無限にあると指摘した。彼はまた(おそらくけして全く根拠がないわけでもなさそうに)ドライバー不要の車があれば飲酒運転はなくなるし、今では自分のゲノム解析だって100ドルを超えない程度で行える時代だと続けた。ワインによって、あるいはワインのタイプによって個人のゲノムの成り立ちと相性が良いものがあるなどと言うことがありえるのだろうか。

ソーシャルメディアの利用がもっと洗練され生産者と消費者が同じデジタル空間に同席することができたら、そして小売業者や講師によるテイスティングを通じ言葉と同じぐらい液体を自由に広めることができれば、ワインにどっぷりと浸かることのできるという意味で、最近人気が高まってきているワイン・ツーリズムというスポーツに勝るものはないだろう。

アルザスのような稀な例外を除いて、ヨーロッパ以外のワイン生産国と比べフランスのワイン生産者たちは訪問者を受け入れる体制に非常に乏しいと非難されている。今回の主催者はそれには地域的な制約があることを説明した。フランスの法律ではワイン生産者が自分の敷地内でワインのテイスティングに課金してはならず、シェフを雇ってはならないと定めているのだ。

かなり多くフランスの代表者たちが参加していたこともあり、ワイン販促の公式団体が議題に上るのも当然のことだった。(このシンクタンクにはすべての地方の公式団体が招待されていたのだが、「最高の」という名がついていると聞くとしり込みしてしまったらしい。メンバーにその参加を正当化するのが難しいのだそうだ)

ある高い地位にあるフランスのワイン貿易の関係者は生産者たちに公式団体と共に積極的な役割を担い、彼らの莫大な予算の使い道の決定にも関わるべきだと強く勧めた。最近のヨーロッパのワイン界で目立つ傾向は、これらの組織に会費を徴収される側からの組織への不信感だ。

これらのディスカッションは非常にうまく意図され啓発的であったのだが、正直に言うと私がその週末に一番楽しかったのは自分が最も身近に感じていること、すなわち参加者が持ち寄るように言われていたワインのテイスティングだった。私のお気に入れは以下に記載した。テイスティング・ノートについてはWhat is fine wine?を参照のこと。

最高とされたワインの中のお気に入り
以下は最近南ローヌで開催されたファイン・マインド・フォー・ファイン・ワインに参加者が持ってきた32本のワインの中の個人的なお気に入りだ。

Clos des Papes 2009 Châteauneuf-du-Pape
Ch La Nerthe 2002 Châteauneuf-du-Pape
Dom de Beaurenard 1986 Châteauneuf-du-Pape (magnum)
Au Bon Climat Chardonnay 2014 Santa Barbara


Dom Fourrier, Clos St-Jacques 2011 Gevrey-Chambertin
Clos de Trias 2010 Ventoux
Clos des Papes 2010 Châteauneuf-du-Pape
Ch Rayas 1997 Châteauneuf-du-Pape
Gérard Bertrand, Clos d'Ora 2013 Minervois-La Livinière
Lukasi Saperavi 2014 Kakheti
Ridge Monte Bello 1991 Santa Cruz Mountains
Tenet 2014 Columbia Valley

原文

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