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ワインと科学の出会う場所24 Feb 2018

Saturday 24 February 2018 • 5 分で読めます
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この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

我々のほとんどはワインを娯楽やリラクゼーションと結びつけるものだが、世界中に存在する数百名の科学者にとって、それは毎日の勤務時間を使い頭の痛くなるほど詳細に研究する対象である。

例えばアメリカン・ジャーナル・オブ・エノロジー・アンド・ヴィテカルチャー誌に最も多く引用されている文献のタイトルには「Colorimetry of Total Phenolics with Phosphomolybdic-Phosphotungstic Acid Reagents (総フェノリックのリンモリブデン酸・リンタングステン酸試薬を用いた呈色反応)」「Measurement of Polymeric Pigments in Grape Berry Extracts and Wines Using a Protein Precipitation Assay Combined with Bisulfite Bleaching(タンパク質沈殿法および亜硫酸水素塩による脱色を用いたブドウ果粒抽出物およびワイン中の重合型色素測定)」などがあり、どれも明らかに「赤ワイン下さい」というレベルからははるかに遠くかけ離れているが、これらは全て赤、白、そしてロゼワインの品質を高めるために行われている研究だ。

数年ごとに私は世界中にある最先端のワイン研究機関、例えばボルドーでは写真のように新しくなったInstitut des Sciences de la Vigne et du Vin (ISVV;ブドウ・ワイン科学研究所)の研究内容に目を通しているが、それらはワインの世界がどのように進化を遂げているのかを如実に反映している。

気候変動に対する対策は主要なテーマである。これはオーストラリアのようにワイン業界がこれまでよりも暑い夏と水不足に初めて直面した国だけの話ではない。

最近、伝統的にヨーロッパで最もブドウの収穫期が遅いスペイン北部のリオハの研究者たちはほぼ全ての地域のブドウ栽培者の間で問題となり始めた事例に剪定時期がもたらす影響を調べている。これまでより暑い夏は、なによりもワインを楽しむ要素(味わい、色、タンニンなど)を決定づけるために重要な役割を果たすフェノリックの成熟を待たずに糖度が不都合なまでに早く上がってしまうことを意味する。その結果、大雑把に言うとワインのアルコールが不都合なまでに高くなってしまう(ブドウ中の糖が発酵によってアルコールに変わり、その度数を決定する)か、伝統的な糖度に達した時点でブドウを収穫してしまうと不快なほど未熟なタンニンと味わいを持つワインができてしまうのだ。

スペインの研究者たちは著者であるウェイ・ツェン(Wei Zheng)-中国の影響が次第に増している世界がここにも反映されている―と協力し毎年の冬季剪定を遅らせることでうまく収量が下がることを見出した。おかげで夏に金銭的に負担のかかる収穫量を下げるための作業を行わなくて済むようになり、春の霜の危険も下がり、うれしいことにワインの品質も上がったのである。(Less alcohol but no less flavour (和訳)も参照のこと)

オーストラリア・ワイン研究所(AWRI)が発表した2017年の小さな論文を読むと、オーストラリアとニュージーランドの人々はこの問題に単純に希釈を行うことで対処することに決めたようだ。1年前に食品基準規約を修正し、ワイン生産者がブドウ果汁やマスト(発行中のブドウ果汁)について最終的な潜在アルコールが13.5%を切らない範囲で水の添加を認めることにした。偶然にもこの種の「加湿」はアメリカでも2001年以来公式に認められている。

公式な理由は「醸造上の問題を減らすため」であり、実際AWRI(特にオーストラリアのワイン業界と密接な関係を保っている)は彼らに寄せられる問い合わせを正確に記録に残しているが、それらの中には糖をアルコールに変換する酵母が単に(訳注;糖の高さに)圧倒されてしまったため発酵が途中で止まってしまったので解決策が欲しいというものがある。これは非常に暑かった2016ヴィンテージには非常に多く、一方で涼しかった2017には、その数ははるかにに少なかった。

発酵槽に水を加えることは必ずしも悪いことではない。よりバランスのよいワインを作ることができるからだ。あの偉大なリッジ・ヴィンヤードでさえ、それを実施していることで知られている(さらにラベルの素晴らしく詳細な成分表にもそれを明記している)。ただ、オーストラリアの品質に興味のない生産者がこれを悪用しないことを願うのも事実だ。

同論文からはオーストラリアのワイン業界が中国に対しいかに熱烈で明白な働きかけをしているかも見て取れる。中国はオーストラリアにとって価格ベースで最も重要な顧客であり、すでに世界第4位のワイン輸入国であるためだ。AWRIの発表している多くのプロジェクトの一つには「中国の結婚式での利用を促進するための商品コンセプト開発の完遂(completing the development of product concepts designed to appeal for use in Chinese weddings)」というものすらある。

