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クレグリー;オーストラリアのテロワール、控え目で長命

Saturday 28 April 2018 • 5 分で読めます
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この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。The cool Macedon Ranges with Maxも参照のこと。

ブドウ栽培の教科書は畑の場所選定という重要な章を飛ばして、気候や地勢、水はけや水源について議論する傾向にある。しかし、消費者が製品そのものだけでなく経験に興味を持つようになってきたとされる現代の世界では、旅行者の手が届きやすいというのは有用な特性であると言える。

中国人投資家たちは(オーストラリアのヴィクトリア州で中国人がツーリズムに莫大な投資をしていることを反映しているともいえるのだが)、メルボルンの空港からわずか15分、市の中心部から30分程度の場所にあるサンベリーの歴史あるグーナワラ・ヴィンヤードを買収した際このことに気づいた。彼らはワイン・ツーリズムが有望であることに自信があったので、昨年4500万豪ドルをつぎ込みそこに76室がスイートルームのホテル、グループで滞在できる宿泊施設、改装したレストラン、「ファンクション・センター」、最新のワイナリー、ヴィラとスパを備えた一大リゾートを建設する計画を発表した。

昨年11月、私はその新しい所有者が道路を渡り上の写真の門をくぐって、隣人であり彼らと対照的なクレグリー・ヴィンヤードをまだ訪ねていないと聞かされた。メルボルンのワイン・ライター、マックス・アレンが著書、The future makers - Australian wines for the 21st centuryで指摘するように、思いあがったすべての若いワインメーカーはクレグリー送りになり、「私がこれまで出会った中で最も謙虚なワインメーカー、パット・カーモディ(Pat Carmody)と静かな時を過ごすべきだ。」

ヨーロッパについて明るい私自身の視点から言うと、歴史、テロワールの影響、控え目さ、長命さはヨーロッパのワインだけのものだと信じている、これまで私が出会ったすべての人に、この1864年にここにブドウが持ち込まれてすぐ建てられた4階建ての青い石造りのワイナリーを訪れてほしいと願う。ここではそれがワイナリーを建築するデザイナーの間で流行となる1.5世紀も前から重力を使っている(ブドウもワインも自然に階下にある樽に流れていく)。しかもそのワインは流行の気まぐれに全く影響を受けている様子はない。

初めてクレグリーを訪問した際、私は一瞬で家にいるようなくつろぎを感じた。分厚い石の壁、むき出しの梁、不揃いで晒された床板、各階を結ぶ木の階段、鋳鉄製の昇降機。どれもみな、種苗商だった高祖父が、私が生まれ育ったカンブリアの家の隣に建てたヴィクトリア調の倉庫にそっくりなのだ。
パット・カーモディは頬が赤く白髪で、常に意味ありげな微笑みを浮かべた上の写真の人物で、有名なクレグリー・シラーズをテイスティングするため、瓶詰めされている直近の4ヴィンテージ、2015から2012までを注いでくれた。私はそれらに共通するフレッシュさとデリケートさが紡ぐ要素を印象強く感じた。カーモディは明らかにタンニンを恐れていなかった。他のワイン同様2015は長期熟成を期待して作られており、今年の年末までリリースする予定はない。私はどのワインにも、これまでにないほど安定したスコアとテイスティング・ノートを残している。

そのあと彼は他にテイスティングしたいヴィンテージはないかと尋ね、ガラスをカチャカチャ言わせながら1997と1996、1995を探してくれた。それらのワインはさらに年月を重ねた風格を証明してくれた。この驚くほど洗練されたワインをフランスのワインで考えてみると、アレンが書いたように「上質なクレグリーのシラーズと同じぐらい繊細さと複雑さを持ち合わせたコルナスかエルミタージュを見つけようと思ったら恐ろしく高価な代物になるだろう。」

ヴィクトリア州の議員で新聞記者でもあった人物が最初にクレグリーにブドウを植えた時、クレグリーは街から離れた場所にあると感じられた。1920年代後半までにブドウよりも羊が経済的に魅力的な産物となり、1940年代にはブドウは引き抜かれてしまった。カーモディ家はヴィクトリア州北部の牧羊業者だったが、メルボルンの拡大による長期的な土地の値上がりを期待し、1961年にクレグリー農園を買い取った。

だがヴィクトリアで最も重要なワイン会社の一つ、ブラウン・ブラザーズの長であったジョン・ブラウンはカーモディにブドウ畑を再興するよう強く勧めた。19世紀後半のクレグリー・ハーミテイジ(Craiglee Hermitage;当時シラーズはそう呼ばれていた)のボトル数本が1970年代に発見されると、この地が真の意味で繊細で長命なワインを作ることができると証明された。そのためカーモディは自ら農業大学へ行きってワインの科学を学び、新しい世代のブドウを1976年に植えたのだ。

