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ナパはどこまでグリーンか?

Saturday 7 July 2018 • 5 分で読めます
Frog's Leap

この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

フロッグス・リープ(写真)のジョン・ウィリアムスが1989年にナパ・ヴァレーでワインに関する有機栽培についての会議を企画した時、参加者は9名だった(「しかも7名は金を払って参加してもらいました」と彼は言う)。今月末、ナパ・ヴァレー・グレープグロワーズは7回目の有機栽培に関する同会議を開催するが、参加者の上限を120名に設定しなくてはならないほどだそうだ。

これまでナパは明らかに「グリーン」(訳注参照)に向かってきた。彼らが自慢げに語るには、カリフォルニアのどこの郡よりもナパには有機認証を得た畑が多くあるそうだ。有機認証を得た畑は圧倒的にヨーロッパ、とくにイタリア、フランス、スペインに多く、オーストリアやアルザスは単に有機栽培というだけでなく、もう一歩進んだビオデナミに積極的に取り組むようになっている。(訳注;自然と共存する、緑を守るというニュアンスで、有機栽培や農薬使用量の削減などに取り組む運動、あるいはそのように作られたワインを指す)

今ではカリフォルニアのワイン用ブドウ栽培者やワイン生産者たちによって「グリーン」であることの認証の取得は広く、繰り返し推奨されているものの、やるべきことはまだまだ多くある。そして1981年にフロッグス・リープの共同設立者となったジョン・ウィリアムスほどその必要性を強く信じている人間はいない。ラザフォードにあるフロッグス・リープは1988年にはすでに第三者機関による有機認証という非常に手間のかかる業務に着手しており、彼らの畑は何年もの間全くもって特異な外観をしていた。豪奢で丁寧に手入れされた緑の列が裸の土壌と灌漑パイプによって分断される光景に満たされたこの谷の真ん中に突如として現れるのがこの野生そのものに見える牧草地で、ブドウ畑というよりは花畑のようなのだ。ウィリアムスはカバークロップ、無灌漑、化学農薬に対する代替法といった概念を近隣のワイナリーより何年も早くから取り入れていた。そしてそれは彼が周囲の冷笑に耐えなくてはならなかったことを意味する。

ナパ・ヴァレーから優に250マイルは南に下ったパソ・ロブレスでは、ジェイソン・ハースがローヌ品種に注力した苗木商でありワイナリーでもあるタブラス・クリークを経営している。その共同所有者はシャトー・ボーカステルのペラン一族で、1960年代という早い時期から有機栽培をシャトーヌフ・デュ・パプで取り入れてきたこともあり、ハースは世界的な視野を持ち合わせている(彼の父はラフィットやペトリュスのアメリカにおけるインポータだった)。カリフォルニアで有機栽培の活動が遅れていることは彼も認めている。

先週ハースと共に彼らのイギリスのインポータであるベリー・ブラザース・アンド・ラッドのセラーで自身のワインとサステイナビリティの問題について紹介しながら、ジョン・ウィリアムスはそれに同意したが、次のように付け加えた。「でも我々が他の誰にも負けていないということは我々が優れている点だし、それがさらに我々がやっていることを後押ししてくれると思うんです。」

彼は正しい。ナパ・ヴァレー・ヴィントナーズ協会は独自の認証法を確立し、それに参加している(全会員550のうち)214のワイナリーと183の畑を誇らしげに一覧にしている。ナパ・グリーン認証は感心するほど総括的なアプローチに見える。個々の畑やワイナリーについて土壌とエネルギーの保全、廃棄処理、労働者や近隣との関係を向上する計画を作成するのだ。社会問題は確かに重要だ。フロッグス・リープではウィリアムスと息子のロリーが40ものブドウ以外の作物を生産は少量ながらも商業的に栽培しているが、これは250エーカー(100ヘクタール)に及ぶ土地で畑作業者の通年雇用を生み出すことが主な目的だ。.

しかし、ブドウをどう育てるかという意味では、ナパ・グリーンは有機栽培よりもはるかに要求が少ない。非常に熱狂的なことで知られる専門家、モンティ・ウォールディン(Monty Waldin)に言わせると「ナパ・グリーンはニュージーランドのモデルに似ていて、浸透性農薬やグリフォサート、(肥料、殺虫剤、除草剤など)を手放せない、あるいは手放さない人たちをも受け入れます。そういうシステムは自分のやっていること、やってきたことを肯定的に捉えられるようにするために作られていますが、自分のワイナリーやラベルに新しいシールを追加するためだけにすぎません。」

一方ナパのコンサルタント・ワインメーカーであるデイヴィッド・デサント(David DeSante)は彼がアドバイスをしているブドウ栽培者の多くが今では総括的な視野を持つようになったこと、ブドウ畑の土に深刻な悪影響を与えてきた、かつてあり得ないほど彼らが使っていた化学農薬の持続的な代替物を模索するようになったことに勇気づけられたと話す。ナパのグリーン化の兆しとして目に見えてわかるものといえば、フィッシュ・フレンドリー・ファーミング(訳注;魚にやさしい農業)の結果の一つとして、この谷の川やせせらぎに魚が戻ってきたことがあげられる。

環境保護に対する懸念は文字通り、土、風、そして炎によって勢いづいてきている。デサントによれば「気候変動によってナパ・ヴァレーで大きな危機に直面しています。ウィリアムスは2017が北部カリフォルニアにとってこれまでのやり方を変えることの差し迫った必要性を意識するという意味で重要な転機になったヴィンテージであると信じて(願って?)いる。2017年の夏は非常に暑く乾燥していたため、カリフォルニアは10月に大きな山火事に見舞われ、 人命と数千件もの家屋への被害を出している。

水、あるいはその不足は深刻かつ悪化しつつある問題であり、ナパのジョン・ウィリアムス(ビオデナミ反対派)も、ナパよりさらに乾燥したパソ・ロブレスのジェイソン・ハース(ビオデナミ推進派)も、ワインの品質と長期的な生き残りのために無灌漑栽培は唯一の持続可能な選択肢だという点では意見が一致している。

ウィリアムスは典型的で力強い口調でこう話した。「すべてのナパ・ヴァレーの偉大なワイン、1940年代のイングルヌックや1976年のパリスの審判で素晴らしい成績を残したすべてのワインは無灌漑の畑から作られているんです。灌漑が導入されたのはようやく1976年のことなのに、今では95パーセントの畑が灌漑されています。ナパ・ヴァレーで無灌漑ができないなんて大嘘ですよ。」

ガーデニングをしたことのある人なら誰でも知っていることだが、幼木はブドウも含めて最初のうちは水やりが不可欠だ。1990年代にタブラス・クリークを設立した際、彼らは当時流行だった灌漑用設備を導入しており、トレリスを用いた高密植の栽培を行っていた。しかし最近になって樹間を広く取るようになり、自立型の株仕立て(スペインの最も乾燥した地域で採用されている方法)で育てるようになっている。ハースはそこから出来上がったワインと、過去5年間の干ばつにも関わらず常に健康なブドウに心を躍らせている。無灌漑畑のブドウは灌漑している畑のブドウよりもはるかに寿命が長い。それはブドウの根が深く深く伸びることも一因だ。

カリフォルニアのヒストリック・ヴィンヤード・ソサイエティは州にある非常に樹齢の高いブドウを守ることに尽力している。それらは全て無灌漑で、中には樹齢が100年を超えるものもあり、魅力的なワインを今でも生み出している。現在ナパ・ヴァレーのブドウの平均寿命はウィリアムスによると17年だそうだ。

しかし、現実には、季節労働者を使い、第三者の作る灌漑したブドウからアルコールが高く価格も高いワインを作るという典型的なナパのワイン作りは世界で最も成功したモデルである。ジョン・ウィリアムスのような人々がワイナリーでの人的介入や畑運営の短期的な視点について大きな批判を述べるのは道理にかなっている。だが考え方や行動に本当の意味で、しかも深い部分まで変化を起こすのは非常に難しいだろう。だからこそ、長期的な視点を持つワイン生産者が増えていることには敬意を表したい。


優れたカリフォルニア・ワイン

Bedrock Wine Co, Old Vine Zinfandel 2016 Sonoma Valley
£28.50 Berry Bros & Rudd

Bedrock Wine Co, The Whole Shebang! Cuvee X1 NV North Coast
£10.95 The Wine Society

DeSante, L'Atelier White 2016 Napa Valley
£29.95 Berry Bros & Rudd

El Molino, Pagani Ranch Heritage Pinot Noir 2014 Rutherford
£63.95 Berry Bros & Rudd

Frog's Leap Zinfandel 2016 Napa Valley
£25.50 Berry Bros & Rudd

Mayacamas Chardonnay 2016 Mount Veeder
£58 Roberson

Ramey, Sidebar Red 2015 Russian River Valley
£26.95 Berry Bros & Rudd

Raen, Royal St Robert Pinot Noir 2016 Sonoma Coast
£59.95 Z&B, Clos & Cru

Trefethen Cabernet Sauvignon 2015 Oak Knoll District
£44.95 Cheers Wine Merchants

テイスティング・ノートはこちらのデータベースで、取扱業者はWine-Searcher.comで確認できる。

原文

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