The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト) | Mission Blind Tasting | Wine writing competition

収集本能

• 6 分で読めます
Francois Barraud's Le Philateliste

今週と来週はどんなワインを買うかではなく、どうやってワインを売るかについて書きたいと思う。ワイン商たちは恐らく今、喜んで在庫を増やそうとしているだろうから。この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

収集本能が強い人がワインを本格的に購入し始めると、その多くが(たとえ現在のコロナ・ウィルス禍以前で買い占めが不要だったとしても)消費するのに人生を何度も繰り返さなければならないほど大量のワインをコレクションする羽目に陥る(上の絵画は1929年のフランソワ・バロー作、「切手収集家」)。とある非常に熱心な収集家の一人に全てのボトルを空けるのにどのぐらい長く生きなくてはならないのかと尋ねてみると、彼は「そんな計算したことありませんよ。味覚を失ったり、ガレージ・セールをしたりしない限り、飲み切れないワインを残して死ぬことは間違いないですから。しかも、今でも私は自分が飲んだ分と同じぐらいは買っていますしね」。と答えた。

イアン・ミルQC(Ian Mill QC)は不吉な前兆を的確に捉えて動いた。10月26日、彼は自身のコレクションの65%、800万ドル相当をニューヨークのザッキーズを通じて売却し、今流行のブルゴーニュ中心のそれらワインの落札価格は353もの世界記録を更新したのである。当初彼は出品予定のワインをイギリスの保税倉庫に置いておくつもりだったのだが、ザッキーズからアメリカのワイン業界からの入札を促すためも事前にアメリカに送ったほうが良いとのアドバイスを受けた。それらのワインがアメリカに到着したのは、トランプ大統領がヨーロッパから輸入するワインに25%の関税をかけるわずか9日前だった。

専門倉庫で保存された選りすぐりの7,000本のワインと共にミルは主要な競売人たちに手厚く迎えられた。当初サザビーズがそれらの香港での売却を提案したのだが、あの騒乱と経済破綻を考慮すると、結果としてそれが賢明な選択肢ではなかったことが分かる。その代わりに三ツ星レストラン、ル・ベルナルディンでザッキーズが行った売却は「経済がちょうど急降下し始めた最高のタイミングでした」とミルは振り返る。事実、彼がそれらを売却した直後からこれら高級ワインの価格も急落した。

彼がアメリカに拠点を置くザッキーズを選択したのは、ザッキーズが彼のコレクションに特別な愛着を見せたこと、そしてそれらを売却するための彼らの独創的な戦略に惹かれたためだと話した。彼らは入札すると想定される人々を招いた一連のディナーを開催したのだが、その会場はノルマンディにあるアラン・パッサール、閉店直前だったスウェーデン北部にある世界的に有名なフェービケン、さらにはニューヨークのザ・モダンだった。これらディナーのコンセプトは販売予定のワインを彼らに見せつけることであり、ミルは嬉しそうに「全てのワインがとても魅力的だったので、効果はてきめんでした。ディナー参加者は沢山買ってくれましたし、売却後にもワインの状態が素晴らしかったという誉め言葉しか耳にしませんでした。ワインは私の名前を明らかにして販売していたので、ワインの来歴に購入者が安心感を持ってくれた点も大きかったと思います。」と話した。確かに、出品者が匿名だと状態の悪いワインについて苦情を申し立てることができない。

このイギリス人弁護士のブルゴーニュ愛に火が付いたきっかけは、よくあることだが1本のワインだ。彼の場合は1本のブルゴーニュのグラン・クリュ、ドメーヌ・ルフレーヴ1982バタール・モンラッシェだった。「このワインを1995年に飲むなんてもちろん早すぎたんですが、私の心はすっかり奪われてしまったんです。」彼は振り返る。ミルは1980年代、後にブルゴーニュ専門家として名を馳せるジャスパー・モリスが経営していたピムリコの近くに住んでいたことで、彼の言葉を借りれば「すっかり洗脳された」のだそうだ。

「ジャスパーから買い始めたことで、これらの素晴らしいブルゴーニュの生産者に出合うことができたんです。魔法のような時間でしたよ。」彼は幸せそうに思い起こし、ワイン買い付けの心理学についてこう続けた。「もちろん最初は全部自分で飲むつもりで買っていましたよ。だから、例えば最初は全てのワインの税金を支払っていました。でも1999年頃からは保税で購入するようになりました。一部のワインは売却することになると気づいたからです。15年前には株は退屈な投資になっていることに気づいていましたし、それならワインの方が面白いかなと。」

