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ピーター・M・F・シシェル~CIAからブルー・ナンまで

• 1 分で読めます
Peter and Stella Sichel

これはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。

自叙伝の副題に「醸造者、囚人、兵士、そしてスパイ」という副題を付けられる人物が93歳になるニューヨークの重鎮、ピーター・M・F・シシェル(Peter M F Sichel)を置いて他にいようか。あるいは二種類のCIA-1つは言わずもがな、もう一つはカリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ(Culinary Institute of America)―の古参を名乗ることのできる人物が彼の他にいるだろうか。私は彼以上に卓越した国際人であるワイン業界の人間を知らない。

ワインの世界でシシェルは、ブルー・ナン・リープフラウミルヒの売り上げを1980年代にトップに押し上げた人物として最も知られている。アメリカでは1年間に130万ケース、イギリスでは言うまでもなく30万ケース、カナダで20万、オーストラリアでも5万ケースを売り上げた。以来彼は巧みに業界を渡り歩き、様々なシーンで糸を引いてきた。ブルー・ナンの人気に陰りが見えると手を引き、彼が軌道に乗せた、後にエルメスの所有となるボルドーのシャトーを売る手はずも整え、飲料業界大手の大物をすべて熟知し、そこに新たな才能を送り込んできた人物が彼だ。

ニューヨークでは彼はおそらくある種のサークルの取締役会の一員として最もよく知られているだろう。そこで彼はオペラへの投資を募っていた。きっと彼は3種のタキシードを必要としたに違いない。

ドイツの第一線を走るワイン歴史家、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングのダニエル・デッカー(Daniel Deckers)博士は最近彼についてこう私に語った。「私が出会った中で最も経験豊富で最も心情豊かで、最も頭の良い人物ですよ」と。それにも関わらず1930年代後半にドイツでユダヤ人狩りが進行するにつれ、彼の受けた正式な教育の頂点は彼の愛するストウ(Stowe;彼自身も有力な資金提供者だったイギリスの公立学校)だった。彼の両親は彼の妹(姉?)のイギリスの寄宿学校の女性校長を巻き込む緻密な策略、特に彼女が髄膜炎で死にそうだという嘘のメッセージのおかげでなんとかドイツを脱出した。

ピーターが家族のワイン・ビジネスに加わる1959年より以前、彼の人生は文字通り変化にあふれたもので、今年の初めにその経験を公開するにあたりCIAの許可を要したほどだ。ヒトラーのポーランド侵攻直前、ピーターの家族はなんとかボルドーで再会し、彼は短期間シシェルのワイン・ビジネスのフランス支店で見習いとして働くこととなった。だがまもなく彼らは拘束され、男性はリブルヌ(現在のワインの中心地である)にある改装した倉庫に、女性は言葉にできないほどおぞましいグールの収容所へ送られた。そこから多くの人が強制収容所へ送られた場所だ。

最終的には多くのハラハラするような不運と周到な裏工作の末、彼らはリスボンから彼の母と姉たちがすでに身を隠していたニューヨークへと逃れた。ここでもシシェルのワイン・ビジネスの影響力はすでに広がっていて、彼の父はアメリカ支店での仕事を再開した。だが19歳だったピーターには、1941年当時アメリカ陸軍入隊という選択しかなかった。

おそらく流ちょうなドイツ語とフランス語のおかげもあったのだろう、彼は2年もたたないうちにアルジェで最高機密任務につくこととなり、その後16年彼の専門となる仕事、機密情報収集を開始した。彼はまたドイツ人捕虜をスパイとしてスカウトする役目を担い、1945年ベルリンでは恐ろしい光景を目にすることになった。その後マッカーシー時代にはワシントンでの仕事に従事し、1950年代にはCIA香港支局長としても働いた。彼の仕事のごく一部には有力なラオス人にシャンパーニュやキャビア、ハバナ葉巻を供給するものも含まれていた。彼の本に一貫して現れる題材はCIAの同僚との危険なほど大量の喫煙と飲酒である。だがそれが大局像であり、CIAのやり方への信頼の喪失から彼は1959年に辞職することにした。アルコール中毒を恐れてCIAをやめたのはおそらく彼だけではないだろうか。そして彼はワイン・ビジネスの世界に入ることとなったのだ。

