ヴォルカニック・ワイン・アワード | The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト) | 🎁 年間メンバーシップとギフトプランが30%OFF

ケープで燃える闘志

Saturday 26 February 2022 • 6 分で読めます
Warwick Estate in Stellenbosch
ステレンボッシュのワーウィック・エステート

昨日のStellenbosch fights backを受け、南アフリカのワインが抱える現在の問題について書こう。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

芝の庭にはヒョウ、停電は日常茶飯事、枕元には常に防犯ブザー。新型コロナにおびえた政府によって長期間の販売禁止を余儀なくされ、南アフリカのワイン生産は常に危機と直面している。一方で、この状況こそがケープのワイン生産者の間に満ち溢れる楽観主義とエネルギーの源なのかもしれない。

ここ10年ほどで台頭してきた若手のワイン生産者たちの間に陽気で協調的な姿勢が溢れていることは、それほど驚くことではないだろう。ケープの乾燥した内陸部にあるスワートランドの価値を再認識し、その地の古木から作られる心が躍るようなワインの可能性を広く知らしめてきた。2010年から2015年にかけて毎年11月に開催されてきた催し「スワートランド革命」は、人的介入をできるだけ行わない新たなスタイルが多くを占めるワインと、音楽やデザイン、そして純粋なエネルギーを融合させたものだったが、称賛を集めたイーベン・サディやアディ・バーデンホーストといった生産者が、もはや革命児ではなく真の意味で南アフリカワインの主流の一部となったことでその役割を終えた。(サディ・ファミリーのトップ・ワインはイギリスでは即完売だ。アメリカでの取扱業者は以下に記す)。

多くのコメンテーターたち同様、我々気まぐれなワインライターも新しいものを追い求める。そのためもしかしたら南アフリカの保守派であるワイン生産者たちは無視されていると感じたかもしれない。だが南アフリカで最も重要なワイン生産地の一つで、独特な名称を持つステレンボッシュは反撃に出始めた。ステレンボッシュ・ワイン・ルートは魅惑的で緑豊かな学園都市点在する130ものワイナリーへ旅行者をいざなうために最適だ。そして良い知らせは、歴史的に北半球の冬を逃れて訪れるイギリス人やドイツ人が多かったケープのワイン産地の訪問者の中で、昨年最も多かったのがアメリカ人だったという点だ。今やニューヨークからワイン産地の玄関ともいえるケープ・タウンまで直行便があるからだ。

南アフリカで上質なワインを造る生産者たちにとって、輸出は欠かせない。なぜなら多くの農家がより高い利益が得られる作物へ目を向け始めてしまう中、ブドウを維持するためにはブドウの価格を上げなくてはならないからだ。だが、ステレンボッシュで尊敬を集めるワイン生産者、セレマ・マウンテン・ヴィンヤーズのガイルとバーバラのウェッブ夫妻の息子、トーマス・ウェッブはメールでこう書いてよこした。「国内市場は価格の上昇に耐えられるとは思えません」。彼が他の生産者と違うのは、ワインの価格を過剰に吊り上げることに消極的な点だ。「例えばセレマのカベルネの妥当な価格は30ポンドだと思っているのに、小売価格を50ポンドとする。それは個人的には詐欺のようなものだと感じてしまうんです」。

しかし、そんな高価格なワインに積極的であるように思われる市場の一つがアメリカなのだ。今のところ、新進気鋭か古参かに関わらず南アフリカのワインがこの世界最大の市場に与える影響は限られている。この点は何十年にもわたって最上のケープのワインの大ファンである私にとって不満の種でもある。かの地を訪れたアメリカ人たちが休暇で楽しんだワインを帰国後に探そうという興味をもっと持ってくれることを願う。

