ヴォルカニック・ワイン・アワード | The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト) | Mission Blind Tasting

トーレス~告知広告から生まれる生物多様性

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この記事のやや短いバージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。テイスティング・ノートも参照のこと。

ミゲル・A・トーレスは彼の地元、バルセロナの奥地にあるペネデスで作った 1970カベルネ・ソーヴィニヨンが 1979年のゴー・ミヨ・オリンピックでシャトー・ラ・ミッション・オーブリオン 1961やシャトー・ラトゥール 1970に勝利し世界で最も有名なワイン生産者となった。(一説にはフランスの美食雑誌がこの国際的な比較試飲を開催したのは、その 3年前のいわゆるパリスの審判でカリフォルニアの勝利で失ったフランスの優位性を取り戻すためとも言われるが、もしそうだとしたらその試みは失敗に終わった)

当時トーレスはその国際的な視点と、はるかに小さな生産者であるジャン・レオン( Jean León)の足跡をたどり、カベルネやシャルドネなど知名度の高い国際品種をペネデスに導入した点で称賛を集めた。

だがその 10年後、彼は大きく方向転換をし、ただ無名であるものから絶滅に近いものまで、幅広いカタルーニャ独自の品種を見つけ出し、救済する運動を始めた。その動機は先見の明があった(現在、土地固有の品種と言うものはお決まりの品種よりはるかに人気が高い)だけではなく、気候変動とサステイナビリティを考慮してのものだった。すなわちその地域で長い歴史を持つブドウならばその土地により馴化している可能性が高いという理論だ。

現在このブドウ発掘プログラムには彼の息子で 4年前に同社のチリでの事業から帰ってきたミゲル・トーレス・マクザセック( Miguel Torres Maczassek)が加わっているが、恐ろしく長期間にわたるプロジェクトとして 1980年代後半に開始されたものだ。しかも地方紙に告知広告を出し、同定されていないブドウがあれば知らせてくれるよう記載するだけという単純な手法によるものである。

その結果、ヴィラフランカ・デル・ペネデスにあるトーレス社には 100本以上の電話がかかった。トーレスはモンペリエ大学の協力を得てブドウの切片を DNA分析装置で解析し、 50点ものまさにミステリアスなブドウを発見したのである。

次の段階はそれらを植えつけるため、多くの畑に被害をもたらすウィルスの感染を確実になくすことだった。そして in vitroでそのブドウを複製し、幼木を育苗用グリーンハウスで育て、その穂木を世界中のブドウを苦しめたフィロキセラに耐性のある台木に接ぎ木し、それぞれの品種ごとに数百リットルの試験的なワイン生産に必要な量が確保できる面積分移植する。トーレスではいま特別な超小型醸造用セラーを備え、ミゲルの姉、ミレイアがその研究の責任者となっている。

これらの 50のサンプルをテイスティングするのは非常に骨の折れる仕事であり、多くの場合はがっかりする結果が待ち受けていた。品種そのものは貴重かつ明らかにカタルーニャ特有のものだったとしても、そのほとんどが興味を引くほどのワインを生み出さなかったのだ。だが、最終的にトーレス一族の忍耐強い研究によって、 6種の独自かつ期待の持てる固有品種を同定するに至った。

これら品種のうち 5種の初めての正式なヴィンテージは 2015で、今年初めに瓶詰めされた。一方ガッロ(Garró)という品種だけは2014がすでに瓶詰めされている。この品種は 1990年という早い時期に同定されており、トーレスのスパイシーで複雑なグラン・ムリャーレスの地元品種のブレンドの一部として使われており、その最初のヴィンテージは 1996年だったためだ。

問題はこれらの「新しくて古い」品種をどう呼ぶかだった。なぜならそれらは全くの無名だったからだ。トーレスはそれらが見つかった村や丘、土地にインスピレーションを求め、創造力を発揮する必要があった。例えばガッロはカタルーニャの海岸にあるエル・ガラフにちなんで名づけられている。ここはトーレスが最初にこのブドウを見つけた場所である一方、この品種には遥か内陸の高地であるコンカ・デ・バルベラのスレート土壌の方がはるかに良いことも彼らは確認済みだ。

中でも最も期待の持てる新発見は彼らがフォルカーダと呼ぶ白ブドウだ。栽培面積はまだ 3ヘクタールにも満たないが、フランソラとして販売されるトーレスのソーヴィニヨン・ブランを生み出す標高 500m、アルト・ペネデスの高地に植えられている。この品種の欠点は非常に成熟が遅い点であり、例えばシャルドネよりは丸一か月遅れる。だが抽出、酸、そしてピーチと青い香りの中間にあるしっかりした味わいは素晴らしいものだ。この品種からトーレス本部のあるペネデスで大量に生み出される伝統的なスパークリング、カヴァの上質なベースワインが作り出せることは想像に難くない。一方ロンドンで 4月にテイスティングしたこの品種の 2015もまた、それ自体が印象的なものだった。

赤ワインに関してはスパイシーでプラムの香りの強いガロ 2014の他に私は2015 のピレーネ(トーレスの標高が最も高い 950mの畑で栽培されている)、モネウ、ゴンファウス、ケロールをテイスティングした。個々の非常に明確な違いが印象的だった。非常に個性の強い品種なので長い目で見たとしても単一品種のワインとして瓶詰めされることはないだろうが、ブレンドの品質を上げる素材として使われることになるだろう。

2015のヴィンテージは、これら品種から作られる量が450から2,700 リットルと幅広い。トーレスはスペインとカタルーニャの当局がこれら新しくも古いブドウを公式に認証するのを待っている。おそらくまだ何年もかかるだろうし、ウィルスを持っていると判明したピレーネはもっと時間を要するだろう。

ピレーネは最も香りが明確で表現力豊かな品種なだけにこの点は残念だ。チャーミングかつフルーティであふれんばかりの赤スグリの香りがする品種で、スペイン北西部ビエルソのメンシアを連想させる。モネウは力強く苦味すら感じることもあるが骨格が素晴らしく、どちらかというとイタリアらしい印象だ。おそらくブレンドの素材としていいのではないだろうか。ゴンファウスもまた非常に印象的だ。官能的なワインはオレンジ・ピールの香りを纏い、すでに非常にバランスが取れていて直接的だがまだ若々しさも感じられる。ケロールについてはものすごく強く、野性的と言えるほどでタンニンの塊とエルダーベリーの香りが混じり合う。

トーレスは近隣の人々にも彼らが最近発見した品種をぜひ植えてほしいと願っている。「特にフォルカーダをね」とミゲル・トーレス・マクザセックは言う。このような復活運動をスペイン全土で行わない理由はないため、トーレスのチームは小さな告知広告をガリシア、リオハ、リベラ・デル・デュエロ、ルエダなどの地元紙に掲載し始めている。彼らが指摘するのは、人気のなくなった品種はおそらく生産性の低い品種であるという点だ。生産者たちはかつて質よりも量を重視する傾向にあったためだ。

だが、何よりもワクワクするのは同様のブドウ調査プログラムはワイン生産の長い歴史を持ついかなる土地でも理論上は可能であるということだ。

(原文)

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