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OWロエブの悲劇

Saturday 20 January 2018 • 7 分で読めます
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この記事のやや短いバージョンはこの記事の姉妹版であるフィナンシャル・タイムズ・マガジンにも掲載されている。OW Loeb - a history lesson も参照のこと。

昨年11月16日の午後、クリスティーズで珍しいことが起こった。「この上ないコレクションから提供された最高級かつ最も希少なワイン~パート1」と題された競売のさなか、その後半すべての出品が取り消されたのだ。「本日のワイン・オークションは個人所有のコレクションの担保を持つ債権者の代理として実施されておりましたが、その債権の支払いがたった今完了したとの知らせが入りました。」ということだった。

数日後に香港でオークションに掛けられるはずだったそのワイン・コレクションは個人ローンの担保として提供されたもので、ロンドンのマーロン・アベラ(Marlon Abela;ニックの書いたある意味暗示的な2004 profile of himも参照のこと)のものだった。彼はザ・グリーンハウス、ウム、モートンズ、そして今ではザ・スクエアを所有し、ミシュランの星は5つを下らない人物だ。レストラン業界ではその評価が上がれば上がるほど、利益を生み出すことが難しくなることが知られている。(アベラはセント・ジェームズにあるサイモン・パーカー・ボウルズのワイン・バーで、現在は営業していないグリーンズの共同経営権も獲得していた)

アベラは莫大な成功を収めた中東のビジネスマンの息子で知識豊かなワインと食べ物を愛する人物であり、ザ・サンデー・タイムズの長者番付の常連だが、自分の所有する豪華なレストラン帝国で時間を費やすことが大好きだ。一方で自分の所有するワイン会社の施設を訪問することにはあまり熱心ではなかった――少なくとも彼が2014年末に買収したワイン商、OWロエブの元従業員の経験では。

OWロエブは国際的なワイン取引の世界で偉大な存在の一つであり、今日のワイン愛好家にとっては広く知られた名前だろう。19世紀、シグモンド・ロエブはドイツで最も著名なワイン商であり、モーゼル・トレード・アソシエーション(Moselle Trade Association)の会長でもあった(詳細はオックスフォード・コンパニオン・トゥ・ワイン第4版、Jewish heritage in German wine cultureを参照のこと)。彼の息子オットーは1930年代にはロンドンに在住し、グラインドボーン・オペラの初期には素晴らしいドイツ・ワインとそれを引き合わせるなど重要な働きをした。

1950年代になるとOWロエブはヨークシャーの実業家で目利きでもあったデイヴィッド・ダグデール(David Dugdale)から資本援助を受けたが、最終的には1976年、彼が事業を引き継ぐことになった。彼とマネージング・ディレクターであるアンソニー・ゴールドソープ(Anthony Goldthorp)は1960年代初頭からローヌやブルゴーニュから秀逸な商品を次々と見出し、OWロエブは現代のブルゴーニュ愛好家の垂涎の的であるドメーヌ・アルマン・ルソーの(ニューヨークのフレデリック・ウィルドマンに続く)2番目に古い輸出先となった。

1997年、デイヴィッド・ダグデールは高級ボルドーやドイツ・ワインも扱うようになっていたこの会社を、ワイン愛好家であり長きにわたり生産者と見る目のある個人顧客との間の橋渡しを共に楽しんでいたクリストファー・デイヴィ(David Dugdale)とブラウ・ガーニー・ランダル(Brough Gurney-Randall)に譲渡した。そして最近になって優に60代に入った二人はそのOWロエブの売却を検討し、アベラが最適な所有者だと考えた。彼の立ち居振る舞いは一挙手一投足十分に資本のある人物のそれであり、この価値ある会社を次のステップへ導くために最適な位置にあると思われたためだ。

アベラはすでに自身のレストランにワインを供給するためのワイン商社、MARCファイン・ワインを所有しており、2005年以降パトリック・ヘドラムが経営を任されている。計画ではヘドラム、デイヴィ、ガーニー・ランダルが共にバーモンジーにあるロエブの社屋で働くことになっており、最初の1年ほどはおよそ20もの一流のチームを構成し、まずまず効率的に業務を行っていた。

アベラの最高級ワイン志向を知っている私のような皮肉屋からすると、彼がロエブを購入した動機はMARCファイン・ワインが手にすることは夢のまた夢、といった、世界で最も偉大な銘柄の配当を手に入れることだったのではないかと思わずにいられない。ただ、想定外だったのはこのかつて偉大だった会社がまもなく相次ぐ退職と支払いに関する争いに見舞われることだった。

昨年1月、OWロエブはいつも通り毎年恒例となったブルゴーニュのプリムール・テイスティングを行い、人気の高い2015ヴィンテージを提供した。増え続けるブルゴーニュ愛好家からの注文は相次ぎ、数か月後には2015のワインを手にすることを想定した多くの現金も流入した。同様に2016ドイツ・ワインのテイスティングも6月に行われた。

ところが月日が経つにつれ、これらワインの生産者の中には通常通りの支払いを受けていない場合があることが次第に明らかになってきた。心配した生産者からのメールや電話が相次ぎ、秋になるころにはOWロエブで働くことに誇りを感じられなくなった多くの従業員が、かの3名の主要メンバーを含めて退職した。これらの退職に対し、ブルトン・プレイスにあるアベラ所有の日本料理店、ウムの階上にあるMARCグループ本社の対応は全くなかったようだ。

