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レバノンともう一人のセルジュ・ホシャール?

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この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

難民キャンプ、ヒズボラのアジト、大麻農園、ベドウィン族、そして世界で最も美しく保存状態のよいギリシャ寺院。これらは脈絡のない混合物で、ダイナミックなワイン文化を生み出す環境とはなかなか結び付けることができない。

だがベッカー渓谷にあるこの寺院に起源2世紀に祀られた神はバッカス、つまりワインの神だ。最近の(その多くが悲劇的な)ニュースに登場するレバノンの姿は二つの山脈に挟まれ、乾燥した風の強い高原で数千年もの間主要な作物として永らえてきたブドウにとっては束の間の出来事なのかもしれない。

レバノン・ワインで最も有名な男と言えばシャトー・ミュザールのセルジュ・ホシャール(Serge Hochar)だが、彼は3年前メキシコでの休暇中、遊泳中に急逝した。彼はこの国の歴史の中でワインがどのような役割を果たしてきたかをはっきりと把握していた。彼は近代的なワイン生産者の間でも最も世俗とかけ離れた人物の一人だった。最近の恐ろしい出来事にも常に冷静で、1975年から1990年にかけてレバノンを二分した内戦の間もずっとワインを作り続けた彼は、レバノンが常に対立状態にあり続けることがわかっていたのだろう。だからこそ自分の選んだ非常に個性的なワインを作るという道を歩み続けることが最善と信じていたのだ。

シャトー・ミュザールはワインを売り出すまで長くワインを置いていくことでも非常に卓越している。ミュザールは赤も白も1950年代のものに遡って購入することすら可能なのだ。私は1961年までさかのぼり20のヴィンテージをテイスティングする嬉しい機会を得た。白は1989のものもあったがどれもまだ力強さを備えていた。そして確かに、現行ヴィンテージのシャトー・ミュザール2011赤はまだ若すぎるように感じられた。

ホシャールはあまりに多くの国を訪問し、その先々で非常に強い印象を残したので、長い間シャトー・ミュザールは世界的な名声を博する唯一のレバノン・ワインだった。しかし、ベッカー渓谷から数マイルのシリアでの戦争の様子は常に耳に入ってくる一方、ここでは別の種類の爆発が起こっている。上質なワインの生産である。レバノンを代表するワイン・ライターであるマイケル・カラム(Michael Karam)によると、現在50ものレバノン・ワインの生産者がおり、畑がベッカー渓谷よりはるか北にあることさえある。今世紀の初めその数は経った14だった。

シャトー・ミュザールはホシャール家と長く貢献しているワインメーカーの手によって厚く保護されているものの、レバノン・ワインの語り手はその数を増している。ドメーヌ・デ・トゥレールのファウージ・イッサ(Faouzi Issa)34歳にとって、投げかけられる疑念はどこ吹く風だ。最近ロンドンでレバノン最古のワイナリー150周年を祝う際に彼(写真下)はこう述べている「私は謙虚とは程遠い人間です。私は第二のセルジュ・ホシャールとして知られています。私は最年少のワイン生産者でありワイナリー組合の技術委員会の長でもあります。」

この20年間、イッサの一族は(別のレバノン人家族とともに)トゥーレルを共同経営している。このワイナリーはこの国で人気の高いアニス系スピリッツ、アラック・ブラン(Arak Brun)として名を残すフランス人によって設立されたものだ。ワイン作りを学ぶ一方、イッサは長年に渡りボルドーのシャトー・マルゴーとローヌのルネ・ロスタンで働き、賢いフランス人生産者たちが発酵槽をステンレスタンクからコンクリートに戻し始めるのを見て大いなる喜びを感じていた。彼が言うにはトゥーレルのコーティングしていないコンクリート発酵槽は世界最古のものだそうだ(彼はまたトゥーレルの5世代目だとも主張しているが、厳密にそれはあり得ない)。

フランスから帰国した24歳の時、ファウージは当時現職だったフランス人からワイン作りを引き継ぐと強く主張し、国際品種の重い、カラムによればレバノンの消費者が崇拝してきたスタイルの代わりに軽やかでさわやかな本来のレバノン・ワインを作る改革を始めた。カラムはこの流れを大いに歓迎しており、メールでは「ゆっくりとした、だが良い変化であり、本来の土地の特徴をきちんと表現している「思慮深い」ワイン」と呼ぶほどだ。「特にサンソー、カリニャン、グルナッシュを使ったワインはただのステータスではなく個性を表現できるものです。故セルジュ・ホシャールもこのことを本能的に悟っていたのでしょう。彼はカベルネをほんの僅か、骨格のためにしか使っていませんでした。」

