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全ては愛という名のもとに~ボルドーのブレンド

Saturday 2 May 2015 • 5 分で読めます
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これはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のかなり長いバージョンである。

私自身は一度もワイン作りをしたいと思ったことはないが(大自然の奴隷になるには統制欲が強すぎ、マネージメントにも疎すぎるため)、ブレンディングのスキルが自分にはあるのではないかと空想することはしょっちゅうある。だが、最近行ったボルドーで最も尊敬を集めるコンサルタントでエノロジストである人物とのセッションで、その道を究めることも私にとっては非常に長い道のりだということが分かった。

この屈辱的な経験の源は日本にある。昨年のクリスマス直前、ベリー・ブラザーズ・ラッドの東京を拠点とするディデクター、サイモン・ステープルズ(Simon Staples)は銀座のオフィスのレセプションに座り、最も重要な日本の顧客を待っていた。この顧客は彼の指示に従って作られた2012と2014のボルドーの樽を注文した人物で、これらは娘たちの生まれた年であり、彼女たちの結婚式でマグナムを提供する計画を今から立てているのだ。ステープルズの頭を離れなかったのはその顧客の特別なリクエストで、上の娘が書いた絵をそのワインのラベルにするというものだった。

ベリーズ自体もそうだがステープルズは特に献身的、情熱的なルーム・トゥ・リード(Room to Read)のサポーターである。これは発展途上国に読み書きを広めるチャリティだ(ネパールに建設された学校や図書館はともかく、これまでに200万人の子供の力になってきた109名のスタッフは全員、奇跡的にもあの大地震から生還した。)。ステープルズはこのチャリティのために特別なワインを作り、このルーム・トゥ・リードで恩恵を受けた数えきれない子供たちの絵をラベルにすることができればどんなに素晴らしいかと考え始めていたのだ。彼はクリスマスに香港経由でイギリスに戻り、マンダリンのキャプテンズ・バーでビールを片手にこのアイデアをルーム・トゥ・リードの設立者であるジョン・ウッドに提案し、その場で承諾を得た。

ステープルズは次にスティーブン・ボルガー(Stephen Bolger)に接触した。彼はVinivというカスタム・クラッシュ(訳注:ワイン作りをしたいが醸造設備を持たない人に設備だけを提供する組織)の経営者として最高品質の醸造設備を提供する人物で、ポヤックのランシュ・バージュのカーズ家と共同経営を行っている。ベリー・ブラザーズはVinivのイギリスと香港での代理店で、趣味で醸造を行う裕福な人たちに自分のワインを作るチャンスを提供している。そこではエノロジストのエリック・ボワスノ(Eric Boissenot)とランシュ・バージュの技術スタッフのアドバイスも得られるのである。Vinivはステープルズの例の結婚式を考えている銀座のクライアントのためのワインを提供しているので、ルーム・トゥ・リードのためのワインをブレンドするのも理にかなったことであると考えられた。そこに使われるブドウの供給源はフランス系アメリカ人のボルガーが探し出した。

次回のルーム・トゥ・リードの寄付金集めのガラは東京とシンガポールで4月に予定されていたため、最初のワインとなる2013のために子供たちの絵のコンクールを行う時間がなかった。そのため、三月の最後の夜、2014のプリムールというハードな日々が控えていた頃にVinivのテイスィング・ルームで私がステープルズに会った時には最初のラベルはデザインも(ブルックリンのサマンサ・ディオン・ベーカーが半額で引き受けた)、その名前、「ワイドリー・レッド(Widely Read;広く読まれている)」も決まっていた。

エリック・ボワスノはシャイで小柄な人物で、サイモン・ステープルと対照的だった。そのため我々がスティーブン・ボルガーの選んできた8種類のブレンド候補のテイスティングを始めると会話を仕切ったのはステープルズだった。(更に事態を複雑にしたのはボワスノがほとんど英語を話さず、ステープルズは荒削りかつ仰々しいフランス語しか話さなかったことだ)

この試みに遅れて参加した私は、けして素晴らしいとは言えない2013のヴィンテージという粗末な材料から高品質なものを無理やり捻り出すことを求められるのではないかと考えていた。そのため我々の使うサンプルが一番格の低いアペラシオンであるACボルドー、すなわち多くの場合可もなく不可もなくの赤ワインを大量に生み出すアントル・デュ・メールからの寄せ集めではなく、偉大なポヤック、サンテミリオン、オー・メドック、グラーヴからのワインであることを知って驚いた。

我々はそれぞれVinivのブレンド用のテンプレートを与えられた。これは8つのサンプルから我々が試みることのできる14の組み合わせを示したもので、メルロー3つ、カベルネ・フラン2つ、カベルネ・ソーヴィニヨン3つからなっていた。我々は大好きなメルローを選ぶことか始めた。コート・ド・カスティヨンのものは貧弱すぎて2013の特徴が出すぎていた。しかしポムロールの西にある近年ひどく見過ごされているカノン・フロンサックのものは美味しかった。非常にまろやかで魅力的、骨格もしっかりしていたのだ。スティーブン・ボルガーによると「アペラシオンの中でも最も標高が高く、自然の円形劇場型の畑の最も高い場所に位置する場所のもの(石灰岩から生まれた子!)」だそうだ。我々はこれをあるだけ全部使うことにした。

次に我々は2つのカベルネ・フランに取り掛かった。これは十分に成熟しない年には攻撃的な茎っぽさが出る可能性のあるブドウである。我々がとても気に入ったのはサンテミリオンのもので、シャトー・フォジェールの畑の上にある区画、ガレージワインの原型とも言えるシャトー・ヴァランドローからも遠くない場所のものだった。そして、卓越したカベルネ・ソーヴィニヨンは、驚くこともないと思うがポヤックのシャトー・ピション・バロンのすぐ隣の畑のものだった(現在はジャン・ミッシェル・カーズが名前を変えようとしていたシャトー・ピション・ロングヴィルよりもよく知られてきたこの名前で販売されている。彼の息子で相続人のジャン・シャルルは我々のブレンドの工程を悩ましげに見守っていた)

新人ブレンダ―のサイモン・ステープルズと私が知る限り、やることはこれら3つを適切な割合でブレンドすることだけだった。そして残りの在庫を考えると、素晴らしいメルローとカベルネ・ソーヴィニヨンの最大のブレンド比率はそれぞれ54%と34%だった。ということは残り12%をお気に入りのカベルネ・フランで埋めればうまくいくのではないだろうか。

Vinivのスタッフはメスシリンダーをもって我々のためにそのブレンドを作ってくれたのだが、エリックの表情が次第に曇り始めた。彼は我々が3番目に試した、サンテミリオンの少しタンニンが強すぎると感じられたメルローを少し試すように言った。確かに彼は一級シャトーを含むほとんどの格付けシャトーのブレンドのアドバイスをしているわけで、我々は黙ってそのサンテミリオンのメルローを4%加えてみることにした。非常に驚いたことに、そしてほんの少しがっかりしたことに、彼はとても正しかった。そこには新しい、より品質の向上した「私たちの」ワインがあったのだ。いい仕事をするものだ。これでいいじゃないか。この後我々を素晴らしいディナーが待っているのだし。(ジャン・シャルルはコルディアン・バージュのディナーでシャトー・ランシュ・バージュの1990、1982、1959を提供してくれた。テイスティング・ノート参照のこと)

ところがそうはいかなかった。ムッシュ・ボワスノはまだ満足していなかったのだ。彼は14%のカベルネ・フランは少し多すぎると考え、我々はそれにしたがって比率を下げることにした。結局我々も納得し(しないはずがあろうか?)、ワイドリー・レッド2013の最終的なブレンドはカノン・フロンサックのメルロー54%、メルロー4%、サンテミリオンのカベルネ・フラン10%、そしてポヤックのカベルネ・ソーヴィニヨン32%に落ち着いた。このブレンドはジロンド川の右岸と左岸のワインを含むためただのACボルドーにしかならないが、非常にすばらしい由来のものであり、最高基準のブレンド技術を用いているのだ(咳払い)。

先月は全部で144の6本ケースが東京とシンガポールのルーム・トゥ・リードのガラで予約され、残りの336の6本ケースは今後開催されるガラとベリー・ブラザーズのオンラインで販売される予定だ。この美味しいブレンドは来年の早い時期、その真価をようやく発揮し始める時期にお手元にとどく予定だ。私は自信を持って推薦する。

ワイドリー・レッド2013は6本ケースで保税価格330ポンドでベリー・ブラザーズ(bbr.com)から購入可能で、うち160ポンドがルーム・トゥ・リードに寄付される。2013のAOCボルドーとしては最もお買得な価格ではないかもしれないが、ケース1つで5人の子供が1年間教育を受けることができる。

トップの写真は左から右へティエリー・コウズ(Thierry Cowez)、スティーブン・ボルガー、エリック・ボワスノ、サイモン・ステープルズ、そして私が引き延ばしたラベルを手にしているところである。

原文

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