The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト) | Mission Blind Tasting | Wine writing competition

サントリーニから世界へ

• 6 分で読めます
Santorini sunset from hotel roof
ホテルの屋上から見たサントリーニの日没

全てのワイン用ブドウが平等に創られているわけではない。選ばれし品種に関するこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。
追加の情報についてはAwesome Assyrtikos を、アシルティコを中心とした91本のテイスティング・ノートはこちらを参照のこと。

アシルティコはその堅固さとスモーキーさが強く印象に残る辛口の白ワインを生み出す品種で、ギリシャの火山島、サントリーニから生み出される。この品種こそ一度テイスティングしたら忘れることのできない無名品種の代表例だろう。塩気とミネラルが組み合わさったところに柑橘系の風味とテンションが加わるこの品種は、瓶内でさらに複雑さが高まるという、まるで魔法のような性質を持つ。このブドウの故郷の生育期は悪名高いほど暑く、あり得ないほど乾燥し、人を寄せ付けないほど風が強い。

エーゲ海の船の上から見たイア

忘れえぬ日没、暗黒色の溶岩が晒された崖に張り付くように点在する白壁の街。サントリーニは何よりも休暇を楽しむ島である。島にある国際空港の年間利用者数が50万人という事実は、最後の噴火から70年が過ぎようとする今、揺るぎようがないだろう。とてつもなく強い風を避けるため砂漠のような地表から数インチの高さに、伝統的なカゴ状に仕立てられた古代のブドウが地面を這うように成長を続ける5月から10月の間、この島の狭い道はホテルの送迎者やレンタルの4輪バイクでごった返す。ブドウは土地開発の圧力と闘いながら、その地にとどまるしかない。

伝統的なカゴ仕立てで栽培されている樹齢の高いアシルティコ

オーストラリアのクレア・ヴァレーにあるジム・バリー・ワインズのワインメーカー、ピーター・バリーは2006年にこの島で初めてアシルティコを口にし、サントリーニでこれほどまでに力強く、切れが良く、体に沁み入るようなワインが作れるなら、南オーストラリアでもうまく行くはずだと確信した。翌年ロンドン・ワイン・フェアに参加した彼はできる限り多くのアシルティコをテイスティングした。その感銘のあまりの大きさに、彼はオーストラリアにはこれまで存在しなかったこの品種を、何年にもわたる検疫を経る複雑な行程を経てでもオーストラリアに植えるという決心をした。ジム・バリー・アシルティコのファースト・ヴィンテージは2015であり、そのワインはまたたくまに世界中に知られることとなった。

それとほぼ時を同じくして、ケープのブドウが重要な要素である酸を失いつつあることを懸念していた南アフリカで著名なブドウ栽培者、ローザ・クルーガーは、暑く乾燥した気候でも栽培できる地中海沿岸のブドウ品種を探すべく、ヨーロッパ中を旅していた。彼女はアシルティコ、スペインのメンシアやヴィウラなど様々な品種で作られたワインを持ち帰り、ケープの公的なブドウ栽培機関、ヴィティテック(Vititec)のメンバーとテイスティングを行った。彼らはアシルティコに大きな感銘を受け、当時すでにステレンボッシュにあるNietvoorbij(訳注:栽培醸造研究機関)が所有していた参照用サンプルよりも高品質な穂木を輸入し、南アフリカの長い検疫システムを通過させることを決めた。

その結果、南アフリカ初の商業的なアシルティコがつい先日、ジョーダン・ワイナリーと、クリス&アンドレア・マリヌーから発売されることとなった。クリス・マリヌーによると、「私たちはアシルティコの他にマカベオ、ヴェルデホ、ヴェルメンティーノなども植えましたが、現時点で単一品種として最もエキサイトさせられたのはアシルティコでした。他の品種はブレンディングの要素としてはとても面白かった(例えばヴェルデホは酸が素晴らしい)のですが、美しく、複雑で、単独で完成されていたのはアシルティコだけでした。普通にブドウを成熟させただけでテクスチャ、フレッシュさ、すばらしいアロマを持ち合わせているんです」。

スワートランドでマリヌーの近隣に住むイーベン・サディは、言うまでもなくマリヌーよるもはるかに知名度の高い、ニューウェーブの生産者だ。彼も多くの地中海地域から輸入した品種を植え、著名なブレンドに用いている。その彼がセント・ヘレナ湾の西岸とパールデベルグに植えたアシルティコについて「計り知れない可能性を見せ始めている」と述べている。

アルト・アディジェにあるアロイス・ラゲデールやキプロスにあるダフェルムー(Dafermou)・ワイナリーでもアシルティコを生産している。一方アメリカはというと、カリフォルニア大学のブドウ品種コレクションにアシルティコが加えられたのは1948年まで遡るのだが、人気を獲得するまでに数十年を要している。2021年は、サンフランシスコの南にあるサン・ベニート・カウンティで再生可能性を強く意識した栽培を行っているペイシーニス(Paicines)・ランチ・ヴィンヤードと、ローダイの北部にあるギリシャ系品種栽培者パーレゴスでファースト・ヴィンテージを迎えた。ローダイのだいぶ北にあるトラピスト・ニュー・クレアヴォー・アビー(Trappist New Clairvaux Abbey)と、北西部太平洋岸の中でも風の強い、コロンビア・ゴージにあるヒユ(Hiyu)・ワイン・ファームでも、ある程度の量を栽培している。そして、マイケル・カラムがWhat Lebanese wine needsで指摘しているように、現在レバノンでもアシルティコの栽培に成功している。

そうは言っても、原産地を離れた場所で栽培されている、おそらく世界で最も驚くべき例はシャンパーニュだろう。生産者であるシャルル・フィリポナによれば、当局によって試験されている品種のうち、アシルティコは外来品種として最も成功を収めている品種だという。実際私自身も9月にサントリーニ島で数日を過ごし、アシルティコが非常に立派なスパークリング・ワインを造るという確かな証を味わっている。

フィラの裏路地に見られる典型的なサントリーニのブドウ畑

アシルティコは、アルコール度数が高いワインになったとしても高い酸を維持する能力に優れた品種だ。だから20世紀末に洗練された、あるいは野心的なワインメーカーたちがギリシャで台頭し、本土や多くの島々でアシルティコを試してみたいと考えたことも不思議ではない。ビブリア・コラ(Biblia Chora)のソーヴィニヨン・ブラン&アシルティコのような国際品種とのブレンドは、サントリーニ由来の見知らぬ品種に親しんでもらう手段の1つだろう。

一方、ギリシャ本土のアシルティコはサントリーニのそれに比べて果実味が高く、繊細さにかける面もあるように感じられる。サントリーニでは多くのブドウの樹齢が高いこと、若い穂木を接いだとしてもその台木の樹齢が高いことがその違いの主な理由だろう。マスター・オブ・ワインのヤニス・カラカシスはその垂涎の著書、ザ・ワインズ・オブ・サントリーニで、この島では34世紀にも及ぶ栽培の歴史があると主張している。なおギリシャで栽培されている2000ヘクタールのアシルティコのうち約60%は、しばしばティラと呼ばれるサントリーニと、それよりはるかに小さい火山島でサントリーニの北西にあるテラジアで栽培されている。

その樹齢の高さと鞭打つような強風、不毛な軽石と溶岩がシストと石灰岩の上に重なる土壌のおかげで、その収量は非常に低い。場合によっては5 hl/ha (0.3 トン/エーカー)にしかならない場合すらある。その年の収量が20 hl/haに届けば御の字だという。当然、価格も高い。

私がサントリーニ島に滞在したのは、改装して雰囲気のいいホテルにされている島の多くの修道院の1つ、セレーネのレストランで行われたヴェデマのワイン・フェスティバルに参加するためだった。9月終盤の週末を過ごすには全く苦にならない選択だろう。土曜日の午後、ギリシャじゅうから集まったワイン愛好家たちは、修道院のカナヴァ(地元の言葉でワイナリーやワイン・セラーを指す:下の写真参照)だったアーチ型の白いトンネル内で68種ものサントリーニ・ワインのウォークアラウンド式テイスティングを楽しんだ。多くのワインはこの上なくピュアで辛口の、樽を使わないアシルティコだったが、ニクテリと呼ばれる樽を使ったもの(すべてが成功しているとは言い難かった)や、天日干しして作られた伝統的な色の濃く甘口ワイン、ヴィンサントもあった。

ヴェデマのワイン・フェスティバルのテイスティング会場となったセレーネのカナヴァ

ワインの中には島ではよく知られたもう一つの果皮がピンク色をした品種、アシリやアイダニを少量ブレンドしたものもあったし、島特有の品種、マヴロトラガーノを使った赤ワインもかなり多かった。これらも悪くはなかったのだが、アシルティコのような純然たる品格は感じられなかった。

その前日にはこの上なく啓発的なマスタークラスが開催された。午前中はドイツのマスター・オブ・ワイン、カロ・マウレが2019年にアテネで実施された比較テイスティングの再現として、リースリングとアシルティコの交互テイスティングを開催した。リースリングもアシルティコ同様その酸の高さと熟成能力の高さで知られる品種だ。私自身、長きにわたりリースリングは世界で最も偉大な白ワイン用品種であると考えている(リースリングの売り上げにはほとんど貢献できていないが)。このリースリングとアシルティコの比較テイスティングの最後には、マウレとカラカシスがアシルティコとリースリングを1種ずつ、ブラインドで提供した。彼らが選んだのはあえて非常に似たスタイルのもので、どちらがどちらか特定するのはほぼ不可能だった。

午後にはカラカシスが2016から2012までさかのぼる、少し熟成が進んでいるものの非常に生き生きとした10種のアシルティコと、いくつかのヴィンサントを提供してくれた。ヴィンサントの中には1947年に作られたものもあったが、まだ非常に美味しかった。彼は19世紀半ばのアシルティコをテイスティングしたことがあり、まだまだ生き生きと、溌溂としていたのだと主張したが、それを疑う余地はないと思う。

心躍る辛口白ワイン、アシルティコ

サントリーニ
世界中へ配送可能なオンラインサイトも参照のこと。

Anhydrous, Icon 2021 14.2%

Argyros 2020 14.5%
£29.50 Tanners Wine Merchants

Gaia, Ammonite 2020 14%
£54.70 Epinoia

Gavalas 2020 14%

Mikra Thira 2020 13.5%
£42 Cava Spiliadis Collection

Mikra Thira, Terrasea 2020 13.3%
£78 Cava Spiliadis Collection

Oeno P, Tria Ampelia 2020 14.5%

Argyros, Cuvée Evdemon 2019 15%

Argyros, Cuvée Monsignori 2019 14.5%
£36.75 NY Wines

Gavalas, Enalia 2019 14.6%

Hatzidakis, Skitali 2018 14%
£49.95 Wine & Greene

Volcanic Slopes Vineyards, Pure 2018 13.5%

Argyros, Cuvée Evdemon 2017 14.5%

Argyros, Cuvée Monsignori 2017 14%

Sigalas 2017 14.5%

Venetsanos, Nykteri 2016 14%

Sigalas, Kavalieros 2015 14%

Tselepos Canava Chryssou 2015 14%

Volcanic Slopes Vineyards, Pure 2015 13.5%

Argyros 2013 13.5%

その他産地
T-Oinos, Clos Stegasta Rare (all vintages) Cyclades 14%

Jim Barry 2020 Clare Valley 12.5%
£21.50 Tanners Wine Merchants

テイスティング・ノートはデータベースを、世界の取扱業者についてはWine-Searcher.comを参照のこと。

原文

購読プラン
スタンダード会員
$135
/年間
年間購読
ワイン愛好家向け
  • 297,330件のワインレビュー および 16,161本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • askJancisへのアクセス(AIワインアシスタント)
プレミアム会員
$249
/年間
 
