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プリムールの「奇跡」

• 5 分で読めます
Ronan Laborde of Ch Clinet and the UGCB

パンデミックがボルドー2019をいかに直撃し、そして救ったのか。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

Guide to coverage of 2019 bordeauxも参照のこと。
上のUGCB社長、ローナン・ラボルドの写真はTayloe & Yandellの提供だ。(UGCB, is pictured above by Taylor & Yandell)

マチュ・シャドロニエ(Mathieu Chadronnier)はボルドーで最も重要なワイン商の一つ、CVBGを経営している。彼は慎重に言葉を選びながら、時には長く沈黙を挟みながら話す。決して大げさな言葉遣いをする人物ではない。だが今月末彼に今年のプリムールの状況について尋ねると即座に「奇跡ですよ!正直、世界中が不況にあえぐなかで高級ワインビジネスに関わり、こんな大成功を収めていることは本当に幸運です。自分たちがいかに運に恵まれているか、感謝すべきだと思っています」と答えた。

プリムールになじみのない向きのために、少し説明しておこう。毎年春になるとボルドーのワイン業界は数千人のワイン商やメディアを招き、前年の樽サンプルをテイスティングしてもらう。彼らの反応やスコアがワインの価格が夏に入るころ、数週間に渡り発表され「プリムール」として販売される際の助けになることを期待しているからだ。

とどまることなく上がり続ける価格と、それに代わる多くの心躍るようなワインの台頭によって、世界のワイン愛好家たちの間では徐々にボルドーと、とくに経済的に意味をなさなくなってきたプリムールに対する失望が明らかになっていた。若く瓶詰めもされていないようなワインを購入する価格と同程度の価格で、より熟成したヴィンテージを購入できることも往々にしてあるためだ。

このプリムールのテイスティングがボルドーで開催されるまで3週間を切った3月11日、ユニオン・デ・グラン・クリュ・ド・ボルドー(UGCB)では主要なシャトーの所有者たちがプリムールの実行を決め、世界を驚かせた。2日後、マクロン大統領がフランスでロックダウンを実施し、UGCBはテイスティングなどの一連の行事を延期せざるを得ないことに気づいた。このフランス南西部の地域はコロナウィルスの影響を比較的受けていなかったこともあり、ボルドー人たちはその実態を把握できていなかったのかもしれない。もともとボルドーのワイン商たちに批判的だったイギリスの高級ワイン商の多くは、プリムールを数か月遅らせるか、中止にすべきだと働きかけた。5月11日にフランスで外出規制が解除されたことに後押しされ、UGCBはロンドンで6月にテイスティングを行うと計画したものの、イギリスのイベント会社にその安全性を納得させることはできなかった。

しかしながら、結局プリムールは5月28日、通常の大規模なテイスティングなしで開催され、最初にリリースしたポンテカネ2019は劇的な、2018年比32%もの価格の低下を見せた。そのスコアはまだ発表されていないが、他の2019の出来たてワイン同様、新たな参入者も含めて多くの買い手がついた。

このように早い段階でリリースする際、各シャトーはリリースする量を決めることができる点は述べる必要があるだろう。当然、多くのシャトーが全量を放出していなかったのは明白だった。これは人気のあるワインを販売する側からすれば非常に残念なことだ。一方で、重要なことはこのように全面的な価格の低下が見られたのは記憶にある限り初めてであるという点だ。ポムロールにあるシャトー・クリネのローナン・ラボルド(Ronan Laborde)は長きにわたり苦しんできたUGCBの会長だが、先日電話で、彼の17年に及ぶボルドーのワイン業界とのかかわりの中で、前年比でこれほど広範囲な、20~25%にも及ぶ価格低下は経験したことがないと話した。アンジェリュス、パヴィ、グリュオラローズなど、わずかしか価格を下げなかったワインの売り上げは芳しくなかった。

今年のヴィンテージの品質?そうだった、それだ。私は今年のワインはテイスティングしていない。なぜならクルティエから樽サンプルが送られてくる際に熱にさらされる可能性があり、最善な状態と思えなかったからだ。友人でありマスター・オブ・ワインでボルドー在住のジェイムズ・ローサー(James Lawther)はJancisRobinson.comのために果敢にシャトーのテイスティングを回ってくれた。実際にテイスティングした彼によると、こちらでも書いている通り2019の品質にはこの上なく感嘆したそうだ。ラボルドいわく「10月の時点で偉大なヴィンテージになることはわかっていました。生産者たちもそう言っていたかもしれませんが、我々は何度もそう話していました。パンデミックのおかげで黙らざるを得ませんでしたけれどね。結局、単なるワインにすぎませんから。世界ではもっと重要なことがたくさんありましたから」。

おそらく、今回のパンデミックで最も重要な点は、たとえ偉大なヴィンテージだとしても、ボルドー人が面目を失うことなく価格を下げる言い訳を与えたという点ではないだろうか。そして消費者たちはそれを享受した。本サイトのメンバーズ・フォーラムワイン・オーナーズのニック・マーティンが、今回発表された価格が前のヴィンテージと比較してどう変化したか、そして今や業界が依存するコメンテーターによるスコアを参考に、その日の価格が妥当な値だったのかを示すグラフを提供したことで大いに盛り上がった。

6月も終わりに近づいて最終的な価格が出そろうにつれ、マーティンはこちらのプリムールの総括の中で「魅力的だったのはヴィンテージに対する感情面での反応です。フォーラムの何人かのコメンテーターたちが落ち着いた正常な感覚を持ち合わせていることが見て取れ、2年後、保税倉庫にワインがつ到着することを見据えたバイヤーたちに楽観的な感情を与えてくれました」。

おそらくもう一つ重要なことはロックダウンが解除となる兆しが見え、ある程度自信が取り戻せるまでワインがリリースされなかった点だろう。ラボルドは「我々は生き残れたことをとても幸せに感じ、エネルギーと高揚感に満ちています」と話した。これまでと違い、プリムールは2週間半という濃縮した期間に短縮され、今回に限ってはリリースも注意深く計画され、ワイン商が入札の準備をできるよう(価格を知ることができるのはリリース日の早朝だったが)事前に告知された。

もうひとつプリムールを救ったのは、ロックダウンのために潜在的なバイヤーは通常よりも時間があり、すべての取引が行われるスクリーンに張り付いている時間を長くとれた点だろう。プリムールは、最終的においしい思いができる市場での取引を楽しむチャンスも生み出した(Liv-exはすでにいくつかの取引があったと報告している)。シャドロニエも認めているように、オンライン・プリムールと呼べるのだろう。ただし、彼にはさらなる理論がある。ロックダウンの間重要性が増したのは、一日に神聖とも言えるいろどりを与えてくれた食事と(彼の家庭では常に伴うのだろう)ワインだという点だ。

彼によると、イギリス、ドイツ、スイスではとりわけワインの売り上げが伸びた。さらに昨年10月にヨーロッパからの輸入ワインに25%もの関税がかけられたアメリカでの需要に彼は驚いたという。さらに拍車をかけたのが支払い条件の緩和だ。ネゴシアンやシャトーは誰がどの費用を負担するのか対立するものだが、ラボルドによるとことしは「団結心」が見られたというのだ。「まるで戦時中のように、些細な意見の相違は忘れてしまうんでしょうね」。

BIワインズのゲイリー・ブーム(Gary Boom)はもっと実務的だ。「今年はネゴシアンも喜んでいますよ。不当に値段が高い在庫を持たなくて済みますからね。」

プリムールで販売されなかった大量のワインは最終的には市場へ流入することになり、間違いなくプリムールよりもはるかに高い価格となるだろう。予測に反し、先月プリムールで、比較的お買い得な価格で購入した人々を喜ばせることとなる。かつてのボルドーが帰ってきた!

特に成功した2019のプリムール

ロンドンの2大ワイン商での数量ベースの売り上げトップ10は下記の通り。1ダースあたりの保税価格を記載しているが、すでにその価格が上昇しているものもある。中には配当分が完売しているものもある。

BI ワインズ
Lynch-Bages £790
Figeac £1,512
Pontet-Canet £732
Mouton Rothschild £3,588
Lafite £5,148
Cheval Blanc £4,500
Grand-Puy-Lacoste £540
Léoville Poyferré £616
Pichon Baron £1,300
Palmer £1,998

ファー・ヴィントナーズ
Grand-Puy-Lacoste £540
Batailley £336
Lynch-Bages £790
Pontet-Canet £732
Montlandrie £158
Cruzelles £195
Canon £876
Langoa Barton £354
Léoville Poyferré £616
Léoville Barton £648

テイスティングはBordeaux 2019 - left bank and Bordeaux 2019 - right bankを、国際的な入手先はWine-searcher.comを参照のこと。

原文

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