ヴォルカニック・ワイン・アワード | The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト) | 🎁 年間メンバーシップとギフトプランが25%OFF

もう一人のサディ

Saturday 15 September 2018 • 5 分で読めます
David and Nadia Sadie and sons

この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。David and Nadia spread their wingsも参照のこと。

ボルドーやブルゴーニュの価格が天を突き破る勢いで上昇するにつれ、本格的なワイン収集家たちが高級ワインの新たな供給源を求めるのは道理だ。この上なく過小評価されてきた南アフリカは新進の生産者たちが個性的で長期熟成可能な、まぎれもなく南アフリカを表現するワインを赤も白も生み出している点から見ても今や十分考慮に値する産地となった。

ケープのワイン・シーンを注意深く観察している人なら誰しも、この文脈でまず挙げるのはサディの名前だろう。ケープで作られる新進のワインに焦点を当て、自身のサディ・ファミリーのワインをもってスワートランドを国際的なワイン地図に載せた人物こそ、尊敬すべきイーベン(イアービンと発音する*)・サディなのだから。
*訳注;日本語での一般的なカタカナ表記に合わせ本稿では「イーベン」としています

だが最近は別のサディも検討の対象として挙げられるようになってきた。その理由は明らかだが、デイヴィッド・サディは自身の作る一連の偉大なスワートランドのワインに名字は使わない。私が彼のワインと出会ったのは4年前、彼らのイギリスへの主要なインポータだったキャセイパシフィックのパイロットの自宅近くにあるコッツウォルズのホテルでのことだった。単純にデイヴィッドとラベルに記載されていた2012のグルナッシュはグラスから飛び立ち、ワイン・オブ・ザ・ウィークに着地した。今となっては爽やかなグルナッシュはグレドス山脈マクラーレン・ヴェール南フランスなどから作られるものが多くあるため珍しくはないが、2014年当時私はこのワインを「型破り。そこはかとないミネラル、美しくバランスがとれ、デリケートですらある。甘すぎず、食欲をそそり、間違いなく愛情をこめて作られている。まさに偉業だ!」と書いている。

そのワインが作られた頃、デイヴィッドと地質学者の妻ナディアは別の場所でフルタイムで働いており、レンタル・スペースで余暇を使ってほんの少量のワインを作っていただけだった。 2016は自分たちのワイナリーをパールデベルグの斜面に設立した最初の年で、ノルウェー人と地元民の共同所有、デイヴィッドの言うところの「ライフスタイル農園」だった。今では彼らは自社畑も所有すると同時に、スワートランドの多くの若手たちがそうしているように、握手だけの契約で他の畑からのブドウも購入している。

デイヴィッドはスワートランド族とでも言えるエネルギッシュな新生ワインメーカーたちの中でも普通ではない存在であることをとりわけ誇りに思っている。サディ家はドイツにルーツをもつが、18世紀以来スワートランドの(小麦が主要な作物の)農家だった。背が高く筋骨たくましく、デイヴィッドはどこから見ても農家の人間だ。彼の父は会計士で(おそらく彼らにとって非常に有益だろう)、弟(兄)はフランス南西部のアジャンでラグビーをしている。

投資家からの申し出は何度かあったものの、デイヴィッド&ナディア(彼らの決めたブランド名だ)は結局自分たちのまだ若い二人の息子に引き継げるような自分たちの農園が欲しいと考えた。さらにラグビー選手である弟が返ってきたときのための準備も進め、近隣の街であるマームズベリーにサワードーのベーカリーを開くことにしている。

南アフリカで農家であるということはその環境に存在する大きな社会的問題を無視することはできない。労働者により良い条件を提供するため邁進してきたワイナリー、ソルムス・デルタは一部の資金をアングロサクソン系の米国人、アスター家から受けていたが、ここの所破綻の危機にあり、政府が土地の一部を取得する可能性が出てきた。サディの恒久的なスタッフは4人の地元のホームレスだ。サディが「生物学的農業」と呼ばれる機械や農薬を使わない手法へ移行しているのは「(機械や農薬の代わりに)人を雇い、彼らに希望を与えるため」でもある

