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フィリピーヌの葬儀

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この記事はフィナンシャルタイムズにも掲載されている。また、「A day in the Médoc - 2014」も参照してほしい。

9月の初日、私はワインの街ボルドーからメドックを車で北上していた。多くの観光客がこの美しい晩夏を楽しんでいるのを目にしつつ、彼らを少し気の毒に思わずにはいられなかった。なぜなら今日彼らは美しい石造りのシャトーで著名人たちに会うことはできないだろうし、 シャトーのほとんどは最近超高騰したヴィンテージのワインの収益で改修中なのだから。今、ボルドーの結束の固いワイン業界の著名人は全て、シャトー・ムートン・ロートシルトに向かっている。そこで行われるバロンヌ・フィリピーヌ・ド・ロートシルトが安息の地へ旅立つために横たわるその場所へ。

フィリピーヌは彼女の父であるバロン・フィリップが1988年に亡くなって以来、世界的に有名なこの1級シャトーのかじ取りを続けてきた。彼の後を継ぎ、関連するワイン事業をエネルギッシュかつ堂々とこなしていたその姿は、彼女が80歳になったと知った私たちの多くを驚かせた。

若いころ威勢の良いレース・ドライバーだったフィリップは、ボルドーに衝撃を与えた人物である。得体のしれない相手に樽でワインを販売することにほとんどの生産者が甘んじていた時代にシャトー元詰めを導入したのが彼である。彼はまた、キュビストであるジャン・カルリュ(Jean Carlu)に最初のシャトー詰めムートン、1924年のラベルデザインを依頼し、1945年からは毎年違う画家にラベルデザインを依頼するという伝統を作った。また彼の立ち上げたセカンド・ワインであるムートン・カデは世界で最も成功したブランドワインとなり、1973年には一流ワインの世界では最も重大な出来事、2級から1級への昇格を果たした。これは1855年のメドックおよびグラーヴの格付け制定以来唯一の出来事である。

彼の仕事が大きな期待に応えることであった一方、フィリピーヌの仕事は手品のように細やかなものだった。彼女の幼少期は悲劇的―10歳のとき母親がゲシュタポによって強制収容所に連行され処刑されるのを見ている―であるにもかかわらず、コメディ・フランセーズ劇団で女優のフィリピーヌ・パスカルとして輝かしいキャリアを積み、ショーではそのうっとりするような美しさを見せつけた。私はいつも彼女が撮影やもてなしの場面で見せる振る舞いに感嘆したものだ。今回の式次第は写真のように、彼女のカラフルな人生のモンタージュで飾られていた。

彼女は大御所としての振る舞いでも有名で、すべての公式な集まりには1時間遅れてやってきた。しかし、フィリップ・コタン(Philippe Cottin)、昨年亡くなったムートンで長きにわたって腕を振るったCEOがうっかり漏らしたところによると、彼女は取締役会議には几帳面に時間通り出席し、驚くほど事情に精通していたそうだ。

私は彼女の葬儀は絶対に遅く始まると踏んでいた。午後3時開始とされていたのだが、地方紙経由で2時までに到着するよう促されていたからである。我々はそこでポヤックの波止場に駐車、フェリーで町の北側に位置するプイヤレ台地に散在するシャトーに大型遊覧バスを何台も連ねて移動した(大勢の警察官が警備にあたっていた)。

スタッフは全ての手配に1週間も猶予がなかったはずであるが、みごとにグレープ・レセプション・センターを巨大なチャペルへと変え、見たこともないような美しいクリーム色の花で飾り、1500名近い参列者を収容した。我々のほとんどは粛々とベルベットと金箔の張られた椅子に午後2時までに着席し、ミサは定刻通り開始されたが、現れるはずのないフィリピーヌを最後まで待ち続ける長い時間となった。