彼は1992年にはモリスの事業であるモリス&ヴァーディン(Morris & Verdin)の株主となり、後年ボーヌのプルミエ・クリュでモリスの栽培者であるジャン・イヴ・ドゥヴヴェイが取得したペルテュイゾの畑の10%も取得した。現在彼はブルゴーニュに注力したレストランでロンドンの法曹界からも経済界からも便利な場所にあるラ・カボット(La Cabotte)の株主でもある。

私が今回ワインの売却について書こうと思ったのはワイン狂のベルギー人でプライベート・エクイティの幹部、トーマス・デ・ウェン(Thomas De Waen)に刺激を受けたためだ。彼は私に興奮気味に自身の経験をメールしてきたのだ。「あまりに多くのワインがセラーにあるので、こんまりメソッドを適用して、ときめかないワインを全部売却しようと思いついたんです。もう開放感でいっぱいです。膨大な数のワインをセラーに所有している人はみんなこうすべきです」と。

彼は、コレクションの約半数を占めるワインは自身の舌にそれほど自信がなかったころに購入したもので、今では全くときめきを感じないと気づいたのだと言う。特に「新世界のフルーツ爆弾みたいなものやシャトーヌフのスペシャルキュヴェ、もっと早くに飲むべきだった古いヴィンテージのワイン」がそうだ。また、一部の生産者や特定のワインの宣伝戦略に乗せられて購入したワインもあったと認めた。「ある時ふと自分自身の舌に自信を持てるようになりました。するとある朝目覚めてふと気づいたんです。購入当時魅力的だと思っていたスーパータスカンにも、ボルドーにも、ブルゴーニュ白のグラン・クリュにも、ギガルの3つのラ(訳注:ラ・ムーリーヌ、ラ・テュルク、ラ・ランドンヌを指す)にも今は全く興味がないということにね。」

そこで彼は体系的、客観的に自分の所有するワインを眺めてみた。「私にとって、その結果は驚くべきものでした。」そう彼は話し、「1本あたり20ポンドを超えると、価格と、それを飲みたいと思うかどうかの間にほとんど相関がないんですよ」と付け加えた。彼はこの結果に基づいて不要と思ったボトルを整理し、その多くはオークションに出し、こう明言した。「すごく幸せな気分でした。その過程でこれまでにないほど驚くべき自然派ワインのコレクションを買うこともできましたしね。こんな素晴らしいものに出合ったのは初めてです!」

ちなみに、稼ごうと思ったら膨大な量のワインを所有している必要はない。私の義弟はドン・ペリニヨンが贈り物の定番だった前職在職中に大量のドン・ペリニヨンを収集していた。彼はそれらを地元のオークションで販売し3桁の売り上げを得て、とても満足そうだった。クリスティーズやサザビーズの入札者たちと違って、そういった地元の人々はワインがどのように保管されていたかなどには全く興味がないからだ。

一方、文頭で紹介した熱烈な収集家がワインを売却したのは2回だけだ。「1983ル・パン1ケースは300ポンド以下で購入したものですが3,000ポンドになった時に売却しました。あとは1982のラフィット半ケースで、中国人がその価値(というか価格)を追いかけ始めて1ケース24,000ポンドになったところで売りました」。

彼は自身の収集本能を次のように弁護した。「自分自身に言い聞かせているんです。自分が収集しているワインは総合的に見ても良いワインだ。もし保守党が国民保険サービスを解体して、高価なオーダーメイドの義足が必要になったらいつでもこれを売ればいいんだから、ってね。」

一方で、価格は上がることもあるが下がることもある。ワインは決して確実な投資ではないのは以下の例が示す通りだ。

競売者はこれらのワインの出品をかなりの部分で個人に依存しているが、近年収集家には他の選択肢もある。それについては次週、検証してみたい。

あまりうまくいかなかった投資の例

以下の価格は全て通常の750mlボトル12本のもので、Liv-Exのデータベースと取引基盤を参考にしている。

ボルドーを収穫直後の春に開催されるプリムールで購入した場合、利益が出たのは最近では2008、2012、2014のみだ。

この最たる例は2009の1級シャトーだ。例えばラフィット2009の2010年のリリース価格は13,000ポンドで、2011年1月に最高値である14,500ポンドに達したものの、現在は7,000ポンドだ。

マルゴー2009の2010年リリース時価格は8,500ポンド、2011年4月に最高値の8,950ポンドに達し、現在は6,080ポンド。

多くのボルドー2010も価格が高すぎた。Liv-exが2011年のリリース価格と2020年2月の価格を比較したところ、50銘柄中23銘柄がプリムールでの価格より下がっていることが分かっている。

最も極端な乱高下の例はラフィット2008で、「幸運の八」をラベルに印し、中国市場でもてはやされたものだ。リリース時は比較的控え目な1,850ポンドだったが、ピーク時である2011年2月に購入しようとしたら14,200ポンドも支払わなくてはならなかった。ところが現在は7,000ポンドで売られているのだ。

全体的にソーテルヌは残念な結果になることが多い。イケム2010はリリース時の2011年に4,700ポンドだったが、現在は2,580ポンドだ。

原文

購読プラン
スタンダード会員
$135
/年間
年間購読
ワイン愛好家向け
  • 296,214件のワインレビュー および 16,117本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • askJancisへのアクセス(AIワインアシスタント)
プレミアム会員
$249
/年間
 
本格的な愛好家向け

「メンバー」プランの内容に加えて

  • 最新ワインレビューへの早期アクセス(48時間前)
  • 最新記事への早期アクセス(48時間前)
プロフェッショナル
$299
/年間
ワイン業界関係者(個人)向け 
  • 296,214件のワインレビュー および 16,117本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • askJancisへのアクセス(AIワインアシスタント)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大25件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
ビジネスプラン
$399
/年間
法人購読

「プロフェッショナル」プランの内容に加えて

  • 最大250件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
  • レビュー依頼用のワインを提出可能
  • 従業員向けにメンバーシップを提供し、一元的に管理可能
  • APIアクセス(※別途料金)
Visa logo Mastercard logo American Express logo Logo for more payment options
で購入
ニュースレター登録

編集部から、最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。

プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます。

More 無料で読める記事

Old Vine Registry new seal 100+ years two versions
無料で読める記事 速報!オールド・ヴァイン・レジストリが記録を更新し、障壁を打ち破り、新たな地平を切り開いている。そして今、オールド・ヴァイン...
Ronan Sayburn MS, Sarah Abbott MW and Hannah Tovey at Icons tastings 2026
無料で読める記事 この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。 世界最高のシャルドネとは?も参照のこと。写真上、左から右へ:ロナン...
WWC26 post-submission graphic
無料で読める記事 今年の ワイン・ライティング・コンペティションは記録を更新し、400以上の応募があった。応募はケニア、日本、アラブ首長国連邦、キプロス...
Kullabergs Vingård © Terra Skåne/Jan Kivissar
無料で読める記事 スター・ワイン・リスト(Star Wine List)によると、このガイドは他の多くのガイドよりも権威がある。写真上は、スター・ワイン...

More from JancisRobinson.com

Opus 1979-2000 tasting 19 May 2026
テイスティング記事 ヴァーティカル・テイスティングで、ジャンシスがカリフォルニアを象徴する赤ワインの画期的な始まりを振り返る。ロンドンの67パル...
Tony Bish in Tronçais forest
Don't quote me ブドウの樹に日陰を提供し、ワイン樽の材料となる森のテロワールは、ブドウ畑やワインと相互につながっている。写真上は...
Ch de Pennautier, Cabardès
Don't quote me キャンセルと治療に明け暮れた1カ月となった。 年配の読者の中には、コーニー&バロウの魅力的な人物として故ロビン・カーニック (Robin...
Rudd Mt. Veeder Estate
テイスティング記事 この人気の白ワイン品種の豊かな表現。写真上はラッドのマウント・ヴィーダー・エステート (© Rudd)。 過去3年間...
Symington 2024 vintage ports
テイスティング記事 ヴィンテージ・ポートにとって素晴らしい年となった。7年ぶりの一般宣言となったことから、すべてのポート・ハウスが1つ以上のヴィンテージ...
Brit Nat tasting 2026 by Em Drake
テイスティング記事 ブリットポップは脇へどいて。王冠キャップをポンと開ける論争とエッジの効いた態度を持つブリット・ナットの登場だ。 ヘンリーが書く...
Ried Kellerberg in autumn
今週のワイン オーストリアの石灰質で活き活きとした白ワインに夏の夢を見る。 9.90ユーロ~。18.37ポンド、19.99ドル 。写真上は、テラッセン...
Diemersdal winemaking team
テイスティング記事 イギリス国内外で入手可能な素晴らしいワイン。自然に低アルコールのワインも含まれている。写真上、左から:レオン・リヒター(Reon...
JancisRobinson.comニュースレター
最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。
JancisRobinson.comでは、ニュースレターを無料配信しています。ワインに関する最新情報をいち早くお届けします。
なお、ご登録いただいた個人情報は、ニュースレターの配信以外の目的で利用したり、第三者に提供したりすることはありません。プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます.