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中東ワイン最前線

2017年9月23日 土曜日 • 7 分で読めます
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この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。該当するワインについては最近のテイスティング・ノートも参照のこと。

今私が感じているのは中東の混沌を抜け出し、整然としたフィナンシャル・タイムズの同僚のもとへ帰る喜びだけだが、今月初めに旅したイスラエルとヨルダン川西岸での経験は(こう呼んでもいいのかどうか)「東地中海地域」のワインの現状について多くのことを示唆してくれた。

この地域ではトルコが最も多くワインを生産しているが、エルドアンの台頭と反アルコール政策はこの国の最近の、そして最も歓迎されるべきワインの輸出を強く制限している。

2004年まで、トルコに次ぐ主要な生産国はキプロスで、タンカー満載のシェリーそっくりのワインを輸出していたが、現在ではこの島のワイン産業は完全にその形を変えた。量ではなく質に注目が集まっているのだ。ワイナリーはもはや巨大で港の横にある工業的な複合施設ではなく、丘の上にある畑の脇にあり、世界をよく知る上質なワイン愛好家による遥かに小さな業態に変わり、キプロス固有の品種、ヤンノウディ(Yiannoudi)やマラセフティコ(Maratheftiko)などが次第にその頭角を現すようになってきた。

この緊張感のある地域で我々の多くが注目している国といえばレバノンだ。熱心なワイン愛好家であればシャトー・ミュザールの名を聞いたことがあろう。ベッカ渓谷の難民キャンプに関するニュースを目にすると私は1980年に訪問した際に見たブドウ畑や巨大なローマ寺院にあるバッカス像を連想する。シリアの紛争地域に近いにもかかわらず、レバノンのワイン生産者は増え続けており、 国際的で典型的なワインよりもよりレバノンらしいワインを作ることに注力するようになってきている。

おそらく最も信じがたいと思われる中東のワイン生産者はシリア北西部にあるバージュラス(Bargylus)だろう。ベイルートに拠点を置くレバノン人兄弟が(電話で)運営している。かつてローマ帝国の領土だった土地から作られる赤ワインは素晴らしいものだが、シリア海を経由してそれらを運び出すまでに45日間もかかる。下記に記す兄弟からの現状報告(*)も参照のこと。

一方、トルコを除いて現在最もワインの生産量が多い国はイスラエルだ。トルコが年間7000万本、レバノンは900万本生産するのに対し、4000-5000万本を生産する。ワインに注力した畑から作られるが、そのほとんどが最近になって最も冷涼な北東部、レバノンとの国境近くにあるアッパー・ガリラヤや紛争の多いシリアとの国境、ゴラン高原に開墾されたものだ。

地形はワインがどんな味わいになるのか、そして産地を特定するためのカギとなるが、後者は国境が争点となっている政治的に最も繊細な地域では話が複雑になる。イスラエルの小規模ながらも成長を続けるワインオタクの層は1960年代から続く公式なアペラシオン・システムの再構築を願っている。現在のそれは緯度を基準にした大雑把なものであるためだ。標高、畑の向き、海岸からの距離などがワインのスタイルを決める現実的なカギとなるべきである。

1990年、イスラエルにはたった10軒のワイナリーしかなかったが、現在では300軒を超す。そしてそのワインはかつてのぎこちなく誇張された国際品種のコピー、明らかにカリフォルニアのカベルネやシャルドネをモデルにしたものから進化をし始めている。テル・アビブの若手ワイン・プロたちによる最先端のノルマン・ホテルでの現代的なイスラエル・ワインのテイスティングは、まさに驚きだった。

最初に提供されたペルター(Pelter)・ソーヴィニヨン・ブラン2016はアルコール度数がわずか11.5%で、この華やかな都市の裕福な若手向きの完ぺきな選択だった。アッパー・ガリラヤや、テル・アビブとエルサレムの間にある霧の多いヨルダンの丘陵地帯から生み出されるシャルドネは驚くほどフレッシュだったが、白の面白さはローヌ品種のブレンドへと移るにつれさらに増した。

フレッシュで興味深い白ワインの台頭は近年まれにみる大きな進化と言えよう。そして潜在的にはグルナッシュ・ブランのように重い品種からこれほどまでに魅力的な流行を操りだすためには、ヴィトキン(Vitkin)やシャトー・ゴラン(Chateau Golan)がそうしてきたように、またラハトのルーサンヌやシャトー・ゴラン(いうまでもなく完成した生産者である)がしてきたように、北東部のテロワールについて語ることが重要となる。

一方、イスラエルのワインの未来を懸念する人々の間ではその赤ワインの向かうべき方向性について大きな議論がある。今のところ、それらは地中海の暑い気候を反映したフルスロットルのスタイルで、多くがカベルネ・ソーヴィニョンを使ったものになっている。だがエアコンを非常に強く設定しない限り、これらはやや圧倒的過ぎて、特に地元の料理、特に食事の初めに提供されることが多いデリケートで野菜主体の料理には合わないことが多い。

イスラエル最初のワイナリーであり無灌漑栽培の先駆者でもあるマルガリット(Margalit)のエニグマ2011(Enigma)はボルドー・ブレンドが必ずしも重くなくてよいことを証明して見せた。本来の活力とエネルギー、そして流行に乗った石のような質感はアッパー・ガリラヤに由来するものだが、そのどちらも併せ持つワインだ。これら北部地域を除いたイスラエル・ワインは全くの別物となると考えられる一方、ヤティール(Yatir)はネゲブ砂漠の際にある遥か南部の地域からも特別なスタイルを生み出すことができることを示している。うねりながら続く冷涼なユダヤの丘陵地帯にブドウが植えられたのはここ20年程のことだが、シカにブドウを食べられなければ、この地域は今後改良のポテンシャルが大いにあると言えよう。

地元のワイン専門家の中にはシラーとカベルネのブレンドがイスラエルの象徴的な赤ワインになりうると考える者もいる。他方で彼らが地中海品種と呼ぶ品種に未来を見出す者もいる。古いカリニャンの株仕立ては明らかな可能性を帯びている一方、元となるクローンの品質が低いため、グルナッシュの話題は必然的に新しいクローンに集まってしまう点は残念だ。

イスラエルは一般的に栽培用物資の問題を抱えてきた。非常に乾燥した夏のため多くの栽培業者に灌漑が必須となるが、外の世界がイスラエルとそのブドウ栽培について知っていることがあるとしたら、彼らが貴重な水を節約するためのドリップ式灌漑を事実上発明した国であるという点かもしれない。

乾燥した夏は基本的には有機栽培に適しているが、イスラエルは大きな問題を抱えている。赤用ブドウの成熟期に主に影響を及ぼすリーフロールというウィルスだ。感染したブドウは最終的には引き抜かなくてはならず、一方で植え替え用の健康が保証されたブドウの慢性的な不足も続いている。ゴラン高原では独自の育苗施設を確立し、今年はワイナリーの一団が同様な問題を抱える南アフリカからアドバイスを得て、この問題を一掃しようと協奏的な試みを始めた。

今回の旅の間にテイスティングした中で最も印象的だったワインは、多くが復活を遂げている地元の固有品種のものだった。それらの復活はフェルドスタイン(Feldstein)、レカナッティ(Recanati)、そしてヨルダン川西岸のベツレヘムのすぐ外にあるキリスト教の修道院で、クレミザン(Cremisan)などの尽力によるものだ。またベツレヘムにあるホシュ・アル・シリアンの非常に繊細な食卓で私が楽しんだ2015リザーヴ・シャルドネと2013ナディム(Nadim)・カベルネは尊敬を集めるパレスチナのワイナリー、モニー(Mony)とタイビー(Taybeh)のものだった。

もう一つ驚いたことは、エルサレムの近く、エイン・ラファ(Ein Rafa)にあるマジダという雰囲気のあるレストランで、ユダヤの丘陵地帯の生産者がつくるイスラエルのユダヤ・カルテットが提供するテイスティングを行っている間に聞こえてきた地元のモスクからの大音響の祈りの呼びかけだった。
程度の差はあれ、ワインはすべてを超越する文化だ。

*サンドロ(Sandro)は彼のイギリスのインポーター、H2Vinに向けて9月13日に次のように書いている。「ドメーヌ・ド・バージュラスについて、現在そちらで販売されているのは赤白共に2010のヴィンテージだと思います。2010はこの地域全体(レバノンとシリア)で非常に難しい年で、天候はかなり気温が高く、特に8月は非常に暑くなりました。それでも美しい骨格と複雑さとともに多くのフレッシュさを保つことができました。バージュラスは毎日が挑戦です。カリム(Karim)と私は今は現地に行くことはないと思います。シリアで始まった戦争によって安全性に明らかに問題があるためです。私たちはレバノンからその経営を行っています。私たちは現地にいるチームと一日中コンタクトを取っています。空のボトル、コルク、ラベル、フレンチ・オークの樽をこの国に持ち込むのは非常に難しく、瓶詰めしたボトルを持ち出すのには毎回海路で45日もかかります。」

「30人の従業員と、その家族の生活が懸かっているのでこれを続けるほかに選択肢はありません。ある意味この冒険を続けることが我々の義務だと感じています。これほどまでに引き裂かれた国でワインを作るということの象徴ともいえると思います。」

「2017の収穫は10日前に始め、白ワインのブレンドに使われるソーヴィニヨン・ブランの収穫をちょうど終えたところです(白ワインに樽熟成は行いません)。土曜には圧搾機が動かなくなってしまい、午後中ずっとフランス人の技術者と話しながらその解決法を探っていました。最終的になんとか答えが見つかり、白の圧搾が終わったのは午前4時のことでした。これは可能な「援助」がはるか遠くに存在する我々の運営の一例です。2日前にはバージュラスに電気を供給するためにディーゼル用のオイルでタンクを満たす方法を必死で探していました。地域の電力網には接続していないためです。他に知りたいことがあれば何でも聞いてください。バージュラスは毎日が挑戦の連続ですから。」

お気に入りのイスラエル・ワイン
これらはどれも素晴らしいワインだが、価格は比較的高い。例えばヤティール(Yatir)は1本56ポンドである。イスラエルとヨルダン川西岸の他のワインも含む私のテイスティング・ノートも参照のこと。


白ワイン

Chateau Golan, Geshem 2016 and Roussanne 2016 ゴラン高原
Lahat, Lavan 2015 イスラエル
Shvo, Gershon 2011 アッパー・ガリラヤ
Sphera, White Signature 2016 ユダヤの丘陵地帯
Tzora, Shoresh 2015 ユダヤの丘陵地帯
Vitkin Grenache Blanc 2016 アッパー・ガリラヤ

赤ワイン

Clos de Gat, Sycra Merlot 2009 ユダヤの丘陵地帯
Domaine du Castel, Grand Vin 2015 ユダヤの丘陵地帯
Flam, Noble 2013 ユダヤの丘陵地帯
ゴラン高原 Winery, Yarden Bar'on Cabernet Sauvignon 2013 ゴラン高原
Margalit, Enigma 2011 アッパー・ガリラヤ/ビンヤミナ
Seahorse, Lennon 2013 ユダヤの丘陵地帯
Tabor, Shifon Tannat 2013 ゴラン高原
Tzora, Misty Hills Cabernet/Syrah 2014 ユダヤの丘陵地帯
Yatir, Yatir Forest 2013 ラマ・ネゲブ

(原文)

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