彼は現在10ヘクタールのブドウを所有し、そのうち5ヘクタールはシラーズ、3ヘクタールはシャルドネ、残りはヴィオニエとカベルネだ。私がどの品種が砂と礫の多い堆積土壌に適しているとかと尋ねると「さあ、どうかな。」彼はいつもの渋く控え目な様子でそう答えた。「もしまっとうなワインメーカーがここにいたら、彼らがどんなワインを作るのかなと思いますよ。私はワッガ(リヴェリーナの農業大学の愛称)に行っただけですから。」

冷たい南氷洋の強い風がブドウやワインにフレッシュさを残すのに役立つのかもしれない。もしクレグリー・シラーズが素晴らしく繊細と言えるのであれば、シャルドネはどちらかというと特異と表現すべきかもしれない(彼のシラーズはオーストラリアという文脈で言えば恐ろしく控え目であり、これもまた特異であると言える)。最近のオーストラリアのシャルドネはものすごく痩せているのが普通、という流行を真似る代わりに、クレグリーのそれは古いスタイルのままだ。有り余るほど豊かな果実味が感じられる一方、自然の酸は明確に感じられるほど高い。これは通常柔らかさを出すために行うマロラクティック発酵を止めていることも一つの理由である。これらもまた、十分に熟成できるよう作られている。1996のシャルドネは果実味が失われつつあったものの、まだ十分楽しんで飲めるものだった。味わいにしっかりと重みも感じられ、22年も経った白ワインはまだまだ十分に生きていた。

だがクレグリーの物語で重要なカギとなるのはおそらくカーモディ婦人、針金のように細く寡黙なダイアンで、彼女はこの何年も面倒を見てきた畑からワイナリーにふらりと入ってきて、私を頭のてっぺんからつま先までじろじろと見た。おそらくその審査には合格したのだろう、パットは豊かに薫り高い、受賞歴もある1987シャルドネを、ラベルに「アリ混入」と走り書きしてあるボトルから注いでくれた。彼が指摘する通り、シャルドネは1980年代のオーストラリアでは全くの新顔だった。彼はなぜそんなに早くシャルドネに気づいたのだろう。彼はソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールも試してみたそうだが、「ピノを育てるほどうぬぼれは強くなかったんですよ」と告白した。

もともとのワイナリーは何年も前に安全衛生上問題があると指摘されたため、現在ワインは近代的であまり雰囲気があるとは言えない建物で作られている。だが丘の脇に建てられたこの素敵な建物の一番下の最も涼しい階にはまだ樽が静置されている(あまりに乱雑なのでそれを樽貯蔵庫と呼ぶのは不適切かもしれないが)。天井はフォークリフトが入るには低すぎるので、伝統的な225リットルの樽は転がして暗闇から木製の古いドアの前のボトルが散乱したコンクリートまで出してこなくてはならない。「最近の流行は大きな樽だということは知っていますよ」カーモディはそう言って「でも私には重すぎるのです」と続けた。

若いワインメーカーたちはこぞって「職人気質」と広報したがる。彼らは月に1回訪問者を受け付けるクレグリーを訪ね、オーストラリアの最高級のワインを知るべきだ。タラマリン空港からわずか15分のところにある。

クレグリー・シラーズはどこで買えるのか

クレグリーの独特なスタイルの一つにその販売方法がある。ここに驚くほど洗練されたオンライン・ショップcraigleevineyard.comはあるものの(オーストラリア国内のみ発送)営業部門はない。シラーズLTV 2014 (ほんのわずかにヴィオニエを含む)は1本たったの35豪ドルだ。

Wine-searcher.com にはオーストラリア国外で販売されるかなりばらつきの大きい価格が掲載されている。ワインのヴィンテージが古くなればなるほどお買い得度も増す。

2013 €46.65 でアイルランドのWines Direct
2012 £40でヨークシャーのHic! Wine; 保税価格£34で Berry Bros & Rudd; HK$445で香港の Red Wine Village
2009 HK$380で香港の Red Wine Village; 12本保税価格£488 でBerry Bros & Rudd BBX
2001 12本保税価格£165 でCellar Link Marketplace; 12本保税価格£170 で BI Reserves
1998 €23.75でフランスの Vitis Epicuria; €47.80 でオランダのLuxurious Drinks

The cool Macedon Ranges with Maxのテイスティング・ノートも参照のこと。クレグリーはマセドン・レンジというよりはサンベリーにあるが、前者へ行く道沿いにある。

原文

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