オーストラリアによる研究はさらに、中国人の好みに合うワインの特性を調べるため300名の中国人消費者のフランス、オーストラリア、中国ワインに対する嗜好の調査も行っている。それによると彼らのお気に入りのワインは一般的に「豆腐」「サンザシ」「木」の香りが強いものだとわかった。

様々な国における有機的なワイン生産と環境問題について比較するのも面白い。昨年私はアメリカで最も有名なワイン教育の中心、サクラメント郊外にあるカリフォルニア大学デイヴィス校の、最近改築された施設を見学した。ここでは最優先事項はサステイナビリティであるように私には感じられた。偉大な成功を収めたケンダル・ジャクソンのヴィントナーズ・リザーヴ・シャルドネの生みの親の名前にちなみ、彼の未亡人であるバーバラ・バンケによる寄付を受けたジェス・S・ジャクソン・サステイナブル・ワイン棟は「世界初、二酸化炭素排出のない自己完結型サステイナブル教育研究施設」と銘打っている(下の写真はUCデイヴィス提供)。ここでは外付けの冷暖房設備は不要だそうだ。

カリフォルニアのワイン生産は最近、南半球(特に南アフリカ)が近年苦しんできたのと同じくひどい干ばつに見舞われたため、カリフォルニアでは例えば排水のリサイクルなどに大きな関心が集められている。一方、少なくともAWRIの報告から判断すると、オーストラリアはまだ非常に効率重視であり、農薬という単語はけして禁句ではない。

また、近年非常に幅広い栓(スクリューキャップ、天然コルク、その他多様なコルク)の選択肢があることから、それらの性能を比較するための対照実験が多く行われているのも驚くことではない。南フランスの研究者チームは天然コルクの様々な代替品が商品寿命に与える影響について詳細な比較を行ったが、最大の効果を検証するため18か月を要した。

ただのワイン消費者である我々の興味が持てるものとしては、ロンドンで開催されるインターナショナル・ワイン・チャレンジに寄せられた10万本を超えるワインについてコルクとスクリューキャップの品質を10年にわたって追いかけたプロジェクトが挙げられるだろう。その結果は最新のAWRIの報告書にまとめられているが、(種類は限定されていないものの)コルク栓のワインの(訳注;劣化による)却下率は恐ろしいことに4.7%にも上った一方、スクリューキャップは「たったの」1.6%だった。そのうちおよそ半分は還元、すなわちワインが十分な酸素に触れていなかったことによるキャベツのような香りによるものだ。スクリューキャップは頻繁に還元と結びつけて語られるにも関わらず、還元の起こる比率はコルク栓でも全く同じ0.81%だった。

流行の言葉は変遷を続ける。ミネラリティという単語が衰えを見せている一方、微生物(microbes)という単語は多く使われるようになってきた。それらはテロワールあるいは土地と、ワインと生産者を結び付けるカギを握っているかのように語られ始めた。微生物学者の皆さん、次のワインの神に祝福を。

科学的なワイン

かつてワインを作った、あるいは今もワインを作っているかつての、あるいは現役の著名なワイン科学者。

Pascal Chatonnet ボルドー大学でエノロジー部門に所属していたが現在は世界中のワインセラーの大掃除に注力し、L'Archange、 Ch Haut-Chaigneau、ラランド・ド・ポムロールのLa Sergueなどを作っている。

Philippe Darriet 現在ボルドーで「ワインのミネラリティ」について研究しており、ルピアックのCh Dauphiné-Rondillonで甘口ワインも作っている。

Denis Dubourdieu 世界的なコンサルタントであり尊敬を集めるボルドーISVVで絶大な影響を持つ人物。昨年亡くなったが彼の伝説はChx Doisy-Daëne、Reynon、Cantegril、 Haura、 Clos Floridèneで生き続けている。どれもボルドー南部の優れたワインだ。

Randolph Kauerドイツのガイゼンハイムワイン研究所の教授であり、その名を冠したワインをミッテルラインで作る。

Peter Leske 元AWRIで現在はアデレード・ヒルズで最初はNepenthe、現在はLa Linea Tempranilloを作る。

Carole Meredith ブドウ栽培、特に品種の特定においてデイヴィスで革新的な業績を上げたが、現在は上質な赤ワイン、特にシラーをナパ・ヴァレーの高地にあるマウント・ヴィーダーで同様にブドウ学者である夫Steve LagierとともにLagier-Meredith vineyardで作る。

Luigi Moio ナポリ在住のエノロジーの教授で妻のローラとともにカンパーニャでQuintodecimoを作る。

Alain Razungles 歴史あるモンペリエ大学のエノロジーの教授だがルーションの丘で家族の所有するDomaine des Chênes でワイン作りも行う。

Kees Van Leeuwen ボルドーISVVのブドウ栽培の教授で、サンテミリオンにあるCh Cheval Blancの栽培担当でもある。

原文

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