ヴォルカニック・ワイン・アワード | The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト)

雪降る山の魔法

2020年5月23日 土曜日 • 5 分で読めます
Kangaroo in Coppabella vineyard, Tumbarumba, New South Wales

そこはあなたの知らない、興味深いワイン産地かもしれない。Tumbarumba tastedも参照のこと。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

全ての始まりは先ごろのオーストラリアの深刻な山火事だった。最もひどい影響を受けたのはアデレードヒルズ、南オーストラリアの海岸からほど近いカンガルー・アイランド、そしてメルボルンとシドニーの真ん中に位置する丘にある、その名の響きが楽しいタンバランバだ(ワールド・アトラス・オブ・ワインのオーストラリア南部の地図ではほぼ中心に位置している)。私自身も1月の週刊ニュースレターではワイン愛好家たちにオーストラリア・ワインを飲んで応援しようと呼びかけている。

2019年大晦日のタンバランバの山火事。タンバランバ・タイムズ提供(Courtesy of The Tumbarumba Times)

それを読んだキャンベラのワイン商でタンバランバにブドウ畑を所有するビル・メイソン(Bill Mason)から、リリースされたばかりの一連のタンバランバのワインが送られてきた。この独特なワイン産地の認知度を上げるため、それらを私にテイスティングして欲しいと言うねらいだ。彼はオーストラリア郵便公社を説得して送料を免除してもらい、地元の経験豊富なテイスターたちが吟味したワインを選び、ワイナリーに呼びかけてそれらのサンプルを集めた。その結果集まった33本のワインはオーストラリア郵便公社の赤と白のワイン専用の箱に入り、数週間を経てエイプリルフールに間に合うようにキングス・クロスにある私のフラットに届いた。(ここ数年、安全でリサイクル可能な段ボールでできたワイン用のパッケージが急速に進歩していることは大変喜ばしい。さらば発泡スチロール。)

左から:コレクター・ワインズのアレックス・マッケイ(Alex McKay)、オーストラリア郵便公社、北キャンベラ・ビジネス・センターのマネージャー、ブラッドレー・ミラー(Bradley Miller)、コジオスコ・ワインズのビル・メイソン。ジャンシスに送付するワインの山と共に。

この努力は無駄にはならなかった。なぜなら私はそのうちいくつかのワイン、特にシャルドネにひどく感銘を受けたからだ。いずれにしても、オーストラリアは21世紀的なシャルドネ(すなわちブリジット・ジョーンズ時代の酸が低くて味のぼやけた悪名高いシャルドネよりも遥かにスリムなもの)の産地だが、中には少し引き締まりすぎて果実が不足しているものもある。タンバランバで最高のシャルドネはそれがちょうどいいのだ。この上なくクリーンで、瓶内で数年熟成が可能なように構成され、面白く、うまみのある味わいに満ちている。ああ、そして同等の品質の白のブルゴーニュよりも安価である点も忘れてはならない。

タンバランバはグレート・ディバイディング山脈の西に位置し、ニュー・サウス・ウェールズ州スノーウィ山脈の裾野にある。スノーウィ山脈で最も標高が高いのはコジオスコ山で、オーストラリアで最も高い山だ。タンバランバは比較的新しいワイン産地で、ブドウの栽培面積はたった300ヘクタール、そのほとんどが標高550から800mにある。すなわちほとんどのヨーロッパの畑よりも標高が高いことになる。ブドウを完熟させるために北向きの斜面が必要となる。ここの気候はシャンパーニュやブルゴーニュに似ていると言えるかもしれないが、日照はやや強く、夜は冷え込む。タンバランバがヨーロッパと異なる点は、私が考えるにその産物が他の産地に奪われてしまっているという点だ。今でも、この地域にワイナリーが一つしかないためだ。

初めて商業的に栽培を始めた2つの畑は1981年に植樹され、この地のポテンシャルの高さから1992年には農業省とオーストラリア最大の企業の一つで当時サウスコープと呼ばれていた企業がブドウ栽培を推奨するためのワークショップを開いたほどだ。

その結果家族経営のブドウ栽培者たちの小さなグループが他の地域にある大手企業への継続的なブドウ供給契約を進めることとなった。その企業の中には現在オーストラリアのワイン業界を長きに渡りけん引する2社、現社名トレジャリー・ワイン・エステート(かつてのサウスコープで、ペンフォーズなどのブランドを有する)とアコレード(ハーディーズなどで有名)も含まれていた。彼らはこの比較的冷涼で雨の多い地域で作られる他にはないフレッシュさという、価値あるブドウの性質に目を付けたのだ。

だがその契約の多くが2000年代中盤、オーストラリアのワインが周期的な存続の危機に面した際に見直されることなった。当時、この国全体でブドウが過剰となっていた。そのため上記2社はこの地域への投資を中止し、契約を更新しなかった。そのため現在はブドウを必要な時にだけ購入している。

標高680mにあるコーアビラ・ヴィンヤード(Courabyra vineyard)。山火事の前にサミー・ホウカー(Sammy Hawker)が撮影。

この地域は非常に冷涼なためスパークリング・ワイン生産用のブドウ栽培にも適しており、ハーディーズで才能あるスパークリング・ワインメーカー、エド・カー(Ed Carr)は、1990年代にタンバランバにこの会社を引っ張ってきた人物だ。私に送られてきたものの中にも彼の作った、息をのむような2011トラディショナル・メソッド・スパークリング・シャルドネが入っていた。これは上の写真のコーアビラ・ヴィンヤードで作られたシャルドネだ。同社のシャルドネのトップ・キュヴェ、アイリーン・ハーディの21世紀初頭のヴィンテージにも、タンバランバのブドウが一部使われている。彼らの強力なライバル、ペンフォールズの超高価格が付けられたシャルドネ、ヤッターナ(1本およそ100ポンド)は1996年以降ずっと、タンバランバのブドウを一部使用している。ペンフォールズBin 311は(24ポンドほど)2005から2016までタンバランバのブドウだけで作られていた。2017からは他の冷涼産地のブドウもブレンドされるようになったが、2019のペンフォールズ、セラー・リザーヴ・シングル・ヴィンヤード・シャルドネは100%タンバランバのブドウだ。


これらのシャルドネはタンバランバの魅力を伝える大使としては最高の素材と言えるが、この産地では他の品種も栽培されている。ピノ・ノワールは特に人気だが、他にもピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブラン、プロセッコ(イタリアではグレラと改名されている)、リースリング、ピノ・ムニエ、ガメイ、さらにはオーストリアのグリューナー・ヴェルトリーナーまである。

アレックス・マッケイはコレクター・ワインズを経営する前、一時期タンバランバでハーディーズに所属していた。コレクター・ワインズは上質なタンバランバのシャルドネの生産者でもあるが、その拠点はキャンベラの郊外、(オーストラリアの基準では大した距離ではない)車でたった3時間ほどの場所にある。彼によると、タンバランバのブドウのおよそ三分の一は北西部にある暑い内陸のリヴァリーナで生産される大量生産のブドウ主体のワインにわずかなフィネスを加えるためにブレンドされているとのことだが、残りのブドウはタンバランバとラベル表記されるワインに使われるルートを見出しているようだ。その多くがタンバランバの外にあるワイナリーまで運ばれるが、その運搬先は、キャンベラやリヴァリーナ、あるいは遠くシドニー北部のハンター・ヴァレーにまで及ぶこともあるそうだ。

上述の大手2社が手を引いた後、リヴァリーナのマクウィリアムズがタンバランバのブドウの最大の買い手となり、先の1月に破産申請をするまで、幅広いタンバランバのワインを作っていた。マクウィリアムズのヘッド・ワインメーカーであるジム・ブレイン(Jim Brayne)は殊にタンバランバに熱心で、彼の息子アドリアン(Adrian)はこの地域で唯一のワイナリーを経営し、地域で生産されるブドウのおよそ六分の一を使用している。アドリアンの2019のブドウはひどい雹の影響を受けたが、大晦日に起きた山火事で直撃を受け、自宅も畑も失った。彼自身のブランド、オブセッションは、その2018が私の最もお気に入りのタンバランバ・ピノ・ノワールだった。燃えてしまったこの畑が再びブドウを生産するようになるまで恐らく5年はかかるだろう(Tumbarumba tasted での写真も参照のこと)。

タンバランバの火災後、オブセッションの生産者アドリアン・ブレインの自宅

ワイナリー自体はそれほど被害が大きくなかったため彼の顧客が栽培したブドウで醸造することは可能だが、今年はその顧客たちもほとんど収穫ができていない。これは火災の影響と共にブドウに及ぼす煙の影響が理由だ。タンバランバは大手のブレンドの原料供給地という以上の注目を集めるに値する産地だ。

この記事は私が初めて産地を訪問せず、その産地について書いた記事だ。今後はこのようなことが増えるのかもしれない。


超お薦めのタンバランバのワイン

以下のワイン全てに私は20点満点中17点以上をつけている。これは私にしては非常に高い点数だ。テイスティングした33本のワインの内、16点以下を付けたのはたった2本しかなかったことも申し添えておこう。

  • Courabyra, 805 2011 sparkling wine
  • Kosciuszko Chardonnay 2018
  • Mada Chardonnay 2018
  • Coppabella, Sirius Chardonnay 2018
  • Collector Wines, Tiger Tiger Chardonnay 2017 and 2016
  • Obsession Pinot Noir 2018

残念ながら、これらのワインは現在イギリスで入手することはできないが、多くのイギリスのワイン商がタンバランバのワインを扱っている。現在アメリカに輸出されているのはペンフォールズのBin311とイーデン・ロード・シャルドネだけのようだ。

原文

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