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色とりどりのワインの才能

Saturday 20 June 2020 • 7 分で読めます
Collage of POC wine professionals

今こそ変化の時だ。ワイン業界における才能ある黒人*をもっと正当な評価を受けるべきだし、それを積極的に後押しする必要がある。この問題の解決は長きにわたり先伸ばしにされてきた。そして間違いなく、今まさに望まれている新たなワインの飲み手を増やすことにもつながるだろう。この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている(そしてとあるコメンテーターに「マルクス主義者のたわごと」として片付けられた)。わかっていたことだが。

*訳注:原文では英語で黒人を示すblackのBを大文字にすることで敬意を示していますが日本語ではそれができないため、普通に「黒人」という表記にしています。

アンディ・エヴァンス(Andy Evans)はロンドンのオックスフォード・ストリートにある、中部イングランドの象徴とも言える百貨店、ジョン・ルイスの洗練されたワイン売り場で働いている。私が最近、私のいる業界、すなわちワイン業界での民族多様性の欠如を嘆くツイートをした際、彼は標準的なプロのワイン資格に触れながら下記のように返信してきた。「まったくです!私の同僚にはWSETの資格を取得し、経験豊富なワインの専門家でもある2名の黒人がいます。お客様は私にワインに関する質問し、彼らにはラム酒について尋ねるのです。私はストックルームに隠れていたくなるときがありますよ」。

そこで私は世界中で第一線を行く黒人の著名人たちにメールを送り、尋ねてみた。ジュリア・コーニー(Julia Coney)はワシントンDCに拠点を置くワインと旅行のライターだが、こう説明してくれた「ワインメーカーに初めて会って挨拶をした際、『まさかあなたが黒人だとは思ってなかった』と言われることはままあります。そんな時、私はたいてい『まさかあなたがくそったれだとは思ってなかったわ』と答えるようにしています」。

おそらくワイン業界で働く有色人種を最も多く見かけるのは南アフリカのブドウ畑だろう。その稼ぎは極わずかなものだ。だが、この上なく才能に富んだ黒人が増えてきている今、ようやくではあるが、ワイン業界でも高い地位につくケースが見られるようになってきた。彼らは今以上に注目を浴びるべきだし、それは長期的であるべきだ。おどろくほどに白人社会であるワイン業界で彼らが超えてきたハードルを考えればなおさらだ。

例えば、ジュリア・コーニーは昨年ナパ・ヴァレーのワイナリーでのテイスティングにワイン・ジャーナリスト枠で参加した際、隣のテーブルの女性に「あなたみたいな人がワインを飲むなんて知らなかったわ」と言われたと言う。彼女は今月末にはblackwineprofessionals.com を立ち上げる準備をしている。

アリシア・タウンズ・フランケン(Alicia Towns Franken)は1997年からワイン業界におり、現在はワイン・コンサルタントだ。2名の女性アソシエートは、一人はインド人、一人はフランス人で、ボストンで最高との呼び名が高いGrill 23 & Bar のワイン・リストを組み、年間320万ドル相当のワインを売り上げる。彼女は頻繁に接客係だと間違われると話してくれた。「私はここまで上り詰めてもなお、毎晩ではなく、テーブルごとに自分の立場と知識を説明して回らなくてはならないんです。本当に疲れますよ。私の肩書に「差別関連担当」と付け加えたいぐらいです。相手は無知な人からあからさまな性差別主義者や人種差別主義者にまで色々いますから」。

アリシャ・ブラックウェル・カルヴァート(Alisha Blackwell-Calvert)も同じような経験をしている。セントルイスで最も高級なレストランのいくつかでワイン・プログラムの責任者を務め、史上4人目のアフリカ系アメリカ人マスター・ソムリエの取得にも挑んでいる(マスター・ソムリエは現在世界で合計269名)。他のワイン・ディレクターと違い、彼女はフロアで働くのが好きだが、ワインのオーダーを取るためにテーブルに行くと「本物のソムリエはどこ?」と言われることは日常茶飯事だ。

そして、私がメールを送ったワイン専門家から特に共通して話題に挙げられたのが、彼らが日常的に、テイスティングやディナーで周囲の白人よりもワインを注がれる量が少ないという点だ。このことは(私自身も深く共感するが)ワインをこよなく愛する好きな人間にとって、さらに自分が購入したワインだとしたらなおさら、究極の侮辱なのだ、とサンフランシスコのワン・マーケットのワイン・ディレクター、トーニャ・ピッツ(Tonya Pitts)は悲しげに語った。

おそらくアメリカにこのような黒人差別の典型の多くがある点は驚くことではないかもしれない。この国はまさに社会的に最も変化をすべき国であるし、関係のある個々人だけではなく、ワイン業界自体のためにもそれを求められていると言える。ドロシー・J・ゲイター(Dorothy J Gaiter)は白人である夫、ジョン・ブレヒャー(John Brecher)と共にウォールストリートジャーナルのコラムを12年間書いているが、最近SevenFiftyDaily誌にワイン・ビジネスのリーダーたちについて書いている。「彼らは繰り返し自分たちのある地位にも多様性が必要だと公言しているが、口先だけだ。消費者ベースで成長していかなくてはならない業界にとって、腹立たしくもあり、ばかげたことなのだが。」と。ちょうどイギリスのように、アメリカでもワインは他のアルコール飲料からの深刻な競合に苦しんでいる。そして今でも広告やマーケティング・キャンペーンを企画したり、ディスカッションのメンバーを選んだり、メディア向けツアーのためのリストを作成したり、記事を依頼したりする人々は、最大の可能性がを秘めたマーケットのセクターを無視していることが多すぎるのだ。

ロンドンに拠点を置くジャマイカとイギリスのハーフであるローレンス・フランシス(Lawrence Francis)はビジネス・サイコロジストだが、彼はワインにはまり、今では自身のポッドキャスト事業、Interpreting Wineも運営している。彼が言うにはスピリッツ業界の方がまだ、ワインのイベントよりも多様性が見られるとのことだ。

よく耳にする問題点はワイン・ビジネスで第一線を走る黒人が比較的少ないこと、ワインのマーケティングの多くが白人の消費者層をターゲットとしていることから、黒人の消費者はワインが自分たちの飲むものではないと考えてしまう点だ。しかし、ブルックリンに拠点を置き、ソムリエの先駆けとして、起業家として、視覚芸術家として恐れ多いほどの名声を確立したアンドレ・マック(André Mack)はアメリカのワイン愛好家たちの間に、特にラッパーやスポーツ選手たちにけん引された一筋の希望が見えてきたと語る。最近行われたリアル・ビジネス・オブ・ワイン(Real Business of Wine)というオンライン・セミナーで彼は「これまでワインは自分のための飲み物ではないと思っていた層」にワインが少しずつ浸透していると話していた。

彼は特に、スヌープ・ドッグがオーストラリアを拠点とし、トレジャリー・ワイン・エステーツ(TWE)とのジョイントベンチャーで作るカリフォルニアの赤ワインのリリースを挙げた。TWEはこの問題で群を抜いて先を行く企業であり、ペンフォールズを所有することでも知られている。彼らはワイン&スピリッツ・マガジンで2008年にベスト・ニュー・ソムリエを受賞した温厚なドリン・プロクター(DLynn Proctor)を2010年にアメリカでのブランド・アンバサダーに指名し、2013年にはグローバル・アンバサダーとした。この指名はプロクターがアフリカ系アメリカ人家族のワインの旅を描いた大ヒット映画、アンコークト(Uncorked)のアソシエート・プロデューサーをしていた頃のことだ。(彼は現在ナパ・ヴァレーのワイナリー、ファンテスカのディレクターだ)

アメリカ南部にある黒人の機会均等性とはすぐに結び付けることのできない都市、チャールストンで、洗練されたワイン店の共同経営者であるフェミ・オエディラン(Femi Oyediran)に引き合わせてもらったのは私にとってとても興味深い出来事だった。彼は「グラフト(訳注:フェミのワイン店の名)を開店することは、私が長いこと持っていた、『得られて当然だと感じてきた機会を誰かが与えてくれるのを待つと言う考え』を捨てることでした」。と言い、そんな彼を勇気づけたのは「ワインの世界で新たな道を確立したいと考える、影響力のある人々」であり、「ドウェイン・ウェイドやカーメロ・アンソニーなどのNBA選手がワイン業界から無視されてきたと感じている人々の関心を惹きつけるための橋渡しをしてくれた」と話した。(アルダーが2018年に書いたWill basketball be the next Sideways?も参照のこと)

また、自身の肌の色を「チョコレート・スフレ」と形容する活動家の拠点は、意外にもタスマニアだった。ベッドフォードシャーで教育を受けたカーリー・ハスラム・コートス(Curly Haslam-Coates)はワイン業界で働きだして数年で見出した自身の役割を次のように話した。「当初、私は人々にワインについて教えているのだと思っていました。でも、よく考えると私は本質的に、彼らに外見だけで顧客を判断するなと教えていたのだと気づきました。だから今は我々は皆ワインの世界で異なる経験をし、それぞれが異なるものを提供できるのだ、と話すようにしています。」彼女のエネルギーは確かに伝わった。有力な国際的な賞に複数ノミネートされるようにもなったが、彼女自身は、オーストラリアで主流のワイン・メディアは彼女の成し遂げたことにほとんど興味を示していないと感じている。

オーストラリアの多くのワイン・イベントの開会時には先住民への敬意を示す言葉が述べられているにも関わらず、ハンター・ヴァレーのマウント・イェンゴ・ワインズ(Mount Yengo Wines)のような例外を除き、オーストラリアのアボリジニーやトレス海峡諸島民はワインというものと交わることはほとんどないようだ。この点で非常に対照的なのはニュージーランドで、マオリの関心はニュージーランド・ワインの生産や祭事などにしっかりと受け入れられている(例えば、(NZ Pinot styles emergeの解説部分(訳注:テイスティング・コメントの前の部分)の最後を参照のこと).

南アフリカに関しては、月曜にもう少し詳細な内容を含めて別の記事にする予定だ。物事はゆっくりではあるが、良い方向に進んでおり、2本の適正な映画が作られた。2018年公開のザ・カラー・オブ・ワイン(The Colour of Wine)とブラインド・アンビション(Blind Ambition)で、 後者は卓越した4人のジンバブエ人ソムリエを描いた作品で今年後半に公開予定だ。それ以外にも興味を引かれたのはレッド・ホワイト・ブラック(Red, White & Black)で、オレゴン発の黒人ワインメーカー、アビー・クリーク・ワイナリーのバートニー・ファウスティン(Bertony Faustin)が作成したドキュメンタリーだ。

私が自分のいるワイン業界で特にワクワクしているのは黒人のコメンテーターがワインについて新たなコミュニケーション能力を発揮している点だ。ニューヨークのヘルスケアIT専門家でBlack Girls Dine Tooのブロガーでもあるシャケラ・ジョーンズ(Shakera Jones)は「ワインは本質的には瓶に入った歴史」だと語り、卓越した旅人でもあるジュリア・コーニー(Julia Coney)はenthusiastic review of Uncorkedの中でワインを「液体のパスポート」と表現している。もともとフランス語は話さなかったにもかかわらずパリでワインツーリズム事業、Girl Meets Glassを設立したタニシャ・タウンゼント(Tanisha Townsend)は「我々はワインの語り方を変えようとしています。お世辞に満ちた言葉を並べるのではなく、ワインの背景にある物語を語る方向へ、ね」。

では、肌の色がたまたま白くなかった才能ある人々にワイン業界で安心できる環境を与え続ける以外に何ができるのだろうか?ロバーソン・ワインのシニア・アカウント・マネージャーであるマグス・ジャンジョ(Mags Janjo)はイギリスのワイン業界で悲しいほど少ない黒人の一人だが、彼の毅然とした提案は我々を振り出しに戻す言葉だった。「WSETの教育資金を目的として(経済的であれそうでなかれ)恵まれない人々に対する助成金や基金は長い視点で見るとこの業界の多様性につながるでしょう」。確かに、それは機能しそうだ。そしてその将来的な発展を見届けるためにも、私自身がイギリスでできうる限りのことをしよう。

マグス・ジャンジョと私はイギリスのBAME*であるワイン専門家の一覧を作ろうと考えている。自身をそれに入れて欲しいと言う人、あるいはそこに入れるべき人を推薦したい場合は editorial@jancisrobinson.comまでメールをして欲しい

シャケラ・ジョーンズが言うように「あまりに長い間、我々は自分たちの違い、すなわち人種、身分、教育、地理、社会経済的地位などに気を取られ過ぎてきた。我々は自分たちが思っているよりもはるかに似ているものだ。」

この記事を読んでいる全てのワイン専門家はシャケラが最近SevenFiftyDaily に書いた'What being an ally really means'を読むべきだ。

** BAMEとはイギリスで使われる、黒人(Black)、アジア人(Asian)、および少数民族(Minority Ethnic)の頭文字を取った略語で、イギリスにいる白人以外の人を指す場合に使う。

原文

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