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和食と合わせる飲み物は

Saturday 15 June 2019 • 7 分で読めます
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訳注;本記事はジャンシス来日時の経験をもとに書かれていますが、一部日本人から見て違和感のある表記および誤解が見られました。

そこで大橋MWの発言内容については大橋MWご本人に確認し、その意図を正確に反映した文章にして掲載をしています。そのため一部英語の表現と異なる部分があります。
また、日本人から見て誤解があると感じた部分はジャンシス本人に確認し、原文そのものの修正をお願いし、それを反映した訳にしてあります。その修正についてはジャンシスおよびジュリア・ハーディングMWが迅速かつ的確な対応をしてくださったこともここにご報告します。


和食のニュアンスを持った料理の人気は日に日に高まっている。それらのワインとの相性はどうだろうか?この記事の別バージョンはリチャードが最近書いたワインと料理のペアリングに関する記事に続くものとしてフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

ワインは和食にとって第一選択となる飲み物ではないかもしれないが、最近私は日本のワインと食の専門家たちと共に日本で数日間を過ごした。おそらく想像に難くないとは思うが、最高のペアリングは和食の食器の上で織りなされる複雑さ同様、非常に難解であることを考慮しても、私はその組み合わせが実は非常にうまくいくものであることを確信した。

大橋健一は日本在住日本人初のマスター・オブ・ワインで、悪名高い難関の試験を2015年にパスした人物だ。彼はマスター・オブ・サケ(日本酒)でもある。大越基裕は日本で最も尊敬を集めるソムリエの一人であり、ワインに注力したベトナム風レストラン、アン・ディの経営者でもある。彼らは共にJALのワイン選定の責任者でもあり、日本では様々な場面でワインと料理のペアリングに関するコンサルタントとして活躍している。

私は和食とワインをペアリングする理論について彼らに多くの質問をし、彼らがそれぞれの料理に合うと選んでくれたワインと、そられに関わる主要な日本の料理用語を通じそのペアリングを体験する機会を得た。また、イギリス生まれ、ニュージーランド育ちで日本のワイン業界で20年以上働くカール・ロビンソンの助言も得た。

日本の外で最も人気のある和食と言えば、しばしばテイクアウトで購入され、ワインとかけ離れた環境にあることが多い寿司と刺身だ。だが高品質の寿司や刺身が注意深く提供された場合、白ワインが通常の選択肢であり、シャンパーニュや日本酒もそうだと言えるだろう。我々は港区にある小さな「すし藤森」でコース料理を楽しんだ。そこでケン(訳注:大橋MW)が選んだのは非常に変わったシャンパーニュ2007、山梨県の品種である甲州を使った単一畑の1本、イーベン・サディの作るスワートランドのブドウをブレンドした素晴らしいスピオンコップ、そして友人でもあり、MWでもあるリチャード・カーショウの作る、これも南アフリカの繊細なシャルドネだった。

これらすべてのワインは食事をよく引き立て、また食事もワインを引き立てた。これは樽の効いたシャルドネ、とくにブルゴーニュの白が和食にはやや重すぎるのと対照的だと言えよう。ケンは特にオーストラリアの特徴的な辛口白ワイン、きりりとしたハンター・ヴァレーのセミヨンの大ファンで、特によく瓶熟成したスタイル(ハンター・セミヨンはこの上なくよく熟成する)については「岩塩のニュアンスを生魚に添えたものにはこのワインと共通するセイバリー(Savoury; 訳注参照)な風味がある」と話した。
訳注;Savouryは「旨味」「甘みのない」などと訳せますが、多くのニュアンスがあり一言で日本語にできない単語なのでカタカナにしています

彼は寿司職人が寿司に塩を使うか醤油を使うのかによってワインの選択は変わると主張し、それは酢の品質や産地にもよるのだと話した。藤森ではすし酢に淡いレモン色の米酢を使っていることを指摘し、その場合はワインに強いセイバリーな風味は必要ではないと述べる一方、「赤みがかったすし飯の場合は酒粕を原料とする赤酢を使ったものです。赤酢はアミノ酸や有機酸の含有量が一般の米酢よりも高く、酢飯により複雑さがもたらされます。だからよりセイバリーなワイン、例えば熟成したリオハなどがお薦めです。」と話した。

タンニンの強い(若い)ワインは寿司や刺身とバランスが取れないので論外だが、ケンによると日本人はほんのわずかに刺身を醤油に浸すだけなのに対し、私たち西洋人は醤油をたっぷりつけがちで、そのように醤油にどっぷり浸った刺身には柔らかい赤ワインならうまくいくと言う。

醤油は塩分がありかつセイバリーだから、セイバリーで柔らかな赤に合うとのことで、ケンのお気に入りはエトナの斜面から生み出される熟成したネレッロ・マスカレーゼだそうだ。もう一つのケンお気に入りの魚の友は溌溂としたオーストリアの赤ワイン用品種、ブラウフレンキッシュだ。正直言うと私は普段はそういった規範に縛られた緻密なワインと料理のペアリング理論に対し懐疑的で、聞いていて苛立つことも多いのだが、ケンとモト(訳注;大越氏)が真剣に彼らの経験を議論する様子は、確かに納得のいくものであることに気づいた。

彼らはピノ・ノワールが一部の寿司に合うことも断言したが、醤油があると口の中でぶつかってしまうとも指摘した。一方サンセールは生魚にユズやレモンを一絞りすると非常に相性が良い。シャンパーニュ、特にブラン・ドブランは魚臭さにも非常にうまく対抗できるため素晴らしい相性だ。また日本の甲州は果皮が厚いため、過剰になることなくワインに程よく噛み応え(=chewy訳注;タンニン(フェノリック)の存在を暗に指す)を与え、白身の生魚の味わいに共通する、禅のような中立的な味わいを持っているためにとてもよく合う。

カール・ロビンソンからすると寿司や刺身に合わせるなら明らかに第一選択となるのはシャンパーニュだそうだ。だが彼はヴァン・ジョーヌもいいのだと話す。さらに一般的にロゼ・ワインは日本の料理によく合うことから少しずつその価値が認められ始めているとも指摘した。

ケンのお気に入りの和食は天ぷらだ。日本人が非常に得意とする、サクサクとした衣のついた様々な素材の揚げ物だ。ここでもまた、正確な素材の違いがワインのペアリングを決める。日本の天ぷらで最も一般的に使われる揚げ油は綿実油を主体にした植物油だが、重めのごま油の比率が多ければ重めの白ワイン、典型的なカリフォルニアのシャルドネなどがお薦めだ。ブルゴーニュやオーストラリアの軽めのシャルドネはケンやモトが植物油主体の天ぷらに合うと話した。サンセールやグリューナー・ヴェルトリーナーもよく合う一方、あまりにフルーティで香りの高い品種は日本人にとっては強すぎると捉えているそうだ。モトとケンが最近名古屋の一流店でアドバイスを求められた際、ブリュンデルマイヤーのグリューナーが非常によく合うことがわかったが、驚くべきことに甲州のオレンジ・ワイン(赤ワインのように果皮と接触させて作った白ワイン)も合ったのだという。一方でジョージアのクヴェヴリで熟成させた噛み応え(chewy)のとても強い白ワイン(訳注=オレンジ・ワイン)はあまりよくなかったとのこと。もう一つ明らかに素晴らしいパフォーマンスを見せたのがコンティーノのリオハ白だったというから、おそらく他のビウラやマカベオ主体のワインもうまくいくのだろう。

一つ言い添えておきたいのは、ロンドン―東京間のブリティッシュ・エアウェイズのフライトではシュロス・ゴベルスブルク・グリューナー・ヴェルトリーナー2018カンプタールが、機内で提供されるそこそこの和食と特によく合った点だ。2月にWine in the air (和訳)に書いた状況よりも一歩前進したことを示しているのかもしれない。

甘い醤油だれに浸したアナゴは本格的な天ぷら店で最後の一皿となることが多いが、これには柔らかく甘やかで特徴のある赤ワインがお薦めだ。軽めの南ローヌで、タンニンが強すぎず、ガリッグのハーブ香を感じられるものや、長期熟成させたリオハ・グラン・レゼルバなどが合うだろう(かつて私は日本で入手可能なワインの種類が少ないと不満を書いたことがあったが、今は全く違う)。

そば店は細く灰色の麺を冷温両方提供する店で、日本では人気が高い。日本酒やビールが通常それらのお供だが、流行に敏感な店では今や興味深いワインが提供されていることもある。赤ワインは強すぎる傾向にあるが、スパイシーなロゼはうまくいく。モトのお勧めは非常にセイバリーで軽やかな自然派の赤ワインを、そばつゆに浸して食べる冷たいそばに合わせることで、グルタミン酸と旨味が多く含まれるためうまくいくのだそうだ。温かいそばはワインの味に勝ってしまうことがあるため、日本酒の熱燗がお薦めだ。

焼き鳥は様々な鶏肉を竹串に刺したもので日本では特に人気が高いが、塩気、甘み、そしてスモーキーな味わいに支配されていると感じられる。ケンがお薦めワインを選ぶには鶏が放し飼いかケージ飼いかで変わると言うことを想定しておくべきだった。前者なら肉質に弾力があるので、彼は柔らかい赤、ライトボディのシラーやピノ・ノワールを選ぶと言う。「もし塩で食べるのであれば、最初に白ワインを試しますね。でもブルゴーニュ白のマロラクティックの特徴は邪魔になるし、マロをしていない白は酸が高すぎる。オーストラリアのシャルドネはかなりいいですね。草の香りのするソーヴィニヨンもフレッシュさを与えてくれるし、ギリシャのアシルティコもすごくいいです。口の中に感じる味わいに締まりがある必要があります。北イタリアの、例えばガヴィとかもいいんじゃないでしょうか。それからもしニンニクの要素があればゴーデリョ(優れたガリシアの白ワイン用品種)ですね。」彼は後でゴーデリョはオイルの強いサーディンや、小エビにも酸が高すぎず、オイルとぶつからないためよく合うのだと話してくれた。

伝統的な、コースで提供される日本の懐石料理はかなりの難問だ。ケンとモトは万能な、シャンパーニュのようにコースを通して口の中をリフレッシュしてくれるものを提案した。「やや熟成した」ものの方がセイバリーな味わいが出てくるのでより好ましいそうだ。「酸は絶対に必要だと思います。だから暑い産地のワインはよくありません」ケンは断言した。大阪で最高級の懐石料理に彼とモトが選んだ9つのワインにはイギリスのスパークリング、軽いエトナの赤、イスラエルの白、古木から作られるチリの軽い赤などが含まれていた。

個人的に脂が非常に多く乗った和牛はやや重すぎると感じたのだが、これほどの脂がある場合は白が驚くほどよく合った。ただしこの場合、その脂と対抗するためにもフレッシュでレモンのような酸があると同時にやや重さもある必要がある。ふさわしい候補としてはアシルティコ、ハンガリーの辛口フルミント、南アフリカのスワートランドのシュナン・ブランなどが挙げられる(ケンが提案しているワインは全てマスター・オブ・ワインの試験では確実に知っておくべきものだ)。彼は多くの日本人は赤ワインを選ぶだろうと認め、おそらくコショウのニュアンスを感じられるローヌやニュージーランドのホークスベイのシラーなどだろうと話したが「でも私のスタイルは白です」とのことだった。

私は脳内で我々西洋人が出会う様々な和食を思い起こし、レストランNobuの有名な銀鱈の西京焼きを話題にしてみた。「白身の魚は日本人にとって塩焼きが定番ですが、同じく広く知られる西京焼きには甘みが加わりますね。」ケンから見るとNobuの料理は日本とアメリカをどちらの文化圏にとっても、お互いにわかりやすくその料理文化をつなぐ努力の賜物であり、ワインに合う和風の料理として理想的なものだそうだ。そんなNobuの料理の多くには辛口の白が特によく合うだろうと話した。そこで私は前回Nobuの共同創立者でレストラン経営者でもあるドリュー・ニーポレンとニューヨークの最新の支店でランチをした時のことを思い出した。その時私は彼にとって初めてとなる、辛口のリースリングをワイン・リストに載せてはどうかと提案していたので、ケンの話を聞いてうれしくなった。

日本のラーメンに合わせるワインは、と尋ねるとケンはただ深くため息をついて「難しいね。。。とても難しい。」と言った。

お薦めの日本ワイン

地球温暖化は他の国同様日本のブドウ栽培にも変化をもたらしてきた。最北の島である北海道にブドウがどんどん植えられるようになり、それに伴って地価も上昇してきた。ブルゴーニュのエティエンヌ・ド・モンティーユは北海道で増え続ける生産者の一人だ。また、必要最低限の添加物しか使わない自然派ワインは特に日本では人気だ。

以下が最近の日本訪問で楽しんだワインだ。

白ワイン

シャトー・メルシャン、岩出甲州きいろ香 キュヴェ・ウエノ 2017 山梨

10R ソーヴィニョン・ブラン2017 北海道

農楽シャルドネ2016 北海道

10R ケルナー 2013 北海道

赤ワイン

カプチェット・ランブルスコ2016 名古屋 (訳注:原文がCappuccetto Lambruscoとあったのでそのまま訳していますがアズッカ エ アズッコのブリュット・ロッソと思われます)

農楽・ルージュ (ピノ・ノワールとメルロ) 2017北海道

10R ピノ・ノワール 2014北海道

原文

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