デイヴィッドとナディアは南アフリカ随一のワイン大学であるステレンボッシュで学んでいるときに知り合った。彼らが学んでいた2006年と2007年はちょうどワインメーカーとなる生徒の数がピークだった頃で、彼らの多くは仕事を見つけるために国外へ出なくてはならない状況だった。デイヴィッド・サディはシラーの故郷でもある北ローヌのイヴ・キュイユロンで働いた。彼とナディアが「週末ワインメーカー」として2011年から活動し始めようとしていた頃は、彼が「シーラー」と呼んでいた品種が自分たちの特別な品種になると考えていたが、次第に南ローヌの品種であり彼が「貧乏人のピノ」と呼んでいたグルナッシュの方が好きだということに気づいた。シャトー・ラヤスは最もデリケートなシャトーヌフ・デュ・パプとして知られるが、彼の手本はそれだ。彼はその安価なレンジであるピニャンを毎年数本購入している。グルナッシュは昨年と一昨年、ケープでの干ばつでその真価を発揮した。グルナッシュはシラーの半分しか水を必要としないのだ。ただし、デイヴィッドによれば彼らの無灌漑の畑では2018年の平均収量はわずか10hl/haしかなく、上質なフランスワインの平均の四分の一でしかない。

デイヴィッド&ナディアでは現在一連のグルナッシュの赤とシュナン・ブランの白を作っているが、花崗岩と頁岩の畑から彼らが魔法のように引き出した、引き締まりつつもざらつきを感じる躍動感によってそれら全てに命が吹き込まれている。彼らが手掛ける15の畑のうち10は平均樹齢が35年を超えるもので、南アフリカの尊敬すべき古木プロジェクトの対象となっている。一方、残念ながらケープでは良質なグルナッシュは不足している。これは最高級の古木であるピケナースクルーフのブドウについて厳しく、時には資金援助の絡む争奪戦が起こっているためだ。デイヴィッドとナディアがあえて長期的な目標をもちながら慎重に選んだ(クローンではない)グルナッシュを毎年1ヘクタールずつ植えている。おそらく彼らの息子たちが働き盛りになった時、これらもまた古木プロジェクトの対象となることを考慮しているのだろう。

彼らの長期戦略の別の側面は国際的な販売網を確立することだ。彼らのウェブサイトには21か国のインポータの名が連なり、熱狂的な南アフリカ専門家でアメリカへのインポータであるロードアイランド州のパスカル・シルト(Pascal Schildt)の名もある。彼らはイギリス市場でも紆余曲折を経たもののようやくセントジェームス通りにうまく着地し、サディ家がスワートランドに居を構えたと同じころに設立された伝統的なワイン商、ジャスティリーニ・ブルックスの豪華なリストに載ることとなった。

ジャスティリーニ・ブルックスのリストですら(ケープ・タウンで支払うものよりはるかに高いのだが)私から見れば品質に比べて馬鹿々々しいほどに安すぎる。彼らの単一畑のワインはホア・スティーン(Höe-Steen)とスカリーコップ(Skaliekop)の畑のものがあるが、6本あたりの保税価格が240ポンドだし、輝かしい白のブレンド、アスタルゴス(Astargos)はたったの105ポンド、これ以上ないほど空気感のあるピノタージュ(スウェーデンの専売公社でも売られている)は175ポンドだ。一級の品質のワインが五級の価格で売られているのだ。

一方、通りを挟んだジャスティリーニのライバル、ベリー・ブラザーズ・ラッドはザ・サディ・ファミリーのワインを輸入しているが、これもまた優れた古木の驚異から生み出されるものでデイヴィッド&ナディの現行品よりはやや変化に富んでいる。あまりに人気が高いのでベリーズの小売サイトではめったに特集を組まれることはないが、その価格はもう一人のサディのものよりもはるかに高い。ザ・サディ・ファミリー2015コルメラの現在の価格は6本で425ポンドだ。もしデイヴィッド&ナディのワインが今の価格を維持するとしたら驚くべきことだ。

白ワイン

Aristargos 2017
340 rand, Wine Cellar, 南アフリカ
£105、 6本あたりの保税価格、Justerini & Brooks

Skaliekop Chenin Blanc 2017
595 rand, Wine Cellar, 南アフリカ
£240、 6本あたりの保税価格、 Justerini & Brooks

Skaliekop Chenin Blanc 2016
605 rand, Wine Cellar, 南アフリカ
£52 Vin Cognito; £52.99 Handford Wines

Skaliekop Chenin Blanc 2014
£49.99 Handford Wines

Höe-Steen Chenin Blanc 2017
580 rand, Cyber Cellar, 南アフリカ
£240、 6本あたりの保税価格、 Justerini & Brooks

