ヴォルカニック・ワイン・アワード | The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト)

捉えどころのないインスピレーション

2022年11月5日 土曜日 • 6 分で読めます
Ch Rayas sign
シャトー・ラヤスの看板


そうそう飲むことはできなくても、称賛することはできる。写真の看板が誘う場所で造られるワインにインスピレーションを受けて造られたワインは Glorious Garnachas を参照のこと。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

ワインの世界にはそれほど多くのミステリーが存在するわけではないが、その1つを紹介したいと思う。今、世界中のワインメーカーたちがこぞって真似をしたがる新たなスタイルのワインがある。彼らの多くは現実的には購入することがほぼ不可能な、「あるワイン」にインスピレーションを受けている。そして、おそらく更に意外なことに、その「あるワイン」とは著名なワイン産地のものだが、その産地の他のワインは全て、世界各地で崇拝されるこのスタイルを無視し、その対極となるワインを造ると決め込んでいる地元の生産者によってつくられているのだ。おかしな話ではないか?

そうそう、もう1つ。私が書こうとしているそのワインは、私自身愛し、崇拝するワインでもあるが、私がこれまで訪問した中で最も劣悪な環境で作られている。

その「あるワイン」とは、グルナッシュを使って造られた赤ワイン、シャトーヌフ・デュ・パプのシャトー・ラヤスだ。豊潤で幽玄、透明感があって花のような香りを纏い、まったくもって快楽的であり、グルナッシュを完熟させるため必然的にアルコール度数は高くなるものの、決して重苦しくはない。

私がラヤスの、ある意味宗教的な存在を思い知らされたのは、先日ロンドンのワイン商、リー&サンデマンの厚意で開催された、ことさらに美味しいカリフォルニアのグルナッシュ試飲会でのことだ。サンタ・バーバラのハイランド・ヴィンヤードから生み出されるアンジェラ・オズボーン(Angela Osborne)のトリビュート・トゥ・グレイス2017には、我々テイスターへのメッセージが添えられていた。「彼女のワインメーカーとしての存在意義は、彼女が何年も前に飲んだシャトー・ラヤスを再現することであり、グルナッシュが成しうる真の表現を見出すことである」。さらにそのメッセージはこう続いた。「そしてなんと、このワインで彼女はそれに限りなく近づくことができたのだ」。白コショウ、力強い甘さ、そして圧倒的な純粋さが組み合わさった、最高に美味しい1本だった。

グルナッシュはつい最近まで見下されてきたブドウだった。しかし、今やその名声が世界のあちこちで復活しつつある。この動きが始まったのはおそらくスペインからだろう。グルナッシュは彼の地ではガルナッチャと呼ばれ、テンプラニーリョにそのトップの座を奪われるまで、スペインで最も栽培面積の大きい赤ワイン用ブドウ品種だった。耐干ばつ性が非常に強いこと、木質化すると硬く、他の多くの品種が被害を受けた幹の病気に強いこともあり、ガルナッチャの平均樹齢は比較的高い。すなわちそこから生み出されるブドウの品質がとくに高い傾向にあることを意味する。

2008年当時、フェルナンド・ガルシアとコマンドGを立ち上げたダニ・ランディは野心的かつ手づくり感あふれる繊細なガルナッチャの先駆者だった。このガルナッチャは、マドリードの南西部にあるグレドス産地で、この品種と相性が良いとされる花崗岩土壌で育ったものだ。ランディは当初からラヤスを目標としていたことをあっさり認めた。

この繊細な金細工のようなグレドス・ガルナッチャの名声があまりに高まったため、似たようなスタイルのガルナッチャがスペインじゅうで造られるようになった。マスター・オブ・ワインのフェルナンド・モラはアラゴンで、自身のラベルであるフロントニオの名で一連のデリケートなガルナッチャを造りだしている。私はこの記事を書きながら彼にメールをして、シャトー・ラヤスが彼のワイン造りにインスピレーションを与えたのかどうか質問したところ、一瞬で返信が来た。「ええ、もちろん」。そして彼は数時間後、こう付け加えた。「数えきれないハーブ、花、フルーツ。ピノのような繊細さを備えたスタイル、熟成のポテンシャル。私があのワインを愛してやまない理由です」。

決して流行のワイン産地とは言えない、スペイン中央部にあるラ・マンチャでは、エリアス・ロペス・モンテロが古木のガルナッチャをこの地方伝統の素焼きの容器、ティニャハスで11か月熟成させ、傑出した淡い赤ワイン、ヴェルム・ウルテリオール・パルセラNo.6を造る。フレッシュなミネラル感と粒感のあるテクスチャを持つワインだ。彼はこの古いティニャハスが大のお気に入りで、近隣から自身のセラーに新たなものが届くたびに心から歓迎しているそうだ。彼自身もこの新たなガルナッチャとブルゴーニュのピノ・ノワールとの類似性を感じており、パタゴニアでピノ・ノワールを造った経験をもとに、このスタイルに着手したという。

オーストラリアのワイン生産者、マイケル・ヒル・スミスMWは先日ロンドンに来て、最近彼が着手しているプロジェクト、MMADのワインを自慢げに紹介してくれた。MMADはこのプロジェクトに関わるパートナー4人の頭文字を取ったものだ。比較的標高が高い場所にある畑の、中には樹齢が80年を超えるグルナッシュを主体としたワインだ。この品種はオーストラリアでもつい最近までほとんど無視されていた。彼が言うには現在グルナッシュの人気は非常に高く、ここ2-3年でその価格は倍になり、シラーズを抜いたそうだ。

「マクラーレン・グルナッシュはスティーヴ・パネルとヤンガラのおかげで、ある意味突然、香り高いものであることが認識されるようになりました」と彼は説明し、さらにこう続けた。「ピノみたいにね」。その文脈でラヤスに言及されることがあったかと尋ねると「毎度のことですよ」彼はややうんざりした様子でそう答えた。

世界中のワインメーカーが聖杯のように崇めるワイン。だが一体このワインをどれほどの人たちがそれほど頻繁に飲むことができるのだろう。現在他のシャトーヌフ・デュ・パプの生産者たちが2021ヴィンテージを発売し始めているのに対し、シャトー・ラヤスで入手可能な最新ヴィンテージは2011だ。しかもその価格はうなぎ上りで、2011シャトー・ラヤスの赤(ちなみにフルボディで奇抜な白ワインもある)は1本あたり1500ポンドを超える。

drinkrhone.comのワイン・ライター、ジョン・リヴィングストーン・ラーマンス(John Livingstone-Learmonth)はローヌ・ワインとその作り手に関して数十年の経験がある。私は彼に、隠遁者のようだったアンクル・ジャックが1997年にこの世を去った後、シャトー・ラヤスを引き継いだエマニュエル・レイノーがワインをこれほど時間をかけてリリースする理由を聞いてみた。「確かに彼のリリースは近年特に遅いですね」彼は書いてよこした。「当初ジャックがほぼ何もかも売り払ってしまっている状態だったので、セラーにほとんどボトルが残っていなかったことを反面教師としたようです。2018のように取りたてて言うほどのものがなかった年もあるので、そういう年を補う意図もあって、なおさらエマニュエルは一層在庫をため込むようになったのではないでしょうか」。彼は次回のローヌ訪問時に更に掘り下げて質問してみると約束してくれたものの、無口なことで有名なレイノーとコンタクトを取ることの難しさも認めている(この点の詳細についてはAdventures in the southern Rhôneを参照のこと)。

そもそも、ラヤス信奉者のうちどれほどの人がワイナリーを訪れたことがあるだろうか?私はというと、ラヤスの当時のイギリスへのインポータ、クリス・ダーヴェイ(Chris Davey)のおかげで、ほとんど標識もなく曲がりくねった道の果てにある裏寂れたワイナリーに5回のアポイントを取り、うち4回は若いワインの試飲をさせてもらうことが叶った。最後のアポイントは2014年だった。ところが私が約束の時間に着くと、全てのドアとシャッターは閉まっていた。裏手に回ってようやく従業員を1人見つけて尋ねると、当主はヴァケイラスにあるもう一つのワイナリー、シャトー・デ・トゥールに手を取られていると教えてくれた。(私がワイン生産者にすっぽかされたのはこれが最初で最後だ)。

あらゆる意味で桁外れなラヤスの側面の中で最も私が驚かされたのは、その熟成環境からは想像もできないほどのワインのピュアさだ。これほど古臭く、灰色でクモの巣のかかった樽が埃っぽい土間に乱雑に並べられているワイナリーを私は他に見たことがない。

この雑然としたセラーから出荷されるワインはシャトー・ラヤスだけではない。このワイナリーの別プロットであるピニャン、それに2つのコート・デュ・ローヌ、シャトー・ド・フォンサレットとラ・ピアラードも同様だ。後者2つはグルナッシュ以外の品種で造られている。ラ・ピアラードは他の2つよりも早く出荷されるため、今なら2015ヴィンテージを購入することができる。ただし、ただのコート・デュ・ローヌに3桁ポンドも支払うつもりがあるならば、だ。

さて、では最後のミステリーと行こう。なぜシャトーヌフの他の生産者たちはラヤスのようなワインを造らないのだろうか?確かにラヤスは特に細かい砂質のテロワールが特徴だが、それが100%ユニークなものではないはずだ。他の生産者の多くは、1990年代にアメリカの評論家ロバート・パーカーが絶賛した、パワフルで凝縮感の高いワインの流行から抜け出せていないように見える。もしくは、現地の人々はインスピレーションを受けるほどラヤスをテイスティングする機会がないのかもしれない。ラヤスのワインがリリースされたとしても、あっという間にこの地を飛び出し、世界の高級ワイン市場に出てしまうのは確かだ。

長い間、私はローヌの村を訪れ、数百もの最新ヴィンテージのワインのテイスティングを行ってきたが、それらのワインは非常に凝縮感が高いため、パレット(味覚)への打撃と負担が非常に大きい産地の1つだ。他の産地同様、近年はこの地でも軽やかなスタイルになる傾向にはある。難しいヴィンテージだった2021は特に。だがそれでもまだ、世界でもっとも好まれているシャトーヌフは、不思議なことにその近隣のワインメーカーたち人からは無視され続けているのだ。

ラヤスにインスピレーションを受けた赤ワインたち

Añadas, Care Garnacha Nativa 2020 Cariñena 14.5%
£10.75 Bush Vines

Viña Zorzal, Sea of Dreams 2019 Navarra 13.5%
£15.50 Songbird Wines, £15.99 Thorne Wines and NY Wines

Ramón Bilbao, Limite Sur Garnacha 2018 Rioja 14%
The 2017 is under £19 from Winestore, Eccleston and Great Wines Direct

Verum, Ulterior Parcela No 6 2018 Vino de la Tierra de Castilla 13.5%
£22 The Great Wine Co

S C Pannell, Basso Garnacha 2019 McLaren Vale 14%
$25.99 Vinous Reverie, Walnut Creek, CA

Daniel Gómez Jiménez-Landi, Las Uvas de la Ira Sierra de Gredos 2020 Méntrida 15%
£25 Berry Bros & Rudd, also available in bond from Bordeaux Direct

Frontonio, Telescópico 2019 IGP Valdejalón 13.5%
£25.99 Bancroft

MMAD, Blewitt Springs Grenache 2021 McLaren Vale 14%
£41 Oz Wines

A Tribute to Grace, Santa Barbara Highlands Vineyard Grenache 2017 Santa Barbara 14.2%
£43.95 Lea & Sandeman

Yangarra, Ovitelli Grenache 2019 McLaren Vale 14%
$64.99 K&L, San Francisco

also

Marañones Garnacha 2020 Sierra de Gredos 14%
Expected at the Great Wine Co in 2023

テイスティング・ノートはデータベースを、世界の取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

ガルナッチャに関するすべての記事はこちらから、ボーカステルとラヤス(ほとんどがアンクル・ジャックによるもの)の比較テイスティングに関する記事も参照のこと。

原文

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