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続・ミネラリティ

Saturday 25 January 2020 • 6 分で読めます
Dr Jamie Goode and Steve Daniel at minerality seminar in Shoreditch, January 2020

先日、ロンドンのワイン界の大御所達がこの揺らぎあるコンセプトについて議論するために集まった。この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

今月の初めにロンドンのショーディッチにあるワーク・スペースでワインを中心としたセミナーが開催された。わずか40名ほどしか入れないスペースは9名以上のマスター・オブ・ワイン、ザ・ガーディアンの特派員、ベテランのワイン作家、オズ・クラークOBEなど錚々たる顔ぶれでいっぱいとなった。

ワイン科学者でWineAnorak.comのジェイミー・グッド博士(上写真左)と尊敬を集め、32年の経験をもつプロのバイヤーで現在はイギリスのインポータ、Hallgarten Novumに勤務するスティーヴ・ダニエルの間で行われた議論の前後に提供された11種類のワインはその知名度や珍しさで揃えられたわけではなかった。

本来ならリバティー・ワインズの2018ブルゴーニュの試飲会やドライ・ジャニュアリー(訳注:1月にアルコールを消費しない運動)への反対運動をしていたはずのワイン界の人々をこれほどまでに惹きつけたトピックは何だろうか?

それは議論を巻き起こすMで始まる言葉、ミネラリティであり、グッドによるとワインに使われるようになったのは1980年代後半に入ってからのことだと言う。尊敬される近代ワインメーキングの父、エミール・ペイノー教授はその言葉に一度も触れることはなかったし、カリフォルニア大学デイヴィス校のアン・C・ノーブル教授は彼女が1984年に作成した有名なワインの最も一般的な表現を集めたアロマホイールでもそのコンセプトを無視している。だが今世紀に入ってミネラル、あるいはミネラリティという言葉はテイスティング・ノートのあちこちに散りばめられるようになり、近年生産者たちが自身のワインをその用語を使って表現する場合はミネラリティは非常に望ましい品質を示す言葉として使われるようになった。

ダニエルは彼がオッドビンズのためにワインの買い付けを始めた1980年代についてこう話した。「当時は欠陥のないワインを見つけることが仕事でした。ワイン造りはまだまだある意味原始的でしたから」。今では酷い造りのワインはかなり少なくなり、世紀が変わるにつれワインのテイスティングも凝縮感、アルコール、樽に注目したものから軽やかでフレッシュで透明感のあるスタイルへと世界的に進化し、このミネラルという品質用語が、それが何であれ、目立つようになってきた。現在ダニエルは自分の買い付けるワインについてはそれを特にポジティブな意味でとらえていると話した。ただし、彼はその品質の高さは赤ワインよりも白ワインで顕著だと述べた。(今回のディスカッションで用いた11種のワインのうち8種は白だった)

グッドはダニエルの相棒として、この試みに参加していたが、それは彼がワインの科学をダニエルよりも、もちろんその他ほとんどの人々よりもはるかに深く理解している点が理由の一つだったが、もう一つの理由はグッドが言語とワインが複雑に交錯する点に特に魅了されているためだった。「言語表現によってどれほど人間の感覚が影響を受けるのだろうか?」彼は問いかけた。まさに今回の文脈では特に核心に触れる質問だ。ワインの辞書にミネラルあるいはミネラリティという言葉を付け加えることでこの特殊な品質を我々が追い求め、敬うようになるのだろうか?そしてそもそも、それはなんなのか?

他の多くのワイン用語と同様、この言葉はほとんど正確な定義なしに特に今世紀に入って使われている。だが我々ワインのプロは少なくともそれが特定のものでないと言う点では合意する傾向にある。その性質はフルーティな、野菜っぽい、オークが効いた、花のような、スパイシーな、といった表現とは一切関係がない。この性質はしばしばテクスチャに関連付けられ、一定のざらつきや、我々のテイスティング・チームの一人、アリスター・クーパーMWが言及するように「噛み応えのある(bitey)」ような感覚と結び付けられる。実際Hallgarten Novumがワインを提供する相手にミネラリティの定義について説明する際には、その若手の一人でアルゼンチン在住のフアン・パブロ・ミケリーニ(Juan Pablo Michelini)はアロマではなくテクスチャだと断言した。

一方で著名なラングドックの生産者、ジェラール・ベルトラン(先週のワイン・オブ・ザ・ウィークの生産者でもある)は彼のイギリスのインポータに対しより古典的な解釈を提示し、アベリストウィス大学のアレックス・モルトマン教授のような地質学者が数年前にこの用語に対し大きな批判をした点に触れた。それほど遠くない昔、ミネラルはブドウの根が地中の岩から溶け出したミネラルを吸い上げそれが魔法のようにワインの中に現れると広く信じられていた。そのため例えば、ワインは石灰岩や花崗岩、火山岩、玄武岩などの味がするのだとされていた。私がかつて本サイトで書いたように、自身も趣味でブドウを育てワインを作っているモルトマンこそ、我々がこのミネラルやミネラリティという単語を使う直解主義者的理論をこの上なくバッサリと切り捨て、我々がその用語を慎重に使うように導いた張本人だ。

しかし、グッドも指摘する通り、我々がレザーのような、とかチェリーの味わいが、と表現する場合、決してレザーやチェリーがワインに含まれていると言っているわけではない。そしてザ・ソムリエ・アトラス・オブ・テイストという書籍の「悩ましいミネラリティに関する質問」と銘打った項ではソムリエからワインメーカーに転身したラジャ・パーとカリフォルニアの食とワインのライター、ジョーダン・マッケイがモルトマンの言語的な批判に異論を呈し、「ミネラリティの価値は科学的な用語としてではなく、比喩として、である。我々はワインに文字通りミネラルが入っていると思っているわけではない。石や、岩、金属、そしてミネラルを想起させる詩的な特徴について言及しているだけだ。」と。

この議論について何が面白いかというと、ミネラルと評価される品質が何なのか、可能性のある論理が進化しているにもかかわらず、結論が基本的に出ないという点だ。ダニエルはこの性質を「フルーツを超えたもの」で口の中に感じるワインのインパクトを長くするものと関連付けた。ある一派は還元的な硫黄化合物に関連し、数年前に世界中で一世を風靡したシャルドネの生産者、特にブルゴーニュのコシュ・デュリやルフレーヴ、ルーロの白に感じる「マッチを擦った時の香り (和訳)」と関連付けた。また別の向きは酸素との接触を最小限に抑える、いわゆる還元的なワイン造りがミネラルと表現されるワインにつながると信じている。ダニエルは醸造の過程で若いワインを長期にわたり澱と接触させたことも要因の一つだと考えている。

グッドはまた、ワインの基本的な要素である酸などもミネラリティと混同されていることがあるのではと訝る。確かにミネラルを表現に使われるようなワインは特にフレッシュで柑橘系のニュアンスがあることが多い。また別の考え方としては最近流行しているワインの品質に関する表現、サリニティ(塩味;こちらのフォーラムで議論されている)と、ミネラリティとの関連だ。私自身も世界中で多くの崇拝を集めるワイン生産者たちが自身のワインに塩気を積極的に求めているのだと話すのを聞いている。そして先日はツイッターでワインに塩を加えたらどうなるのか、激しい議論も巻き起こっていた。ダニエルの(そして私の)お気に入りのワインの一つ、火山島であるサントリーニのアシルティコは、このギリシャの島に吹き付ける風に運ばれた塩のしぶきの恩恵を受けているのかもしれない。

ダニエルとグッドが同意した点の一つはオークを使うことでミネラリティがマスクされてしまうと言う点だ。そしてその特徴はニューワールドのワインよりもヨーロッパのワインに顕著に見られる。一方当日提供された11のワインのうち非ヨーロッパの2本のワインはアルゼンチンのものだったが、それらはコンクリートで発酵することでミネラルの特徴が滲み出してくる点を示唆していた。コンクリートは一時期洗浄の容易なステンレス・スチールに比較して古臭いとされてきたが最近人気が回復してきたものだ。グッドは素焼きのポットやアンフォラもまた同様の影響を及ぼす発酵容器として人気が高まってきていると指摘した。

このイベントの人気の高さが示す通り、ミネラルという特徴が非常に望ましいとされている。そうなると賢い大量消費用ワインの生産者たちは安価なワインを同様な効果のある物質と接触させることでミネラルの味わいを表現することようになるのではないか?(Minerality for the masses を参照のこと)この点について私が話をした世界的に経験豊富な数人のワインメーカーたちは、それは検討に値するアイデアだと言っていた。カリフォルニアのワインメーカーで先日自身のボニー・ドゥーンを売却したランダール・グラハムはさらにその先を走っていて、2001年に彼は自身のワインの中に様々な石を吊るす実験を行っている。残念ながらこの実験は危険なまでに高いレベルの他の化合物が含まれることとなり、アメリカの専門家たちは彼にそれをやめるよう助言した。だが私はそれがこの件の行き止まりではないと考えている。

本格的で、計画的な実験が可能になる頃には、流行のスポットライトはこの謎に包まれたミネラリティという言葉から違うものに移ってしまっているのかもしれないが。

このイベントのビデオもこちらから参照のこと。

お薦めのミネラルなワイン
取扱業者はごく一部のみを紹介している。

白ワイン
Verum, Las Tinadas Airén 2018 Vino de la Tierra Castilla
ラ・マンチャの生産者からの価格はたった €9 だがもっと高くあるべきだ

Idaia, Dafnes Vidiano 2018 Crete
£14-16 Corking Wines, Strictly Wine, Novel Wines, thewhiskyexchange.com

Gaia, Thalassitis Assyrtiko 2018 Santorini - or virtually any Santorini white
£23-£36 TheDrinkShop.com, Noel Young, Corking Wines, Fintry Wines, Hic!, The Soho Wine Supply, Hedonism

Domaine Pinson 2018 Chablis
£120 a dozen in bond Berry Bros & Rudd

Dom Wachau, Achleiten Riesling 2017 Wachau - or virtually any vintage
£25 The Wine Society

赤ワイン
Zorzal, Eggo Tinto de Tiza Malbec 2017 Tupungato
£15.15-£19.99 Hic! (online)

Dom Joël Remy, Les Lavières 2018 Savigny-lès-Beaune
£170 a dozen in bond Lea & Sandeman

Jean-François Quénard, Les 2 Jean Persan 2018 Savoie
$27.50 Solano Cellars

Concha y Toro, Don Melchor, Puente Alto - most vintages
Just under £100 Penistone Cellars, Hedonism

完全なテイスティング・ノートはこちらのデータベースから、国際的な取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

原文

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