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マッチの香りとその反作用

2015年1月24日 土曜日 • 5 分で読めます
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これはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。2013のブルゴーニュ白の1000件に上るテイスティング・ノートはこちらのガイドを参照してほしい。

革命的な変化が白ワイン醸造の世界で起こっていると述べても過言ではないだろう。そして、もしかしたらその革命は行き過ぎているかもしれない。この変化が数ヴィンテージにわたってゆっくりと進行したため、もしかしたら気づいていない人もいるかもしれない。しかし、最も劇的な変化の例は白のブルゴーニュとそれをお手本とするワイン、すなわち世界中で作られている品種、シャルドネである。

かつてこれらのワインを賞賛するには「バターのような」「濃厚な」「トースト香のする」という言葉が使われてきたが、今は違う。最近のワインには際立って酸が高く、明確な樽の使用を示すトースト香はほとんどせず、味わいは引き締まり、そして決定的な違いとして、マッチを擦ったときのような火打石の香りが明確に感じられるものが増えている。この硫黄の香りは熟成の間ワインを酸素から守る、いわゆる還元的醸造法と関係がある。

この醸造界での大きな流行(これは自然現象ではなく人為的なものである)の原因の一つはザ・ワイン・ソサイエティで経験豊富なブルゴーニュのバイヤーであるトビー・モーホール(Toby Morrhall)が「ザ・ポックス(訳注:pox=Premature Oxidationを指す)」と呼ぶ、ある現象への反作用だと言える。それは20世紀後半から21世紀初頭にかけて白のブルゴーニュの相当数に被害を及ぼした、謎のプレマチュア・オキシデーションという現象で、ワインを単調なシェリーのような味わいに変えてしまうものだ。ブルゴーニュでは、ワイン生産者たちはこの現象に恐れおののき、全く逆の方向性、すなわち酸化の逆である還元という方向に鋭い転換を行った。ジャン・マルク・ルーロ(Jean-Marc Roulot)はムルソーで最も尊敬を集める生産者の一人だが、こう述べている。「生産者や消費者の還元に対する考え方が大きく変わってきました。プレマチュア・オキシデーションのおかげでね。いまや還元はどちらかというとポジティブに捉えられるようになってきたのです。ブルゴーニュの白ワインの高名な生産者の中にも、明かに還元的な選択をすることが増えてきているので、消費者も還元という現象を高品質の証だと受け止めるようになってきています。」最近の白のブルゴーニュを並べて香り取って欲しい。きっと煙のような香り(フュメ)の連続になるだろう。

しかし、この流行はブルゴーニュだけのものではない。樽のかかったシャルドネが国際的な高い評価を獲得してきた国にも広がっている。マスター・オブ・ワインでありシャルドネの生産者でもあるショー・アンド・スミス(Shaw & Smith)のマイケル・ヒル・スミス(Michael Hill Smith)は少し前まではオーストラリアの全てのワイン・ショーで彼のような審査員がどれほど還元状態を技術的な失敗とみなしていたかを思い起こす。当時は「私たちの作る白ワインの要素の中で最も重要であるとされたピュアな果実味がマスクされてしまう」可能性があるとして積極的に避けることが求められていたそうだ。しかし彼は言う。「ここ3年から5年の間に、いやもっと前からかもしれませんが、私たちのような高価格帯のシャルドネの生産者はルフレーヴやコシュ・デュリを含む多くのブルゴーニュの白に見られる還元的な「マッチ香」を積極的に模倣する方法を探るようになりました。」

史上最年少でオーストラリアの公式ワイン・ショーの議長を務めたトム・カーソン(Tom Carson)はブルゴーニュで経験を積んだ、尊敬を集めるヤビー・レイク(Yabby Lake)の生産者だが、彼はその流行の始まりにもっと早くから気づいていた。「この流れは2000年代の早い時期から徐々に起こり始めたと言っていいと思いますが、2005年前後には非常に際立ってきました。それが一般的なワイン愛好家の興味をシャルドネに引き戻すのに大きく役立ったのは確かです。冷涼気候で育ち、野生酵母で発酵し、マッチや火打石の香りがする上質なワインにワインライターたちが飛びつき、それらがワイン・ショーで勝ち、ソムリエたちもその波に乗り始めたのです。」ヒル・スミスはこの流行はシャルドネだけでなくオーストラリアの樽発酵を行う他の白ワインにも広がったと言う。

