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上昇を続けるアジア市場のポテンシャル

• 7 分で読めます
Christie's new HK HQ
新しくなったクリスティーズの香港本社

ワインの価格高騰は誰が招いているのか?この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

「今ほど高級ワインの需要が世界的に高まっているのを見たことがありません。高級ワインを愛する人が多く存在する証でしょう」。アダム・ビルベイは語る。彼はサザビーズのワイン部門からクリスティーズのワイン&スピリッツのグローバル・ヘッドになるという、比較的異例の転身を果たしたばかりだ。クリスティーズは彼を香港にとどめる判断をしたが、それはビルベイがベリー・ブラザーズ&ラッドに勤務し始めた2010年以来、香港を拠点としてきたというのが理由だろう。

読者の皆さんもご存知のように、現在のパンデミックで多くの制限を受ける状況下では香港の孤立が深まっている。多忙なエグゼクティブにとって、海外へ行くことも、帰国することも現実的にほぼ不可能だ。さらに今週月曜日には強制的な社会実験が発表された。レストランは現在午後6時には閉店となり、最大2人までしか食事を共にできない。また、これまでで初めて、自宅で別世帯の家族と共に過ごすことも厳しく制限され、最大で2世帯までしか同席を許されなくなった。ただ、ビルベイによれば、家庭でのワイン飲用率は常に高いとのことで、ロンドンのワイン商の中でも香港での実績が最も長いファー・ヴィントナーズのジョー・プーセルによれば、住宅街のリサイクル・ボックスは記録的に多くのワインボトルで溢れかえっているそうだ。

2008年にワイン関税が意図的に撤廃されて以来、世界中のワイン取引のハブとしての役割を果たしてきた香港で、1300軒に上るワイン取り扱い業者への更なる打撃はマカオおよび中国本土との国境が閉鎖されたことだ。つい最近まで、非課税で販売されていた香港のワインは大量に、関税の重い中国へと流入していたのである。また、マカオにあるカジノは伝統的に最高級ワインの重要な買い手でもあった。

クリスティーズはかつて世界を牽引するオークション・ハウスだったが、2021年には長きにわたるライバルだったサザビーズに大きく引き離され、年間総売上額はアメリカのオークション・ハウスであるアッカー・メラル・コンディットやザッキーズにも後れを取っている。その状況でなぜ、(上の)写真のように豪華な施設に大量の投資をしてまで、ワイン部門を香港に置く決断をしたのだろうか。

ビルベイに言わせると、その理由はアジアには最も強い買い手がいるためだそうだ。サザビーズのワインおよびスピリッツの売り上げは、昨年は52%に落ち込んだものの、通常は60%以上がアジアの買い手によるものだ(サザビーズのワイン部門の責任者、ジェイミー・リッチーは、昨年のアジアでの売り上げ下落の理由を2つの新たなチャリティ・セール、オスピス・ド・ボーヌと、ディスティラーズのワン・オブ・ワン・オークションを導入したためだとしている。これらにはヨーロッパのバイヤーの方が惹きつけられるのだそうだ)。おそらく、ビルベイの持つ人脈はクリスティーズにとって価値のあるものなのだろう。

今やクリスティーズの世界のワイン売り上げの40-50%は香港や中国本土のみならず、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン、そして確立されたワイン市場である台湾まで拡大している。特に台湾のワイン市場はビルベイに言わせれば香港よりも「クレイジー」だそうだ。彼は香港のパンデミック以前の食習慣を、本当に希少価値の高く高価なワインを熱烈なワイン愛好家同士で分け合うことが流行していた21世紀初頭のニューヨークのそれになぞらえている。

そんな陽気な空気は新型コロナウィルスの影響をもろに受けたと思われるが、ビルベイによると「アジア人はヨーロッパのバイヤーとは全く違います。アジアトップの収集家の好奇心と、それを誰かと共有したいという欲求は驚くべきものです。比較試飲をしたいからと12人でテーブルを囲み、20本のボトルを分け合うなんて珍しいことではありません。彼らの知識欲は素晴らしいもので、しかも古典的なワインだけにとどまりません。彼らの前では時々自分がつまらない人間だとすら思えてきます」。

