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機転の利くサヴォワ

Saturday 6 June 2020 • 5 分で読めます
Mont Granier overlooking vineyards in Savoie

この記事の背景として、A wallow in Wink winesも参照のこと。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

サヴォワは次のジュラとなるのだろうか?この疑問はこのウェブサイトのコンセプト、ワインという文脈に乗っていなければ間違いなく意味不明なものだ。だが多くの流行に敏感なワイン愛好家たち、とくにソムリエにとってこれは非常に意味のある問いだ。

フランスの東の国境に押し付けられるように存在するこれら二つのワイン産地は、多くのワイン本の中でひとくくりにされることが多いが(それは罪と言える)、アルプスに近いと言う点以外の共通点はほとんどない。

世界にその名を知らしめるという意味ではジュラの方がサヴォワよりもゆうに10年は先行している。サヴォワのワインには休暇でスキーに行った時ぐらいにしか出会わない。それに比べてジュラは、21世紀初頭に若いワイン愛好家の間で見られた、高スコアを狙って人気を博したワインへの反動の波にうまく乗った。これは生産者側の賢いマーケティング戦略というよりは、影響力のあるソムリエがうまくソーシャルメディアを利用しワインの流行を作ったのが大きな理由だ。

ニューヨークのワイン専門家、アナ・リサ・カンポス(Anna-Lisa Campos)は、「私がトム・コリッキオのクラフト・バーを2007年に始めたころ、人々はジュラのワインについてオタク的な発掘精神という文脈で話していることが多かった印象です。その無名なイメージから脱却し始めたのは2009年ぐらいだったと記憶しています。私のように若く新参のソムリエや小売店スタッフたちにはブルゴーニュを定期的に楽しむお金はありませんでしたが、ジュラ(あるいはクリュ・ボージョレ)のワインなら買えたんです。『かっこいい』ものを知っていることは自分たち自身も楽しかったですし、それをお勧めした、何事にもオープンで好奇心の高い私たちの顧客もまたそれを楽しんでいました。」と思い起こす。

イギリスのマスターオブワインでノーブル・ロットのマーク・アンドリューは、ビジネス・パートナーのダン・キーリングと共に自分たちのワイン・バーをロンドンで2015年に開店する前、最新のワイン・バーを偵察するために訪れたパリで、ジュラ・ワインの盛り上がりを目にしている。「ジュラに対する情熱はヴィヴァン(Vivant)やル・ヴェール・ヴォレ(Le Verre Volé)、セプティム(Septime)などではっきり感じられましたね」彼は海峡を越えて向かった偵察旅行を思い起こし、「地元の、固有で、信用できて、小規模生産で、手作りのワイン。そして何よりナチュラル・ワイン (和訳)の台頭」がカギだったと語る。

日本は自然派ワインへの情熱が東京でのサヴォワ人気がニューヨークよりも早く、そしてイギリスでその存在感を強く示す前から盛り上がった。ロンドンでジュラの生産者たちがテイスティングを開催したのはようやく2013年になってからのことで、翌年にはイギリスのワイン・ライター、ウィンク・ローチ(Wink Lorch)が自費出版で「ジュラ・ワイン」を著した。これはジュラについて語った英語で書かれた初めての書籍だ。マンハッタンで影響力の強いワイン店で開催されたイベントでは彼女は「ジュラ・ワインの女王」と呼ばれ、顧客たちに流行のジュラを特徴づけるヴァン・ジョーヌや、サヴァニャン、プールサール、トゥルソーなどの品種に親しんでもらうことに一役買っていた。下の写真は彼女のパートナーだった故ブレット・ジョーンズ(Brett Jones)が2013年に撮影した、クリスティ・フランクの経営するフランクリー・ワインズの外に立つウィンクだ。

ローチの2冊目の著書は「ワインズ・オブ・ザ・フレンチ・アルプス~サヴォワ、ビュジェイほか」で、昨年末に自費出版したが(書籍版およびe-ブックともwww.winetravelmedia.com/shopで購入可能だ) 、ジュラのファンに、南部の山深い地域で作られているワインを発掘することを強く勧めている。とはいえ、現時点でそれらはフランスの外では見つけることすら困難だろう。ジュラのワインが1990年代に栄華を極めたスタイルよりフレッシュでライトなワインを求める声に答えたとすると、サヴォワのワインはさらにライトでフレッシュなスタイルだ。

その理由の一つはブドウ畑が美しいアルプスを望む標高の高い場所に位置することではなく(平均的な標高は例えばアルザスより少し高い程度だ)、国境を越えたスイスと同様に収量が比較的高いことだ。この地では急斜面にあり作業のしづらい畑から生活の糧を得るためには、1本のブドウからできるだけ沢山のワインを作るべきだと信じられていた。しかし現在ではその考えも変化しており、新しい世代のワイン生産者はその未来が量よりも質をとることにかかっていると認識している。今こそ、それを発展させるべき時だ。

サヴォワでは白ワインが多く生産されており、ピュアで洗練された、しばしば花やハーブの香りに彩られ長い余韻を楽しむことのできる、まさにアルプスを味わうようなワインというのが特徴だ。だがそれらのワインをひとくくりに一般化することはばかげている。ブドウ畑は広い地域に散在しており、その多くが丘にあり、その斜面の向きも標高も全く異なるためだ。ローヌのようにこの地を縦断する氷河とモン・グラニエは1248年に崩壊し、2016年にも小規模な崩落を起こしているが、この多様な地勢に大きく貢献している。

この地にある2,100 ha の畑は23ものサブリージョン(クリュ)に分かれており、それらはラベルに表記されるのだが、ローチがこの地について仲間のワイン・ライターたちのためにオンラインで先月プレゼンテーションした際、それはまさに「狂気だ」とコメントしていた。その一方で、ほぼ同じ面積のバローロの畑を180以上のクリュに分けようと言う案に反対した愛好家はほとんどいなかった。おそらく我々は慣れるしかないだろうし、例えばアクセントが強かったり弱かったりする同じQuenardという8つの生産者を区別するべく最大限の努力をしなくてはならないのだろう。

サヴォワの夏は非常に暑いこともあるが夜は標高の高い畑ではかなり寒くなり、霜や雹の被害も最近は多くなってきた。昨年はシャンベリーの南にあるアプルモンの畑100 haがたった20分間のひどい雹によって2019の収穫を失うという憂き目にあっている

非常に狭い渓谷という地形は地元の品種のるつぼを形成し、数少ない例外はあれど、それらが外に出ていくことはほとんどなかった。ジャケールは最も多く栽培されている品種で、その真の特長を発揮させるためには多くの努力を必要とするが、ドメーヌ・デ・ザルドワジエールやドメーヌ・デ・トレーズ・リュンヌのような作り手はそれを成功させている。ただ、一部のワインはヴァン・ド・サヴォワで規定された地域の外で栽培されたブドウを使っているため、地元のために造られた、実際にはアペラシオンではないヴァン・デ・ザロブロージュとしてしか販売することができない。この名はもともとこの周辺に住んでいたゲール民族の名を思い起こさせる。ジャケールはクレマン・ド・サヴォワの上質なベース・ワインにもなる。

アプルモン 2018年 蔵出し品 ドメーヌ デ トレーズ リュンヌ元詰 AOPヴァン ド サヴォワ アプルモン(ジャケール種100%)Apremont 2018 Domaine des 13 Lunes AOP Vin de Savoie Apremont
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デリケートなアルテス、別名ルーセットは、今や他のローヌ品種と共に世界中で栽培されているルーサンヌ同様、特に上質な地元の白ワイン用品種の優等生で、リッチでアロマティック、ハーブの香りがすることが多い。注意しなくてはならない点は、サヴォワではルーサンニはベルジュロンとして知られ、そのほとんどがシャンベリーのすぐ南にあるクリュ・シニャンで生産されている点だ。特に私が気に入ったのは花のような香りのグランジェという品種で、ジュネーヴの東の丘、クリュ・エーズにある革新的なドメーヌ・ベリュアールによって再び日の目を見ることとなった。

サヴォワの赤ワインは見過ごされがちだが、最も有名な赤ワイン用品種はモンドゥーズで、最近高貴なシラーと近い親戚だと判明した品種だが、これは心躍るようなコショウの香りが効きつつも非常に軽やかな、まさに21世紀のスタイルに仕上がる。

お薦めのサヴォワのワイン
アルパイン・ワインズ(Alpine Wines)では「サヴォワを知る」6本とウィンク・ローチの本のセットを144ポンドで提供している。

スパークリング
Dom Belluard, Les Perles de Mont Blanc NV Savoie, Ayze (Gringet)
$27 Gordon's Fine Wines & Liquors, Waltham, MA

白ワイン
Dom Belluard, Les Alpes 2018 Savoie, Ayze (Gringet)
£27.78 Les Caves de Pyrène, £31.99 AG Wines, £33 Buon Vino

Philippe Grisard Mondeuse Blanche 2015 Savoie, Cruet (Mondeuse Blanche, a parent, along with Dureza, of Syrah)
Alpine Wines sell the 2013 and 2019 for £24.88

Dom Jean Perrier et Fils, Ch de Monterminod 2017 Roussette de Savoie, Monterminod (Altesse)
Imported into the UK by Alliance Wine

Gilles Berlioz, Les Filles 2015 Chignin-Bergeron (Roussanne)
£36.50 Vine Trail

赤ワイン
Dom des Côtes Rousses, Les Montagnes Rousses 2017 Savoie, St-Jean-de-la-Porte (Mondeuse Noire, rare relative of Syrah, possibly a grandparent)
£28.50 Vine Trail

テイスティング・ノートはA wallow in Wink winesを、国際的な取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

原文

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