17軒以上の南アフリカのワイナリーがアメリカ資本であるにもかかわらず、南アフリカのワイン生産に対するアメリカの信頼と投資は成果を上げていないようだ。有名なカリフォルニアの栽培醸造家、フィル・フリースとゼルマ・ロングが自身のヴィラフォンテ・プロジェクトのためにステレンボッシュの北に位置するシモンスバーグ山の斜面に革新的な畑を作ったのは1998年というかなり前のことだ(そして当初の予定通り、長年のパートナーでもあるマイク・ラトクリフに売却したばかりだ)。ベストセラーであるケンダル・ジャクソン・カリフォルニア・シャルドネを生み出した優れたワイン企業、ジャクソン・ファミリー・ワインズは2013年からステレンボッシュでも特に標高の高い、バンフック地域にある畑のブドウで上質なカペンシス・シャルドネを造っている。ただ、これらのワインは大西洋を越えて輸出が広がるというよりも南アフリカ国内で人気が高まっているようだ。

北ヨーロッパの多くの消費者にとって南アフリカワインの最大の魅力はそのお買い得感だ。例えば洗練されたワーウィックのザ・ファースト・レディ2020シャルドネがテスコで1本たったの8ポンドで売られているのを見た時はわが目を疑った(2019も非常に良い)。ただ、ワーウィック(かつてラトクリフ所有で、サンフランシスコの投資家に売却された)はステレンボッシュに拠点を置いているものの、このワインのアペレーション自体は限定的な産地ではなく、ケープのワイン産地全体を包括する西ケープである点は注目すべきだろう。どうやらブレンドに使われているブドウの多くが内陸のブリード・リヴァー・ヴァレーにあるボニーヴェールのもののようなのである。

ウェッブはさらに「ステレンボッシュの生産者は概して自分たちのブランド(や産地)のマーケティングに力を入れておらず、評判や口コミに依存している」と指摘する。ケープで最も優勢で(おそらく最高の)品種であるシュナン・ブランと、ユニークな赤ワイン用品種であるピノタージュを称賛する団体はすでに存在するが、ステレンボッシュ・カベルネ・コレクティブが設立されたのは、ようやく2017年に入ってのことだ。その目的は「この産地のカベルネが世界的な舞台で能力を発揮すること」とされている。ジョーダン・ワイン・エステートのキャシー・ジョーダンは、カベルネ・ソーヴィニヨンはステレンボッシュの特別な品種とみなされており、その会員となるためにはステレンボッシュ・ワイン・ルート上にあり、上質なカベルネを造っていることが要件だと教えてくれた。

現在の会員数は29で、うち6軒が11月にイギリスのワイン・メディア向けオンライン・プレゼンテーションを行った。当日は創立メンバーのル・リッシュ・ワインズのクリスト・ル・リッシュがケープ州の停電スケジュールの影響でインターネット環境を求め車を走らせなくてはならず、少し開始が遅れた。ようやく落ち着くと、彼はステレンボッシュのブドウ畑に与えられている宅地化の圧力や、灌漑を多く行っている内陸の地域と比べてステレンボッシュのワインの価格を1本15ポンド以下にすることは不可能である理由を説明してくれた。「ほかの産地の収量は1ヘクタール当たり24トンほどですが、この地域ではたったの6トン程度なんです」。

私はステレンボッシュの古参数人に、ステレンボッシュに腰を落ち着けた新進の生産者についてどう感じているのか尋ねてみた。彼らのほとんどが、新進の生産者のおかげで南アフリカが長いこと待ち望んて来た世界からの注目が集まったとコメントした一方、1人2人は彼らのワインが必ずしも出来がいいとは言えないと指摘し、うち一人は「いつまでも若くはいられないし、彼らもすでに年寄りの仲間入りをしているだろう」と切り捨てた。

若手の古参、ケン・フォレスターはステレンボッシュのシュナン・ブランの帝王と言われるが、彼の見解はこうだ。「しばらくの間は確かにステレンボッシュに焦点が当たっていましたよね。でもそこにスワートランドの連中が現れ、ボット・リヴァーが続き・・・。ダイナミックな変革は常に続いているわけで、新たな波が来るのもわかっていますし、我々はそれを求めてもいます。実際今はウェリントンのイアン・ナウデス(Ian Naudés)、南海岸のリズモアのサム、バンフックのエイドリアン・ヴァンダースプイ(Adrian Vanderspuy)、ステレンボッシュのステレンラスト(Stellenrust)らが輝いている時代でしょう」。

ケープのセラーやブドウ畑に活気が満ち溢れているのは確かで、南アフリカワインの主要なトレンド(その多くが世界的な流れと共通している)については誰もが次のようなことを認めるだろう。すなわち何でも作るのではなく、その土地に適し、特化したものを造ること、単一畑のワインが増え、ステレンボッシュのような小地区の特徴を強調する傾向にあること、ヘリテージ・ヴィンヤード認証のシールをボトルネックに貼って古木に注目を集めていること、よりフレッシュなスタイルを目指すこと、そしてステレンボッシュ・カベルネ・コレクティヴの集団のメンバーは喜ばないだろうが、シラーに対する評価が高まっていること。

トーマス・ウェッブが指摘するように、「革命よりもルネッサンスを始める方が難しい」のだ。

旬な南アフリカのおすすめ
価格の低いワインは高価なものに比べて若干魅力に欠ける傾向にあるが、それでも素晴らしいお買い得感だ。

白ワイン
Warwick, The First Lady Chardonnay 2020 Western Cape 13.5%
£8 Tesco

Ken Forrester, Old Vine Reserve Chenin Blanc 2020 Stellenbosch 14%
£16.65 The Great Wine Co (↓ヴィンテージ違い)

【6本〜送料無料】オールド ヴァイン リザーヴ シュナン ブラン 2019 ケン フォレスター 750ml [白]Old Vine Reserve Chenin Blanc Ken Forrester
価格:2552円(税込、送料別) (2022/3/8時点)


A A Badenhorst, Secateurs Riviera 2020 Swartland 13%
£16.90 The Sourcing Table (pale orange wine)

Thelema Mountain Vineyards Chardonnay 2018 Stellenbosch 13%
£19.95 The Great Wine Co

Iona Chardonnay 2019 Elgin 13%
£17 The Drink Shop, SA Wines

Thelema Mountain Vineyards, Ed’s Reserve Chardonnay 2017 Stellenbosch 13%
£22.00 The Great Wine Co (arriving March 2022)

David & Nadia Chenin Blanc 2020 Swartland 12.5%
£26.68 Justerini & Brooks

【南アフリカワイン】【白ワイン】デイビット&ナディア シュナン・ブラン 2020[辛口]
価格:4825円(税込、送料別) (2022/3/8時点)


Klein Constantia, Block 382 Sauvignon Blanc 2020 Constantia 13.5%
£45.88 Lay & Wheeler

Sadie Family, Palladius 2019 Swartland 12.5%
$129.99 Sunfish Cellars, St Paul, MN

【南アフリカワイン】【白ワイン】ザ・サディ・ファミリー・ワインズ パラディウス 2019[辛口]
価格:14000円(税込、送料無料) (2022/3/8時点)


赤ワイン
Ken Forrester, Misfits Cinsault 2020 Piekenierskloof 14%
£9 Tesco (arriving 28 March 2022)

Momento Grenache 2018 Swartland 13.5%
£27.88 Lay & Wheeler

モメント・ワインズ グルナッシュ2018 Momento Wines Grenache No.103306
価格:4213円(税込、送料別) (2022/3/8時点)


Le Riche, Reserve Cabernet Sauvignon 2018 Stellenbosch 14.5%
£37.99 All About Wine(↓ヴィンテージ違い)

カベルネ ソーヴィニヨン リザーヴ[ 2015 ]ル リッシュ ( 赤ワイン ) [S]
価格:7480円(税込、送料別) (2022/3/8時点)


Mullineux, Granite Syrah 2018 Swartland 13.5%
£73.95 AG Wines

Sadie Family, Columella 2019 Swartland 14%
$142.99 Sunfish Cellars, St Paul, MN(ヴィンテージ違い)

コルメラ [ 2018 ]サディ ファミリー ( 赤ワイン ) [S]
価格:15180円(税込、送料別) (2022/3/8時点)


テイスティング・ノートはこちら。世界の取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

原文

この記事は有料会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

Celebrating 25 years of building the world’s most trusted wine community

In honour of our anniversary, enjoy 25% off all annual and gift memberships for a limited time.

Use code HOLIDAY25 to join our community of wine experts and enthusiasts. Valid through 1 January.

スタンダード会員
$135
/year
年間購読
ワイン愛好家向け
  • 285,317件のワインレビュー および 15,802本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
プレミアム会員
$249
/year
 
本格的な愛好家向け
  • 285,317件のワインレビュー および 15,802本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
プロフェッショナル
$299
/year
ワイン業界関係者(個人)向け 
  • 285,317件のワインレビュー および 15,802本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大25件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
ビジネスプラン
$399
/year
法人購読
  • 285,317件のワインレビュー および 15,802本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大250件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
Visa logo Mastercard logo American Express logo Logo for more payment options
で購入
ニュースレター登録

編集部から、最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。

プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます。

More Free for all

RBJR01_Richard Brendon_Jancis Robinson Collection_glassware with cheese
無料で読める記事 What do you get the wine lover who already has everything? Membership of JancisRobinson.com of course! (And especially now, when...
Red wines at The Morris by Cat Fennell
無料で読める記事 A wide range of delicious reds for drinking and sharing over the holidays. A very much shorter version of this...
JancisRobinson.com team 15 Nov 2025 in London
無料で読める記事 Instead of my usual monthly diary, here’s a look back over the last quarter- (and half-) century. Jancis’s diary will...
Skye Gyngell
無料で読める記事 Nick pays tribute to two notable forces in British food, curtailed far too early. Skye Gyngell is pictured above. To...

More from JancisRobinson.com

Karl and Alex Fritsch in winery; photo by Julius_Hirtzberger.jpg
今週のワイン A rare Austrian variety revived and worthy of a place at the table. From €13.15, £20.10, $24.19. It was pouring...
Windfall vineyard Oregon
テイスティング記事 The fine sparkling-wine producers of Oregon are getting organised. Above, Lytle-Barnett’s Windfall vineyard in the Eola-Amity Hills, Oregon (credit: Lester...
Mercouri peacock
テイスティング記事 More than 120 Greek wines tasted in the Peloponnese and in London. This peacock in the grounds of Mercouri estate...
Wine Snobbery book cover
書籍レビュー A scathing take on the wine industry that reminds us to keep asking questions – about wine, and about everything...
bidding during the 2025 Hospices de Beaune wine auction
現地詳報 A look back – and forward – at the world’s oldest wine charity auction, from a former bidder. On Sunday...
hen among ripe grapes in the Helichrysum vineyard
テイスティング記事 The wines Brunello producers are most proud of from the 2021 vintage, assessed. See also Walter’s overview of the vintage...
Haliotide - foggy landscape
テイスティング記事 Wines for the festive season, pulled from our last month of tastings. Above, fog over the California vineyards of Haliotide...
Leonardo Berti of Poggio di Sotto
テイスティング記事 Following Walter’s overview of the vintage last Friday, here’s the first instalment of his wine reviews. Above, Leonardo Berti, winemaker...
JancisRobinson.comニュースレター
最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。
JancisRobinson.comでは、ニュースレターを無料配信しています。ワインに関する最新情報をいち早くお届けします。
なお、ご登録いただいた個人情報は、ニュースレターの配信以外の目的で利用したり、第三者に提供したりすることはありません。プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます.