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スペインの古木とガルナッチャを救え

Saturday 5 May 2018 • 5 分で読めます
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この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。Spain's new waveも参照のこと。

国際ぶどう・ぶどう酒機構(OIV)は統計データを集めるのが得意だ。彼らは最近主要なワイン生産国と各国で栽培されている品種の比較を公開したが、中には驚くべき結果もあった。例えばイタリアは固有品種の宝庫だ。最も栽培面積の広いサンジョヴェーゼですら、この国の総栽培面積のわずか8%しか占めていない。なにしろ80種もの品種が栽培面積の三分の四を占めているのだ。フランスで最も一般的な品種であるメルローだが、これもまたフランスの14%を占めるだけだ。こちらのレポートも参照のこと。

これが世界最大のワイン生産国の一つでもあるスペインともなると大きく様子は変わってくる。世界最大の栽培面積を誇るこの国で栽培面積の43%はたった二つの品種、テンプラニーリョとアイレン(ほぼ同率)で占められているのだ。これはまさに驚くべきことだ。ガルナッチャ(南ローヌのグルナッシュがその由来と言われている)と、かつてスぺインの畑の多くを占めていた果皮の色の濃いボバルはそれぞれたった6%しか占めていないというのだからなおさらだ。

果皮の色の薄いアイレンは多くがブランデーに用いられるが、何十年もの間、世界で最も多く栽培されている品種、あるいは栽培面積の最も広い品種とされていた(栽培面積の方が統計学的にデータをとるのが簡単だ。ブドウの本数を数えなくて済むし、そこで生産されるブドウの量ともなれば毎年大きく変わるからだ)。この理由の一つは、アイレンは特にラ・マンチャの高原に見られる品種で、非常に乾燥した田舎で育てられるため土壌にわずかに含まれる水分を最大限活用するためブドウとブドウの間を非常に広く取って植えなくてはならないためだ。

それほど遠くない昔、ガルナッチャはスペインで最も多く植えられている赤ワイン用品種だった。おそらくそのためだろう、スペインのワイン生産者たちは尊敬に値するこの品種に対し敬意をもって接してこなかったようだ。テンプラニーリョはスペインの伝統的な二大産地であるリオハとリベラ・デル・デュエロの主要品種だが、自動的にガルナッチャよりも優れているとみなされていた。実際、(来週ここでも記事にする予定だが)多くの偉大で長命なリオハの原料でもある。テンプラニーリョという名前はテンプラーノ、すなわち早いという単語に由来し、ガルナッチャよりもはるかに早く成熟することを指す。すなわち(訳注:現在のように)夏の気温が高くなる前には間違いなく有用だったし、開花も比較的順調な品種であるため収穫もそこそこ順調なのである。かなり大雑把に、やや軽率ではあるがフランスの物差しで例えるとすれば、テンプラニーリョはボルドーの骨格に似たワインを生産し、ガルナッチャは色が淡く甘みがあり、フランス東部、ブルゴーニュから南ローヌにかけて弧を描く産地を彷彿とさせる。

ガルナッチャのもう一つの特性としては現在世界中の畑に蔓延している幹の病気に強い点が挙げられる。そのためガルナッチャの平均樹齢は比較的高い。古樹は慎重に手入れをすれば若い樹よりも一般的により面白く、力強いワインを生み出すが、生産量は少なくなる。その生産量の低さと、歴史的に見下されていたことが、ヨーロッパの過剰なワイン生産を削減するためにEUが行ったブドウの減反政策の中で支払われた補助金をスペインのブドウ生産者たちがすぐに受け入れた理由なのかもしれない。このことがガルナッチャの栽培面積が劇的に減少した理由の一つと言えるだろう。

バロッサ・ヴァレー、カリフォルニア南アフリカなどはすべて古樹の価値を守るべく活動を始めている(Old Vines Registerも参照のこと)。古樹が消えてしまう前にこのような活動がスペインでも行われるのなら素晴らしいことだ。(上の非常に古いブドウの手入れを行っている写真はAT Rocaのウェブサイトから拝借したものだ)

ガルナッチャの由来は北部、ワイン用語でいえばリオハとカタルーニャの間にあるアラゴンに由来すると考えられていた。この品種の評判が最も低かった頃、アラゴンの原産地呼称であるカンポ・デ・ボルハやカラタユド、カリニェナなどではガルナッチャの古樹から作られた偉大な価値ある赤ワインを見つけることは比較的容易だった。

だがその価格はおそらくこれから上昇していく兆しが見えている。スペインのワインメーカーたちがこのガルナッチャをついに見直し始めたためだ。スペインの新しいワインの流れとして、野心的で洗練されたガルナッチャはアラゴンや隣接するナヴァラ(ガルナッチャが長きにわたり色の濃いロザートの主原料とされていた地域)に限らず広がり始めているが、スペインで最も伝統のあるリオハですら、ガルナッチャは希望の星となっている。

このガルナッチャの流行が定着しつつあるカルトなワイン産地の一つはマドリードの西にあるグレドス山脈で、古樹とほんのわずかな収量、スレートとシストの土壌がこの上なく繊細で透明感のある、まるでブルゴーニュのようなデリケートなワインを生み出す。第一線を行く生産者にはベルナベルバ(Bernabeleva)、コマンドG、ダニエル・ゴメス・ヒメネス・ランディ(Daniel Goméz Jiménez-Landi;現在は彼の家族の以前の農園だったヒメネス・ランディから独立している)、マラニョネス(Marañones)、そしてあちこちに出没するテルモ・ロドリゲスなどがいる。


フロントニアのブランドに関していえば、アラゴンに拠点を置くフェルナンド・モラもガルナッチャに執着を示す一人だ。「ここには世界で最高のガルナッチャが存在します。そしてグレドスはもっと有名になるべきです。」彼は最近スペインで私に鼻息荒くそう語ってくれた。彼は戦いには慣れている。10年前、25歳の機械工学士だった彼は経験ゼロの状態から試験的なワイン作りをはじめたのだが、それは断固とした決意と、彼によれば欠かせないものとして妻の支えがあってのことだった。世界中のワインの知識を吸収した彼はフルタイムのワインメーカーとなり、ついにはあの恐ろしい難関であるマスター・オブ・ワインの試験にまで記録的な速さで(しかも外国語で)昨年合格を果たした。彼は自身に比較的経済的余裕がなかったことが一発合格のエネルギーになったと話した。「そうしないとお金がもたなかったんです。」

彼とパートナーが力を注ぐ畑は北向きで標高が高い(ブドウの成熟を成功させるためにこの国の最も涼しい場所を求めるのがスペインの新星ワインメーカーに共通するテーマだ)。そして他の地域同様ワイン作りの手法は伝統製法に回帰する傾向にある。「私たちは自分たちのワイナリーを未来のために建てましたが、ワイン作りは過去に従って行っています」と彼は説明し、「スペインの最高のブドウは協同組合のものであることもあるので、彼らともよく一緒に働きますよ」と付け加えた。

ロンドンで会って最新のグレドス・ガルナッチャをテイスティングさせてもらった時、モラも、ダニ・ランディも、シャトー・ラヤスについて言及した。彼らはこの上なく澄み切った、幾重にも重なる(そして表現豊かな)このシャトーヌフ・デュ・パプをモデルとしているのだ。この最も有名な南ローヌのアぺラシオンを持つ生産者たちがなぜラヤスを見習わないのだろうかと私はふと思った。

モラは「スペインでは今ワインに関してクリエイティブな時代の波が来ているのです」と話したが、私もまた心から、この国のワインのスタイルと興味をそそられる地域が非常に速く多様化していることに同意する。復活を遂げたガルナッチャだけではない。ワイン作りの方法も新しいものが出てきている(アンフォラも然り)し、10年前までは事実上地元以外では知られていなかったワインの産地であるカナリー諸島やポルトガル国境近くのマイナーな品種の再評価も始まっている。

海外のインポータがこれらの新しいワインを世界に紹介してくれるなら、スペインのワインの未来は明るい。

可能性が期待される心躍るスペインの固有品種

Albillo
Bobal
Cariñena (Carignan)
Garnacha (Grenache)
Godello
Graciano
Juan García
Listán Prieto
Macabeo/Viura (Maccabeu)
Mencía
Merseguera
Monastrell (Mourvèdre)
Prieto Picudo
Sumoll
Xarello

お薦めのワイン

Alto de Trevejos 2015 Abona (Listán Blanco/Malvasía blend)

Agustí Torrelló, Cantallops d'AT Roca 2016 Penedès (Xarello)

Mustiguillo, Finca Calvestra 2014 Vino de España (Merseguera)
£21.25 Prohibition Wines

Rafael Palacios, As Sortes 2016 Valdeorras (Godello)
About £40 various UK retailers

Daniel Goméz Jiménez-Landi, El Reventón 2015 Vino de la Tierra Castilla y León (Garnacha)

Casa Castillo, El Molar 2016 Jumilla (Garnacha)
£18.20 Bottle Apostle

Compania de Vinos del Atlantico, Sierra de la Demanda 2014 Rioja (75% Garnacha, 20% Tempranillo, 5% Viura)

Artuke, La Condenada 2016 Rioja (80% Tempranillo plus Garnacha, Graciano and Palomino)
About £45 Old Chapel Cellars, The Sampler

Dominio de Atauta, Llanos del Almendro 2012 Ribera del Duero (Tempranillo)

Demencia de Autor 2012 Bierzo (Mencía)
£31.99 The Winery

Torres, Grans Muralles 2011 Conca de Barberà (46% Cariñena, 29% Garnacha, 17% Querol, 5% Monastrell, 3% Garró)
£73.50 Hedonism (2009)

Mas Doix 2014 Priorat (55% Cariñena, 45% Garnacha)
£300 for six bottles Corney & Barrow (2009)

テイスティング・ノートはこちら。Spain's new waveと、テイスティング・ノートの検索機能も参照のこと。

(原文)

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