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A Mexican wave of wine

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この記事の短いバージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。バハ・カリフォルニアの特徴についてはテイスティング・ノートと詳細をこちらで確認して欲しい。

「こんなの以前はなかったんです!」このフレーズはカリフォルニア南部の沿岸をメキシコに向かって車で向かう間、5分に一回聞かされたものだ。私たちはバハ・カリフォルニアにあるメキシコのワイン産地へ、その名も素晴らしいワイアット・ピーボディ(Wyatt Peabody)と共に向かっていた。彼はカリフォルニアのワイン専門家で、幼少期のほとんどと青年期をバハでサーフィンやおしゃべりをして過ごし、メキシコのワイン・シーンの中心地であるバジェ·デ·グアダルーペ(Valle de Guadalupe)と恋に落ちた。今は高くそびえ立つホテルやコンドミニアムが太平洋の海岸を縁取っている。そして谷へ向かう道を曲がると、今度はワイン博物館、テイスティングルーム、ブティック・ホテルの看板を見るたびに彼は同じセリフを叫び続けた。すべてが彼にとっては新しく、彼の知っている埃の舞うでこぼこ道は今や広く舗装されている。

20年前、彼はこの谷で7番目のワイナリーであるアドベ・グアダルーペ(Adobe Guadalupe)の開設に関わった。ワインに携わる人がほとんどいなかった当時、ビール、ブランデー、テキーラに注力していたこの国では真の開拓者のような気分だった。今では例年のヴェンディミア収穫祭も2週間にわたり開催されるほど拡大されている。

私は先月初めてメキシコのワイン産地を訪れたのだが、レディ・バウンティフル(Lady Bountiful:訳注参照)の役を演じるものだと思っていた。すなわち、未開の地を訪問し、そのほとんど知られていないワインを見つけ出して外の世界に知らしめ、未発達なワイン産業に救いの手を差し伸べるという構図だ。ああ、まったく。地元の人は比較を嫌うかもしれないが、バジェ·デ·グアダルーペは少しごちゃついたナパ・ヴァレーといった印象だった。観光客もレストランもそこらじゅうに見られる。そしてワイン・ツーリズム産業への資本はアメリカのみならず、飛行機で3時間かかるメキシコ・シティからもどんどん流入しているのだ。メキシコ・シティは活力にあふれ、世界中のどこよりも大金持ちが住む場所であり、その金がすべて麻薬絡みというわけではないということを我々は何度も聞かされた。メキシコの経済は潤っており、短い訪問から判断する限り、ワイン産業も同様だ。この谷で憧れのレストランのシェフは決まって不在で、バンクーバーやニューヨークに支店を作るのに大忙しだった。
(下の写真は谷のワイナリーに関連したシックな屋台の一つ)
(訳注;慈善家ぶった金持ちの女性を揶揄する表現で、劇中に登場する人物に由来する)

「アメリカ人の大量流入が止まったのはあの2008年です」と聞かされたが、これら乱立する小規模ワイナリーはほとんどがメキシコ人所有だ。現在最大のワイナリーはラ・セット(L A Cetto;訳注参照)で、アメリカの禁酒法時代にこの谷に来たイタリア人一家が始めたものだ。現在でも御年82のドン・ルイス(Don Luis)が経営しており、毎日オフィスにも顔を出すそうだ。セットはメキシコ・ワインのおよそ半分を生産し、今年は130万ケースの販売を目標としている。600ヘクタールの畑をバジェ・デ・グアダルーペに、120ヘクタールをエンセナダ港のすぐ北にあるサン・アントニオ・デ・ラ・ミナス(San Antonio de la Minas)に、500ヘクタールを冷涼で干ばつの被害の少ない南部にあるバジェ・デ・サン・ビセンテ(Valle de San Vicente)に、無灌漑の樹齢90年のジンファンデル80ヘクタールをアメリカとの国境のすぐ南、ティファナ東部に所有する。彼らはさらにテキサスから国境を超えた北東部の州であるチワワにも新たなワイン産地を開発する計画だ。
(訳注;日本での表記はラセットとなっていますが、以後の文章にL Aを省略したCettoという表現が見られるため、本稿ではラ・セットおよびセットと表記しています)

ドン・ルイスの息子ももちろんルイスと呼ばれるのだが、彼によると伝統的に移動農作業者によって担われてきた畑の労働力の問題が深刻になってきたため、多くの作業の機械化を検討しているそうだ。リオ・グランデ(訳注;アメリカとメキシコの国境を流れる川)の北とは違い、トランプや壁の話を全く聞かなかったのは対照的だった。少なくとも我々が会ったメキシコ人たちはうまくやっているようだ。チワワから米国への再入国では90分も車で待たなくてはならなかったが、その間ワイアットはメキシコの民芸品の安価な中国製模造品が車列を周っているのを嘆いていた。

ただし、品質をより重視するバハの生産者はラ・セットの熱意のなさに、彼らがメキシコ・ワインを輸出する数少ないワイナリーということもあって少々不満を感じているようだ。セットは収穫と醸造を今の流行に従ってロット別に行っているのだが、それらすべての原材料は混ぜられ、大量の品種別ワインが瓶詰めされる。もちろん安定した低価格がつけられるのだが、メキシコの代表としては味気ない。カベルネがバハではいまだ幅を利かせているが、この乾燥した気候ではローヌ品種の方が適しているように思われる。ラ・セットのネッビオーロはヨーロッパ全域、カナダ、アメリカ、日本でも入手可能で、メキシコ・ワインへの導入としては完ぺきだと言える。ただし、そのネッビオーロがどこ由来のものなのかは誰にもわからない。ルイス・セットが唯一保証すると言ってくれたのは「セットのクローンですよ」ということだけだ。

時代の流れだろう、セットで長きにわたりワインメーカーを務めてきたカミージョ・マゴーニ(Camillo Magoni)が自身のブティックワイナリー、カーサ・マゴーニ(Casa Magoni)を谷の入り口の高地、太平洋からの冷却効果を最も顕著に得られる場所に立ち上げるため退職した。ラ・セットの巨大な本社はかなり内陸、谷の起点にあり、ヘレス(最初のスペイン人オーナーの出身地)から移設したと思われるドメック(Domecq)の古いボデガから見下ろされる場所にある。以来それは多くの飲料会社の手を経てきた。アライド・ドメック、ペルノー・リカール。そして最近は家族経営のシェリー会社、ゴンザレス・ビアスに売却され、彼らはその畑のほとんどを売り払ってしまった。

ゆうに200ヘクタールはあるドメックの最良かつ最も古い畑はフランスで経験を積んだメキシコ人のヒューゴ・ダコスタ(Hugo D'Acosta;左写真)の手に渡った。彼はバジェ・デ・グアダルーペを田舎の僻地から旅行者のメッカに変貌を遂げさせた張本人でもある。1990年代後半、彼はワイン・スクール、エスクエリタ(Escuelita)をポルベニールに立ち上げた。彼の目的は大手企業にいいように利用され貧困に苦しむ地元の人々の力をつけることだった。この建物はワイン関連産業で廃棄されたものだけをリサイクルして使い、成功を収めた建築家である彼の兄(弟)アレハンドロ(Alejandro)の手で作られたもので、今ではワインメーカーになりたい人々からの応募が殺到している。その中にはベナ・カバ(Vena Cava)のフィル・グレゴリー(Phil Gregory)もいた。彼はこの谷に住み着き、彼の場合はブティック・ホテルであるラ・ビジャ・デル・バジェ(La Villa del Valle)と提携して自身のワイナリーを立ち上げた。すぐ隣に著名なレストランがあり、その日のお薦めメニューや屋台もある。(下の写真は我々が美味しいタコスのランチを食べた場所だ)

彼らは素直に自分たちが有名人になったことを認め、メキシコ・シティに二つ目の家を建設中にも町の人に気づかれたと話した。この谷の恒久的な水不足を考慮して自社畑のブドウだけに依存することは避け、グレゴリーは現在ほとんどのブドウを谷の様々な場所から買い入れいている。そしてパレットを抱えた画家のようにそこから魅力的なブレンドを作り出しているのだ。(ただし、今年はカリフォルニアのダムを再び満たすことになった長い雨の終わりにほっとしたそうだ。ワイアットは周辺が緑に覆われていることにも感嘆の声を上げ続けていた)

私は谷のベテランとも言える彼に現在の活気に満ちた状態をどう感じるか聞いてみた。彼は苦笑いをしながらこう答えた。「幸せと、悲しさと、ほんの少し後ろめたさ、ですね。」

お気に入りのバハ・ワイン
全て赤ワインで、ほとんどがローヌ・ブレンドだ。

Adobe Guadalupe, Kerubiel 2008
Bodegas Henri Lurton, Reserva Cabernet Sauvignon 2015
La Lomita, Pagano 2014
Las Nubes, Cumulus 2012
Vena Cava Cabernet Sauvignon 2014
Vena Cava, Big Blend 2014

(原文)

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