ヨーロッパの伝統は上質なワインを若いうちに購入し、数十年もの間セラーで保管して飲み頃まで熟成を待つというものだ。だがアジアではそこまで悠長ではなく、早送りボタンを押し、偉大なワインですら通常よりもかなり早く飲んでしまう傾向にある。

その結果、高級ワインの供給は圧迫され、当然その価格も上昇するというわけだ。このような現象に加え、ブルゴーニュの最高級ワインは生産量が極めて少ない上に、アジアにワイン好きの億万長者が多い。最近の極端な価格高騰が招かれた主な要因となるわけだ。

ワインオークションの売り上げがトップであるアッカーは、ニューヨークを拠点としているものの、香港でも大きな存在感を示している。2021年のAckerの売上の45%は北米におけるものだが、32.4%はアジアで、ヨーロッパのバイヤーはわずか17%である。(Ackerの年次報告書には続々と全く新しい市場が記載されるようになっている。昨年はロシアが売上高の2%を占め、ブラジルを抜いた)。

西欧諸国では、いわゆるトロフィー・ワインを入手しようとする裕福な人々はかなり年配の傾向がある。だがアジアでは違う。「資金があり、知りたいと思う」若い収集家がおり、ビルベイによれば重要なアジアの顧客のうち数人は20代半ばだというのだ。現在、広州を拠点に活動している24歳のバイヤーは、18歳の時にヨーロッパに留学していた時にワインに目覚めたという人物で、ビルベイは「彼のブルゴーニュに関する知識は並外れたものです。彼のような人は、飲むのなら良いものを飲みたいと考えています」と話す。最近のクリスティーズのラグジュアリー・マーケット・レポートには昨年のワインとスピリッツの売上のうち、24%がミレニアル世代によるものだという統計がある。

アメリカのオークション・ハウスと、伝統的なイギリスのオークション・ハウスとでは、ワインの競り方に大きな違いがある。アメリカでは、高級ワインのオークションの多くが一流レストランで行われ、美食と華やかさを同時に体験することができる。対照的に、ロンドンの中心部で行われるオークションは、どんなに歴史的建造物であっても、人はほとんどおらず、落ち着いた雰囲気の競売場で午前中に開催されるのが一般的だ。ビルベイは、もう少し活気のある演出が必要だと感じているようだ。

競売場の変化は、近年次々と開発されたワイン商やワイン業者が自社の顧客同士で取引を促すようなオンラインの取引プラットフォームからも大きな影響を受けたのは間違いない。ビルベイは、クリスティーズでは若いヴィンテージの取引はワイン商に任せ、単一の所有者による古いワインのコレクションを見つけ出すのが彼の仕事なのだと教えてくれた。ただ、「(オークション・ハウス間での)コレクション争奪戦は熾烈を極めている」という点も認めている。オークション・ハウスが売り手に何を提供できるかによって取引の成立が左右されるのだろう。「そのコレクションをうまく売るには、所有者がなぜそのコレクションを売ろうとしているのかを理解することが重要です。時には経済的な理由でしょうし、時にはあまりに多くのワインを所有していて遺産相続の問題があることもあるでしょう。時にはそれほど素晴らしいものではなくても永遠の思い出を作りたい場合もある。その場合には豪華に印刷されたカタログが欲しいのです」。

多くのオークション同様、競売の場はオンラインに移行しつつあるものの、昨年のアッカーの売り上げのうちライブ・オークションではないインターネットのみでの売り上げは10%に過ぎなかった。