ボルドーのワイン名家の人々の名前が延々と読み上げられた。ボルドーワイン業界のあらゆる関係者、ムートンと同じく1級格付けの4シャトー全ての当主、およびポヤックで近隣のシャトー・ランシュ・バージュのジャン・ミッシェルとシルヴィ・カーズ、 シャトー・ピション・バロンのクリスチャン・シーリー、シャトー・ポンテ・カネのメラニー・テセロンなどの名もあった。シャトー・レオヴィル・バルトンのバルトン家、アンソニーとエヴァも出席していたし、フィリピーヌの古くからの友人、マダム・ジャック・シラックやロートシルト一族の顔も見えた。

あまりに多くの参列者がいたため全員に挨拶はできず、残念なことにスペインのミゲル・トーレスとベガ・シシリアのパブロ・アルバレズ、イタリアのアンティノリ家のピエロとアレシア、ポルトガルのシミントン家のポールとドミニクやプリマム・ファミリア・ヴィニィ(一流ワインメーカーたちの組合)の人々、ムートンがチリでジョイント・ベンチャーとしてアルマヴィーヴァを共有するコンチャ・イ・トロのラライン家、フェリペとアルフォンソとは顔を合わせることができなかった。しかし、文字通り飛んできていたナパ・バレーのジョイント・ベンチャー、オーパス・ワンのデイヴィッド・ピアソンとモンダヴィ家のマイケルとティムには会うことができた。彼らは、この海をまたいだ画期的なジョイント・ベンチャーをフィリピーヌの父と彼らの父であるロバート・モンダヴィが1979年に立ち上げた際、オーパスの誇るその卓越した広報手腕を認められた人物たちである。マイケル・モンダヴィは私に、フィリピーヌは「ピストル(訳注:エネルギッシュで精力的な人物を表す米語)」だったと述べた。もちろん、アメリカ人にとっての最高の褒め言葉である。

2時間にわたるカトリックのミサはポヤックの司祭によって執り行われ、一流のレザール・フロリサン(Les Arts Florissants)の音楽とウィリアム・クリスティのハープシコードで彩られた。これをほんの1週間で手配できる手腕は素晴らしいが、これもフィリピーヌの太い人脈のなせる業であろう。多くのスピーチが行われた中の一つが、熱波の襲った2003年、例年行事であるラ・フェット・ド・ラ・フルール(花祭り)での(驚くほど時間に正確な)ディナーの後、彼女がいかに涼やかに立ち上がり、参加者に少し音楽を聴きませんか、と語りかけた時のことを我々に思い起こさせてくれた。彼女はその時ドラマティックに一呼吸置いてから、友人であるプラシド・ドミンゴ(訳注:三大テノールの一人)を紹介したのである。

彼女の子供たち、カミーユ、フィリップ、ジュリアンも堂々かつ雄弁に母との関係を語り、彼女の2番目の夫であるジャン・ピエール・ド・ボーマルシェはその感動的なスピーチを「さらばフィリピーヌ、わが愛しの人よ」と締めくくった。

皆が彼女の生前の活力、完璧を求める姿、そして文化的な影響力について話していた。アラン・ジュッペは現在再建を進めるボルドーの市長だが、彼はたとえ電話でも、けして彼女を待たせてはいけないということを学んだ経緯を話した。ボルドーのワイン業界を代表するフィリップ・カステジャは彼女の細部にまでいきわたった注意力について触れた多くの人の1人である(おそらく裏話もあるのだろう)。また現在コメディ・フランセーズの女性として2人目のディレクターはドラマティックに、フィリピーヌがいかに支援に積極的だったかを語った。

我々はまばゆい9月の日差しの中へぞろぞろと歩き出した。多くの人々は2014年度の収穫までに暖かい日差しのラストスパートを望んでいたに違いない。式典の間ずっとフィリピーヌのお気に入りの写真が私たちを見下ろしていたが、彼女がそこにいて私たちを出迎えてくれないことが最後までどうしても信じられなかった。

(原文)

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