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ラ・フルール・モランジュ~大工さんのワイン

2015年7月18日 土曜日 • 5 分で読めます
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これはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。関連するテイスティング・ノートも参照してほしい。

1990年代、ジャン・フランソワ・ジュリアン(Jean-François Julien)は大工でワインのことは何も知らなかったが、シャトー・カノン・ラ・ガフリエールのオーナー、グラフ・ステファン・フォン・ナイペルグ伯爵(Graf Stephan von Neipperg)から家具の補修を請け負っていた。その彼がサンテミリオンに所有する小さなワイナリーは今、当時の伯爵と同様の地位を謳歌している。シャトー・ラ・フルール・モランジュが2012年にグラン・クリュ・クラッセに昇格されたのだ。

ジュリアンには口ひげを蓄えた伯爵の育ちの良い上品さは見当たらない。その赤ら顔としわがれ声で笑い上戸なせいか、いまだに大工かラガーマンのようだが(彼はリブルヌのラグビー・チームのスポンサーでもある)、彼は間違いなく、その実践力を金(きん)に変えたと言える。

ジュリアンがワインに傾倒するようになったのは偶然だった。彼はブドウをサンテミリオンAOCの南東のはずれの地元、サン・ペ・ダルメンに植えたのだが、それは単に自治体が公営住宅用にその土地を手放すよう勧告してきたことに対抗する手段に過ぎなかった。「当時はワインのことなんて何も知りませんでした。」彼はあっさりと認めた。「ガレージ・ワインなんて聞いたこともありませんでしたしね。でもそれで利益を得たことは認めますよ。」

彼はもちろん唯一の右岸のガレージ・ワイン生産者というわけではないが、ボルドー右岸の小さなワイナリー経営者として、ジャン・リュック・テュヌヴァン(Jean-Luc Thunevin)の成功に影響された一人だ。テュヌヴァンのシャトー・ド・ヴァランドローは当初、非常に小規模な生産しか行っておらず、それこそガレージで十分作れる量でしかなかった。(今ではヴァランドローは美しいシャトーを所有し、カノン・ラ・ガフリエールの何倍もの価格でワインを販売している)

彼の初ヴィンテージは1990で、900本を意欲的な右岸のヴィニュロンスタイルで義理の父のガレージで生産した。その際彼が手にしていたのは地元の著名なエノロジスト、エミール・ペイノー(Émile Peynaud)の教科書だけだった。彼の妻、ヴェロニクの父は長いこといくつかのブドウ畑を所有していたがブドウは全て地元の農協に送っていた。

ジュリアンは地元の土壌の徹底的な研究を行い、その塵一つないミニチュア・セラーを私が昨春訪問した際にはサンテミリオンの土壌地図を特に熱心に見せてくれた。そこにはサン・ペ・ダルマンの彼の所有する区画が保水性の高い鉄分豊富な粘土質の密度が驚くほど濃いことが記されており、そのような土壌はポムロールのペトリュス、すなわち右岸で最も有名なシャトーが立つその土壌と同じだというのだ。私はなぜこれまで誰もそのことに気付かなかったのかと思わずにいられなかったが、ボルドーではブドウ畑用の土地を探すのは容易ではないことに思い当たった。フランスでは相当裕福でない限り、多くの場合は自分か配偶者が生まれ育った土地で人生を終えるものだからだ。

村の中で換地を繰り返し、ジュリアンと妻ヴェロニクはいま3.8ヘクタールの畑を所有するうち2ヘクタールはサンテミリオンで最も古い、樹齢100年とも言われるメルローの木が植えられている。また、右岸のクラッシックな品種であるカベルネ・フランも育てている。

現場主義、彼のワイン作りの技術を控えめに表すとそう言えるだろう。2000年、彼は自身でデザインし建築した小さいけれども型破りなワイナリーを砂質土壌の畑の横に建てた。その畑からは娘の名前にちなんだセカンド・ワイン、マチルド(Mathilde)が生み出されれる(私の撮影したジュリアンの写真は彼のブドウが壁に描かれた小さなワイナリーのキッチンで撮ったもので、発酵槽を監視するコンピューターパネルが壁に設置されている)。ブドウは手で除梗する。最も贅沢で時間のかかる作業だ。発酵は特別な温度管理のできる二重壁の、先端を切り取った円錐形の発酵槽で行われる。これはイタリアのワインメーカーがこよなく愛する形だが、その試作品は当時ボルドーでは全く人気がなかったため、ジュリアンはその製作者から安く買い取ることができた。圧搾器は古い型のバスケットプレスで今では非常に人気が高いタイプだ。

全てが高い場所に配置しているためポンプは必要ない。ジュリアンは彼のワイナリーがボルドー初の重力式ワイナリーだと熱烈に主張した。彼がこだわって選び抜いた新樽は垂木の上に上げられているため暖かく、柔らかさを出すマロラクティック発酵が促される。畑に関しては、「自社のブドウの種類はそれほど多くないんです。オーブリオンみたいなもんですよ。」と、サミュエル・ピープスが触れた1級シャトーの育苗所と比較して笑った。

手作業の除梗が地元の評判となり、最初の顧客を招きよせることとなった。南西地方の地方紙のカメラマンがやってきて除梗を完璧に行える機械があるこの時代に、この気の遠くなるような手作業での除梗を一風変わった家族が総出で行う様子をカメラに収めたのだ。

その写真が地元ワイン仲買人の目に止まり、ワインをテイスティングにやってきた。「彼は『ありえない』と言いましたよ。彼は私が誰かの助けを借りたんだと思ったようで、私がエミール・ペイノーの本を読んだだけだなんて信じられなかったようです。」その仲買人はサンプルをアメリカの右岸ワインの仲買人、ジェフリー・デイヴィス(Jeffrey Davies)に紹介した。彼は当時、アメリカ市場に凝縮感のあるモダンなスタイルのワインを安定して供給してくれるガレージ・ワインの生産者を探していた。デイヴィスはジュリアンのワインに繊細さを加えたほうが良いと考え、2002年にナルボンヌを拠点とするコンサルタント、クロード・グロを紹介した。私は2008年にグロにインタビューし、フランス南部、スペイン北部、スロベニアでの彼の事業について話したのだが、彼は自分から「ジュリアンはブドウが好きすぎて、一つ一つに名前を付けている」と教えてくれた。

この時までにジュリアンはテレビでテュヌヴァンのヴァランドローにつける価格についての番組を見ていたため、デイヴィスがラ・フルール・モンジェにどれほどの価格を付ける価値があると思うかと尋ねると彼は恐ろしいほどの高額を提案し、もし売れなかったら友達といつもそれを飲めばいいから、と陽気に付け加えたそうだ。「私はこのテロワールが唯一無二だと分かっていたんです。そして私の技術が唯一無二だということもね。」というのが彼の堂々たる言い訳である。彼によると、彼のブドウはサンテミリオンの他のブドウより生育が2週間早いという。畑が南東向きで風雨から守られているからだそうだ。ただし春の霜のリスクは高い。

デイヴィスはラ・フルール・モランジュ2000のサンプルを入手し、当時全能とも言えたアメリカのワイン評論家、ロバート・パーカーに送った。「僕は彼が誰か知らなかったんです」ジュリアンはそういってまた笑った。「トラクターで畑の木を刈り込んでいたときに最初の仲買人からの電話が鳴って、留守番電話が応対したんです。それからカスティヨン(最も近い町)にいる私の弁護士が携帯に電話してきて、私にまず座るようにと言いました。てっきり誰か死んだんだと思いましたよ。」それから弁護士はパーカー・ポイントの100点満点中93点の凄さを説明したが、その必要はほとんどなかった。ジュリアンは彼の商品全てを比較的安価で、それでも非常に強気な価格で20分で売ってしまったのだ。

「帰宅するとファックスはネゴシアンからのメッセージでいっぱいでした。」ジュリアンは自らデザインした小さなワイナリーのキッチンで喉を鳴らして笑った。そこではブドウのひげが壁を這い、発酵槽用のコンピューターパネルを囲んでいる(上のややピンボケの写真を参照のこと)。「みんなはまぐれに違いないと思っていますが、2001もすごくよかったんです。ほとんどペトリュスですよ。それも全部売っちゃいました。」

ところが、けして全てが順調にはいかなかった。この突然の収入の増加に伴う税金を払えなかったのだ。しかもいわゆるガレージ・ワインが以降あっという間に流行遅れとなってしまった。だが、ジュリアンのイギリスのインポータであるインタレスト・イン・ワイン(Interest in Wine)のニック・ステファン(Nick Stephen)によると、ラ・フルール・モランジェ(年間総生産量5500本)を売るのに困難を感じたことはなく、より手の出しやすいマチルド(同12000本)は特にアメリカでの人気が高いそうだ。「カルトなファンがいるんです。」私はそのことを中国でも感じることとなった。

私がラ・フルール・モランジュに初めて出会ったのは2008年、大規模なボルドー右岸2005のテイスティングだった。その際ファー・ヴィントナーズ(Farr Vintners)のステファン・ブロウェット(Stephen Browett)と私は揃ってこの謎のワインがオーゾンヌかパヴィ、すなわちグラン・クリュ・クラッセから二段階も格上の高尚な4つのシャトーのうち2つだと思ったのだ(2008年の記事を参照のこと)。2012年にはグラフ・ステファン・フォン・ナイペルグ伯爵のカノン・ラ・ガフリエールがラ・フルール・モランジュより一段階上に昇格した。何かあるのだろうか?

原文

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