「さらにいい知らせとしてはこれらのワインはこれまでレバノン人が名声を確立するために作ってきた力強いだけで高価な国際的な赤ワインのスタイルと比較にならないほど価格が安い。すなわち手が出しやすいのです。」

シャトー・ミュザールの赤は長きにわたりカベルネ・ソーヴィニョンと、あまり人気のない南フランスの品種、サンソーやカリニャンとのブレンドだった。イッサは地域によっては比較的若飲みのロゼにしか向かないと片付けられてしまう品種、サンソーの絶大な支持者だ。実際、ロンドン(奇しくも同じ1868年に建てられたセント・パンクラス塔)で開催した彼の150周年記念ランチではそのサンソー主体のドメーヌ・ド・トゥーレル赤の1989年と1976年に作られたものを提供していたが、前者はまだバラの香りがしており、後者もけして枯れてはいなかった。

サンソーは他の南フランス品種、グルナッシュやカリニャンとともにイエズス会によって19世紀半ばにベッカーに持ち込まれたもので、1990年代国際品種ブームで生産者がカベルネ、メルローなどに植え替えてしまうまではレバノンで最も多く植えられていたブドウだった。だがマイケル・カラムにとって、サンソーは下の写真のベッカーの本質と言える品種だ。

この凝縮感の高い国際品種の流行、それに続く爽やかで土地の特徴を反映したワインへの回帰は偶然にも、レバノンのすぐ南にあるイスラエルで起こっていることと同じだ。どちらの国でも白ワイン(中には珍しい固有品種主体のものもある)が近年劇的に向上し、緯度の低さをうまく標高で補っている。品質を重視するイスラエルのワインメーカーたちはできるだけ標高の高い土地を畑にすべく探している一方、レバノンのベッカー渓谷の標高は1000mで、その恩恵を受けるワインはそれとわかる爽やかさが身上だ。

ベッカーのブドウは(非常に乾燥した気候のため)有機栽培されており、そのすべてがベドウィンや100万人を超えると言われるシリア難民の一部による手摘みだ。カラフルなベドウィンが畑にいる様子は前回戦争で大きな影響を受けた1980年に訪問した際の多くの印象深い光景の一つでしかなかった。他にはバールベック、私のホストだったセルジュ・ホシャールのレオニダスのチョコレート・ブティック、小さなへこみが点在するアパート、そしてものすごく恐ろしかった検問所などが思い出される(その時の訪問を記事にしたハーパーズ&クイーンの1980年12月号の1ページと2ページを読んでもらえばわかる)。

ファウージは朗らかに「私は戦争の中で生まれました。私の「台木」には戦争の遺伝子が入っているんです。もう慣れましたよ」と話した。

マイケル・カラムに言わせると「レバノン・ワインの文化の一番の特徴は復元力、すなわち破壊の中でも機能し続ける力です」

ミュザール

シャトー・ミュザールの赤については熟成したヴィンテージをお勧めしたい。イギリスでは広く手に入るはずだ。下記は中でも良心的な価格のものを紹介している。ソリフルにあるDivine Fine Winesは幅広いヴィンテージが揃っている。アメリカのインポータはBroadbent Selectionsだ。ワインの年代を考えると価格はどれも驚くほど安い。

1961 £410 a half, Wine Raks, スコットランド
1969 (液面低め) £280 The Wine Cru, スコットランド
1970 £449 Hedonism, ロンドン
1980 (液面低め) £138 Barber Wines, デボン
1994 £92.60 Lay & Wheeler (Majesticで受け取り)
1998 £33 Roberson, ロンドン
1999 £32.05 Excel Wines, スコットランド
2003 £28.49 Martinez Wines, Yorkshireおよび £18.74 (25% off) ウェイトローズ
2006 £23 The Wine Societyおよび £18.74 (25% off) ウェイトローズ

2007 £23.99 Whitebridge Wines, スタッフォードシャー
2008 £30 Lebanese Fine Wines, ロンドン

トゥーレル

2014 Domaine des Tourelles: およそ£12.50 様々な小売店
2015 Domaine des Tourelles, Cinsault Vieilles Vignes: およそ£17.50様々な小売店

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