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太平洋を越えて運搬される空気

Saturday 3 July 2021 • 6 分で読めます
Tian Jin port in China

この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

ガラス瓶が二酸化炭素排出量に大きな影響を及ぼすことを知り、ローズマリー・ケークブレッドは自身がナパ・ヴァレーで作るガリカのワインに使う軽量ボトルの選択肢について調査を始めた。その徹底的な調査から得られた失望に満ちた結果を、彼女はメールでこう書いてよこした。「西海岸で入手可能なガラス瓶はその多くが中国製でした」。

アメリカの貿易データによれば、2018年までの5年間に中国からアメリカへ輸入されたガラス瓶の数は55%増加し、21億本に達した。業界の試算では同年アメリカでワインの瓶詰めに用いられたガラス瓶の70%が中国産で、その比率はその後も増加し続けている。それを反映し、アメリカ国内のボトル業界は縮小を続けている。2005年から2011年の間にアメリカのガラス容器工場は11軒が閉鎖し、残るは43軒となった。経済回複雑性観測所(OEC)の試算では2019年、アメリカのガラス容器の輸出入に関する赤字は12億2千万ドルだ(これを知ると、バージニア州にあるトランプ・ワイナリーが使っているボトルの製造国はどこなのだろうと思わずにはいられない)。

一般に使われる750mlのガラス瓶の重量は400g以下のものから1kgを超えるものまで様々だ。重くなればなるほどそれを製造し、輸送するための二酸化炭素排出量が増える。これらはまた、ワイン1本あたりの二酸化炭素排出量の非常に大きな割合を占める。

この事実を知り、私たちはこの2月からテイスティング・ノートにボトルの重量を記載するようにした。特に重い、あるいは軽いボトルを使っている生産者がわかるようにするためだ。そのデータに基づいて話すとすれば、ワインに使われるガラス瓶の重さの平均値は550g前後であるとともに、アメリカやアルゼンチンの生産者が重いものを好んで使うこともわかっている。最近行った東欧諸国のワインのテイスティングでは、ジョージアの生産者、ダグラッツェの使っていたボトルが1025gもの重さだったのに対し、ルーマニアの生産者、クラメレ・レカッシュがつかっているボトルのほとんどはたった345gだった。レカッシュの共同経営者、フィリップ・コックスはこれらの軽いボトルは(太いブルゴーニュ型の方が直線的なボルドー型のボトルよりも軽量化するのが容易だ)輸送コストを10%削減できると指摘した。

カリフォルニアワイン協会によるワインに占める二酸化炭素排出量の要因:円グラフの左半分は全てガラス瓶の製造と運搬に関連したものだ。

ナパ・ヴァレーのローズマリー・ケークブレッドの仲間の多くは800g以上もするボトルを喜んで使っているようにも見えるが、彼女自身ははるかに軽量なボトルへの転換を真剣に考えている。ただ、彼女には中国産のボトルを使うという選択肢はない。「思うに」彼女はメールにこう書いている。「400gのボトルを購入して、わざわざ7000マイルもそれを運ぶことはサステイナブルではないですよね」。

地球の大気に与える影響があるにもかかわらず、空のボトルの輸送は世界中で増加している。イギリスでも需要の増加で国内のガラス瓶不足に陥った。例えば、ドバイ郊外にあるアル・タジール社からイギリスへは毎月200台ものコンテナでガラス瓶が輸入されている。もっとも、その主な用途はビールだ。ロンドン南部に拠点を置くガラス瓶業者クロクソンズは1872年からクロクソン一族の経営だが、2018年にアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの顧客に対応するため中国にある炉を買収した。2015年、ヨーロッパのガラス生産者組合FEVEのためにコンサルティング会社EYが実施した調査によれば、炉を出てから瓶詰めラインまで300㎞以上を移動するボトルの比率は44%だという。中国は世界最大のガラス瓶供給元で群を抜いているが、2番手に続くのはドイツだ。

国によっては単に国内に生産工場がないか、選択肢がほとんどない場合もある。例えばニュージーランドには生産者は1社しかないが、スミス&シェスのマスター・オブ・ワイン、スティーブ・スミスによればその品質はあまりに不安定で、彼はセイバーグラス(Saverglass)社から輸入している。彼に言わせるとフランスに拠点を置くこのセイバーグラス社は 「サステイナビリティに非常に長けていて、ガラスの質も一流」だそうだ。

サステイナビリティの意識が高まるにつれ、ボトル重量を減らすという喜ばしい傾向は広まってきている。2019年スタティスタの統計によれば、直近の10年間で平均的なボトル重量は30%減少している。イギリス最大の瓶詰め業者、アコレードは500g以上のボトルの比率を2017年の17%から2020年には3%にまで減らした。一方、同期間で390g以下のボトルが占める比率は24%から42%に増加している。だが、生産者の中には重いボトルを好む、あるいは顧客が好むと信じているものもまだまだ存在している。

