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ソーテルヌ~最も長命なワイン?

2022年1月15日 土曜日 • 5 分で読めます
Old Sauternes at Hambleton

今流行しているとは言えないが、最後に笑うのは偉大なボルドーの白ワインだろう。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。テイスティング・ノートはOld, really old, Sauternes参照のこと。

デイヴィッド・ダグデールは成功を収めたヨークシャーのビジネスマンで、大の音楽好きだったが、ワインへの情熱も引けを取らない人物だった。彼は2010年に他界したが、かなり年下の妻ケイトのために莫大な遺産を遺した。彼女は、車いす生活を余儀なくされた晩年の彼のため、以前と同じようにグラインド・ボーンやウィグモア・ホール、ロイヤル・オペラハウスなどへの外出を楽しめるよう心を砕いた。

ヨークシャーにある彼らの自宅は、日々膨らみ続けるセラーの格納を第一の目的として建てられたようなものだ。そのセラーの巨大さと深さはワイン業界で知らないものはいない。1990年代にロンドンでダグデールと食事をした際、彼らはその当時1920年代のシャブリを飲んでいるのだと話していたことが思い出される。

彼がワインを収集し始めたのは第二次大戦終了直後のことで、1950年代までには彼のお気に入りのワイン商でもある、ロンドンのOWロエブをひいきにしていた。それは彼らから購入したワインの数という意味だけでなく、莫大な融資も行っていたためで、1961年に彼が取締役に就任した際には更に増資までしている。彼にとってワインは喜びであり、ロエブの経営責任者、アンソニー・ゴールドソープと共に最高のレストランを渡り歩きながら、(当初はドイツにかなりの重点が置かれていた)ロエブの品ぞろえに加えるべき最高の生産者を探してフランス旅行をする言い訳でもあった。

その旅の成果としてロエブのリストに加わった初期の4つのワインはシャトーヌフ・デュ・パプの伝レジェンドであるシャトー・ラヤス、ジュヴレイ・シャンベルタンのアルマン・ルソー、ニュイ・サンジョルジュのアンリ・グージュ、そしてシャブリのルイ・ミッシェルだった。さらにヴォルネイのマルキ・ダンジェルヴィル、シャサーニュ・モンラッシェのラモネとミシェル・ニエロン、ピュリニー・モンラッシェのエティエンヌ・ソゼ、北ローヌのポール・ジャブレ・エネ、アルザスのファレールなど綺羅星のような生産者が続いた。1960年代の終わりにはシャルル・ルソーから得た情報もあって、今や世界に名を馳せるブルゴーニュの生産者、当時は若きジャック・セイスのドメーヌ・デュジャックまでがこの垂涎のリストに加わることとなった。

ただしワインは偉大だったが、経営はそれほどでもなかったようだ。最終的にダグデールは、ポンド安のためにワインを購入時よりも安く売り続けていたOWロエブを丸ごと買収した。ダグデールはロエブの損失を、ヨークシャーで淡々と取得した利益で相殺した。

そんな背景だから彼のセラーの在庫は豊かなわけだ。ケイト・ダグデールは夫同様に大の音楽愛好家だが、芸術、とくに音楽への支援を続けながら、彼が遺したワイン・コレクションにも次第に興味を持つようになっていった。多くの音楽家たちはヨークシャーの邸宅に長く保存されていた、自身の誕生年の偉大なワインを贈られたようだ。更に彼女はロンドンへ足しげく通い、その出自に何の疑念もない、かつ我々が想像すらしえないほどの古いワインを携えて帰って行った。

ところが、昨年彼女は大きなショックを受けた。4月1日に彼女はメールを送ってよこしたが、それがエイプリルフールでないことは明白だった。「セラーを整理していたら沢山のイケムが出てきたんです。そのほとんどがとても古くて。私たち、若いものを先に飲んでしまったみたいで・・・ヴィンテージと一緒にリストを送りますね」。

このメールに添付されてきたリストは、最も偉大なソーテルヌ、シャトー・ディケムの24ヴィンテージであり、輝かしき1975年から、あきれるほどはるか1899年にまで遡るものまであった。それ以外にも多くのボルドーの偉大な甘口ワインが含まれており、そのヴィンテージも1967年から1914年までと古い。金属の箱の後ろに隠れていたという、この宝の山は見たところ少なくとも(ほとんどが1本だけの)87本あった。

彼女はこれらのワインを友人たちと共にテイスティングする日を設けようと決め、ラトランド・ウォーター(最近の発見に関するニュースはこちら)のほとりにあるハンブルトン・ホールのティム・ハートに、セッティングを依頼した。彼は11月の静かな火曜日を選び、あとはゲストに誰を呼ぶのか(音楽家とワイン仲間の両方を含む必要がある)、そしてどのワインをテイスティングすべきかを決めるだけとなった。

幸運なことにワインを愛するオペラ・ヨーロッパのディレクター、ニコラ・ペイン(Nicholas Payne)はそのどちらの基準にも当てはまり、彼がかじ取りをすることになった(彼の息子は銀行家で、彼の兄セバスチャンはマスター・オブ・ワインであり、ザ・ワイン・ソサイエティで1985年から2012年までチーフ・ワイン・バイヤーを務めた人物であるため、二人とも招待された)。私からはテイスティングは主に能力が最も鋭い午前中、軽いランチの前に行うことと、数本をディナーの前にテイスティングすべきだと提案しておいた。

結果的にペインは32のワインをコレクションから選び、3つのフライトに分け、我々16名のテイスターは天気の良い日にハンブルトンでそれらのテイスティングを楽しむこととなった。我々は彼が「二次大戦中から戦後までの宝」と名付けたフライトから始めた。そこには引き締まったリューセック1952(その日のソーテルヌの中では最も若かった)から1950と1945を経由し1943のイケムまでが揃っていた。

2番目のフライトは最も多く、18種のワインが勢ぞろいしており、「一次大戦後の黄金時代10年間、ちょうど100年前となる1921年を含む1929年から1919年まで」と題されていた。1923のうち一つはブショネで、もう1つは酸化してしまっていた。だが、我々は神話的な1921ヴィンテージのソーテルヌを5種以上味わうという幸福にふけり、特にイケムはその中でも輝きを放っていた。1928と1929のほとんどのワインもただただ豪華だったが、驚いたことに1928イケムだけはひどく残念なものだった(ヨークシャーのセラーにあった1922ヴィンテージの4本は今回のハンブルトンでのテイスティングには用いず、100年目を迎える今年、再度行うソーテルヌ・マラソン・テイスティングのために取っておくことにした)。

それらに続いた1920と1919の各3本は、ランチの準備が整ったキッチンと、テイスティング用から食事用に部屋をアレンジしなおさなくてはならないという状況を鑑みたハートにせかされながらのテイスティングだった。下の写真は午前中のテイスティングが終わった時点のサイドテーブルの様子だ。

ハンブルトンでテイスティングしたソーテルヌの残り。70年より若いものはない。

25本もの甘口ワインを2時間かからずにテイスティングしたのだから、我々がお腹いっぱいになったのではないかと読者の皆さんは思うに違いない。だが、その逆だった。なぜならどのワインもあまりに品質が高く、魅惑的なほど複雑で、甘味が食欲をそそる酸のおかげで美しくバランスがとられていたため、もう沢山と思うよりも、高揚感を感じていたのだ。つまり、もちろんハンブルトンのミシュラン星付きのメニューであるコンソメ(テイスティングとは完全に相反する食べ物だ)や巧みな味付けを施された人参のテリーヌやオヒョウを楽しみたいという気持ちがあったのも確かだが、テイスティングによって味覚が美しいほどの刺激を受け、リフレッシュされていたのである。

早めの夕食前のテイスティングは「超古典的」なワインが選ばれていたが、テイスティングは堅苦しさのないもので、広々としたダイニングではなく居心地の良いバーという環境もあり、ソファに座って行うことにした。だが、ワインはあまりにも素晴らしく、たとえ駐車場でテイスティングしたとしても、それと感じられるようなものばかりだった。

1918の2本と1914は喜びというよりも遺物と感じられるものだったが、一次大戦中にどうにかして造られた1916の2本は、見事としか言いようがなかった。そして最後の2本のイケム、1908と1899は20点満点で20点、あるいは21点をつけてもいい、この世のものとも思えないものだった。なにしろ1本はヴィクトリア女王がまだ王座についていたころのものである。最近のワイン愛好家は一般的に甘口ワインには感動しないと言われるが、そんな心配は不要だろう。これらのワインは後世に多くの人々を喜ばせられるほど長命なのだから。

最高級のソーテルヌ古酒
以下のワインには20点満点中で18点以上を付けたが、ものによっては20点以上をつけたいと思った。

1950 Ch d'Yquem
1945 Ch d'Yquem
1944 Ch d'Yquem
1929 Ch d'Yquem
1928 Ch Rabaud Promis
1928 Ch Lafaurie Peyraguey
1926 Ch Lafaurie Peyraguey
1921 Ch Rabaud Promis
1921 Ch d'Yquem
1920 Ch Climens
1916 Ch Rabaud Promis
1908 Ch d'Yquem
1899 Ch d'Yquem

テイスティング・ノートはOld, really old, Sauternesを、世界の取扱業者はWine-Searcher.comを参照しても良いが、その出自、そして真贋には慎重になるべきだ。

原文

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