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ナパの改革がようやく世界へ

2021年11月13日 土曜日 • 6 分で読めます
VHR Block 6 at sunset
ナパ・カベルネに関するあなたのイメージはそろそろ時代遅れになるのかもしれない。この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。関連するテイスティング・ノートはこちら。 ナパ・ヴァレーにあるヴァイン・ヒル・ランチのブルースとヘザーのフィリップス夫妻は最近、強い意志を持ってロンドンに来た。「ナパ・ヴァレーの今の姿を伝えるのが私たちの使命だと考えています」ブルースは言った。「1990年代からナパのワインがどれほど大きく変わってきたのか、収集家の皆さんに伝えたいのです。ビッグで抽出の強いスタイルを造っていたワインメーカーの中にすら、大きな進化が見られるのですから。ワインの初心者たちはまず、わかりやすいワインを求めて市場に入ってきますが、その動向も変わってきています。ビッグなメリタージュ・ブレンドの時代から、単一畑のニュアンスを表現する時代になったのです」。 彼らがワインの輸出をしようと思い立ったのは2017年と2019年の中国訪問がきっかけだった。「中国で、大量生産でそれなりの(訳注:ナパの)ワインが高品質ワインとして紹介されているケースを多く目にしました」ブルースは続けた。「ナパ・ヴァレーの真に優れたワインが知られていないことに不満を覚えたんです」。そこで、当時すでにナパ・ヴァレーでは広く知られていた自分たちの造るナパ・ヴァレーのカベルネの品質を信じ、気難しいイギリスのインポーター、ジャスティリーニ・ブルックスと新たに取引を始めることで、彼らはそのワインを少しずつイギリスに持ち込み始めたのだ。彼らはイギリスを「世界で最も競合の激しい市場、グラウンド・ゼロ」と表現する。 「1990年代、(ナパ・ヴァレーでは)多くの新しいブランドが立ち上がっていました。ただ、その多くは経験が十分でない人たちによるものでした」とブルース。「でも今はそういった目立つだけのワイナリーも原点回帰をし始めています。地産地消運動もありますしね」ここでヘザーが付け加えた。「農園からテーブルへ、ということです」。 信頼性とトレーサビリティが21世紀の美徳であることは間違いない。それに伴ってブドウ畑を前面に押し出したワインが世界中でもてはやされるようになった。 まさにそこがヴァイン・ヒル・ランチの狙いだ。マヤカマス山脈の麓、オークヴィルの南側にあたる、谷の中でも比較的冷涼な東向き斜面は広く賞賛を集め、その名はナパ・ヴァレーの多くの威厳あるワインラベルに記されている。フィリップス夫妻は自分たちをワイン生産者というよりブドウ栽培者だと考えている。彼らは自分たちの作るブドウの85~90%を13軒の醸造者に販売しているが、VHRという名の自身のワインを作ったのは2008年以降のことだ。VHRは他ワイナリーが彼らのブドウを使って作り、その名をラベルに記しているワインと差別化をするために使う名称だ。 ブルースの母方の祖父は1956年に農場に家を建てた。当時はナパ・ヴァレーのワインの歴史としては先史時代と言える時期だろう。1978年、オークヴィルに引っ越したのは銀行家であるブルースの父ボブで、このことが最高品質のカベルネ・ソーヴィニヨンを作る農園としての地位を確立することにつながった。ナパ・ヴァレー・ブドウ栽培者組合によって2011年にグロワー・オブ・ザ・イヤーに選出された際撮影された上の写真で、ボブはブルース、ヘザー、そして妻アレックスと共に写っている。 1960年代と1970年代、ヴァイン・ヒル・ランチのカベルネの売り先は一つしかなかった。かの有名なエノロジスト、アンドレ・チェリチェフだ。彼はそのカベルネをボーリュー・ヴィンヤードの独創的な1本、ジョルジュ・ド・ラトゥールに使っていた。このワインにロバート・モンダヴィが触発されて1966年オークヴィルにワイナリーを作り、ナパ・ヴァレー・ブームの口火を切ることとなった。そして1980年代には珍しく、ボブは先進的な決断をした。カベルネのみに専念することにしたのだ。なにしろ当時は白ワイン、特にシャルドネ人気の全盛期で、カベルネよりもシャルドネに高い価格がついていた時代だったのである。 今となっては、当時広く一般的だったAXR1という台木が悪名高きフィロキセラの耐性がほとんどないことがわかっている。ヴァイン・ヒル・ランチの優に3分の4を超えるブドウもその被害に遭い、植え替えを余儀なくされた。ボブはその時、すべてのブドウをカベルネ・ソーヴィニヨンにするという、先見の明があった人物ということになる。だが彼の義兄(弟)、ロリーは納得していたわけではなかった。彼は市場のニーズに合わせて様々な品種を売りたいと考えていたためだ。その結果、この農園は二つに分かれることとなる。 ボブに残されたのは28ヘクタールの畑で、彼はそれをできうる限り最高のものにしようと決意した。彼の息子によれば「父は適切な専門家を見つける才能がありました。なかでも最高の手柄は1980年代、コンサルタントにトニー・ソーターを採用したことです。トニーはナパ中の偉大なカベルネの畑を知っていましたから」。 精密栽培が流行となる遥か前のこの時代には珍しく、畑のあちこちに土壌調査用の穴が掘られ、12の異なるブロックに分けられた。ブルースによれば「彼の栽培家としての視点はそれぞれ異なる表現を見せる区画を最適化することで、土壌、台木、畑の向きなどを考慮し、ブドウに最も高い価格がつくようにすることでした」。さらに彼は興味深い言葉を続けた。「栽培農家やブドウの価格について、みんなあまり話したがりませんけど、栽培農家は競合が激しいんですよ」。 ヴァイン・ヒル・ランチが優れた畑であるもう一つの証は、かのハーラン・エステートのビル・ハーランが1992年以来ずっと彼らのブドウを購入していることだろう。ヴァイン・ヒル・ランチの区画のうちブロック1とブロック6はこの記事のトップにある写真で夕日を受けている畑だが、1999年以来ハーランの大黒柱ともいえるボンド・シリーズのシングル・エステート・ワイン、ヴェシーナのためだけに使われている。 ハーランのワインメーカー、コリー・エンプティングはメールでこう書いてよこした。「ヴェシーナは賢い長老的な立ち位置だと思っています。ストイックで芯が通っていて、パワフルだけれども落ち着いているような。ここのブドウは自然の気まぐれさにも乱れることなく対応し、さらには相乗効果まで見せるので常に驚かされます。(あらゆる予測を覆して熟した2011や、かつてないほど早く成熟が進んで山火事より前にすべて収穫を終えることができた2017などがよい例だ)」。 時代ははるかさかのぼって1974年、フィリップス家はカリフォルニアを世界のワイン地図に乗せたあのモンダヴィにブドウを売り始めた。モンダヴィの会社では畑にフォーカスを置いたヴァイン・ヒル・ランチのブランドを2000年から2009年まで生産していたが、巨大企業であるコンステレーション・ブランドが所有者となったことでこの契約は白紙となった。また、ヴァイン・ヒル・ランチは43年間にわたりブドウを売ってきたケークブレッド・セラーズとたもとを分かったばかりだ。彼らの長きにわたる関係は、ブルースに言わせるとクライアントとしてブドウを売買するのではなく、「ワイン醸造のパートナーとして」そうしてきたのだそうだ。ブドウを買いたいという申し出を断ったことはあるのだろうか?「ええ、ありますよ」彼はそう答えた。 トアー・ケンワードは自身のTORのためにそのブドウを購入できることは幸運だったと考えており、間もなく出版される回顧録Reflections of a Vintner(ある醸造家の内省)でこのように書いている。「畑と(マイク・ウルフを筆頭にした)その管理は素晴らしいものだった」。そしてメールで次のように付け加えた。「ブドウ畑はナパで最高のものの一つですよ。やっとその話が表に出たというだけです」。コルギン・セラーズのポール・ロバーツもまたヴァイン・ヒル・ランチからブドウを購入しているが、「フィリップス家は素晴らしい人たちで、ヴァイン・ヒル・ランチはナパ・ヴァレーの中でも神聖化された場所だと思っています」と重ねた。 2020年はその収穫においてナパ・ヴァレーの栽培者とワイン醸造者の絆が極限にまで試された年になった。人々はあまり口にしたがらないが、ナパ・ヴァレーのすぐ近郊で猛威を振るった山火事のために、膨大な量のブドウが煙の影響を受けた。そのため多くの醸造者が長年ブドウを購入してきた栽培者からのブドウの買い上げを拒否したのである。栽培者の中で保険に加入していたのはフィリップスを含むわずか40%ほどだった。アメリカ中の試験機関は煙害関連物質の分析以来の数に圧倒され、弁護士たちは濡れ手に粟状態だった。だがブルースは誇らしげに「うちのブドウの80%は使われましたよ。2020のワインは暖かいヴィンテージのような味わいはすると思いますが、2014や2016のような活力には少し欠けるかもしれません。でも凝縮感は非常に高いです」。2021年山火事の影響を受けなかったヴァイン・ヒル・ランチのブドウに支払われた平均価格は1トンあたり28000ドルだそうだ(ナパのカベルネの平均価格は1トンあたり8000ドル)。 ナパ・ヴァレーでは一般的だが、ヴァイン・ヒル・ランチのブドウも畑の管理を専門に行う会社が手入れを行っている。彼らの場合はマイク・ウルフだ。ヴァイン・ヒル・ランチはウルフにとってナパ・ヴァレーで最も著名な畑の所有者であるアンディ・ベクストファーの下から独立した後、初めてのクライアントだった。また、フィリップス夫妻が農園の異なるブロックごとに自身のワインを造ると決意した際、ワインメーカーとして選んだのはフランソワーズ・ペションで、繊細さと表現力で知られる人物だった。 彼女はかつてアラウホ・エステートで、ワイナリーがフランソワ・ピノーのアルテミス・ドメーヌに買収されるまで偉大なるワインを造っていた。彼女は今ではかつてのオーナーの新たなブランド、アチェンドのワインも造っている。 最近ロンドンでVHRの、2008から2018の偶数ヴィンテージを試飲する機会があった。ワインはどれも非常に印象的で、過剰な部分が一切なかった。テイスティングの途中、ブルースは「現在のナパ・ヴァレーにはエゴイストが多いんです。彼らには大局的な視点が欠けているので、しばしば間違いを犯してきました。」と話していた。彼はそれが誰なのか、具体的にその間違いとはなにか言及することを拒んだが、この水不足の時代に1エーカーあたり詰め込めるだけのブドウを密植する流行はとっくに終わらせているべきだとだけ述べた。 また、ロンドンでは、私も心から賛同できる想いを彼が口にした。「私たちのブドウを使ったワイン醸造者がもっとロンドンでそのワインを紹介するようになればいいですね。そして1990年代のナパのビッグで過剰な抽出をされたワインのイメージを覆してほしいものです。」イギリス人がVHR2018に200ポンドを払うようになるにはどれほどの偏見を捨てなくてはいけないのだろう。上質なポムロールになら喜んで支払う価格なのに。 ヴァイン・ヒル・ランチと提携しているワイナリー Accendo Arrow & Branch BOND Colgin DVO マヤ・ダラ・ヴァレとトスカーナのオルネライアのパートナーシップ。2018ヴィンテージが間もなくリリースされる。 Etude Lail Vineyards Keplinger Wines Nigel Kinsman's project with the new owner of Bella Oaks vineyard Kinsman Eades Memento Mori TOR アトリエ・メルカのメイヤン・コスチスキーの新たなプロジェクト VHRの6ヴィンテージに関するテイスティング・ノートはこちらを、アメリカに関わらず各国の取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。 (原文
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