では、生産者たちはどうやってこのような特徴的な性質を白ワインに与えるのだろうか。そこに畑での作業が影響することはほとんどない。例外としては2004年のブルゴーニュの畑で通常よりかなり頻繁に農薬散布が行われたことが挙げられる。これはうどん粉病の危険が高かったためだが、若いワインが還元的になる原因となった。しかし通常この特徴をもたらすのは醸造家がセラーの中で行う選択である。ブルゴーニュ人が「マッチ棒」と呼ぶマッチ香を最大限にするためには、醸造家は新樽の使用を最小限にし、かつて流行だった樽の底の澱をかき混ぜる技術を酸素との接触を促進するとして控え、同じ理由でワインの樽間の移し変えを最小限するか、行うとしても酸素のない環境で行う。あるいはドメーヌ・ルフレーヴやルーロのようにワインの熟成を樽ではなくタンクで完結させることすらある。樽によってマッチ香の特徴がどれほど出るのか非常に大きな差があるため、醸造家によっては揮発によって樽の中に生じた空間に還元的な成分を意図的に満たすこともある。

オーストラリアではそれ以外の特徴的な醸造の手法として、培養ではなく天然酵母のみを使い、酸を下げる工程であるマロラクティック発酵を抑制する方法も取られる。そしてオーストラリアに限らず、還元的なワインを求める生産者は瓶詰め時にこれまでの慣例よりわずかに多く二酸化硫黄を添加する傾向にある。硫黄は過剰にあると刺激臭のするコークス燃料に似ている物質だが、過去の過剰使用の反動で使用量が非常に減少し、このことがプレマチュア・オキシデーションの原因となった可能性がある。しかし現在ではトビー・モーホールが言うように「莫大な量のポックスの被害を経験したので、20年前に私がこの業界に入ったばかりの頃に広く感じられた硫黄の香りがすると安心しますよ。実際、硫黄の過剰使用のおかげで長寿命だったというワインもありますから。硫黄が消費されるまで4年は待たないとならないので、その必要がまた出てくることになるかもしれませんが、酸化した香りがするよりましですからね。」

私は単調なワインよりフレッシュなワインに大賛成だが、還元的な香りが自然な果実味を完全に消してしまっているワインの味わいはつまらないものである。そして還元状態が過剰になれば、苦味さえ感じることになる。単にマッチ香がするだけのワインは良いものとは言えない。その奥になにか面白いものが隠れていなくては。そして私にはまた、逆方向への変革の振り子のきしむ音が聞こえている。例えばコシュ・デュリやドメーヌ・ルフレーヴのワインは明確なマッチ香のする代表であったのだが、最近のヴィンテージではそれが控えめになってきているのだ。

また、注目を集める白のブルゴーニュの生産者、ドメーヌ・コント・ラフォンのドミニク・ラフォンは少なくともこのマッチ香のするワインに積極的な反対の姿勢を示している。「なぜプレマチュア・オキシデーションを防ぐためだけに還元的なワインを作らなくちゃいけないんだ?」彼は断固とした口調で述べた。品質重視の多くの生産者同様、彼はワイン中の酸素量を苦労して測定し瓶詰めの際に必要な二酸化硫黄の量を計算しているし、新しい特殊な技術を使えば抜栓せずに瓶中のワインの酸化リスクを計算することさえできるのである。

私個人としては、もう少し果実味を感じられる、マッチ香の少ない白ワインが飲めるのを期待したい。

お気に入り

以下のブルゴーニュの生産者は還元的なワイン作りに反対する姿勢の先頭に立っていると言われている。

コシュ・デュリ
ドメーヌ・ルフレーヴ

以下のブルゴーニュ生産者は「マッチ香の模倣」に最も成功している例である(アルファベット順)。

ボワソン・バド(Boisson Vadot)
ピエール・イヴ・コラン・モレ(Pierre-Yves Colin-Morey)
ダルヴィオ・ペラン(Darviot Perrin)
アルノー・アント(Arnaud Ente)
ジャン・フィリップ・フィシェ(Jean-Philippe Fichet)
ユベール・ラミー(Hubert Lamy)
ピエール・モレ(Pierre Morey)

原文

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