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ザ・ワールド・アトラス・オブ・ワイン最新版

Saturday 7 September 2019 • 6 分で読めます
8th edition of the World Atlas of Wine

最新の愛すべき書籍出版に焦点を置いたこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

私が常に尋ねられる質問の一つは「今最も注目の産地はどこですか?」だが、どんな場合でも一つの答えがあることはない。実際のところ、経験上言えるのは地球上のすべての生産者は悪天候による影響さえなければ毎年その品質を向上させているということだ。

現代のワインの品質の高さは言うまでもないことだが、その産地や性質はザ・ワールド・アトラス・オブ・ワインの第7版が出版された2013年と比べると認識を大きく変えざるを得ないことは明らかだ。正式には10月3日に発売されるこの伝統ある参考書の第8版に向けた2年間におよぶ非常に堅実な更新作業がようやく最近になって終了し、私は改めて世界のワインの質実両面での大きな変化に気づかされた。

ヨーロッパ最北部の国々のブドウ栽培面積はそれほど(まだ?)大きくないが、スウェーデン、デンマーク、ベルギー、オランダはこの最新版でそれぞれの地図を掲載することとなった。一方でこの国の人々はかつてブドウが成熟するには寒すぎるとされていた自国で生産されるワインに次第に誇りを持つようになってきている。気候変動のおかげもあって我々イギリス人がまさに今、イギリスのワインの品質に誇りを持っていることに似ている。

南極方面にワインの地図を広げるのはさらに難しい。チリの畑とアルゼンチンの、第7版比べて相当南にある畑も掲載することにはなったものの、基本的に海がその行く手を阻む。南半球のブドウ栽培者たちの気候変動への対応は例えばカベルネ・ソーヴィニヨンのような品種から、より暑い夏に適した品種への植え替えが多い。あるいは夜温の下がりやすい標高の高い場所への移動だ。(この現象に反応した結果とも言えようか、たまたまではあるが最新版には3D地図が以前よりも多くなった)

アトラスの出版は非常に複雑で難易度が高い。実際出版者で自身の著作を素晴らしいデジタル・バージョンに作り込んだデニス・ベイツ(Denise Bates)も「このスケールで出版される著作でまだ生き延びているものはほとんどない」と述べている。このアトラスは1971年に最初に私の共著者であるヒュー・ジョンソンを主幹とし、まさに1から作り上げてきた地図だ。彼は第4版までを一人で出版し、1998年、ちょうどあの9月11日の直後に出版された第5版を出版する大仕事に私を加えてくれた。その出版は驚くほど成功し、現在のところ470万冊を売り上げ、第7版はロシア語とトルコ語を含む13か国語に翻訳されている。

ワインは地球上の特定の地域を示すことができると言う意味で、ボトルに入った地理とも言える。第8版に掲載された230の地図はこの上なく詳細であり、利用価値も高く、好奇心をそそる。その地図の内20は新しいもので、もともと掲載されていたものでも、価値のある新しい生産者(そして時には古くても成果を上げていない生産者)に対応するために微細な変更を行い、第7版以降の畑の変化と新規、あるいは変更のあったアペレーション、新たな道路なども反映している。ジュリアが地図製作者の偉大なチームと連携しこの地図を可能な限り正確で最新なものにしてくれた。さらに図表(初版が出版されて以来、ボルドーの1級シャトー1本を購入するために何時間働かなくてはならないかというグラフも含め)や丁寧に選択された写真、項目を端的に示す導入文、そして些細な文章の変更なども含まれている。

そうそう、その文章だ。皮肉なのは380ぺージ以上に及ぶ3段組の文章を、偉大かつ壮大で、常に拡大を続ける世界中のワインについて最新情報を織り込みながら書いている間、私はそのほとんどをロンドンの自分の机に向かい、世界中の68人もの専門的なコンサルタントによるアドバイスを毎日、時には毎時間照合し、分析し、この上なく有能なマネージング・エディターで最新の3版を担当した出版社のジル・ピッツ(Gill Pitts)と連絡を取り合っていたことだ。私とヒューだけでは世界中の畑やセラーで起きていること全てに精通していることは不可能であるため、コンサルタントたちの情報は極めて重要だ。彼らの貢献は様々で、その人のいる小さなワイン生産国のページ数が今の3倍は必要だと言うものから前任のコンサルタントを(あるいは自分が第7版に提供した情報すら)完全に否定するものまであった。

