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火星人はプリムールに何思う

Saturday 1 September 2018 • 5 分で読めます
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この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

この数カ月にテイスティングしたワインの中で最高のワイン2つは一世紀以上前のものだった。シャトーで飲んだラフィット1917 とごちそうがたっぷり載ったサセックスでのディナー・テーブルで飲んだシャトー・モンローズ1917は偶然にもヴィンテージと産地が同じだった。この2本が証明するように、ボルドーは世界で最も長命なワインを生み出す産地だ。

だから、ボルドーがそのワインをおそらく実質的に世界中の産地に先駆けて発売するのは奇妙なことと言えるだろう。毎年、急いで発酵を行うボージョレ・ヌーヴォーが市場に投入されてからわずか数カ月後、ボルドーのワイン生産者たちは最新のヴィンテージを売りに出す。毎春、数千ものワイン商と数百のワイン評論家がボルドーに赴き、この世に生を受けてから7カ月に満たず、その後も樽の中で1年以上熟成させてから瓶詰めし、おそらく数十年は飲まないであろうワインのサンプルを厳かにテイスティングするのだ。火星人が見たら非常に奇妙だと感じるに違いない。

プリムールはこのように未発達の液体を収入に変える、ものすごく慌ただしいビジネスの名前だ。アメリカ人はそれを先物取引と呼ぶこともある。このような毎年の恒例行事はシャトーやボルドーのネゴシアン、ブローカーなどが開催するランチやディナーを伴うが、知らなければこれが数世紀前から行われている伝統と考えてしまうかもしれない。それは間違いだ。

プリムール、すなわち赤ん坊の状態でボルドーを販売するのは実は比較的最近の手法で、1975のヴィンテージから始まった。ボルドーの業界、シャトーの所有者もネゴシアンもワイン商も、オイル危機、薄いワイン、さらには最も著名な一族を巻き込んだラベル偽装スキャンダルが立て続けに起こった危機的状況の中、とにかく収入を得なくてはならなかったのである。投げ売りがそこかしこで行われていた時代だ。

最初の頃は、堅実な1970ヴィンテージの後に低品質かつ場合によっては不当に高い価格がつけられたヴィンテージが続いたことで(ボルドーの歴史は繰り返す)、何か売るものはないかと必死だったイギリスのワイン業界へ向けて、まだ幼くインクのように濃い1975の樽サンプルがロンドンに送られていたのだ。

世界中から集まってくるバイヤーが増えたことに伴い、サンプルを提示する会場がボルドーに変わり、本気で購入を考える参加者よりもゴシップとディナーを楽しむ者が多い現代のサーカスのような形式になったのだ。

この新しい、加速する販売方式に殊更冷静に異議を唱えたのがイギリス人のワイン商で、当時サウスウォールドにあるアドナムスを経営していた人物、サイモン・ロフタスだ。数十年が過ぎた今、彼はこう思い起こす。「生産者たちの日和見の拝金主義とワイン商たちの臆病な従順さに私は常に激しく非難を浴びせていたものです。ワイン商たちは最近の、多くが平凡なヴィンテージに付けられる法外な価格を払えなければ将来の割り当てを失うのではとびくびくしています。結局、私が非難しても全く無駄でした。」

確かに無駄だった。ボルドーの結束の固いワイン社会の若いメンバーの中にはプリムールなしの生活など想像できない者も出てくるだろう。その一生を費やすほど長命なワインをまだ半分も出来上がっていないうちから顧客やメディアに審査するよう求めることがいかに非論理的であってもだ。ボルドーの需要が過熱した際、例えば1995、2000、2005、2009、2010などのような年にはプリムールを正当化する声も聞かれた。特に最後の2つのヴィンテージでは当時プリムールになじみがなく、(最終的にそれが間違いだったとわかったものの)確実に儲けられる手段だと聞かされていた中国人によって拍車がかかった。

2009は世界の需要があまりに大きかったため、ロンドン屈指の、そして香港に事務所を初めて構えた高級ワインブローカーであるファー・ヴィントナーズは6900万ポンド相当の売り上げを記録した。このファーの利益がボルドー・プリムールのピークである2010年6月だけであまりに莫大だったため、所有者であるステファン・ブロウェット(Stephen Browett)はお気に入りのサッカーチームであるクリスタル・パレスの株四分の一を購入できたほどだ。後からだから言えることではあるが、2009と2010はボルドーの歴史の中で最も不当に価格の高いヴィンテージとなった。アジアの倉庫には売れない在庫が山積しているとのうわさだ。ライブエックスによれば市場価格が発売時の価格に追いついたのは2016終盤になってようやくのことだ。

驚くことではないが、中国人たちは最近、プリムールにそれほど熱心ではない。実際のところ、一般的に誰もがボルドー、とくにプリムールへの意欲をかなり失っているように見える。ファーが最近提供したヴィンテージである2017の売り上げは300万ポンドを少し上回る程度だったという。

1980年代から30年もの間プリムールによって生み出される現金注入に依存してきたイギリスの多くのワインブローカーやワイン商たちは、今では生計を立てるための別の方法を探し出している。すなわちより熟成したヴィンテージを取引したり、(ありがたいことに)ボルドー以外にも世界には優れたワインがあることに気づき始めたりしているのである。ボルドーのワイン商もまた、多様化を初めている。まさに今週はボルドー以外の多くの野心的なワイン、例えばオーパスワン2015、アルアヴィーヴァ2016、ソライア2015、マッセート2015、ローヌにあるボーカステルから今年出たオマージュ・ア・ジャック・ペランなどがラ・プラース・ドゥ・ボルドーでも提供された。

ブルゴーニュは入手可能な数がはるかに少ないにもかかわらず、すぐに思い付くボルドーの代替だった。ブルゴーニュはこれまで消費者には瓶詰め後に手渡されるものだったが、これも変わってきている。ジャスティリーニ・ブルックスが初めてカスク・サンプルのテイスティングを行ったのは1990のワインで、1992年1月、ピカデリーにあるイン・アンド・アウトというジェントルマンズクラブでのことだ。代表のヒュー・ブレアは「1990のあとのヴィンテージの中にはその資質を瓶詰め前に見抜くのが難しいものもありましたし、一晩で100万ポンドの売り上げに達したのは唯一2002のヴィンテージです。しかしこの出来事がブルゴーニュの生産者やワイン商だけでなくイギリスのワイン業界の注目を集め、1月の2週目をブルゴーニュ週間とすることが受け入れられたのです。」と回顧した。

ヘインズ・ハンソン・アンド・クラークのブルゴーニュ専門家、アンソニー・ハンソンMWは毎年9月に生産者を招きサンプルを持ってこさせていたが、彼らですら今では毎年1月にワイン業界のカレンダーをにぎわすイベントで、生を受けてたった16ヵ月の赤ワインと白ワインを提供し、注文と現金を獲得するために20ものインポータのリストに名を連ねている。また今では若いローヌのテイスティングを行うものも出てきた。

これら全ては業界人にとっては非常に便利なことかもしれないが、我々のようなワイン愛好家にとってはけしてそうとは言えない。確かに非常に人気の高いワインを入手する機会を与えてくれるのかもしれないが、そのために資金の投資が必要であり、ワインが熟成するまでの保管庫の費用も負担しなくてはならない。さらに、おそらくより重要なことは最高級のワインは市場から姿を消してしまい、少なくともイギリスでは(アメリカのワイン商はもっと消費者に優しい)熟成した上質なワインを1本単位で入手することがどんどん難しくなってしまう点だ。ワインに興味を持つ超富裕層のおかげで高騰した価格と併せて、1ダース、あるいは半ダースで購入する(プリムールと同じ)ことが富裕層や、飲むのではなく投資目的でワインを購入する人々の興味の対象だからだ。

だが、二次市場や世界的に名声の高いワインでなくとも世界は心の踊るワインで満ち溢れている。その中にはボルドーやブルゴーニュのものもあるのだ。下のおすすめを参照してほしい。


分別のあるワイン
有名なワインの代わりとなるものを挙げた。不当に高い価格がつけられることはまれで、飲み頃に購入することが可能だ。

赤のボルドー
2016、2015、2010、2009など素晴らしいヴィンテージのクリュ・ブルジョワとその他のプチ・シャトーのもの
コード・ド・カスティヨンなどボルドーの「コート」もの

白のブルゴーニュ
シャブリ、特に多くのコート・ドールの白より長命なプルミエクリュ
モンタニ、リュリ、マランジュ、オート・コート

それ以外
世界はあなたの思いのままに。

特別な提案はこちらを。たとえばvertical of Ch Dutruch Grand Poujeauxには最新のレポートが記載されている。

(原文)

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