ヴォルカニック・ワイン・アワード | The Jancis Robinson Story (ポッドキャスト) | 🎁 年間メンバーシップとギフトプランが30%OFF

歴史を飲む - ビオンディ・サンティ1955

Saturday 9 May 2015 • 6 分で読めます
Image

これはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。

これら素晴らしいワインについてのテイスティングコメントはWalter's tasting notesを参照のこと。

上質なフランスワインやドイツワインの歴史を青々と茂った森に例えるとしたら、イタリアワインのそれは小さな茂みでしかない。フランスのワイン作りはローマ人によってもたらされたかもしれないが、イタリアの、というよりも最終的にイタリア共和国に組み込まれることになった多くの変化に富む地域のワインはここ数世紀にわたって停滞期にあったと言える。この地でワインは毎日の欠かせない飲み物だったし、比較的最近まで、信頼のおける水の代替品として食卓で大いに注がれてきた。しかし熟成の価値のある、高価な贅沢品というワインの概念はイタリアにはほとんどなかった。ピエモンテの「王のワイン、ワインの王」であるバローロでさえ、伝統的に熟成されてはきたものの、多くは心もとない条件下で、ボトルではなく大型でガラス製のデミジョン(demijohn)に入れて熟成されてきたのだから。

ところが19世紀終盤にフェルッチョ・ビオンディ・サンティ(Ferruccio Biondi Santi)がブルネッロと名付けた赤ワインを作り始めた。これは彼の祖父が南部トスカーナで見出したサンジョヴェーゼの地元クローンを主体としたワインである。この、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの原型となるワインは熟成させることを明確に視野に入れて作られていた。当時この地区で最も特徴的だった甘口の白ワイン、モスカデッロ・ディ・モンタルチーノとは非常に対照的である。

事実、ビオンディ・サンティの遺伝子は明らかにセラーで熟成させることに向いてきたと言える。フェルッチョの孫であるフランコ(左の写真ではフェルッチョが19世紀末に購入した樽と共に写っている)は2013年に91歳で亡くなったが、彼は自身のワインが買われないよう、最高のヴィンテージにはあえてワインの価格を釣り上げた。一方フェルッチョの息子で素晴らしい名前を持つタンクレディは1970年にフェルッチョの伝説的な1888ヴィンテージのリコルクを大々的に行うことで国際メディアに旋風を巻き起こした。この1888はまだ非常に生き生きとして最高の状態だったと満場一致の評価を受けた。彼らビオンディ・サンティの三世代によって、イタリアでも熟成が可能な偉大なワインを作ることができると証明されたと言える。

タンクレディはその時代としては類稀な人物だった。1920年代や1930年代という早い時代に世界中を父のワインの美学を絶賛して回った。そして晩年は事実上イタリア初のコンサルタント・エノロジストとして、ローマ郊外の有名なフィオラーノを代表とする様々な産地の生産者に高品質なワインの作り方をアドバイスして回った。中でも最も注目すべき点は、1960年代後半にイタリアワインの第一人者、ルイジ・ヴェロネッリ(Luigi Veronelli)がテイスティングを行い、ビオンディ・サンティのワインの名声をこれまでにないレベルまで引き上げるよりも前までは、二次大戦後イタリアで最も貧しいコミューンの一つだったモンタルチーノではビオンディ・サンティが唯一のまともなワイン生産者であったことである(大戦中タンクレディは貴重なボトルを注意深く隠した)。

今日ブルネッロ・ディ・モンタルチーノには200を優に超える数の生産者がいるが、ビオンディ・サンティのイメージでワインを作る生産者はほとんどいない。最近の流行はまろやかで熟した味わいの色の濃いワインで、明確に新樽が感じられ、多くの場合はメルローやカベルネ・ソーヴィニヨンといった、タンクレディがアドバイスを行っていた時代の法律では許可されていなかった国際品種が使われるものである。「まっとうな」ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは100%サンジョヴェーゼ、典型的なトスカーナのブドウを使い、それほど色は濃くない。そして長期熟成を大きな古樽で行い、凝縮感というものは申し分なく育てられた樹齢の高いブドウと、長いマセラシオンに由来するものである。モダンなブルネッロ・ディ・モンタルチーノの品種構成に関する地元の議論は2011年、モノグラフの著者であるケリン・オキーフ(Kerin O'Keefe)をして「ブルネッロの紳士」と言わしめたフランコ・ビオンディによって広く知られることになる騒動に発展した。彼は集まった生産者たちを、公式に認定された公正なサンジョヴェーゼの道から外れる選択を拒絶する方向へ導くことに長けていたのだ。

はたしてこのことが今日のワイン愛好家に関係あるだろうか。大いにある。ニューヨークを拠点とするセルジオ・エスポジト(Sergio Esposito)が現存するビオンディ・サンティの多くを入手してくれたおかげで、資本が十分にあり、イタリアのワイン史の重要な構成要素を味わいたいと考えるワイン愛好家にはそのチャンスが巡ってきたと言えるからだ。

エスポジトはナポリの大家族に生まれ、ニューヨーク州北部で育ち、マンハッタンのイタリアン・レストランのソムリエとして経験を積んだ。だが高級ワインへの投資ブームからイタリアが大きく取り残されている状況に腹を据えかねた彼は現在、パートナーと共にボトルド・アセッツ・ファンド(Bottled Assets Fund)という最高級のイタリアワインに焦点を当てた投資ファンドを経営している。現在、安易に著名なワインに焦点を当てた多くのワイン・ファンドがトップ・ボルドーの価値の低迷にきりきり舞いしているのを尻目に、ボトルド・アセッツは非常にうまくいっている。最近開催されたビオンディ・サンティの貴重な7つのヴィンテージの発表会で彼はこのファンドに触れ「僕たちは本当にラッキーだった。損をしていないのは僕たちだけだと思う。でも利益について話したくはないんだ。だってみんな僕がずるがしこいって思うだろ。」と述べている。

疑う余地なく、最も賢い選択は彼が7000本に及ぶ1945, 1955, 1964, 1968, 1969, 1970, 1971, 1975のビオンディ・サンティのブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・リゼルヴァを獲得したことだろう。これらは全てフランコ・ビオンディ・サンディに少なくとも一度、多い場合には二度も、多大な労力を費やして品質を検査し、リコルクし、確認をしてもらったものだ。このコレクションは2013年、フランコが亡くなった前後に配給会社であるビオンディ・サンティ・SpAから500万ドルで購入したと伝えられている。同社はちょうど前年にワインをワイナリーからトスカーナに移したところだった。

エスポジトは一年のうち数か月をイタリアで過ごし、1990年代初頭以降何度も神聖なビオンディ・サンティのセラーでフランコ(時に現代派の息子ジャコポとの不仲を報じられていた)と共にテイスティングをする機会に恵まれた。彼が言うにはこれらのコレクションを取得した当初は後にこのワイナリーのセラーに返す意図があったそうだが、現状はイングランド西部にあるオクタヴィアン(Octavian)の地下にあるワインショップにそれらを移し、すでにその半分を売却している。売却先のほとんどがアメリカのバイヤーだが、ドイツ、スイス、フィンランド、スウェーデンなども含まれている。

彼はロンドンにしばらく滞在し、彼の言うところの「イタリアワインに対する一般の理解は1990年代のアメリカレベル」なイギリスでの注目を集めるつもりだそうだ。「急いで売りさばこうと思っているわけじゃないんだ。それよりもフランコやタンクレディの仕事に感謝して、彼らの最高の作品である最後のボトルを心から楽しんでくれるような適切な人の手にワインが渡ることを望んでいるんだ。」彼のテイスィングに招かれた面々から推測するに、彼はそれらをレストランのワイン・リストに載せることに注力しているようだ。残念なことにこのテイスティングでは私が急いで書いたメールのせいで抜栓時間に不幸な誤解が生まれ、フランコが推奨していた8時間のエアレーションができなかった。

エスポジトは1945はまだテイスティングしていないと言い、その在庫は数百本に減ってしまったそうだが、他のヴィンテージは最高で2000本は所有しているそうだ。そのワインは一嗅ぎしただけで、全く別の時代のものだということがわかる。エスポジトはこれまで100本を抜栓し劣化していたものはなかったというが、1本350~2200ポンドもするのだから劣化は勘弁してもらいたいものだ。1970年に事業を引き継いだフランコ・ビオンディ・サンティは常に、いつになっても枯れないワインを作りたいと言っていたそうだ。エスポジトが言うように、「フランコが行った最大の功績はそれを売らなかったこと」だろう。

ロンドンのロバーソン(Roberson)は現時点で以下のビオンディ・サンティのブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・リゼルヴァを販売している。私のお勧め順に1本当たりの保税価格と共に記載したが、全てが非常にピュアで、価格も申し分ない。

1955;2000年および1978年にリコルク (£2,200)
1968;2000年にリコルク (£475)
1964;1985年にリコルク (£1,395)
1969;2005年にリコルク (£350)
1971;2001年にリコルク (£510)
1970;2007年にリコルク (£350)
1975;2000年にリコルク (£640)

国際的な取引についてはアメリカのVino Management info@vinomanagement.com に、個人的は販売についてはItalian Wine Merchants wdinunzio@italianwinemerchants.com に問い合わせのこと。

写真はビオンディ・サンティのウェブサイトから転載。

原文

この記事は有料会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

Celebrating 25 years of building the world’s most trusted wine community

In honour of our anniversary, enjoy 25% off all annual and gift memberships for a limited time.

Use code HOLIDAY25 to join our community of wine experts and enthusiasts. Valid through 1 January.

スタンダード会員
$135
/year
年間購読
ワイン愛好家向け
  • 285,329件のワインレビュー および 15,804本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
プレミアム会員
$249
/year
 
本格的な愛好家向け
  • 285,329件のワインレビュー および 15,804本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
プロフェッショナル
$299
/year
ワイン業界関係者(個人)向け 
  • 285,329件のワインレビュー および 15,804本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大25件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
ビジネスプラン
$399
/year
法人購読
  • 285,329件のワインレビュー および 15,804本の記事 読み放題
  • The Oxford Companion to Wine および 世界のワイン図鑑 (The World Atlas of Wine)
  • 最新のワイン・レビュー と記事に先行アクセス(一般公開の48時間前より)
  • 最大250件のワインレビューおよびスコアを商業利用可能(マーケティング用)
Visa logo Mastercard logo American Express logo Logo for more payment options
で購入
ニュースレター登録

編集部から、最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。

プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます。

More Free for all

RBJR01_Richard Brendon_Jancis Robinson Collection_glassware with cheese
無料で読める記事 What do you get the wine lover who already has everything? Membership of JancisRobinson.com of course! (And especially now, when...
Red wines at The Morris by Cat Fennell
無料で読める記事 A wide range of delicious reds for drinking and sharing over the holidays. A very much shorter version of this...
JancisRobinson.com team 15 Nov 2025 in London
無料で読める記事 Instead of my usual monthly diary, here’s a look back over the last quarter- (and half-) century. Jancis’s diary will...
Skye Gyngell
無料で読める記事 Nick pays tribute to two notable forces in British food, curtailed far too early. Skye Gyngell is pictured above. To...

More from JancisRobinson.com

Poon's dining room in Somerset House
ニックのレストラン巡り A daughter revives memories of her parents’ much-loved Chinese restaurants. The surname Poon has long associations with the world of...
Front cover of the Radio Times magazine featuring Jancis Robinson
現地詳報 The fifth of a new seven-part podcast series giving the definitive story of Jancis’s life and career so far. For...
Karl and Alex Fritsch in winery; photo by Julius_Hirtzberger.jpg
今週のワイン A rare Austrian variety revived and worthy of a place at the table. From €13.15, £20.10, $24.19. It was pouring...
Windfall vineyard Oregon
テイスティング記事 The fine sparkling-wine producers of Oregon are getting organised. Above, Lytle-Barnett’s Windfall vineyard in the Eola-Amity Hills, Oregon (credit: Lester...
Mercouri peacock
テイスティング記事 More than 120 Greek wines tasted in the Peloponnese and in London. This peacock in the grounds of Mercouri estate...
Wine Snobbery book cover
書籍レビュー A scathing take on the wine industry that reminds us to keep asking questions – about wine, and about everything...
bidding during the 2025 Hospices de Beaune wine auction
現地詳報 A look back – and forward – at the world’s oldest wine charity auction, from a former bidder. On Sunday...
hen among ripe grapes in the Helichrysum vineyard
テイスティング記事 The wines Brunello producers are most proud of from the 2021 vintage, assessed. See also Walter’s overview of the vintage...
JancisRobinson.comニュースレター
最新のワインニュースやトレンドを毎週メールでお届けします。
JancisRobinson.comでは、ニュースレターを無料配信しています。ワインに関する最新情報をいち早くお届けします。
なお、ご登録いただいた個人情報は、ニュースレターの配信以外の目的で利用したり、第三者に提供したりすることはありません。プライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます.