25周年記念イベント | The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト)

トランシルバニアの慈善活動

2015年1月17日 土曜日 • 6 分で読めます
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これはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。

その発想はこの上なく単純なものだった。なぜ今までそこに気付かなかったのだろう?大規模な消費者向けテイスティングを地元の障害を持つ若者たちが企画し、運営する。参加者みなが得をする企画だ。出展者は強い興味をもつ消費者と初めて直接対話することが叶う。我々参加者は、恥ずかしながらこのような機会がなければ間違った先入観を持っていたに違いない障害を持つ若者たちと出会う喜びを感じ、彼らの力に驚かされる。そしてその若者たちは自分たちの多くの能力を見せつける機会を得ると同時に、マイクロバスのための資金集めができる。

こんな素晴らしい驚きに出会ったのはどこかというと、意外なことに、ティミショアラというルーマニアの南西に位置する都市だった。ここはトランシルバニア地方にあたり、出発前の息子たちの反応は芳しくなかったが、現実は例に漏れず全く異なっていた。

ティミショアラは均整のとれた、広い並木道のある街だ。最初の晩は地元のレシピを盛り込んだレストランで素晴らしいディナーを楽しんだ後、流行最先端という雰囲気のホテルまでワインイベントの寛大なスポンサーでもあるティミショアラの実業家が彼のマセラッティで送ってくれた。地元の人々は、Ceva de Spus (「言いたいことがある」の意)グループの障害を持つ若者たちも含めて英語をとても流暢に話す。チャウシェスク後のルーマニアで最も人気の高い第二言語はフランス語やドイツ語ではなく英語になっていたのだ。

今回のキーマンは仲間からZoliと呼ばれるティミショアラ在住のハンガリー系の若者、Szövérdfi-Szép Zoltánだ。この恐ろしく情熱的な、痩せ型で背の高い青年はCeva de Spus グループと共に活動し、ルーマニアで障害を持つ人々のよりよい権利を求める彼らの運動を支援している。彼らはマイクロバスの入手にはブカレストよりもブリュッセルの方が交渉の余地があることを見出したのだが、私にとって最も重要なことは、Zoli がワインマニアであることだ。だからこそ、ワイン・フェアのアイデアが出たのだから。ワイン・フェア自体は共産主義後のルーマニアでは目新しいことではないが、たいていの場合は大きな力を持つ企業によって牛耳られており、近年台頭してきた将来のある新しいワイン生産者はそれらへの出展をボイコットしている。彼らの中にはルーマニアのルーツに立ち戻るというロマンチックな思想を原動力としているものもいる。しかし現実的には彼らは皆、ルーマニアが2007年にEUに加盟する前のサパード(SAPARD)プログラムによる50%の再生基金に支えられており、そこにEUの補助金が上積みされる形になっている。

およそ3万ヘクタール(7万5千エーカー)の優れた設計の新しいブドウ畑が2007年以降に作られ、この国のワイン用ブドウであるヴィティス・ヴィニフェラの栽培面積の三分の一を占めている。一部の統計によると、昨年1年間だけで120を超えるワイナリーが生まれているそうだ。ルーマニア人は熱心なワイン消費者であり、ほとんどの小農地には少なくとも数本のブドウが植えられている。目新しいことといえば、今、高品質、高価格(海外での価格よりもはるかに高い)を追求するワインに注目した脆弱な国内市場が目立ってきたことだ。ルーマニアのワイン業界が繁栄するためには輸出は必須であるが、まだ協力体制が出来上がっていない。Zoliの功績は国の最高品質のワイン生産者をホテル・ティミショアラの一つの大きな部屋に集めたことであり、そこではこの「ワインの週末」を更に素晴らしくする結末が待ち受けていた。

商業的な協力体制の欠如はおそらく文化の多様性の影響だろう。海外の投資家の一人であり、ルーマニア独自のブドウ品種を初めて称賛した人物はコルシカのワイナリー、コント・ペラルディ(Comte Peraldi )のオーナー、グイ・デ・ポワ(Guy de Poix)で、チャウシェスクの時代、1994年にまで遡る。謎めいた名前の付けられた彼のワイナリー、セルヴェ(SERVE)は国の南東部に位置し、文句なく非常に素晴らしいワインである。一方、魅力的で近代的な寺院であるアヴィンシス(Avincis)はルーマニアの政治家が建てたものだが、現在はフランス人の醸造家とそのコロンビア人の妻が経営している。コルコヴァ(Corcova)にはイギリス人の営業部長がおり、ルーマニアの二大輸出業者であるハレウッド(Halewood)とレカス(Recaș)はそれぞれリヴァプールとブリストルにルーツを持つ。レカスの幅広い自社ラベルのブランドは、意識的にイギリスのスーパーマーケットを対象としており、オーストラリア人とスペイン人の夫婦が作っている。彼らはオフシーズンにはオーストラリアのイエロー・テールでもワイン作りをする。オプリショル(Oprișor)はドイツやオーストリアから支援を受けているルーマニアのワイン生産者の一つだし、ハンガリー国境に近いBalla Gazaはハンガリー精神を忘れず、彼らの相棒と言えるハンガリーのフルミントとカダルカにこだわっている。また、ダヴィーノ(Davino)はアメリカからの帰国者が設立したものだし、イギリスでもザ・ワイン・ソサイエティから入手できるプリンス・スタービー(Prince Știrbey)は30年前に家族で共産主義者から逃げ出したルーマニアの男爵が復活させたものである。そのドイツ人醸造家であるオリバー・ブラウアー(Oliver Bauer)は自身の名でもワインを作っている。南東端にあるアリラ(Alira)とエニラ(Enira)は姉妹ワイナリーで、ベッサ・ヴァレー(Bessa Valley)が手掛ける。このワイナリーはブルガリアのワイナリーの新しい流れの中で最も成功しているワイナリーの一つで、世界的に尊敬を集めるサンテミリオンのシャトー・カノン・ラ・ガフリエール(Château Canon-La-Gaffelière)とも関係がある。

私たちはティミショアラ近くの2つのワイナリーを訪問した。レカスではピュアで職人気質な東ヨーロッパスタイルを復活させている一方、イタリア人が所有するペトロ・ヴァセロ(Petro Vaselo)は非常にスタイリッシュでモダンな建物で、そこへ続く未舗装の道と地元の村の素朴な平屋建ての家々、そこに住む人々と非常に対照的である。ここはルーマニアにコーヒーメーカーの生産を委託しているイタリア人家族が設立した。彼らの最初の収穫はこの近未来的なワイナリーが建つ前だったため、当然のことながらそれらは醸造のためにトスカーナのモンタルチーノまで粛々と運ばれていった。

ルーマニア人の中には早すぎる収穫と多すぎる収量を補うためオーク樽に固執しすぎている向きもあるものの、全体としては彼らのワイン作りの能力によい意味で驚かされた。以下に記すワインは多くが辛口の赤であるのだが、伝統的にルーマニア人が好んできた白に非常に高いポテンシャルがあるのは明らかである。私が見たワインはかつてドイツの大量消費市場に輸出されていた添加物だらけの甘い赤ワインとはまったく異なるものだった。

最近になってようやく、ルーマニアのワイン生産者たちは海外市場の興味が樽のかかったシャルドネやカベルネよりもはるかにこの国土着の品種に向けられていることに気づいた。彼らにとって最も重要な品種は白はフェテアスカ・レガーラ(Fetească Regală)、フェテアスカ・アルバ(Fetească Albă)、クランポシエ・セレクチオナッタ(Crâmpoșie Selecționată)、 赤はフェテアスカ・ネアグラ(Fetească Neagră)、ネグル・デ・ドラガシャニ(Negru de Drăgășani)、ノヴァック(Novac)、バベアスカ・ネアグラ(Babească Neagră)である。日曜の午前中、ルーマニアの12以上の最高の生産者たちをひとつの部屋に集め、お互いのワインのテイスティングを行う機会を作ったZoliにとって、彼らが上記の興味深い特殊なぶどうの質について議論されたのは喜ばしいことだったに違いない。

その週末はティミショアラの最高のレストラン、確かメルローという名前だったが、そこでのディナーで締めとなった。そこではCeva de Spus のジャニーナ・ボルバ(Geanina Bolba)がデザインしたファッションショーでもてなしを受けた。彼女は車椅子にもかかわらず、地元の芸術大学の3階にある服飾部門に通いつめ、すべてを学びつくした女性である。いやはや、なんとも侮れない集団だ。

ルーマニアワイン37本のテイスティングコメントと、ニックのグルメ訪問記も参照のこと。

お気に入り

白ワイン

Rătești, Fetească Regală 2013
はるか北西部にある最北・最涼のワイン産地で生産されるデリケートな食前酒。

Prince Știrbey, Crâmpoșie Selecționată 2013
良質の酸で刺激的で生き生きとした樹齢40年のブドウから作られるワイン。辛口でやや抽出が多め。

Balla Géza, Furmint 2013
ハンガリー人所有のワイナリーから作られる上品で若々しい辛口のワインはハンガリーとの国境を越えたトカイで有名なブドウを使う。

赤ワイン

SERVE, Terra Romana Cuvée Charlotte 2011
非常に洗練されて複雑かつパッケージも上品なカベルネ、メルロー、フェテアスカ・ネアグラのブレンド。

Vinarte, Cabernet Sauvignon 2009
革命後初の大規模ワイナリーで1998年にフランスとイタリアの投資家によって作られたVinarteの作る非常に上品なボルドーを思わせる赤ワイン。

Petro Vaselo, Ovaș 2011
ボルドー・ブレンドの赤で非常にお洒落なイタリア人所有のワイナリーのもの。

Vinarte, Nedeea 2011
面白く、バランスのとれたフェテアスカ・ネアグラ、ネグル・デ・ドラガシャニとノヴァックの等量ブレンド。

Balla Géza, Fetească Neagră 2011
ルーマニアで最も有名な土着品種の非常に刺激的なバージョン。

原文

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