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ナイティンバー、クリュッグに迫る

Saturday 10 September 2016 • 4 分で読めます
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この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。Nyetimber - a Canadian playgroundも参照のこと。

最近はワイン愛好家のほとんどがイギリスのブドウ畑から本格的なスパークリングワイン、シャンパーニュよりも比較的爽快なワインが生み出されることを知っている。文句が出るとしたらその品質ではなく価格だ。イギリスのスパークリングが品質の悪いシャンパーニュよりも高価である点が気になる人は今後もいるだろう。

だが、イギリスで最高の生産者の一つは、そのような批判を鼻であしらうことになる。彼らは来年、1本あたり100ポンド、すなわちドン・ペリニヨンやクリュッグといったプレステージ・シャンパーニュが付けるような価格でイギリスの泡を売り出す予定なのだ。ウェスト・サセックスのホーシャムにあるナイティンバーは常に開拓者であり続けてきた。1988年にアメリカ人のモス夫妻によって設立され、シャンパーニュの品種であるピノ・ノワールとシャルドネに注力し、シャンパーニュからワインづくりの専門知識を取り入れたイギリスで初めてのワイナリーである。1990年代半ばに彼らの最初のワインがリリースされるや、フィナンシャル・タイムズの事務所で行われたブラインドテイスティングでそれは数々のシャンパーニュを打ち破った。

ところがその後モス夫妻はそれを売却しアメリカに帰ってしまった。しばらくの間その物件はミュージシャンの所有となり、その歴史ある離れはレコーディング・スタジオに改造され、品質もややぐらついた。だが2006年終盤、エリック・ヘレマ(Eric Heerema)がそれを買い取ったことでナイティンバーの次章が始まった。ヘレマの名はオランダではよく知られていた。その一族にはオフショア投資で莫大な成功をおさめた歴史があったからだ。ロンドンに拠点を置いたエリックはイギリス・ワインに魅了され、最初は別のサセックスの畑を購入した(その後売却している)。実はナイティンバーは彼が唯一没頭したものではけしてなかった。経済活動とは全く別に、彼とその若い妻、スコットランド人歌手フィオーナ・ケネディの娘ハンナは、モナーク・オブ・ザ・グレン(訳注:イギリスのテレビドラマ)が撮影されたハイランドの物件を修復するのに忙しかったためだ。だが彼は明らかにナイティンバーに大きな望みを持っていた。

現在の計画の重要なカギとなるのは若いカナダ人夫婦だ(ナイティンバーは外国人によって所有・生産される最高のイギリス・ワインという運命にあるようだ)。現時点で生産されているワインはチェリー・スプリッグス(Cherie Spriggs)とその夫ブラッド・グレートリックス(Brad Greatrix)によるもので多くの称賛と喝采を浴びている。彼らを選んだのは控えめに言っても偶然だったと言えよう。彼らがこの職を得たのは地元であるカナダから送った、世界中で理論的および実践的ワイン作りを経験した後に「夢の仕事を見つけたい」という思慮深いメールだった。二週間後、彼らはサセックスの田舎にどっしりと腰を据え、ナイティンバーの時代がかった建物で働いていた。

ナイティンバーはドゥームズデイ・ブックにもその名が記されている。ヘンリー8世がアン・オブ・クレーヴズに与えたものだ。だが彼らを引き付けたのはそのような北アメリカ人の歴史好きが原因ではない。チェリーの父はケンブリッジで生まれたイギリス崇拝者であり、チェリーはワールド・アトラス・オブ・ワインでナイティンバーの写真を見て、父にイギリスへの旅行の帰りに1本買ってきてほしいと頼んだのだ。そのワインの品質がこの夫婦をヘレマの元に向かわせ、彼はその意思をダメもとで尊重したのだ。もしかしたら何もかもうまくいっていなかったかもしれない。

チェリーは夫婦の中で広報担当だ。先の5月、出来上がった白とロゼのボトルをテイスティングする最初の部外者として私が訪問した際、チェリーになぜ特にスパークリングを作りたいと思うのか尋ねてみた。「それは」彼女は特徴的な思慮深さを見せながら話した。「難しいから・・・ですかね。音楽をとてもとても優しく聴くみたいなんです。ベースワインのわずかな違いをじっくりと見極める必要がありますから。」チェリーは大学で音楽と科学を学んでいる。

チェリーとブラッドの会話はおそらくほぼ仕事にまつわるもの、特に彼らが注意深く行っている一連の複雑な実験のことではないかと想像する。着任以来このカナダ人夫婦は前任者(フランス人)を追い出し、生産のあらゆる場面の微調整を行い、あらゆる革新を実行し(スパークリングワインが弱いとされる光による破壊から守るために特に色の濃い(ただし環境に優しい軽い)ボトルを導入したことも含む)、おそらくはヘレマの継続的で惜しみない投資に支えられた機会を存分に生かしていると言える。彼らは現在、人もうらやむ170ヘクタールもの畑を所有し、そこにシャンパーニュの古典的な3品種を彼らの思うままに植えている。実際その8つの畑は90ものブロックに分けられ、新しい2つの畑は車で75分のハンプシャーの、シャンパーニュで尊重されている石灰土壌の土地にあり、ストックブリッジ近くにあるウェイトローズの畑のすぐ隣だ(サセックスの元々の土壌は緑色砂質土壌である)。

ブラッドとチェリーの時代にもたらされた変革は大きなものだった。イギリスのスパークリングワインの多くはヴィンテージ表記がされ、非常に最近の単一年のものである。これはほとんどの生産者の歴史が浅く、無限の財源にも縁がないためだ。例えばナイティンバーのクラシック・キュヴェの現行ヴィンテージは2010である。だが彼らは着任早々、進化しているクラシック・キュヴェをヴィンテージ表記のものから、最近の年のワインのブレンドを古いリザーヴ・ワインで支えるような、シャンパーニュで一般的ないわゆるノン・ヴィンテージのブレンドに向かわせたのである。その結果2010はクラシック・キュヴェのヴィンテージ記載のものとしては最後となり、今年の終わりには私が5月にテイスティングした2011を基本とし、このカナダ人夫婦が着任し、ワインの保存をはじめた2007年までさかのぼるリザーヴ・ワインを用いた複雑なブレンドがリリースされる。「イギリスでノンヴィンテージを販売するのは私たちが最初ではありません。」スプリッグスは認めた。「でもリザーヴ・ワインのストックは最も多いのです。私たちのクラシック・キュヴェにはおそらく30%ぐらいブレンドされているはずです。」

このカナダ人夫婦はかなりの時間をかけてこの新たな高級キュヴェを計画してきたようなのだが、それがどのようなものになったのかは大量の試験ブレンドとそのテイスティングから推測するしかない。この野心的な新たなシリーズはイギリス・ワインに新たな基準をもたらすだろうし、ボトルの形は一般的でありながら明らかにこれまでのナイティンバーのシリーズとは見た目が異なる。 私が訪問した際には名前やラベルに関する最終決定はされていなかったが、その名がヘレマになることはないと聞かされたし、彼のまだ幼い娘たちの名前にもならないそうだ。オランダとのつながりとかけたアン・オブ・クレーヴズはその名としてふさわしいと思うが、どうだろう(そして彼女はヘンリー8世の妻には珍しく自然死だった)。

もう一つシャンパーニュを模したナイティンバーのシステムと言えば、バック・ラベルにロット番号を記し、ウェブサイトから膨大なワインの情報にリンクされていることだろう。クリュッグのように。

オランダ人とカナダ人が生み出す驚異的なスパークリング

テイスティングノートも参照のこと。

Nyetimber Classic Cuvée 2010
£32 RRP (ただしWine Rackで9月12日まで£28.99)

Nyetimber Blanc de Blancs 2009
£40 RRP

Nyetimber, Tillington Single Vineyard 2010
£75 RRP

Nyetimber, ?? 2009
£100+

Nyetimber, ?? Rosé 2010
£100+

原文

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