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進化するワイン用語

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WSET student with pen and laptop

ワイン用語はヨーロッパ中心主義すぎるのだろうか。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

テレビの料理番組を思い起こしてほしい。その弱点はなんだろうか。間違いなく、料理を味わっている専門家たちがその料理の味を伝えようとする場面だろう。彼らの「美味しい」「うーん!」などという言葉だけでわかった気にならなくてはならないことがなんと多いことか。

私自身、痛いほどわかっていることは、味わいというものは表現することはほとんど不可能だということだ。テイスティングのプロセスは謎に包まれており、個人的な嗜好も反映され、個々人の内部で起こることだから、誰かが感じ取ったものを別の誰かが感じたものと比較したり議論したりすることは本来は不可能だ。そのため私のようなプロのテイスターであるワイン・ライター、あるいはティー・テイスターや調香師などもそうだろう、自分が感じている味わいと香りを実在する物質との共通点を探り、それにあてはめようとするのだ。そういう意味で果物や花は特に有用だ。

いずれにしてもワインの場合、主観を排除できるものもは分析で測定できるものがある。アルコール度数、酸、甘さ、タンニン。これらは我々の口の中にある感覚器官で感じることもできるし、研究室で測定することもできる。私はテイスティング・ノートを書くとき、ワインの中でも特に極端な部分、例えばそのワインのカギとなる要素であったり、熟成具合や品質に関わる要素だったりを強調するように心がけている。

だがその香りや味わいは、我々の嗅覚が味覚よりもはるかに優れているとしても、表現することが難しい。我々は鼻の奥に数百もの嗅覚受容体を持っている。そのため数えきれないほどの分子や、揮発性の香り物質を感じ取ることができる。それが食物科学者のハロルド・マクギー(Harold McGee)が最新著「ノーズ・ダイブ(Nose Dive)」の中で法医学的に検証し、オスモコスム(osmocosm:古代ギリシャ語で香りを意味するosmeに由来する)と呼ぶものだ。

一方でここ数十年、ワインへの興味は世界へと広がり、ワインの表現、いわゆるテイスティング・ノートはどんどん膨れ上がった。結果としてそれらの多くはフレーバーの一覧というようなものから構成されるようになっていった。そのような羅列は1937年にジェームス・サーバーの描いた漫画にある完結なコメントとは対照的なものだ。そこにはこう書いてある。「しつけのなってない無知なブルゴーニュだが、その厚かましさを君は気に入るだろう」。

現代の消費者は「乾燥したイチゴ、ヨード、カキの殻、濡れた土、フレッシュなマッシュルーム、花、熟した色の濃い桃、ネクタリン」とか「豊かなブラッド・プラムの味わいが、スパイシーなエッジを伴ったブラック・ベリー、わずかな火打石やグラファイトのような香りと交錯する」と言ったような表現に出合うことが多くなっているはずだ。

だが、変化は訪れている。サンフランシスコ・クロニクルのワイン・ライター、エスター・モブリー(Esther Mobley)は、最近開催されたプロフェッショナル・ワイン・ライターズ・シンポジウムでのテイスティング・ノートのセッションの紹介にこう書いているのだ。「我々がワインの表現に使う言葉は崩壊していると、多くの人が考えるようになっている」。

今年のシンポジウムの素晴らしかった点はナパ・ヴァレーの豪華なリゾート、メドウッドに多くのワイン・ライターを集める代わりにオンラインで開催し、これまでにない様々なジャンルの、はるかに多くのワイン・コミュニケーターたちが世界中から参加できるようにした点だ。だからこそ、ワイン用語が西洋中心に構成されていることに対する不満が明確になったのだろう。

ロンドンに拠点を置き、イギリス人編集者であり、少なくとも3冊のワイン参考書の著者でもある私はおそらくその格好の標的だろう。それはおそらく、ロンドンに拠点を置き、70か国以上でそのプログラムを展開する世界的な教育機関(和訳)であるWSETも同様だ。私が1970年代にそのWSETの長いステップを登ったはるか後の1990年代、WSETは「系統的テースティング・アプローチ(SAT)」を考案した。これによって生徒はかなり限定された表現を使うよう指導されるようになった。WSETは非常に多くのワイン愛好家たちの知識の基礎となってきたため、これらの限られた語彙は多くのワイン愛好家たちの言葉として定着した。だが、それが完璧かというと、決してそうとは言えない。例えば現在WSETがその勢いを増すアジアからは、SATに使われる果実が現実的に入手できないという不満が寄せられている。中でも多いのがセイヨウスグリだ。

WSETのCEO、イアン・ハリスによると、昨年このヨーロッパ中心主義で作られたSATの見直しが始められたそうだ。ただし、ほとんどの講座で提供される教材は印刷物であるため、それが広く出回るのはかなり先のことになりそうだ。

ワインの消費者、学習者、そしてメディアのすそ野がこれほどまでに広がり、「赤いパンツをはいた白人*」がはびこることも少なくなっている今、ワイン・ライターズ・シンポジウムのプログラムで言うところの「より独創的でわかりやすく、包括的な」ワインの表現に対する需要がますます高まるのは当然のことだ。ハイチ系アメリカ人のレジン・ルソー(Regine Rousseau)はシャル・ウィ・ワインというワイン販売システムを経営し、上述のモブリーがモデレーターを務めたパネルの一人でもあるが、彼女に言わせれば、「詩的なものや伝統的なものももちろん重要ですが、より幅広い文化に基づいた声にも耳を傾けるべきです」ということだ。

(*訳注:気取った人々、というニュアンスですが、ジャンシスに意図を確認したところ「ワイン業界の多数派である白人」=人種的多様性に欠けているという意味と「伝統的なイギリスのワイン商の男性はカジュアルウェアに赤いパンツを履くのが定番と考えている人が多い」ことの両方の意味を込めたとのことでした)

WSETのアメリカ担当アカウント・デベロップメント・マネージャーでバルバドス系アメリカ人のデニース・ボーン(Deniece Bourne)はそういう意味で苦しい立場に立たされているが、WSETの語彙はできるだけ多くの生徒に理解できるような語彙を選択しているとしてそれを擁護した。そしてもちろん、ワイン学習者や指導者の需要はワイン・ライターや、おそらくはほとんどのワイン愛好家のそれとは大きく異なるとも。ただ、彼女自身も変化を求めているのは確かだった。「人々は今、体験することを求めています。自分自身の体験をワインに生かすべき時でしょう」。

そして、パネルたちは私があるワインを表現するように求めた時、まさにそれを実行に移した。ルソーが使ったのはモラセス(糖蜜)、濡れたココナツの殻、スコッチ・ボネット・ペッパー(訳注:唐辛子の一種)などを使った。フィリピン生まれでカリフォルニア育ちのジョセフ・ヘルナンデスがテイスティング・ノートにロビタシン(訳注:咳止めの一種)を使っているのを見て、私自身もワインに咳止めシロップを感じることがあるため、嬉しくなった。ヘルナンデスの仕事の一部はボナペティ誌で使われる言葉が初心者にもわかりやすい言葉であるよう確認することだ。

これらのワイン用語編纂については相当な労力が必要となることは誰もが認めることだが、最も軽蔑されるべき点は「男性的」「女性的」「セクシー」というような表現だろう。ヘルナンデスは特に、そのような言葉を使う人物が、自分が「セクシー」だと思うことを他人が理解できると思い込んでいるという点に憤りを示していた。

私は自戒も込めて、2000年からジャンシスロビンソンドットコムに掲載されている、20万件を超えるテイスティング・ノートを検索してみた。そして思った通り、「男性的」192件、「女性的」147件、「セクシー」37件が使われていることを発見した。ただし、その多くは生産者の表現の引用だったり、そんな典型的な表現を否定するものだったりした点は申し添えておきたい。

では、我々はここからどう進むべきだろうか。自分たちの民族的背景や経験から逃れることは誰にもできない。10万件以上のテイスティング・ノートを書いてきた一人として私自身はこの上なく退屈なノートを多数書いてきた点は反省すべきだろう。確かに、風味を延々と羅列したものよりもワインに対する個人的な感覚を表現したものの方が面白いことには同意する。正直、朝起きてすぐに「乾燥したイチゴ、ヨード、カキの殻、濡れた土」の香りがするワインが飲みたいなどとは思わないだろう。さらに、我々は様々な化合物に対する感受性が大きく異なるのだから、その経験は間違いなく個人に依存して異なるに違いないのだ。だから、むしろそのワインが特に酸が高かったり、古かったり、強かったり、シロップのようだったり、そんなことを相手に知らせてあげるほうがよほど有益と言える。そしてその味わいを、可能な限りワインの背景や、自身とワインのかかわりを含めて伝えることだろう。

これはもちろん、WSETのSATと相いれるものではないとわかっている。だが私自身はワインに強い個性があるのであれば、それを擬人化せずにはいられない。もちろん、読者の中には憤慨したり、困惑したりする人も出るだろう。だが擬人化することでその個性を知ることの訳には立つはずだ。

テイスティング・ノートを細かく検証するマクギーが最近メールで書いてよこしたように「最近の良いワインは「表現力豊か」で「精密」で「直線的」と表現されることが多いが、ますます抽象的な形容詞が増えている。これはデジタル時代ならではの現象なのかもしれない」。

テイスティング用語には間違いなく流行がある。以下に現在のお気に入りの表現と、基本の表現の一部を紹介しておこう。

流行のテイスティング用語

Linear 比較的新しいことばで、流行遅れの新樽(和訳)など、口の中で重さを感じないことに関連した表現。おそらく酸の高さにも関連して使われる。

Drive 新しいことば。DriveのあるワインというのはLinearだけれどももう少し重みのあるワイン。

Mineral そうそう、この言葉については本一冊、論文1本書けるだろうし、書かれてきた。石や岩、化学の研究所を想起させる言葉。

Saline 現在かなり人気の高い言葉で、ミネラルとほぼ同義かつもう少し塩気を感じるもの。

Racy とてもフレッシュさを感じつつも長期熟成のポテンシャルがあると考えられるワインに私自身が多用してきたという意味で反省している。

Energetic RacyなワインでDriveがあるもの?

Precise テイスターにとって、そのワインがあるべき姿であると感じられるワイン。

一般的なテイスティング用語

Crisp ちょうどいい具合の酸(訳注:日本人の多くが「クリスピー」と言いがちだが、「クリスプ」と「クリスピー」は全く意味が違うので要注意)

Finish テイスティングの過程で最後の方に感じるもの。長く持続するワインは品質が高いとされる。

Flabby 十分な酸がない=食欲をそそらない

Fruity 最近は「やや甘め」の婉曲表現にもなってきた

Full bodied アルコール度数が高いもの、少なくともそう感じられるもの。

Green 未熟な果実

Hard タンニンが強すぎる場合や、果実味が不十分な場合

Interesting ワイン生産者でこの言葉を聞きたい人はいないだろう。テイスターが「褒める」ということ以外何のコメントもないということだから。

Long 余韻が持続的なワインのこと

Nose ワインの香りのこと。例えば 'muted nose'などと使う(訳注:「香りがあまりしない」の意)

Oaky 樽の香りがする。かつては誉め言葉だったが、今は軽蔑的な意味。

Round 際立ったタンニンを感じない

Short 飲み込んですぐ、あるいは吐き出してすぐに何も感じなくなるワイン

Tart 酸が高すぎる

ジャンシスロビンソンドットコムのメンバーズ・フォーラムでも用語に関する議論が盛んだ。

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