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2018イギリスの奇跡のヴィンテージ

Saturday 21 September 2019 • 5 分で読めます
Josh Donaghay-Spire, winemaker at Chapel Down, Kent, England

この記事はイギリスのスティル・ワインに関する一連のテイスティング・ノートと、スージーとピーターによるこのカテゴリーのワインに対するコメントを補うものとして公開する。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

昨夏はワイン・ビジネスにとって非常に好機といえる年だった。これまでにないほど完熟したブドウが記録的な収量で収穫できたのだ。そのため、これまではスティル・ワインがイングランドやウェールズの現実的な選択肢になるとは夢にも思わずスパークリング・ワインを作ってきた第一線の生産者の中にはその考えを変えるものが出てきた。

イギリスの冷涼寄りの気候のおかげでイギリスの島々で作られるブドウに酸が欠けることはない。高い酸はスパークリング・ワインに使われるブドウの特徴ともいえる。ワインを爽やかに引き締めてくれる一方、その泡のおかげで酸っぱすぎると感じることもない。だが、イギリスのスティル・ワインの酸に関してはこれまで耐えられないほどに酸っぱいことが多かった。ワイン造りの法律では予測を超えた気候変動まで考慮し、イギリスのワインは潜在アルコールがたったの6%のワインを作ってもよいとされている。(残りは発酵前に砂糖を添加する、いわゆるシャプタリゼーションで賄うということだ)。

だが2018年の夏は非常に温暖だったためイギリスのブドウは潜在アルコールが10%、場合によっては12%にまで苦も無く到達することができた。夜も通常より暖かかったため、光合成の時間も長くなった。そのことにイギリスの優れたワイン生産者たちも気づき始めている。

例えばハンプシャーにあるハッティングレー・ヴァレーは包括的機関であるワインGBの会長、サイモン・ロビンソン(Simon Robinson)の所有する広大なワイナリーだが、そのワインメーカーであるエマ・ライス(Emma Rice)は、ブルゴーニュから使用済みの樽を30本購入し、もし今年も成績が良い年となればハッティングレー初のスティル・ワインを作ることを念頭に2019年のシャルドネの収量を減らした。(収穫は来月になるまで行われない)。

隣接するハンブルドンは現代のブドウ畑という意味では最も古いが、野心的な所有者であるイアン・ケラーは「イギリスのスティル・ワインに関する認識を変える必要があると認めざるを得ない段階にあるのかもしれません」と話した。ただし、ハンブルドンという名称はワイナリーのシンボルでもあるスパークリング・ワインのために使いたいと考えているため、自身が試している樽のかかったシャルドネについては他の名称を使うという点では譲るつもりはないようだ。

今述べた2つのワイナリーは資金が非常に潤沢な企業体だ。一方でイギリスのワイン生産者の中にはスパークリング・ワインを発売するまでの資金源としてスティル・ワインを必要としている者もいる。一流のイギリスのブドウ栽培コンサルタント、ステファン・スケルトンが指摘するように、スパークリング・ワインはワインを熟成させる必要があるため収入を生み出すまでには優に5,6年の歳月が必要となるが、スティル・ワインならブドウを植えてから3年、早ければ2年で生産することができる。彼によれば1エーカーあたりスパークリング・ワインのビジネスでは10万ポンドを超える資金が必要であり、「資金のない下層階級を締め出している」と厳しい口調で付け加えた。

念のために書いておくと、我々がロンドンのアグリカルチャー・ホールの一つで開催された今年のワインGBのテイスティングの様子を見ながら彼が指摘したのは、2018年の収穫があまりに豊富だったため、イギリスのほぼすべての生産者は経済的な圧迫を感じている点だった。セラーの収容量やボトル代など、これまではなかった量が必要となったためだ。

イギリスを世界のワイン地図に載せたのは、シャンパーニュに対抗してピノ・ノワールとシャルドネ主体で作られ、この急成長する現象を最も顕著に象徴するスパークリング・ワインかもしれない(そのうち8%が昨年輸出され、アメリカとノルウェイが最も熱意ある輸入先だった)。一方でスティル・ワインは全イギリスワインの生産量の31%を占める。ワインGBの一般向けテーブルで生産者たちは厳選した74種類のスパークリング・ワインを提供していたが、スティル・ワインも55種類あった。そのほとんどが期待の持てる2018ヴィンテージであったことも鑑み、テイスティングに関してはそれらスティル・ワインに注力することにした。

私自身、イギリスのスティル・ワインをまとめてテイスティングするのは久しぶりのことだった。かつての記憶は明らかに甘みをつけられたもの、二酸化硫黄の香りが強いもの、ドイツのように最も冷涼な気候の中で無理やり完熟させたものという印象だった。だが今月初めにテイスティングしたイギリスのスティル・ワインの大半は完璧に称賛出来るワインという印象であり、最良のものは特に若々しいシャブリのようにも思えるものだった。

驚くことではないと思うが、出展されたワインの中で最も注力されていた品種はピノ・ノワールとシャルドネであり、これらはイギリスのブドウ栽培面積3500 haのうちそれぞれ1000 haを占めている。(ブドウ畑はどんどん北に広がっている。スケルトンによると彼のクライアントの一人はグラスゴーの郊外にまでブドウを植えているとのことだ)

一方で、白ワイン用品種で最も人気が高いのはドイツの交配品種でリースリングの遺伝子を強く表すバッカスだ(リースリング自体は今のところイギリスで完熟させるのはほぼ不可能だ)。この品種はイギリス版ソーヴィニヨン・ブランとうたわれており、ニュージーランドのそれのような鮮烈さを示すものもあれば、エルダーフラワーの生垣を思い起こさせるようなものもある。この品種の栽培的に安定した性質が生産者たちに好まれる理由の一つだ。

ロゼの中には魅力的なものもあり、概してピノ・ノワール主体のものだったが、イギリスの赤ワインについては発展途上であることは明白だった。あるいは地球が煮えたぎる(ほど暑くなる)のを待っている、とも言えるだろうか。生産者の中には果肉の赤いロンドを使ってその色を補おうとしている向きもあるが、それ自体にはあまり味わいがない。むしろ、もともと軽い赤として知られている品種の方が確実だ。ビッデンデン(Biddenden)は完全に成熟したガメイの樹を所有しており、ケント版ボージョレのようなワインを造っているし、ガスボーンは突破口となりうるピノ・ノワールと、非常に安定したシャルドネを造っている。

ガスボーンはイギリスのスパークリング・ワイン生産者の中でも数少ない、スティル・ワインを本気で検討している一流のワイナリーだ。副会長であるマイク・ポール(Mike Paul)は「スティル・ワインを作るのが好きですし、人々もそれを飲むのを好んでいるように思えます。現在ではセラードアの運営も、幅広いレンジのワインが提供できるのでうまくいっています」と語った。イギリスのスパークリング・ワインとスティル・ワインの市場が大きく異なることを初めて認めたのも彼だ。スパークリングがシャンパーニュのお得な代用品としてとらえられているのに対し、多くのスティル・ワインは(その生産量が少ないこともあり)輸入ワインと比較して明らかに価格が高いとみられている。

スージー・バリー(Susie Barrie)MWとピーター・リチャードが昨日の意見記事で指摘したように、誰よりも多くイギリスでスティル・ワインを生産しているのはおそらくチャペル・ダウンのジョシュ・ドナヒー・スパイアだろう(上の写真で2018の果汁をチェックしている人物だ)。チャペル・ダウンの比較的妥当な価格の付けられたワインは下記を参照のこと。

一方でイギリスのスティル・ワインの多くは農園のお土産のような形で販売されており、同時に栽培されているラベンダーの香り袋やオリーブオイルと共に購入されるような状態だ。イギリスのワイン・ツーリズムがワインGBが心から望むような発展を遂げるにつれ、価格がどうであれ(当然セラードアではそれらは生産者のものになる)、イギリスのスティル・ワインの販売の維持につながることに望みをつなげたい。

品質は間違いなく大幅に向上している。ワインGBのテーブルでは、1970年代によくみられ、今ではほとんど見なくなったような欠陥ワインを(苦々しく)思い出させるようなスティル・ワインも数本あった。だが全体としては比較的高い酸を特徴として完璧に造られており、その高い酸は間違いなく最近の流行であり、イギリスのワインの熟成をゆっくりと行うことにも寄与するものと言える。

お気に入りのイギリスのスティル・ワイン
ワイナリーのある郡と推奨小売価格を併記している。

白ワイン
Hush Heath, Balfour, Liberty's Bacchus 2018 Kent £20
Hush Heath, Balfour, Springfield Chardonnay 2018 Kent £25
Bolney, Lychgate Bacchus 2018 Sussex £15
Chapel Down, Flint Dry 2018 Kent £13
Chapel Down Chardonnay 2015 Kent £15
Gusbourne, Guinevere Chardonnay 2016 Kent £20
Lime Bay, Shoreline 2017 Devon £15
Simpson's, Derringstone Pinot Meunier 2018 Kent £19.50
Woodchester Valley, Orpheus Bacchus 2018 Gloucestershire £15

ロゼワイン
Camel Valley Pinot Noir 2018 Cornwall £15
Oxney, Organic Pinot Noir 2018 Sussex £16.50

赤ワイン
Gusbourne Pinot Noir 2016 Kent £24

これらを入手するにはワイナリーに行くのが一番手っ取り早い。テイスティング・ノートはこちら。

原文

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