ただ、ライブ・オークションではオンライン入札も可能であるため、世界中のオークションでアジア人バイヤーがどんどん価格を吊り上げている。アジアのコレクターは、ロサンゼルスやジュネーヴのオークションで特に望ましい出品をものにするためには何をもいとわない。そしてそれらのワインは多くの場合(現在、ワイン専門の保管場所には事欠かない)イギリスやボルドーにある自分のワインコレクションに加えるのだ。その保管費用は通常、土地が不足している香港よりもはるかに安い。

高級ワインの価格が上がるにつれ、偽物を造りたいという誘惑も高まる。特にアジアの成熟しきっていない市場ではその傾向が強い。アッカーはかつて悪名高き偽造者であるルディ・クルニアワンと密接な関係にあった。彼はアメリカの刑務所で10年服役したのち強制送還されている。近年は安いワインを詰め替えて売るためのトロフィー・ワインの空き瓶の市場すらある。良識あるワイン愛好家や生産者は貴重なワインを飲んだ後、(訳注:再利用されないよう)故意にそのラベルを傷つけることもある。そして需要の非常に高い生産者の多くは慎重に考慮された偽造防止の手段を数年前から講じるようになってきた(ただし、保護されるのは若いヴィンテージだけだ)。

ラベル、箔、ボトルのデザインや書体を細かくチェックする以外に、紙媒体(近年はブロックチェーンが代替していく可能性もある)による出所追跡は非常に重要だ。ビルベイは、高級ワインをオークションで売ろうと考えている人へのアドバイスとして、「記録を残しておくこと」を推奨している。

ただし、オークションで高値がつくアルコール飲料は、決してワインだけではない。ビルベイがスピリッツも担当しているのは偶然ではない。古く希少価値の高いウイスキーに対する需要は常に高い。香港では蒸留酒にかかる税金がゼロではなく、価格に対して100%となるため需要は減退しているが、それでも落札者の多くはアジアからだ。

現在の香港と中国本土は少し厳しい状況にあるかもしれない。だが、ビルベイもプーセルも、ワイン販売に関して長期的には自信を見せている。ビルベイによれば「私たちはまだ中国のほんの表面を知っているだけ」であり、プーセルも「高級ワインの大きな可能性がありますよ。アジアは回復力が強いですから」と話す。

ネガティブな影響が出る可能性のある中国の状況

ファー・ヴィントナーズのジョー・プーセルは、昨年4月に中国に導入された新しい規制がワイン業界に重大な影響を与える可能性を指摘した。この規制では中国に輸入される食品(ワインも含まれる)の生産者は2022年1月までに中国税関に登録し、承認を受ける必要があるというものだ。その登録に必要な仕組みが開設されたのはようやく2021年10月のことだ。試験的な英語版は11月に開設された。シャトーやドメーヌは非常に入り組んだオンラインの書類を全て記入する必要があり、その内容は自分たちだけではなく、製品の「生産工程」および補完に関わる全てについて証拠写真と共に提出しなくてはならないものだ。

一旦承認されると、生産者は登録番号が与えられ、その番号が印刷されたラベルをボトルと、全てのケースの外側に貼る必要がある。プーセルによれば多くの生産者はこの規制に気付いていないか、登録に興味すら持っていないようだという。特に自社のワインに対する需要が非常に大きい場合はなおさらだ。公式な発表はないものの2022年1月だった登録の締め切りが延長されたという噂はある。いずれにしてもインポータの間には通関に大きな支障が出るのではないかという懸念が広がっている。

2月上旬にプーセルが調べたところでは、フランスの一流ワイン生産者は誰一人として登録番号の発行を受けていなかった。「もしもこの規制が実施されれば、本土に正規輸入される高級ワインに劇的な影響を与えるだろう」とプーセルは指摘する。

主要な高級ワインのオークション・ハウス
アメリカ
Acker Merrall & Condit
Zachys
Hart Davis Hart
Heritage

イギリス
Sotheby’s
Christie’s
Bonhams

ヨーロッパ
Baghera (Switzerland)
IdealWine (France)
Sylvie's (Belgium)

オークション・ハウスとオークションのコツについてはこちらを参照のこと。

原文

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