本格的な愛好家向け

「メンバー」プランの内容に加えて

  • 最新ワインレビューへの早期アクセス(48時間前)
  • 最新記事への早期アクセス(48時間前)
プロフェッショナル
$299
/年間
ワイン業界関係者(個人)向け 
  • 297,330件のワインレビュー および 16,161本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • askJancisへのアクセス(AIワインアシスタント)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大25件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
ビジネスプラン
$399
/年間
法人購読

「プロフェッショナル」プランの内容に加えて

  • 最大250件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
  • レビュー依頼用のワインを提出可能
  • 従業員向けにメンバーシップを提供し、一元的に管理可能
  • APIアクセス(※別途料金)
Visa logo Mastercard logo American Express logo Logo for more payment options
で購入
ニュースレター登録

編集部から、最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。

プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます。

More 無料で読める記事

WWC Generic image black
無料で読める記事 2026年ワイン・ライティング・コンペティションへの心を打つ応募作品として、チャーリー...
Alaverdi Monastery, in Akhmeta, Kakheti
無料で読める記事 ジョージアのワインは驚きを与え続けている。この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。テイスティング記事...
Markus and Eben Sadie at Berry Bros April 2026
無料で読める記事 この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。 パラディウスのヴァーティカル・テイスティングも参照のこと...
Sam Neill
無料で読める記事 ジャンシスが、これまで出会った中で最も魅力的なワイン生産者を偲ぶ。写真上は、自身のトゥー・パドックスのブドウ畑にいるニール。...

More from JancisRobinson.com

The Crest Vineyard, terroir of Moutou
今週のワイン ドメーヌ・ラファージュのムトゥ(Moutou)はコート・カタラン(Côtes Catalanes)産で、美味しいだけでなく...
Dugladze amber Rkatsiteli, walnuts and shoti, bread cooked on the inside of an oven
テイスティング記事 この記事はAIによる翻訳を日本語話者によって検証・編集したものです。(監修:小原陽子) ジャンシスがこの個性的なワインに飛び込む...
Penfolds Magill Estate chimney and vines
テイスティング記事 ペンフォールズの世界では大柄な赤ワインが依然として主流だが、変化の兆しが見えている。写真上はペンフォールズのマギル・エステート。...
Boscareto vineyard in the snow
テイスティング記事 ウォルターによる、このアクセスしやすいヴィンテージに関するレポートの後編。今回は、カスティリオーネ・ファッレット、モンフォルテ・ダルバ...
Barale estate and vineyards
テイスティング記事 困難なヴィンテージに関する最終報告。驚くほどフレッシュでアクセスしやすいワインに仕上がっている。本日は、複数の村のワインと、ケラスコ...
Valle de Guadalupe vineyards
現地詳報 メキシコのワイン産業は気候変動への対処法について教訓を与えてくれる、とメキシコを拠点とするジャーナリスト兼ソムリエのカルロス・ボルボア...
Richard Hemming and Hiromi Ohno outside Sushi Oono
Vinomakase リチャードの新連載「Vinomakase」では、専門家たちがワインと日本料理をどのようにマッチングさせているかを探る。第1回は...
Hops hang from the ceiling at Dylan's at The Kings Arms in St Albans
Bite-sized セント・オールバンズの大聖堂地区にある15世紀のパブで、最新の料理を堪能できる。 フロント・バーは今も安心できるほどパブらしさを保っている...
JancisRobinson.comニュースレター
最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。
JancisRobinson.comでは、ニュースレターを無料配信しています。ワインに関する最新情報をいち早くお届けします。
なお、ご登録いただいた個人情報は、ニュースレターの配信以外の目的で利用したり、第三者に提供したりすることはありません。プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます.