Travel smarter | Find top restaurants | Volcanic Wine Awards | 25th anniversary events

モンダヴィの子はモンダヴィ

Saturday 25 April 2020 • 7 min read
Carlo Mondavi, California wine producer

この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

ワイン界に未来永劫にわたる大きな変化をもたらしたと自負する広報担当者は数多くいるだろう。だが本当にそうと言えるのは一握りだ。カリフォルニア、ナパ・ヴァレーのロバート・モンダヴィはその一人だった。(2003年に書いた個人的な彼との思い出はこちらを参照のこと)

彼は40年をかけ、当時新世界と旧世界と呼ばれていたワインの世界を結び付け、絶え間なく世界を飛び回ってテイスティングを繰り返し、自社のワイン醸造技術を洗練させ、カリフォルニアを世界のワイン地図に乗せた。ボルドーのバロン・フィリップ・ド・ロートシルトを説得し最高峰のナパ・カベルネ、オーパス・ワンを共に作ることに成功した。当時世界で最も影響力のあった批評家に、世界の錚々たる偉大なワインと共にロバート・モンダヴィのワインをテイスティングするよう仕向けた。

彼の象徴的なもう一つの側面は、一族の不和だ。彼は弟のピーター(2016年に101歳でこの世を去った)と家業だったチャールズ・クリュッグ・ワイナリーの経営方針について大喧嘩をし、1966年に自らの名前のワイナリーを立ち上げた。ロバートと子供たちとの不仲は2004年にロバート・モンダヴィ・ワイナリーが世界的な大企業であり、まったく異なる価値観を持つコンステレーションの手に落ちる原因ともなった。息子のマイケルとティムは別々の道を選んだが、どちらも熟して重厚感のある典型的なカリフォルニア・スタイルのナパ・カベルネを作っている。

2年前、私は突然カルロ・モンダヴィと名乗る人物から電話を受けた。カルロと彼の弟、ダンテがレインというブランドで作る、他とは違って肉付きが控え目でフレッシュなソノマのピノ・ノワールをテイスティングして欲しいとのことだった。メールでのやりとりを通じ、多くの人に愛され、自社が売却された4年後にこの世を去った彼の祖父(数々の追悼記事はこちら)のコミュニケーション術の片鱗が、視点は全く違うものの、このカルロにも垣間見られた。

2月のナパ・ヴァレーでようやく正式に対面した際、カルロは祖父についての思い出は誰よりも「幸せで優しかった」ことだと話し、「彼からは多くのインスピレーションをもらいました。彼の反応は決して私が予想していたものではなく、私にいつでもその知恵を分け与えてくれました。彼は常日頃から、最大のリスクはリスクを取らないことだ、と話していました。」と付け加えた。
ティムの5人の子供のうち真ん中で、男の子の中では最年長のカルロは、ブドウを原料としたスキンケア・ビジネスを軌道に乗せるなど、確かにリスクの高い荒野をさまよっていた時期があった。彼はかろうじてその経歴を勉学で飾り立てもしたが結局23歳を迎える前には大学を卒業せず、プロのスノーボーダーとなっていた。ヨーロッパの競技会の賞金を小切手か現金でもらえるのか聞かれた際にはどうしても現金で、と答えるほどの状況だった。

モンダヴィ家の子供は夏の間は畑とセラーの仕事を得ることもできるが、一族の決まり事として、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーでフルタイムの仕事に就くためには大学を出ることと、他の候補者よりも優れている点を証明することが条件だ。一族の会社が売却された際、ティムは自身のコンティニュアム・ワイン・エステートを立ち上げた。彼の娘でカルロの姉であるキアラが現在のワインメーカーであり、5人のうち上2人、ダンテとカリッサは父の下で働く。カルロは、自分がずっと一家の異端児だったことを自認している。

カルロのプロとしての生活にワインが浸透していくには時間がかかったのかもしれない。だがロバートが2002年に一族全員をヨーロッパの高級ワイン生産者訪問に連れて行き、自身が40年前、口癖でもある「世界最高のワインと肩を並べるワイン造り」を決意した源は何か伝えた時、カルロの弱かった情熱の炎が燃え上がったのだそうだ。モンダヴィ一族でブルゴーニュを旅していた際、カルロはたまたま車で通りがかったビオデナミ栽培の先駆者であり、ピュリニー・モンラッシェにあるドメーヌ・ルフレーヴの故・アンヌ・クロード・ルフレーヴに出会った。彼の導火線の火はゆっくりと進んでいたものの、この旅が人生を大きく変えた、とカルロは断言した。

現在、ダンテがワインを作りカルロが営業を担当する(*)ソノマ・コーストのプロジェクトに加え、このアンヌ・クロードの精神を受け継ぎ、カルロは環境問題にも注力するようになった。3年前彼はモナーク・チャレンジという、ナパとソノマから全ての除草剤、特にラウンドアップとグリフォセート製剤を追放する運動を立ち上げ、「真にクリーンな農業」のモデルとなった。

彼の現在お気に入りのプロジェクトはさらに野心的なもので、小型のスマート電気トラクターの開発だ。「私は我々が経済的かつ持続的に農業を行う道を探すべきだと認識しています。有機農法に移行する際の大きな抵抗は経済的な負荷ですから、電気トラクターはその一助になるのではないかと思っています。ただ問題は、私はこれまでの人生でずっとトラクターを使ってきているものの、エンジニアではない点でした。」おそらく彼の苗字が助けになったのだろう。あるいはシリコン・ヴァレーが近かったせいかもしれない。理由はなんであれ、カルロはリフトやテスラ、さらに農業機械専門のソフトウェア・デザイナーたちを説き伏せ、このプロジェクトに参加してもらうことに成功した。パンデミック前にはこのチームはベータ版として30ものトラクターをリリースする準備が整っていた。

その構想は、トラクターが石油燃料を使わないというだけではなく、ブドウ畑で必須かつルーティンな作業をプログラム化することだ。例えばブドウの糖度とpHを測定するなど、これまでカリフォルニアが長きに渡り依存してきた腕のたつメキシコの労働者たちの減少に伴い需要が増加している全ての仕事を担えるよう設計されている。モンダヴィはこれらのトラクターは環境に優しい有機やビオデナミ栽培にかかるコストを従来型のものと同等にすることができると主張しており、例えば世界最大の生産者、ガロでは年間1400万ドルもの節約になると言う。

初めてカルロを目にした時、彼がすぐにモンダヴィ一族だとわかった。大きなローマ鼻に突き出した下顎がその父や祖父とそっくりだったからだ。それは私がラークミードやマシカンを作るダン・ペトロスキーとナパ市街にある人気のフレンチ・ビストロ、アンジェルの片隅で食事をしていた時だった。カルロは我々の下にゆっくりと歩み寄り、ロバート・モンダヴィの1984ピノ・ノワールのボトルをテイスティングするよう勧めたのだ。カリフォルニアのブドウを使ってブルゴーニュ・スタイルのピノ・ノワールを作るのは彼の父ティムがロバート・モンダヴィ・ワイナリーにいた頃のお気に入りのプロジェクトだったが、後日再会した際、カルロはこのことが彼とダンテが力を入れるレインというブランドのヒントになったと話してくれた。

現在レインは彼らが他の8軒の小規模生産者たちと共有するスペースで醸造している。ナパ・ヴァレーにある彼らの父のコンティニュアム・ワイナリーに行けば比較的少量のレインを醸造するスペースなどありそうなものなのに、と言うと「ええ、コンティニュアムが使えたら完璧だったんですが」カルロは悲しげにこう続けた。「パパはダメだって。愛の鞭ですね」。

ブランチに、カルロは「生涯の恋人」というガールフレンドで、バローロの生産者ブランディーニのジョヴァンナ・バニャスコを伴っていた。彼らが共同購入した小さなディアーノ・ダルバにある畑はモンダヴィ一族のイタリアのルーツに明確な敬意を示したものだ。ロバートの両親は20世紀初頭にマルケから移民し、当初はミネソタの炭坑で生計を立てようとしていた。その後カリフォルニアのセントラル・ヴァレーにあるローダイに移り住み、アメリカのバルク・ワインやレーズンの原料を供給していた。彼らが今の一族の様子を知ったらさぞ驚くに違いない。

*カルロは後日この件をメールで次のように指摘してきた。「ダンテと私はレインで共にワインと栽培について大きなビジョンを抱いていますが、私はそこでフルタイムのワインメーカーとして働いています」さらに彼は自分が一時期コンティニュアムでも働いていたと指摘してきた。


モンダヴィと関連のあるカリフォルニアの生産者
(設立年を併記)

チャールズ・クリュッグ (1861)
1943年にモンダヴィ一族が買収し、現在はピーターの息子であるマークとピーター・ジュニアが、マークの2人の娘、アンジェリーナとリアナと共に運営している。

ロバート・モンダヴィ・ワイナリー(1966)
2004年以降コンステレーションが所有

オーパス・ワン(1979)
ロバート・モンダヴィ・ワイナリーとボルドーのバロン・フィリップ・ド・ロートシルトのジョイント・ベンチャー

アルノー・ロバーツ(2001)
ダンカン・アルノー・マイヤーズとロバート・モンダヴィの2番目の妻で、彼らのワインのラベルの絵も描いているマルグリット・ビーバーの孫、ネイサン・リー・ロバーツによる新たなパートナーシップ

マイケル・モンダヴィ・ファミリー・エステート (2004)
ロバートの年長の息子とその子供たち、ロブ・ジュニアとディナによって輸入会社であるフォリオ・ファイン・ワイン・パートナーズと共に運営されているナパ・ヴァレーの畑とブランド。

コンティニュアム (2005)
ロバートの二人に子供、マルシアとティムが所有し、ティムの5人の子供のうち3人、カリッサ、キアラ、ダンテを雇用している。

フォース・リーフFourth Leaf (2008)
ロバートの孫、ロブ・ジュニアとピーターの孫アンジェリーナによる

エイロフト (2008)
マークの4人の子供たち、アンジェリーナ、アリシア、リアナ、ジョヴァンナ

レイン (2013)
ソノマ・コーストでティムの息子カルロとダンテがニュージーランド人のメラニー・マッキンタイアをアソシエート・ワイン・グロワーに迎えて経営する事業

レヴィクRevik (2016)
マルグリットの孫、フィル・ホロブルックが設立し、ラベルはマルグリットの絵を採用。フィルはレインでインターンもしていた。

原文

Become a member to continue reading
スタンダード会員
$119
/year
年間購読
ワイン愛好家向け
  • 283,929件のワインレビュー および 15,758本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
プレミアム会員
$249
/year
 
本格的な愛好家向け
  • 283,929件のワインレビュー および 15,758本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
プロフェッショナル
$299
/year
ワイン業界関係者(個人)向け 
  • 283,929件のワインレビュー および 15,758本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大25件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
ビジネスプラン
$399
/year
法人購読
  • 283,929件のワインレビュー および 15,758本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大250件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
Pay with
Join our newsletter

Get the latest from Jancis and her team of leading wine experts.

By subscribing you agree with our Privacy Policy and provide consent to receive updates from our company.

More Free for all

Tour d'Argent wine list
Free for all Jancis grapples with this five-kilo wine list and tours the cellars that supply it. See also The renovated Tour d’Argent...
Langres cheese
Free for all Kicking off a new monthly column, Ben introduces us to the dark arts of wine and cheese pairing. Above, Langres...
Dennis and Elizabeth Groth and first winemaker Nils Venge in 1984
Free for all Where wine production engenders a spirit of togetherness, and where it doesn’t. A version of this article is published by...
Image
Free for all A surprising number of drinkable bargains from The Wine Society, Majestic, Tesco and Waitrose. A slightly shorter version of this...

More from JancisRobinson.com

Arribas do Douro vineyard
Tasting articles What Julia does when she has (almost) finished work. The five months since my last Portuguese collections have passed in...
Majestic Wine logo 2021
Tasting articles A mixed bag with some definite gems in it. Jancis writes Majestic’s buying team continue to do a good job...
Szapary Alte Garten
Tasting articles Reds were outnumbered 5 to 1 at the Grafenegg tastings but more than held their own. See also our reviews...
Grüner Veltliner in Kollmütz
Tasting articles Riesling and Grüner Veltliner from Austria’s most exalted white-wine region. See also our reports on Grüner Veltliner and Riesling from...
The exterior of Eden House, a red-brick Victorian house in Cumberland
Inside information The first of a new seven-part podcast series giving the definitive story of Jancis’s life and career so far. This...
Enclos exterior in Sonoma
Nick on restaurants Behind this facade is a new, Michelin two-star restaurant. Across the square in Sonoma is a much more relaxed establishment...
Wine-news-5-min logo and a photo of an old vine in autumn
Wine news in 5 Video Before I get to global news, a couple bits from us. First and foremost, a huge congratulations to our...
The Wine Society logo
Tasting articles Reaching parts very few other wine merchants do, taking buying fine wine seriously, but cautious about rising costs. The Wine...
Wine inspiration delivered directly to your inbox, weekly
Our weekly newsletter is free for all
By subscribing you're confirming that you agree with our Terms and Conditions.