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コルクの逆襲

Saturday 19 August 2017 • 7 分で読めます
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この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

今世紀の最初の10年間、多くの人々がポルトガルを中心としたコルク産業の絶滅を危惧していた。スクリューキャップや合成コルクのような代替栓の人気が非常に高まってきたためだ。

問題は驚くほど高いTCAの発生率だった。TCAは天然コルクにおけるコルク汚染のほとんどの原因となる化学物質の略称だ。最近まですべてのコルクはオーク樫の樹皮を小さな円筒でくりぬくことで作られており、常にうまくいくとは限らなかったものの、衛生環境を最大限保つ努力を続けていた。だがあまりに多くのワインがTCAの汚染を受け、その影響がひどい場合には飲むに堪えないほどカビ臭く、弱い場合には(ワイン生産者にとってはさらに悪いことに)飲んだ人がコルクが悪いのではなくワインの劣化だと感じてしまうこともあった。

オーストラリアとニュージーランドの生産者たちは1990年代に返品の山を生み出した貧弱な品質のコルクに嫌気がさし、その多くがほとんどの栓をスクリューキャップに変更した。スクリューキャップはワインの敵である酸素を究極なまでに効果的に締め出す役割を果たす。初期のものはその締め出し効果が強すぎたものの、現在はほとんどの生産者が理想のOTR(酸素透過率)を見出し、ワインの熟成行程を容易にするために適切な量の酸素がライナーを通して得られるようなスクリューキャップを選択している。

スクリューキャップは安価なワインには広く使われるようになり、毎年栓を必要とするワイン185億本に用いられている。

合成コルクはプラスチックや、市場をけん引するノマコルクから販売されているサトウキビ由来原料などから作られるが、スクリューキャップの半分ほどの使用率であり、スクリューキャップの人気があまり高くないアメリカやフランスの国で主にそれほど高価でないワインに使用されている。

スクリューキャップはあらゆる栓の中で最も安価なため、それがおそらく瓶詰めを行う生産者の間で人気が高い理由の一つとなっているが、私個人としては無知な消費者らの筋違いな軽蔑と引き換えにTCAからの解放とワインの熟成による変化の均一性を100%保証する選択をした上質なワインの生産者に敬意を表したい。

天然コルクでは瓶内に届く酸素の量が個々でわずかに異なるため、その熟成の進行の不安定さもまた大きな問題だった。私自身、同一ケースの同一ワインが下の写真のように同一とは思えない状態だった経験もある。

一時期コルク業界は危機に瀕していたように思われたが、アメリカと中国での瓶入りワインの急速な伸びのおかげで第一線のコルク供給元であるポルトガルのアモリンは6年連続でその売り上げを伸ばしている。彼らの報告によるとスクリューキャップと合成コルクの影響が顕著になった頃と比較して今では年間20億個以上のコルクを販売しているそうだ。

品質に敏感なワイン生産者がコルクに対して寛容になってきた原因の一つは「ついに」TCA汚染のないことが保証される選択肢ができたことだろう。

新たなクロージャー(ボトル用栓)市場の最高のポジションを争っている大手二大メーカーの一つは、主要な樽メーカーであるスガン・モロー(Seguin Moreau)も所有するフランスの企業が所有するディアムだ(この企業はさらに最近ポルトガルの天然コルク生産者も買収した)。ディアムのテクニカル・コルクは2005年に発売され、今や年間12.5億個の栓を販売しており、その売り上げにはスパークリングワイン版であるミティック(Mytik) も含まれる。

ディアム・コルクの外観はそれほどたいしたものではない。見た目はコルクの小片を接着して作る安価な凝集コルクに似ている。しかしその生産方法と効率は全く異なる。ディアムのフード・テクノロジー・チームが刺激を大いに受けたその複雑な詳細はここでは省略するが、基本的に彼らが行うのは世界中からコルクを購入し、コルク王国であるポルトガルとの国境すぐ近くにあるスペイン国内の工場で気体と液体の境目の状態で存在する超臨界二酸化炭素でコルクを処理し、風味を変えてしまう可能性のある揮発性分子を100%除去する(現在は80%以上のTCA除去を保証するライバル商品も存在する)。

コルクは柔らかくパン生地のような、コルク樹皮の粉末であるスベリンにされることで、60%体積が減少する。そこにFDA認証の配合剤とコルクの寿命を長くする高分子微粒子を加え円筒に形作られる。仕上げと刻印は世界中にある彼らの仕上げ加工センターで行われ、中にはカリフォルニアのワイン王、ガロと共同運営しているものもある。

この工程は元々食品や化粧品業界で用いられていたものだ。例えばグラースの香水はそのおかげで繊細なバラの香りを保つことを可能にした。そしてこの技術をコルクに応用する特許 はディアムと、誰あろうフランスの原子力公社が共同で所有している。

ペルピニャン近郊のセレにある彼らの工場で(写真右上;町の景観の大部分を占める)私が見たのは下の写真のようなタンクだ。それを自慢げに見せてくれたのはディアムのヨーロッパ担当マーケティング・ディレクター、パスカル・ポプリエ(Pascal Popelier)で、このタンクは抽出されたTCAで満たされており、にわかには信じがたいことだったが化粧品業界でアンチエイジング・クリームに転用されるということだった。

ディアムのコルクは全てどこかにDiamと記されているため、抜栓すればそのワインが何の影響も受けず密栓されてきたことがわかる。私はディアムの研究開発責任者に、ディアムの栓は伸縮性が少なくて再栓しようとしてもなかなか入ってくれないと文句を言った(とはいえ初期の合成コルクよりはましなのだが)。「その通りです」彼はにっこりと笑った。「それこそがディアムがどれほど優れた働きをするかの証明をしているのです。」

最近はディアムに出くわすことがどんどん増えているが、それを使う生産者が(言うまでもなくその販売者と同様に)その事実を宣伝することは好ましいことだと考える。彼らはTCAの除去とワインの安定した熟成の進行を100%保証しているのだから。

フランス国内ではブルゴーニュ人の方がボルドー人よりもディアムに熱心だ。特に白ワインについては顕著で、おそらくプレマチュアオキシデーションという困難に直面した影響もあるのだろう。ディアムのチームは特に、ルイ・ジャドがそのブルゴーニュ白のグラン・クリュ全てにOTRと、保証されているコルクの寿命に基づいた数種類のディアムを採用したことを誇りに思っている。その種類はD1から、寿命30年を保証するD30まである(ブルゴーニュ人は最小限のOTRを好む)。

現実的には、ワイン生産者は通常自分たちの最高級品に用いる前に安価なワインにディアムを実験的に用いる傾向にある。これは消費者の視点からするとやや不満に思える点だ。ミティックはプロセッコの生産者の間で非常に人気が高まったことから、今年ディアムの売り上げはイタリアがフランスを凌ぐほどと言われている。

一方ポルトガルのコルク生産者アモリンやMAシルヴァは現在TCA汚染がないことを強調した天然コルクを販売している。アモリンが2015年末に発売したのはNDテック(NDTech)で、その売り上げは今年5000万個と予測されている。NDテックは(「テクニカル」コルクの生産者として最も有名なディアムのチームはアモリンがその最高級品の名前に「テック」という言葉を使ったことを喜ばしく思っているようだが)ディアムとは大きく異なる製品だ。それは彼らの取り扱う天然コルクの中でも最高級品で、非常に厳しい選別手法を取っているため、たとえ残存TCAが存在したとしてもその量は知覚閾値の遥か下であることを保証するものだ。しかしその選別方法は非常に時間がかかるため、1分間に3個しかコルクを生産することができない。

ポムロールのシャトー・ラ・コンセイヤンなど、NDテックを用いている人々によるとスクリューキャップで栓をした時と同様非常に安定したワインの熟成による変化を楽しんでいるという。

栓の価格
下記はボトル1000本あたりに小規模なワインメーカーが要する栓の大まかな値段だ。

合成コルク €70-€250
ステルヴァン・スクリューキャップ €100 (安価な代替品も入手可能)
ディアム5 €170
ディアム10 €220
最高品質非処理天然コルク€300-€400
ヴィノロック・ガラス栓 €450-€1,100
NDテック €500 (同様な製品はMA Silvaからも発売中)

ロンドンに拠点を置くワイン愛好家で豊富なビジネスの経歴を持つケン・ラム(Ken Lamb)が非常に的を射たコメントを送ってくれた。:

ノマコルク、オーリンガー、ヴィノ・ロックなどを所有するヴィヴェンションズ(Vinventions)の副会長であることは非常に魅惑的なことです。私は数年前フランス南部にある研究開発チームを訪問した際、ワインオタクとして晴らしい経験をしました。

ヴィヴェンションズは経営陣がクロージャーの細分化した市場とワイン生産者や消費者の様々なニーズを分析した結果、すべてのワインやそれを取り巻く環境に理想的な単一のクロージャーは存在しないと結論付けたことで設立されました。そのため、同社はポリマーで作られたもの、単一体の天然コルク、スクリューキャップ、そして間もなく発売されるSUBRという(ディアムのように)TCA汚染のないコルク片と天然成分(トウモロコシ)由来のポリマーによる商品まで取り扱います。

一方ディアムは様々な結合剤から作られた一連の微細物凝集製品を所有し、中にはオリジーヌという蜜蝋などを結合剤とした製品もあります。

私の考えでは、今後数年で販売及び宣伝に関する興味深い戦いは以下の土俵上で繰り広げられるでしょう。 (1) OTR問題(特に単一体の天然コルクやスクリューキャップでOTRが理想的だとされる場合の持続性); (2) 微細物凝集製品からワイン中への成分滲出の有無と一部または全体がポリマーからなる栓のワインの香りや味わいへの影響; (3)これまで同様コスト。私が期待するのはより良い挿入型のクロージャーの取り扱いがスクリューキャップと同じぐらい簡単になることですが、あなた(ジャンシス)がおっしゃっていた再栓の問題が解決するかどうかは・・・結論するにはまだ早すぎるかもしれません。上級ワインになればコラヴァンが消費者の間で重要な役割を果たすでしょうし、それは次第にレストランにも広がるでしょう。

それからすべての栓の美観的な側面も忘れてはなりません。スクリューキャップへの印刷や、ポリマー主体あるいは微細物凝集製品が一体型の天然コルクの外観をまねるかどうかなど、注目したいところです。

質の良い栓に関してはTCAの問題は少なくなってきていることから、生産者や消費者の間で問題提起され、重要視される観点は変わってきましたし、今後も市場ごとに大きく異なっていくはずです。今はワイン消費者にとって良い時代です。なぜなら良質な生産者が作るクロージャーの品質はこの10年で飛躍的に非常に高いレベルまで(もちろん、必ず問題はありますが)向上したのですから。

原文

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