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ラフィットの新たな女主人

2018年6月16日 土曜日 • 6 分で読めます
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この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。The Lafite Rothschilds celebrate 150 yearsも参照のこと。

コートジボワールの刑務所でのインタビューに1か月を費やす生活からシャトー・ラフィットの経営への転身は相当大きな変化に違いないが、31歳のサスキア・ド・ロートシルトはそれをやってのけた(写真は最愛のスムース・フォックス・テリア、ノラとラフィットで撮影したもの)。

「ラフィットで働くなんて想像したこともありませんでした。休みの日にここへきて畑作業をすることはありましたが、私は記事を書いたり旅をしたりしたくて、ここからはできるだけ離れるようにしていたのです。」サスキアはポヤックの街のはずれにあり実家でもあるボルドーの1級シャトーを囲む100ヘクタールの畑を縫う朝のランニングから帰ると、そう私に話した。

だが2年前、彼女がニューヨークタイムズの西アフリカ支局で働いていた時、彼女の父であるエリック・ド・ロートシルトが電話をかけてきて、それまで8年間彼女がそうしてきたように今年もグラン・ヴァンのもととなる若いワインのテイスティングに参加しないかと言ってきた。この時父は彼女に、ラフィットのためにこれまで以上に貢献できるような準備をするようにと通告したのだ。

そこには変化の気配が漂っていた。30年以上もの間、エリックはクリストフ・サランを営業の、シャルル・シュヴァリエを醸造の責任者として一族の所有するボルドーのシャトーを取り仕切ってきた。だが新しいチームにそれを引き継ぐべき時が来たのだ。

サスキアは「私はもし何かをやるのであればきっちりとやりたい性格なんです。」と話した。例えば、彼女がフランス版のニューヨーカーとされるレビュー21にアビジャン刑務所の囚人を取りまとめているとされる抑留者に関する記事を書いた際には、取材対象者と1カ月を共に過ごしたほどだ。だから新しい挑戦に直面した彼女は週に2,3日をラフィットで過ごすことにした(彼女はパリとボルドーを結ぶ高速鉄道の恩恵をたっぷり受けたと言えよう)。これはエリック・コレールがシャルル・シュヴァリエからその仕事を引き継いだ様子と同じだ。「私は彼にすべてを教えて欲しいとお願いしました。」と彼女は話した。

その結果彼女は剪定を学び、WSETのレベル3を修了し、1年の大半をラフィットの姉妹ワイナリーであるレヴァンジルで偽名で働いて過ごした。「本当にあっというまに私は現場に出ていたんです。」1年間、彼女は自分たちのボルドーのワイナリーを知ることに注力し、その後の1年はフランス以外に所有する多くのベンチャーを見て回った。その中には中国東部の山東省にあり、そのワインのリリースが待たれているものの名前がまだ付けられていない新しいワイナリーも含まれていた。

もともと多弁な彼女だがそのリリースがいつになるか尋ねられると慎重に言葉を選んでこう答えた。「12カ月以内にそうできればと考えいています。」そしてこう付け加えた。「ただ、とても難しいことなんです。期待を大きくかけられていますから失敗はできません。一方でこのことは中国の人たちに私たちが彼らをどれほど重要と考えているか示す機会を与えてくれるでしょう。ここはまるでブルゴーニュのように緻密な栽培が行われている素晴らしい場所なんです。」ワイン業界の識者たちはラフィットがこの中国東部の場所を選んだ際とても驚いた。ここは夏は危険なまでに湿度が高く、春は都合の悪いことに雨が少ないためだ。だが今年は明らかに良い雨が降ったようだ。

シャトー・ラフィットの最近の歴史に中国は重要な役割を担っている。中国でカルトワインの名声を初めて確立したのが彼らであり、習近平が2012年に高価な贈答品を禁止するまで、その価格を比類ないまでに引き上げたものだからだ。

とはいえ、このことは17世紀初頭に初めてブドウが植えられたとされるラフィットの長い歴史の中では補足的な事項に過ぎない。1868年、フランス人であるサスキアの5代前の当主(高祖父の父)がそれを買い上げ、その15年後、彼のイギリス人である義理の息子が隣接するワイナリーを購入、シャトー・ムートン・ロートシルトと名前を変えた。ラフィットは最近かの有名な1855年のボルドーの格付けで「1級の中の1級シャトー」の名をほしいままにしている。一方、当時ムートンは価格を基準として2級とみなされていた(ムートンはその後1973年に当時の所有者だったバロン・フィリップ・ロートシルトの活発なロビー活動が実り1級に格上げされた)。

サスキアは自分たち一族がシャトーを所有して150周年の世界中での祝賀イベントを最大限活用しようと決めており、シャトーの書庫で書籍をかき集めるのに忙しい。ラフィットの歴史を1年あたり1ページに収めた本を来年完成させるためだ。

一方、シャトーの下、ほぼ暗闇といえる空間にはロートシルトで作られたあらゆるヴィンテージの完璧なコレクションが眠っている。サスキアによると、欠けているのは3年だけだそうだ。上述の本のため、そして歴史的な偉業を祝うために、3回のテイスティングとディナーを異なる人々、ロートシルト流に国籍も、職業もバラバラで、ワインのプロに限らない人々を招待して開催することも決まった。(The Lafite Rothschilds celebrate 150 yearsでの私のグループの構成と、テイスティングしたワインを参照のこと。下の写真はサスキアと両親が玄関に立ち、週末のホームパーティの参加者を見送り、また次の参加者を迎えるところだ。)

この3回のイベントでのサスキアの目的が新たな女主人として飛躍する社交的な土台を作ることではなく、知的好奇心によるものだったことは明白だった。彼女の外見は非常に魅力的だが、父親譲りのひなびたシックなものを好む。我々はドレスアップして参加したが、彼女はそうではなかった。

新しい彼女の仕事として、ラフィットの販売促進を行わなくてはならない(来年は日本とアメリカを訪問するそうだ)。「これは仕事の一環ではありますが、一番落ち着かないことでもあるんです」と彼女は告白した。「ワインについて話すのは大好きなんですが、私たちのワインの販促に最適な場所はここなんです。」そう言って彼女はラフィットのバロン・ジェームズの客間にあるきっちりとボタンのついた深紅のサテンのL字型のソファに腰を掛けた。彼女のヘッドフォンとマックが赤いフェルト張りのマホガニーのトランプ用テーブルに置いてあった。かつてこのテーブルでベジーク(訳注:トランプゲームの一種)をしていた女性たちはロートシルト家の女性が一族が所有する多くのワイナリーの責任者となることなど夢にも思っていなかっただろう。

確かにフィリップの娘、バロネス・フィリピーヌ・ド・ロートシルトは2014年に亡くなるまで26年間、ムートンとその多くのブランドの責任者だった(その後を息子のフィリップが継いでいる)が、こんな魅惑的な女優のような人物がブドウの剪定をするなんて誰が想像できようか。

ところがサスキアにとっては一番興味のあるのは実践的な栽培に関することなのだそうだ。彼女は経験豊かなボルドー人であり、ラフィットから道を挟んで向かいにあるシャトー・コス・デス・トゥルネルと、LVMHの世界的なワイン事業を引き受けているジャン・ギョーム・プラッツがクリストフ・サランから商業的な側面を引き継いでくれると知って喜びを隠せなかった。彼女は嬉しそうに、両者にとってワインは最高のものだと語った。私がジャン・ギョーム・プラッツは剪定ができるのかと思わず口にすると、彼女は動揺したようだった。もちろん彼はできる。「重要なのは製品なんです。私たちはそこに全幅の信頼を置いています」と彼女は語った。木曜に発表された比較的繊細な2017の発売価格の背後にはプラッツがいるのだろうか?プラッツの商業面での深い知識のおかげで彼女はラフィットのサステイナブルな面に可能な限り注力することができている。(「消費者が求めることですしね」と話した)。

有機認証はレヴァンジルですでに獲得に向けて動いているが、ポヤックでラフィットがそれに続くにはハチミツが障害となっているのだと彼女は話した。広く知られているブドウの病気、フラバセンス・ドレ(flavescence dorée)に対して認められている処理が蜂を殺してしまうためだ。シャトーの前にある野菜と花の畑、そしてそこで行われているビオデナミの試みに深くかかわっている人物の抱えるジレンマだ。

彼女は最近新しい戦略を練っている。「どこのワイナリーも大きなワイン・ディナーを開催しますが、そういうワイン・ディナーというコンセプトにひねりを加えてみたいと思っています。それからデュアールやエヴァンジルはわかりやすいワインだと思います。それらに必要なのは他との差別化です。一方でこれはおかしなことですよね。私の世代にとってボルドーは堅苦しくて過剰に価格の高いイメージがあるのわけですから。私はそれを本気で変えたいと思っています。もし古いワインを飲むことができたら、そこに込められたすべてを感じてもらえるはずです。例えば子供が生まれたらワインを買うという意味を知ること、それをその子の結婚式で開けることができるなら夢のような話だと思います。友人たちがお金を出し合ってもいいですし。私はスペースがないのでセラーは持っていませんが、たとえばセラーをシェアして借りるとか・・・」彼女の提案は続いた。私はそのような貯蔵手段はパリやイギリスにあると助言したが、ワインを引き出すために24時間以上前に予告しておかなくてはならないシステムに彼女はやや懸念を示していた。

彼女の同僚は彼女にワクワクさせられているようだ。「彼女はまさに本物ですよ」その一人が嬉しそうに私に教えてくれた。

彼女は正直に、彼女とプラッツが責任者となって数年経ち、ものごとがうまく軌道に乗ったら、ジャーナリストに戻りたいのだと告白してくれた。彼女はすでに新しい小説Érableも発表しているし、現在調査中のモーリタニアでの奴隷制についても書きたいのだという。彼女には新しい風が必要なのかもしれない。

(原文)

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