著作権担当部署や翻訳者のために、気の毒なスタッフは改訂された文章の正確な比率を割り出さなくてはならなかった。その結果この第8版ではワイン産地に関するページのうち45%で少なくとも半分以上の表現が全く新しいものとなっていることがわかり、私としは満足した。さらに遷り変るワインの世界を反映し、6頁もの気温、日照、水(降雨量に限らない)、気候変動、そしてお金に関する全く新しい導入ページも採用された。また、ここの所注目を浴びて正当化されつつある、有機栽培やビオデナミなどを用いてブドウを栽培することを含めたサステイナビリティへの大きなうねりについても、もはや例外的な事柄ではなく、明確に触れるべき事柄となった。

世界のワイン生産および消費を調査しているなら誰もが無視できない点はワイン熱の高まり、特に若いワイン愛好家の間の、特にいわゆる「ナチュラル」と呼ばれる栽培のみならず醸造でも添加物を最低限とするワインへの情熱の高まりだろう。また、ブドウの果皮と接触を行って赤ワインのように作る白ワイン、その深い茶色を示す色からオレンジワインと呼ばれるワインを生み出すまったく新しい技術にも触れている。

ほぼすべてのコンサルタントたちは夏の気温が高くなってきたために各地の収穫が年々早まっていると報告している。場合によっては10年前と比較して4週間も早いことがあるそうだ。ブドウは開花後100日で収穫されるという魔法のルールがかつて存在したが、現代のブドウの成熟期間、香りや味わいを確立する時間は年々短くなってきている。このことで味わいの単調なワインができると心配する向きもあるかもしれないが、今のところワイン造りの技術はそれを補えるだけのスピードで進化している。

もう一つ見られる世界のトレンドと言えば、樽からの逃避と呼べる現象だ。世界中のワイン生産者は(ワインの香りを豊かにする澱が、沈むのではなく循環するような)コンクリート・エッグや、テラコッタの壺、1990年代にはワインの熟成を行うために非常に人気の高かった小さなフレンチオークの樽に比べてサイズの大きな木製の容器などを試すことに忙しい。「樽の香りが効いた」はいまや誉め言葉ではない。

新たにページを割くに値する産地も散見された。イスラエルとレバノンを同じページに掲載するのは無神経だったと言えよう。悪しきは正された。ブラジルとウルグアイはもはや南アメリカというくくりの下に詰め込まれてはいない。ブリティッシュ・コロンビア、キプロス、セント・ヘレナもまた、それぞれ独立したページを獲得した。

好調な産地
ザ・ワールド・アトラス・オブ・ワインでさらに範囲を広げた地域のまとめが以下だ。

初めて独立したページを与えられたもの
キプロス
レバノン
イスラエル
ブリティッシュ・コロンビア
セント・ヘレナ
ブラジル
ウルグアイ

その他新たな地図:
ブルゴーニュのフィサンおよびマルサネ
ボージョレ・クリュの土壌
ジュラ、サヴォワ、ビュジェイ
イタリア北西部のアルト・ピエモンテ
南イタリアのタウラージ、フィアーノとグレコ・ディ・トゥーフォ
カリフォルニアのペタルマ・ギャップ

ページが増えたもの:
ポルトガルのアレンテージョ
カリフォルニアのセントラル・コースト
チリ
オーストラリアのヤラ・ヴァレー
ニュージーランドのマールボロ
中国


ヒューと私は特にYasia Williamsがデザインしたこのシー・グリーン色のカバーがとても気に入っている。だがこの色はアメリカの出版社からすると違和感があったようで、アメリカ版はワイン関連書籍によくみられるような色になっている。

ザ・ワールド・アトラス・オブ・ワイン第8版はミッチェル・ビーズリーから10月3日に50ポンドで発売。

原文

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