最初に彼がしたのはシシェルのアメリカのワイン・ビジネスをリベートにまみれてワインを売る闇の部分から解放し、その代わりにシシェルの品ぞろえを「洗練された」テックス・ボンバと呼ばれるテキサス人の家族経営の専門輸入業者に任せたことだった。

ロンドンにいるいとこ、ウォルターの仕事を足掛かりに、彼はシシェルで最も人気があり印象的なブランドであるブルー・ナンを単一のワイン、「どんな料理にも合う」リープフラウミルヒに絞ることに決めた。今では忘れられているのも無理はないが、20世紀の大半でドイツ・ワインは最高の地位を謳歌しており、ボルドーの1級シャトー同様の価格が付いていたのである。時代が第二次大戦へ向かう頃、ユダヤ人商人はドイツ・ワインの輸出で権勢をふるい、ナチスの武装に必要な外貨を獲得するのに大きな役割を果たしていたのだ。彼らがヒトラー体制で差別されるようになったのは比較的後になってからだ。

出版やラジオのブルー・ナンの広告がどれほど印象的かを目にし、まだワインが多くの人にとって複雑でエキゾチックな液体だった時代にその需要が高まるのにつれ、彼といとこのウォルターはそのブレンドの品質と一貫性がどれほど大事かということに気づいた。彼は100%リースリングを含む数種類の配合を再検討し、リースリング100%のものがほかの安価なブドウ、ミュラー・トゥルガウ、シルヴァーナや少量の香り高いゲヴュルツトラミネールを含む柔らかいブレンドよりも人気がないことに気づいた。最終的に合意した配合には25g/lの甘みとそれとバランスをとる6.3g/lの酸と書かれていた。

近年、リープフラウミルヒをジョークのようにとらえ、ブルー・ナンの成功はその他のドイツ・ワイン製造者が特徴のない砂糖水で市場をあふれかえらせ、結果としてドイツ・ワインの名を地に落とすきっかけとなったと糾弾することは容易である。だが私はシシェルたちがどれほどの時をかけ、才能あるテイスターでマネージメント・ディレクターでもあるアルトゥール・マイエ(Artur Meier)の下、世界初の成功を収めたブランドであるブルー・ナンの品質の維持に努めたかを知っている。私のワイン・ライターとしてのキャリアの早い時期、1970年代後半にはロンドンでウォルター・シシェルのチームからなかなかの白ワインをブラインドで提供され、それがブルー・ナンと知らされて驚いたものだ。

ピーター・マックス・シシェル (ワイン・ビジネスでボルドー支店にいる彼の大好きな遠縁のピーター・アラン・シシェルと区別するためにそう呼ばれている)は賢く、ブルー・ナンを適切な時期に売り、ビジネス・パートナーに翻弄された後、有名なボルドーのシャトー、メドックのフルカ・オスタンの一部所有者となった。

この本には著者が多くの女性とともに写る写真が多く掲載されている。フルブライト奨学金を受けた妻、ステラ(上右)、とバロンヌ・フィリピーヌ・ド・ロスチャイルドは予想に難くないが、グロリア・スタイネム(Gloria Steinem)は意外である。だがもっと驚いたのはこれほどのワイン人である彼が崇拝するのが「スピノザと ディドロでありヴォルテールではない」と書かれていたことだ。言い換えれば彼は科学と合理主義を懐疑主義より好んだということだ。これら全ての素質がワイン・ビジネスには役に立つにもかかわらず。

私の人生の秘密(The Secrets of my Life)ピーター・M・F・シシェル ($23.99 Archway)

シシェルに関係のあるワインたち

Château Fourcas Hosten, Listrac
1971-1996年にピーター・M・F・シシェルが一部所有

Château Angludet, Margaux
1961年からピーター・A・シシェルとその子孫が所有

Château Palmer, Margaux
ボルドー・ネゴシアン、シシェルが一部所有

Laurel Glen, Sonoma Cabernet Sauvignon
ピーター・M・F・シシェルの娘、ベッティーナが一部所有

Clos de la Meslerie, Vouvray
ピーター・M・F・シシェルの義理の息子の兄弟、ピーター・ハーン(Peter Hahn)所有

原文

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