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2018、ビオデナミ最大の試練の年

Saturday 29 September 2018 • 6 分で読めます
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この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

フィナンシャル・タイムズの博識なガーデニング専門家、ロビン・レーン・フォックス(Robin Lane Fox)は有機栽培には断固としたアンチの立場を取っているようだが、ワイン用ブドウ畑の有機栽培は消費者からも生産者からも人気が高まっている。ワイン産地を訪問し、畑に農薬をまいている作業者を見たことのある人は、農薬が強力なため作業者がまるでノビチョク(訳注:神経剤の一種)の事故でも調査しているかのような防護服をまとっているのを見て有機栽培されたブドウを魅力的だと感じるようにもなるだろう。

恐らく説明がより難しくなるのは世界で最も崇拝されているワイナリーを含めた多くの生産者が有機栽培よりさらに基準が厳しいビオデナミに転換を進めている点だろう。ワイン・ライターでビオデナミ専門家でもあるモンティ・ウォルディン(Monty Waldin)によると世界のブドウ畑のうちおよそ5%が昨年有機またはビオデナミの認証を受けた(Monty's 2018 organic/BD audit参照のこと)。1999年にはその割合は1%に満たなかった(Monty's organic/BD stocktake overviewのイントロダクション参照のこと)。

ビオデナミの概念は哲学者のルドルフ・シュタイナーによって1920年代に説かれたものだが、その多くは、まったくもって馬鹿げたものに聞こえる。有機栽培同様、健康な土壌に力を注ぐ点は 確かに思慮深い。戦後の技術革新時代は、質より量を求められていたこともあり、極度に踏み固められ、栄養分、有機質、微小植物や微生物の枯渇した土壌が負の遺産となった。健康な土壌に健康な植物は育つが、しばしば私が経験するのはそれに加わる生命力が感じられるワインがビオデナミであると判明することだ。

農園は経済的に効率のいい単一栽培ではなく、総体的な生態系として存在すべきだというシュタイナーの主張は、従来型の科学とはかけ離れたものだが、その結果ビオデナミを実践する人々(その数は一般的な農作物に関してはドイツで特に多い)の土地には鳥や動物の姿が劇的に増えた。

ここ数年、機械よりも土壌の硬化が起こりにくい馬による鋤き込みが見られるようになり、カバー・クロップや、時にはブドウの葉を維持管理するために羊や山羊、アルパカが利用されるようになり、堆肥や角(その利用はかなり後のことだが)を提供する牛や幅広い種類の昆虫、望まない害虫を食べてくれる捕食鳥、さらには鶏まで導入されるようになってきた。

一方で、ビオデナミの3つ目の教義は最も大きな議論の的で、合理主義者が「似非科学」として否定する大きな理由となっている。ビオデナミを完璧に実践しようとすると、土壌、何よりも重要な堆肥、あるいは植物そのものに対し、番号がつけられ、その効果を増強した(丁寧に撹拌された)ホメオパシー的な特殊なプレパレーションを撒くことが求められる。それらの材料は様々で、発酵した牛の堆肥(500)、粉末状に挽いた水晶(501)、ノコギリソウ(502)、カモミール (503)、イラクサ(504)、樫の樹皮 (505)、タンポポ(506)、 バレリアン(507) 、トクサ、南半球では代替としてモクマオウ(508)を主成分とする。

これらの一部は使用前に牛の角や動物の膀胱や腸などに詰めて土に埋めることになっている。そしてそのすべてを撒くタイミングや畑作業は天体カレンダーに基づいて行われる。

当然のことだが、これは最も真剣にビオデナミを実践しようとする人々にしかすぐに取り組めないことである。一方で彼らが「非信者」に伝えたいのはこれらのプレパレーションは土壌、ブドウの樹、そしてブドウの果実にエネルギーと健康を伝達する役割を果たすのだという点だ。懐疑的な科学者たちは月の影響がそれほど強くない点を指摘する。だがビオデナミではないワイン生産者たちですら、ワインが自然な輝きに満ちたものになるようにと、長きにわたり月の満ち欠けに従って瓶詰めを行ってきたものもいる。

多くのビオデナミ懐疑論者はハリーポッターに言及する。ニュージーランドで最も尊敬を集める生産者の一人、セントラル・オタゴのフェルトン・ロード(紹介記事はこちら)はビオデナミで有名だ。だが2000年にそれを買収した科学者のナイジェル・グリーニングはこう語っている。「ビオデナミには同意しましたよ。伝統的な栽培方法への回帰だと考えていますからね。でも宇宙の力とか天体の位置なんていうハリーポッター的なものには同意していません。プレパレーションは使っています。それに何の意味があるのか私には理解できませんが、みんな楽しそうに取り組んでいますから。」そのワインメーカーであるブレア・ウォルターは父が農薬散布用航空機のパイロットだったため彼は「こういう農薬の臭いを嗅いで育った」と話すが、入れ替わるインターン名簿に載る人たちが水晶を粉に挽くことやフェルトン・ロードの雌鶏から卵を集める前の日の出にそれを土に埋めること、そしてその日の調理担当者の国籍がどこであろうと朝食を共にすることを楽しんでいるのだと話した。

ビオデナミは最近になってカリフォルニアでも流行してきた。ジェイソン・ハースは比較的最近、パソ・ロブレスにあるタブラス・クリークに導入したが、やはりその一部には懐疑的だ。「私たちはビオデナミのプレパレーションも忠実に採用していますが、ビオデナミの殿堂で重要視されているからと深く納得して使っているというよりも、ある意味好奇心から使っていると言えます。ただ少なくとも、ビオデナミのプレパレーションの影響はいい影響はあれ、害にはなっていないということは言えます。私が一番意味が分からず、ほとんど無視しているのはビオデナミ・カレンダーです。でもほとんどの点では非常に良い意味での農作業であり、実行していて気持ちの良いものです。」