クロクソンズが中国の炉に投資した理由の一つは重いボトルを供給することだった。彼らのウェブサイトにはこう記載がある。「クロクソンズの顧客の間ではガラス瓶業界がスーパープレミアム、あるいはプレミアムなボトルから離れ、軽くて標準的な重さのボトルへ移行する傾向を懸念する声が聞かれます。ブランドがそれに合致しない重さのボトルを使用する明白なリスクは、消費者が価格帯とボトルがもたらす美学の間に食い違いを感じてしまうことです」。

多くの人は、ボトルの重さとワインの品質に関連があると今でも思っているということだ。

セバスチャン・ズッカルディはアルゼンチンで最も尊敬を集める若手醸造家で、彼の会社はアルゼンチンにおける有機栽培の第一人者でもある。ところが、彼らは今でも非常に重い、900gのボトルをフィンカ・ピエドラやホセ・ズッカルディに使っている。彼に言わせると以前はもっと重いものを使っていたということだが、「この選択は消費者の嗜好に大きく関係しているんです。市場によってはボトルのサイズと重さが今でも非常に重要ですから」。

生産量の多いラングドックの生産者、ジェラール・ベルトランもまた、有機栽培の力強い提唱者だが、トップ・キュヴェには今でも重いボトルを使い続けている。彼の言い訳もよくある類だ。すなわち、重いボトルを使っているワインは総生産量のごくわずかにすぎず、他のレンジでは軽いボトルを使っているし、彼は地球環境のために畑でその責任を果たしていると主張しているのである。彼のような生産者の唯一の問題点は、高価なワインを重いボトルに詰めることで消費者に、良いワインは重いボトルに詰められていると印象付けてしまうことだ。

ただし現実には、世界で最も高価なワインはそれほど重くないボトルに詰められる傾向にある。例えばボルドーの1級シャトーで使われているボトルは500g程度のものだ。

チャカナはアルゼンチン最大級のビオデナミ生産者だ。ワインメーカーのガブリエル・ブロイスによれば、チャカナが10年前に軽いボトルに変更した際、ヨーロッパ市場では歓迎されたが「アメリカではボトルを軽くすることに反対の声が上がり、インポーターも売り上げにネガティブな影響が出たと言っていました。アメリカの、有機関連のインポーターはもちろん、軽いボトルを好みますが、アジア市場はまだ重いボトルを好みますね。でも重いボトルの意義は見た目だけで、ワインの味わいには何の影響もありません。そこで私たちは(軽いボトルを使うことで浮いた)お金をパッケージよりも(有機やビオデナミなど)ワインの質の向上に使うことに決めました。そうすることで品質が上がり、ガラスの使用量は減り、価格は安定しました」。

ギリシャの優れたアルファ・エステートのアンジェロ・イアトリディスもサステイナビリティには並々ならぬ努力を惜しまない。だがトップ・キュヴェのクシノマヴロには偽造防止という名目で887gのボトルを使うことを正当化している。彼もまた、セイバーグラスのファンだ。

ローズマリー・ケークブレッドのメールはアメリカに関する次のような見解で締めくくられていた。「こういったサプライチェーンの問題が浮き彫りになって、地元のガラス工場が再稼働する動きがみられています。地元で生産された軽いボトルを欲しがるワイナリーが増えれば、生産側もそれに気づき、選択肢が増えていくでしょう」。


サステイナブルな代替品

ガラス瓶の効率的なリサイクル
ガラスは不活性であり、熟成を視野に入れて作られた上質なワインには完璧な物質だ。二酸化炭素排出量の多さを考慮すればリサイクルすることが理想的だが、十分な量のリサイクルを実現できている国はほとんどない。例えば、アメリカの環境保護庁(EPA)による試算ではアメリカで生産されるワインボトルの約55%が毎年埋め立てに使われている。

地元でのガラスびん生産
世界最大のアメリカのワイン生産者ガロでは自社でボトル生産工場を所有し、地元の原料を用いて年間9億本以上のボトルを生産している。

リターナブル・ボトル
例えばアメリカでのゴッサム・プロジェクトなどがある

再充填ボトル
ロンドンのバラ・ワインズが先駆者だ

紙製ボトル
イギリスのイプスウィッチにあるフルーガルパック(Frugalpac)はガラス瓶の形をした、だがはるかに軽い容器を提案している。

リサイクル・プラスチックで作られた平らなボトル
イギリスを拠点とするギャルソン・ワインズのデザインによるもので、購入後すぐ消費するワインのために作られたもの(ソノマ州立大学の調査によればワインの90%は購入から2週間以内に消費されている)


特にアメリカで急速に浸透しており、非常に便利だ

画像はImage courtesy of stdaily.com 中国科技网提供

原文

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