Höe-Steen Chenin Blanc 2016
£52.99 Handford Wines

赤ワイン

Grenache 2017
340 rand, Wine Cellar, 南アフリカ
£115、 6本あたりの保税価格、 Justerini & Brooks

Grenache 2016
340 rand, Wine Cellar, 南アフリカ
£22.95 Master of Malt, £34 Vincisive, Theatre of Wine
£115、 6本あたりの保税価格、 Justerini & Brooks

Grenache 2015
£29 Vin Cognito
$34.99 K&L, California; $36.94 Saratoga Wine Exchange, ニューヨーク
£32.99 Handford Wines

Grenache 2014
$45 Vintry Fine Wines, ニューヨーク

Pinotage 2016
£175、 6本あたりの保税価格、 Justerini & Brooks
$24.99 Corx, ニューヨーク; $27.99, Astor Wines, ニューヨーク
239 Swedish krone, Systembolaget, スウェーデン

原文

この記事は有料会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。
JancisRobinson.com 25th anniversaty logo

JancisRobinson.com 25周年記念!特別キャンペーン

日頃の感謝を込めて、期間限定で年間会員・ギフト会員が 25%オフ

コード HOLIDAY25 を使って、ワインの専門家や愛好家のコミュニティに参加しましょう。 有効期限:1月1日まで

スタンダード会員
$135
/year
年間購読
ワイン愛好家向け
  • 286,289件のワインレビュー および 15,820本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
プレミアム会員
$249
/year
 
本格的な愛好家向け
  • 286,289件のワインレビュー および 15,820本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
プロフェッショナル
$299
/year
ワイン業界関係者(個人)向け 
  • 286,289件のワインレビュー および 15,820本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大25件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
ビジネスプラン
$399
/year
法人購読
  • 286,289件のワインレビュー および 15,820本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大250件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
Visa logo Mastercard logo American Express logo Logo for more payment options
で購入
ニュースレター登録

編集部から、最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。

プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます。

More Free for all

My glasses of Yquem being filled at The Morris
無料で読める記事 Go on, spoil yourself! A version of this article is published by the Financial Times . Above, my glasses being...
RBJR01_Richard Brendon_Jancis Robinson Collection_glassware with cheese
無料で読める記事 What do you get the wine lover who already has everything? Membership of JancisRobinson.com of course! (And especially now, when...
Red wines at The Morris by Cat Fennell
無料で読める記事 A wide range of delicious reds for drinking and sharing over the holidays. A very much shorter version of this...
JancisRobinson.com team 15 Nov 2025 in London
無料で読める記事 Instead of my usual monthly diary, here’s a look back over the last quarter- (and half-) century. Jancis’s diary will...

More from JancisRobinson.com

Mas des Dames amphorae in the cellar
テイスティング記事 Part one of a two-part exploration of change in the vineyards of southern France. Not for the first time, I’ve...
Cristal 95 and 96 bottles
テイスティング記事 A comparative tasting of champagne from the highly acclaimed 1996 vintage and the overshadowed 1995. And a daring way to...
Sylt with beach and Strandkörbe
ニックのレストラン巡り An annual round-up of gastronomic pleasure. Above, the German island of Sylt which provided Nick with an excess of it...
screenshot of JancisRobinson.com from 2001
現地詳報 The penultimate episode of a seven-part podcast series giving the definitive story of Jancis’s life and career so far. For...
Wine news in 5 logo and Bibendum wine duty graphic
5分でわかるワインニュース Plus potential fraud in Vinho Verde, China’s recognition of Burgundy appellations, and the campaign for protected land in Australia’s Barossa...
Brokenwood Stuart Hordern and Kate Sturgess
今週のワイン A brilliantly buzzy white wine with the power to transform deliciously over many years. And prices start at just €19.90...
Fortified tasting chez JR
テイスティング記事 Sherry, port and Madeira in profusion. This is surely the time of year when you can allow yourself to take...
Saldanha exterior
現地詳報 南アフリカの人里離れた西海岸で、思いがけない酒精強化ワインの復活が起こっている。マル・ランバート (Malu Lambert)...
JancisRobinson.comニュースレター
最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。
JancisRobinson.comでは、ニュースレターを無料配信しています。ワインに関する最新情報をいち早くお届けします。
なお、ご登録いただいた個人情報は、ニュースレターの配信以外の目的で利用したり、第三者に提供したりすることはありません。プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます.