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古木を守れ

Saturday 10 April 2021 • 6 分で読めます
Old vine stumps on Etna

古木を再評価する必要性にまつわるこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。上の写真はエトナのブドウで、プロの古木剪定師Simonit & Sirch の提供だ。(Image of ancient Etna vines supplied by master pruners of old vines, Simonit & Sirch)

世界で最も興味深いワインと呼べるものの中には非常に樹齢の高いブドウで作られたものがある。イギリスを拠点とした新たなプロジェクト、ザ・オールド・ヴァイン・カンファレンス(古木会議)は、それらの保護を目的としている。

クローン、台木、そして畑のデザインに従って仕立て方を選ぶことは栽培者にとって長期的視点を要する仕事だ。しかし、場合によってそれほど長期的とは呼べないこともある。ブドウは25年ほどするとつける実の数が次第に減っていく。そのため、商業的、経済的な面を考慮すれば30年ほどで植え替えを検討することが多い。それ以外にも、台木を土地の環境に合わせて変更したい、あるいは品質のよいクローンを導入したいなど、様々な理由で植え替えが選択される。一方で、一般的に樹齢が35年を超えるブドウは味わいに溢れ、凝縮感の強いワインとなるとされており、それは深く広い根系を確立して土地の環境、特に水分状態になじむためだと考えられている。低くなった収量のおかげで果実は凝縮感が高まるというわけだ。

そうした背景もあって、ブドウ自体は100年以上も生き永らえることができるにもかかわらず、歴史的に持続性と効率を求めてワイン生産を行ってきた産地や国ではブドウをおよそ30年ごと、あるいはもっと頻繁に植え替えることが一般的だ。これがフランスの伝統的な生産地で非常に樹齢の高いブドウが少ない理由の一つでもある。だがフランスのワイン生産者たちはヴィエイユ・ヴィーニュ(古木)という言葉をラベルに自由気ままに記載する。EUの諸国でも、アルテ・レーベンやヴィニャス・ヴィエハスのように同様の言葉が使われるが、その用法を管理する規則はない。(OCWの樹齢の項目を参照のこと)

本当に樹齢の高いブドウが存在し続けるのはその土地の環境によく馴染んでいるためか、引き抜いて植え替えをするコストが採算に合わないためのどちらかであることが多い。カリフォルニアは古木の宝庫と言えるほど古木が多くみられるが、禁酒法時代(1920年から1933年)にブドウの需要がほとんどなく、それを植え替えても採算が取れなかったことが理由の一つだ。

2004年に公開された映画「サイドウェイズ」でピノ・ノワールの人気が急上昇した際、特にカリフォルニア北部で多くの古木の区画がピノ・ノワールに植え替えるため引き抜かれてしまった。このあたりはゴールド・ラッシュ時代に渡米したイタリア人の末裔によってブドウが植えられた土地だ。そこで古木の価値を重要視する生産者たちは2011年に樹齢が50年以上のブドウを登録するヒストリック・ヴィンヤード・ソサイエティを立ち上げ、それらの所有者たちに保護を推奨するようになった。

だが現実的には、樹齢が高くなればなるほど枯死のリスクが高まり、植え替えの必要に迫られる。そのためヒストリック・ヴィンヤード・ソサイエティのルールでは、登録する畑の少なくとも3分の1以上が登録されている樹齢であることと定めている。

一方、このような運動を世界に先駆けて始めたのはオーストラリアで、2009年にバロッサ古木憲章を設定している。これはさらに早い時期から家族経営のワイナリーであるヤルンバが行ってきた活動をもとにしたものだ。バロッサには樹齢125年以上であるバロッサ・アンセスター・ヴァインの認証を受ける畑が10以上もある。ラングメイルのザ・フリーダム・シラーズの畑はどうやら1843年に植えられたもので、それよりわずか5歳若いグルナッシュはチリッロに存在する。これほど樹齢が高くなる理由の一つはバロッサ・ヴァレーのブドウ栽培で多くの割合を占めるシレジアからの移民たちの(文字通り)「保守的」な気質にあると言えるだろう。

しかし、正確にいつ何が植えられたのかという信頼性の高い記録は数少ないのが実情だ。その中で羨ましいほど精密な記録が残っているのが南アフリカだ。KWV当局では1918年以来ケープにおけるブドウ栽培とワイン生産を監督しており、それより前に植えられたブドウに関する記録さえも持ち合わせている。その点を鑑みると、南アフリカで2016年に始動したオールド・ヴァイン・プロジェクトは他の同様な取り組みと比較しても信ぴょう性が高いと言える。今日、樹齢35年以上の畑から作られるケープのワインは特別な「認定ヘリテージ・ヴィンヤード(Certified Heritage Vineyards)」のシールをボトルの首部分に添付することが許され、単一畑の場合にはそれに加えて植樹した日付まで記すことができる(今週の初めに書かれた、古木会議(Old Vine Conference)に関するタムの記事のメイン画像も参照のこと)。

一方世界最古のブドウの存在を主張するバロッサは、その主張を見直す必要があるかもしれない。例えばボリビアには樹齢200年を越すブドウがあるとされており、それらはブドウを畑の区画に囲い込む以前のもので、他の木を支柱代わりにしている。また、先日開催された古木会議では、ティム・アトキンMWがレオ・エラゾ(Leo Erazo)のア・ロス・ヴィニャテロス・ブラボス・パイスを紹介していた。そのブドウは2世紀以上前のものと思われているが、市販価格は20ドルをはるかに下回る。同じ地域から作られるウンドラーガの樹齢70年のサンソーもまた非常に安価で、ザ・ワイン・ソサイエティで1本たったの7.5ポンドで販売されているほどだ(すでに完売なのは当然と言えるだろう)。

oldvines.org の設立には、プロかアマチュアかによらず生産者とワインバイヤーの視点から古木の価値を高めることでブドウの価格を上げるという狙いもある。彼らの主張は、古木から作られたワインはそれだけで一つのカテゴリーを形成するだけの価値があるというものだ。古木会議では、この非営利団体の会員となるよう人々を増やすべく、この伝家の宝刀ともいえるブドウで作られたワインのテイスティングを行った。

世界のほとんどの古木同様、カリフォルニアや南半球で見つかる古木は一度も灌漑をされることなく、また湿度の高い気候で通気性を高めるため、そして生産性を高めるために有用とされる支柱を使った仕立て方ではなく、年々太くなっていく株仕立てで栽培されている。このことが深く、しっかりと確立された根系を発達させる助けとなり、必要最小限の水を吸収することを可能にし、味わいに溢れたブドウを生み出すことにつながったと考えられている。

ヨーロッパで非常に樹齢の高いブドウが多く見つかるのはスペインだろう。最近の会議で最も印象的だったプレゼンテーションは、ラマンチャで長い歴史を持つ家族経営のワイナリーを営むエリアス・ロペス・モンテロによるものだった(彼のVerumプロジェクトについてはフェランの記事を参照のこと)。彼は、たとえ目立たない品種でも、樹齢が高く、十分な手入れをすれば偉大なワインを作ることができることを証明した。ラマンチャの主要な品種は果皮の薄いアイレンで、長きにわたり濃縮果汁やスペインのブランデーを作るための原料として見下されてきた品種だ。だが1950年に植えられたアイレンから作るモンテロのラス・ティニャダスは昨年9月にこちらの記事でも紹介したが、もっともあり得ないと思われる場所に偉大な可能性があることを見せつけた。一方、スペイン全体を見渡すと、長年にわたり見過ごされてきたガルナッチャの古木が今や食欲を抜群にそそる赤ワインを生み出している。

本サイト恒例のライティング・コンペティションでは毎年異なるテーマを取り上げており、昨年のテーマはサステイナビリティだった。今年はパンデミックの状況が許すのであれば南アフリカへの旅行を賞品として、古木をテーマに据えた(詳細はこちらから)。我々も、できるだけ多くの古木を守っていきたいと考えている。それがたとえ、その比類ない生産物、すなわち1本のワインに払うお金が少々高くなるとしても。

*レオ・エラゾはチリの厳しいコロナウィルス関連の制限の中で2021年の収穫に追われる中、下記のように説明してくれた。

「イタタでは、ジャンシスも訪問されたのでご存知でしょうが、古木を目にすることは珍しくありません。ただ問題は、ブドウの区画は所有者とともに変わるため、それらがいつ植えられたのか正確な日付がわからないことが多い点です。」

「我々の畑の特別な点は、最初に植えられてからずっと同じ一族が所有してきたことで、フロリパ・システルナス(Floripa Cisternas)が1798年に植えたことがわかっています。」

「私はそれを4代目のアニバ・デイアス(Anibal Diaz;彼はもう80歳を超えています)から購入し、畑を管理していますが、彼の息子が継承したがらなかったこの畑の伝統を守るものとして私を選んでくれたことに心から感謝しています。」

古木のおすすめワイン

候補はたくさんあるが、すぐに頭に浮かぶものは下記だ。

白ワイン
Verum, Las Tinadas Airén 2019 Vino de la Tierra de Castilla, Spain 12%
From €13.40 in Spain, £20.95 Exel Wines

Maturana, Naranjo Torontel 2019 Maule, Chile 13.5%
£15.25 Corney & Barrow

Winter, Leckerberg Riesling Grosses Gewächs 2018 Rheinhessen, Germany 13.5%
€30 producer's website

Mullineux & Leeu Family Wines, Mullineux Old Vines 2019 Swartland, South Africa 14%
£25.99 Noel Young Wines, Hay Wines, also The Wine Reserve and Philglas & Swiggot

ヴィンテージ違い、6本セット

Alheit, Cartology 2019 Western Cape, South Africa 13%
From £32.95 Vin Neuf and other independents

ヴィンテージ違い

カルトロジー [ 2018 ]アルヘイト ヴィンヤーズ ( 白ワイン )
価格:4730円(税込、送料別) (2021/4/17時点)


赤ワイン
Bedrock, The Whole Shebang! Cuvée XIII California 14%
£17.50 The Old Bridge Wine Shop

Pedro Parra, Imaginador Cinsault 2017 Itata, Chile 14%
£18.10 VINVM

Verum, Ulterior Garnacha Parcela No 6 2017 Vino de la Tierra de Castilla, Spain 14.5%
£19.95 Great Wine Co

Ridge Vineyards, Geyserville 2018 Alexander Valley, California 14.7%
£38.40 Mayfly Wine and other independents

ヴィンテージ違い

ガイザーヴィル [2017] リッジ ヴィンヤーズ ( 赤ワイン )
価格:8580円(税込、送料別) (2021/4/17時点)


Mount Edelstone Shiraz 2015 Eden Valley, Australia 14.5%
£116.50 Eton Vintners

その他の取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

まだまだ完全とは言えないが、「ジャンシス・ロビンソンの古木一覧」と、古木に関する70本以上の記事もぜひ。

原文

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