多くの科学者が鼻で笑おうと、温かみがあり、曖昧で、ある意味非論理的なビオデナミの魅力を感じることは難しくない。しかしフランソワ・ピノーの指揮を取るフレデリック・アンジェラほどの堅物がビオデナミを取り入れるとするなら、それは注目に値する。彼はボルドーの1級シャトーであるラトゥール、ブルゴーニュの特級、クロ・ド・タールおよびドメーヌ・デュージニー、そしてローヌのスーパースター、シャトー・グリエをビオデナミに転換してきた。ピノーのナパ・ヴァレーでの所有ワイナリーは現在アイズリー・ヴィンヤードと呼ばれているが、前の所有者であるアラウホ家の努力のおかげで何年も前からビオデナミを実践している。彼らは公的な国際的ビオデナミ認証機関、デメターの認証を2002年という早い時期に取得している。

他に早い時期からビオデナミを導入しているのはブルゴーニュで最も有名な二人の女性生産者、ドメーヌ・ルロワのラルー・ビーズ・ルロワとドメーヌ・ルフレーヴの故アンヌ・クロード・ルフレーヴだ。後者は状態の悪かった特級畑ビアンヴニュ・バタール・モンラッシェで試しに導入したところその古樹に対するビオデナミの活性効果に感銘を受けた。

ラルーは自身のドメーヌを1988年に設立して以来、熱烈なビオデナミ信奉者だが、私が7月に彼女を訪問した際、今年の環境が与えたビオデナミ生産者への影響は火を見るより明らかだった(上右の写真は彼女のリシュブールの畑だ)。ヨーロッパの特に雨の多かった初夏は多くの有機あるいはビオデナミを実践するヴィニュロンにとって最初の試練だった。ベト病が猛威を振るい、2017年には春の遅霜によって収量が激減した多くのブドウは2018年も多くの畑で収量が減ることが予測されたのだ。シャトー・ポンテ・カネのアルフレッド・テスロンはそれを認めたが、生産量よりも「テロワールの表現を向上することが私たちにとって重要なことなんです」と話した。

世界的に有名なマルゴーのシャトー・パルメは2013年後半にビオデナミに転換し、すでにデメターの認証も取得している。ディレクターのトーマス・デュローは、ブドウがかかりやすいカビ病が問題となる比較的湿度の高いボルドーでも、ビオデナミの導入は良いことなのだと際立って多様な構成の取締役会を説得するのに多くの努力をしたに違いない。彼は先週こう告白した。「今年は私のキャリアの中で、今までになくうどん粉病の脅威にさらされました。最善を尽くしまし、化学物質は未来につながらないという信念を貫きましたが、収穫のかなりの部分を失うことになりました。でも最も重要なのは2018ではありません。重要なのはこの信念であり、長期的な視点から見た畑の未来なのです。」'

ビオデナミ栽培を何十年も続けてきている人々の経験に基づき、彼が確信しているのはブドウが最終的にバランスを見出し、病害や極端な天候に耐える力をつけてくれるということだ。有機やビオデナミ栽培を行っている畑に強さと応用力がもたらされた例は数多くある。

だがこれらの手法は短期的には非常に経費がかかる。化学農薬にかかる費用が限りなくゼロに近づくとしても、機械化された畑よりもはるかに多くに手間と労力が必要とされるからだ。多くの畑で銅の毒性が見られている点からすると奇妙ともいえるが、ビオデナミでは1880年代から伝統的な「ボルドー液」の構成成分である銅と硫酸塩の使用をベト病対策として認めている(まさに、EUは1ヘクタール当たりの銅の年間最大使用量を三分の一減らし、4kgにする案を提出したところだ)。ビオデナミ栽培は贅沢だ。ビオデナミのワインが安くなることはあり得ない。

卓越したビオデナミ・ワインの生産者

以下の認証を受けた生産者はビオデナミではないワインも作っている場合もある。


ボルドー:Châteaux Brane-Cantenac, Climens, Durfort-Vivens, Guiraud, Haut-Bages Libéral, La Lagune, Latour, Palmer, Pontet-Canet.
ブルゴーニュ:Clos de Tart, Domaines des Comtes Lafon, Dujac, d'Eugénie, Leflaive, Leroy, de la Romanée-Conti
ローヌ:Chapoutier, Château-Grillet
ロワール:A host of estates, with Coulée de Serrant a notable pioneer
シャンパーニュ:Louis Roederer (top cuvées)
アルザス:Deiss, Kreydenweiss, Ostertag, Zind-Humbrecht
イタリア:Foradori, Alois Lageder, Loacker, Emidio Pepe, Querciabella, San Polino 、ウォルターによるリストも参照のこと
スペイン:Familia Nin-Ortiz, Recaredo
ドイツ:Bürklin-Wolf, Clemens Busch, Rebholz, Wittmann
オーストリア:ニコライホフを筆頭に60軒
カリフォルニア:Benzinger, Bonterra, Eisele Vineyard, Frey, Qupé, Sea Smoke
オレゴン:Brick House, Brooks, King Estate, Montinore
ワシントン:Hedges
チリ:Emiliana
アルゼンチン:Noemia
オーストラリア:Cullen, Yangarra
ニュージーランド: Felton Road, The Millton Vineyard, Rippon, Seresin
南アフリカ: Reyneke, Waterkloof

原文

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