最後まで残っていたうちの一人はOWロエブに10年以上勤めたニコラ・フランクリンで、友人とも呼べる生産者たちへの忠誠心から社に踏みとどまっていた。「自分はなんて無力なんだと感じました。」彼女は今そう話す。「問題は生産者への支払いのための現金を出し渋っていた本社でした。それに加えて退職者が多すぎたんです。誰が支払いを受けていて誰がそうでないのか知る手段がありませんでした。私は彼らへの強い忠誠心を感じていたのでできるだけ多くの彼らのワインを顧客の保税倉庫所有分として割り当てようとしました。」

生産者の中には5桁の未払いを抱えていた者もいた。だが最悪の被害は額が小さい方だった。それほど注目を集めていないマコンの生産者の中には2017の収穫のために費用すら工面できない不安を抱えているものもいたのだ。その多くが訴訟を起こした。

そしてついに昨年11月の初め、被害を受けた生産者たちとのやり取りによるストレスに耐え切れず、フランクリンもまた退職した。

この会社で最も輝きを放っていた若い社員で尊敬を集めるテイスターでもあったジャック・チャドックはここ数週間、自宅のキッチン・テーブルで顧客とその注文を結び付ける最善の努力をしていた。ライバル企業から職を提供され、ロエブの給与はもう支払われていなかったにも関わらず、だ。

法律上、ワインがイギリスの保税倉庫で顧客の所有となりその名義が確定すると、それはその個人の所有物となる。OWロエブの顧客用保税分はソールズベリー郊外にあるロンドン・シティ・ボンドのディントン支社、改築された武器商の建物に保管されている。(詳細は昨年更新されたワインをどこに預けるべきかを参照のこと)

昨秋、アベラはブルゴーニュの最新ヴィンテージのサンプルを提供する伝統を何とか続けることで新たな注文を取り付けようとしており、そのためにロンドンのヴィントナーズ・ホールは先週のブルゴーニュ・ウィークの木曜に押さえてあった。この件は彼が昨年11月の時点ですでに私にもそう述べていたことだ。だが私が昨年末ブルゴーニュに滞在した際に話を聞いた限り、ロエブの人間は何か月もの間誰もこの地に足を踏み入れておらず、ワインのテイスティングも2016プリムールに提供するための選定も行われていなかった(アベラは最近彼らのチームがテイスティングを行ったと述べた)。結局、ロエブの2016ブルゴーニュ・テイスティングは中止となった。

生産者のセラーにはまだ膨大な量の2015ブルゴーニュが未払いのまま残されている。

1月のブルゴーニュ・ウィークの前の週、バーモンジーにある社屋には誰もおらず、電話はひっきりなしに鳴り続けていた。アベラによると事務所の移転準備中だという理由だった。ロエブによるプリムールの状況に対する不安が弊サイト(訳注:ジャンシスロビンソンドットコム)の掲示板で取り上げられるようになると留守番電話が設置されたが、その録音はあっという間にいっぱいになっていた。アベラは最近になって「ロエブがメイフェアに復帰」という告知に続き、一握りのスタッフを本社に配置した。このことでこの会社の歴史やロンドンの土地鑑に対する彼の理解は疑わしくなってきた(OWロエブが拠点を置いて成功したのはアデルフィ、セント・ジェームズのジャーミン・ストリート、サザーク、そしてバーモンジーである)。

彼はもちろん多忙である。先週はOWロエブへのワインの供給元にメールを出し、最近の進展を報告すると共に、あまり例のない、プリムールで購入されたワインの一部を手元に置いておくという方針を打ち立てた。事実、ロエブのウェブサイトに2017年9月の日付で掲載されている最新の価格表には2013、2014、2015といったヴィンテージの、なかなかに名声の高い生産者のワインが並んでいる。

ブルゴーニュ・ウィークの間に生産者の中で他のイギリスのインポータと提携を結び始めている動向がうかがえたのは当然のことだろう。

アベラは基本的にロエブに対する批判をはねつけてきた。彼が言うにはこのビジネスに莫大な投資を行ってきたし、ドメーヌが喜ぶと思われる新規のレストランにワインを紹介するための方針転換を実施してきたそうだ。さらに彼はこう付け加えた。「OWロエブへの義務を果たす最善の努力は行ってきました。特に支払い不履行をするつもりなど毛頭なく、把握している限りすべての支払いは手続きが進行中のはずです。」

彼はさらに後日メールでこうも述べていた。「OWロエブは義務の遂行に全力を尽くします。万が一何らかの理由で特定のワインがお手元に届かない事態になれば適切な代替品または返金で対応させていただきます。と申しますのはご存知の通り、市場においてすべての2015が納品されているわけではないためです。私どもも現在いくつかのワインの到着を待っている状態で、それらを受け取り次第、個人顧客の皆様には担当チームからご連絡をさせていただき、ご希望に応じて配送あるいは転送の対応を取らせていただきます。」

最高級のドメーヌにとっては不便であること以外それほど影響はないようだ。ロエブに配当したワインをいくらでも売ることができる。私としてはロエブからワインを先物として購入した個人顧客が報われることを心から願う。だがかつて偉大なワイン企業と言われた会社の名声はこの上ない特権を持った外部の人間の経営方針によって大きくゆがめられてしまった。そしてこのことはワインをプリムールで買うこと、すなわち手元にワインが届く何か月も前に支払いを行うという多くのワイン商が依存しているシステムの信頼性にまったくよい影響をもたらしてはいない。

原文

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