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あのパリスの審判から40年

Saturday 9 July 2016 • 5 分で読めます
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この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

孫に自分がなぜ有名なのかと聞かれたとき、ワイン・ライターであるスティーブン・スパリエ(Steven Spurrier)は彼にジョージ・M・テイバーの著作、パリスの審判を見せた。彼が1976年5月24日に企画したあの運命的なカリフォルニア・ワインとトップ・フランス・ワインのブラインド・テイスティングの証ともいえる著作だ。

その40周年を迎える今年、スパリエは世界中を飛び回っている。フロリダ、カリフォルニア、ワシントンDC、パリ。そしてロンドンとその周辺では少なくとも5件の記念イベントが開催された(最近ジュリアがレポートしたセイガー・ワイルド(Sager-Wilde)の件や私が書いたクリスティーズのこの記事もそうだ)。彼が先月ロンドンのクリスティーズでの式典で述べたように「高品質で無名のワインが有名なワインに立ち向かうという典型的な図式」の効果は非常に長い時間をかけて、ある意味じっくりと浸透していったと言える。当時勝利したワインは1本ずつ、スミソニアン博物館の「アメリカを形成する101のもの」というコレクションに加えられているほどだ。

1976年というのはナパ・ヴァレーの近代史が始まってからわずか10年ほどの時代だ。ロバート・モンダヴィ・ワイナリーが禁酒法以降初めてワイン生産事業を始めた時代であり、彼らは先日その半世紀を祝ったところだ(エレイン・チューカン・ブラウン(Elaine Chukan Brown)がここでレポートしている)。モンダヴィの最初のワインを作ったのはワレン・ウィニアルスキー(Warren Winiarski)で、パリのブラインド・テイスティングで勝つことになる赤ワインを生産した人物だ。そう、それは彼自身の畑、スタッグス・リープ・ワイン・セラーズの最初の産物だったのである。

1970年代後半、スパリエはパリの若いワイン商だった。彼と同僚のパトリシア・ギャラガー(Patricia Gallagher)はカリフォルニアで面白いワインが作られ始めていると耳にし、フランスでそれらに注目を集めようと考えた。アメリカの独立200周年にかこつけたカリフォルニア・テイスティングなどを行えば自分たちの商売に役立つような注目を集められるだろう、と考えたのである。

彼らはまた、次第に尊敬の的となっていくワイン・スクール、アカデミー・デュ・ヴァンも運営しており、現代の優れたワイン指導者を生み出していた。このこともあって彼らはフランス人のテイスターとして非常に有力な人物を集めることに成功し、スパリエが1976年3月に訪問して集めてきた1ダースのカリフォルニア・ワインのテイスティングが実現したのだ。

テイスティングの1,2週間前、彼はパネル・テイスターの中で唯一アメリカ人と結婚していたドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティのオーベール・ド・ヴィレーヌだけはカリフォルニア・ワインをテイスティングしたことがあるのではないかと気づいた。彼が最近明らかにしたところによると、かのイベントで1970年代の2本の1級シャトーを含む、8本のフランス最高級のワインとの比較をブラインド・テイスティングにすることを決めたのは、反カリフォルニア・ワインの偏見を恐れたと言う理由だけだったのだそうだ。これらフランスのワインは当時高い評価を受けていたものの、現代のヴィンテージと比較すると辛口でやや果実味に欠けるものだった。

そして結果は決定的だった。6本のカリフォルニアのシャルドネと4本のブルゴーニュのトップ・ワインが最初に比較された。9人中6人のテイスターはシャトー・モンテリーナ1973シャルドネ(ソノマとナパのブドウをブレンドしたもの)をトップに位置づけた。そしてわずか樹齢3年のブドウから作られたワレン・ウィニアルスキーのスタッグス・リープ・ワイン・セラーズ・カベルネ1973が赤ワインの中で最も好まれた。これら2本のワインの当時の小売価格は1本6ドル程度だ(1級シャトーは12ポンド、おそらくドルでは25ドル程度)。

このテイスティングの与えた影響は始めのうちはテイスターの困惑だけであり、フランスで第一線のワイン雑誌2誌の編集者は自分のテイスティング・ノートの返却を求めた。スパリエはそれを拒否したため、痛烈な記事とテイスティングで談合が行われていた疑いをかけられるという仕返しを受けた。

カリフォルニア・ワインの生産者ですら事の成り行きをただ興味深く見守っていたわけではなかった。彼らのうち数名はスパリエが訪問しようとしたとき協力的ではなかったのである。それどころかパリへのボトルの輸送を手伝うこともなく、スパリエがその輸送をワイン愛好家のためにフランスのワイン産地をめぐるツアーを運営する人物に参加者の荷物と共に好意で運んでもらうに任せたのである。

だが6月初旬にパリのタイム・マガジンのリポーターで唯一そのテイスティングを目撃したジャーナリストでもあるテーバー(Taber)による簡潔なテイスティングの報告が発表されると、その勝利の報せはアメリカの出版業界にも広がった。数か月後、フランスの出版社がついに(大きな疑義とともに)その結果を報告し、大騒ぎとなった。AOCを管理する当局のトップでテイスターの一人だった人物は退任を余儀なくされ、パリ・レストラン協会のトップだったタイユヴァンのワイン愛好家、ジャン・クロード・ブリナ(Jean-Claude Vrinat)も同様だった。スパリエはフランスのワイン組織から締め出され、あるブルゴーニュのセラーからは事実上の出入り禁止を言い渡された。

フランス人は彼らのワインが輝きを発しそこなったのはワインが若すぎたためだとしたため、10年後の1986年5月、リターン・マッチがニューヨークで企画された。だが、ここでもカリフォルニアが勝利した。このときもボルドー人はスパリエが当時のヴィンテージだった1985のアメリカでのプリムール・キャンペーンを失敗させたとして非難した。

1996年、スパリエは20周年記念を祝う気はほとんどなかったが、野心的な30周年の際には大西洋を越えてロンドンのベリー・ブラザーズとナパ・ヴァレーのコピアで同時に当時の再現テイスティングをするという場に私は参加することができた。このときは海の両側の審査員にそれぞれ、当時テイスティングをしたフランス人テイスターも参加していた。リッジ・ヴィンヤード1971モンテ・ベッロ・カベルネ(素晴らしいが1970ほどではない)は今シリコンバレーと呼ばれる場所を見下ろす場所で育ったブドウから作られ、どちらの審査員も最高点を付けた。有名なスタッグス・リープ1973は2位で、全10ワインのうち上位5位までをカリフォルニアのカベルネが独占した。

私は運がいいことに1970年代および1980年代に作られたカリフォルニアのカベルネを幅広くテイスティングする機会に恵まれ、つい最近もその機会があったが、その品質、繊細さ、長命さには常に驚かされてきた。どうやらニューヨークのレストランのワインリストでは最近これらのワインへの注目が再燃しているようだ。おそらくソムリエのケリー・ホワイト(Kelli White)の分厚い近著「Napa Valley Then & No(訳注:「ナパヴァレー・いまむかし」の意)の影響もあるだろう。だが20世紀の最後の10年ほどの間にそのスタイルは大きな転換期を迎えた。この時代はほとんどのブドウがより熟した状態で収穫され、ワインは遥かに強く、私はそれらのワインも熟成が可能なのだろうかと考えたものだ。そして2006年の再現の中で2000年の赤のボルドーとほぼ同様なヴィンテージのカリフォルニアを比較した際、スパリエがクリスティーズで述べた言葉を借りれば、ボルドーは「カリフォルニアに完敗した」ことが明白だった。

このパリスの審判の恩恵もあり、科学的な理解が深まったこともあり、ボルドー人たちは1980年以降彼らのワインのスタイルを変えた。間違いなくより熟した、カリフォルニアのカベルネのような方向にむけて、である。

だが現在ボルドーおよびカリフォルニアの流行はどちらも引き締まった控えめなスタイルで、若くても楽しむことができるワインを作れるほど十分に熟したブドウを使う一方でブドウが育った場所の個性はしっかりと表現されるものとなっている。このことは比類ない卓越した技術と共に、大西洋上で彼らのスタイルがいつの日か交錯することを意味するのかもしれない。

偉大なカリフォルニア・ワイン

ここに示すワインは1976年のパリスの審判で高評価を得たワインの比較的最近のおすすめヴィンテージだが、どれも40年前とほぼ同じスタイルで作られている。

Chateau Montelena Chardonnay 2009 Napa Valley

 (ヴィンテージ違い)
Stag's Leap Wine Cellars, SLV Cabernet Sauvignon 2008 Stags Leap District, Napa Valley
Mayacamas Cabernet Sauvignon 2009 Mount Veeder, Napa Valley


Ridge, Monte Bello 2014, 2013 and 2012 Santa Cruz Mountains

最近のお気に入りの生産者
Araujo (最近新しい所有者であるフランソワ・ピノーがEisele Vineyard と改名)
Corison
Kapcsandy
Kongsgaard
Mount Eden
Spottswoode

(原文)

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