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マールボロのソーヴィニヨン・ブラン、その成功の光と影

Saturday 4 March 2023 • 5 分で読めます
Cloudy Bay under cloud
雲に覆われるクラウディ・ベイ

世界でも群を抜くサクセス・ストーリーを解剖してみた。この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズに掲載されている。Marlborough for connoisseursも参照のこと。

50年前、ニュージーランドの南島北端に位置するマールボロは小さな田舎町と数百人の農民、羊、タバコ、ニンニク、果樹園があるだけの土地だった。その町は歴史に詳しい人ならばすぐに理解できるであろう理由から、ブレナムと呼ばれている。ところが1973年、この広く平坦な渓谷にブドウが植えられた時から、新たな試みが始まった。

当初のブドウ栽培は失敗ばかりだったが、2年後、モンタナ・ワインズ(現ブランコット・エステート)がソーヴィニヨン・ブランの栽培を始め、1979年に商業的なファースト・ヴィンテージをリリースした。一方、西オーストラリアにあるケープ・メンテルのデイヴィッド・ホーネンはマールボロのソーヴィニヨン・ブランにいたく感銘を受け、若きワインメーカー、ケヴィン・ジャッドと共に自社ブランドとしてクラウディ・ベイを立ち上げた(1995年にBBC2で放映されたホーネンのコメントも参照のこと)。この記事冒頭に掲載している写真はまさにクラウディ・ベイのものであり、サイクロンの雲に覆われた先月の画像だ。

当時のワイン業界では冷涼(cool)気候は比ゆ的にカッコイイ(cool)とされていた時代だ。重苦しい雲が覆うクラウディ・ベイのラベルは、この上なく強く香るマールボロのソーヴィニヨン・ブランに典型的な香り、ニュージーランド特有の切れのいい酸と相まって、オーストラリアが当時作っていた骨太で樽が強く、太陽をいっぱいに浴びたシャルドネと対照的な独特の個性を際立たせ、すぐに世界的なブームを呼び起こした。クラウディ・ベイはあっという間に世界中で販売されるようになり、その割り当ては厳しく制限された。多国籍企業(当時すでに若手のチームと典型的な設備を備えていた)がこの会社を買収するのは時間の問題だったと言えよう。事実2003年にヴーヴ・クリコが買収し、のちに高級品の大手LVMHに吸収されることとなった。

このラベルが成功したおかげで農地や果樹園はあっという間にブドウ畑に変わり、競合ブランドが軒を連ねた。その中には国際的な名声を確立することとなるオイスター・ベイやキム・クロフォードなどもあった。マールボロのソーヴィニヨン・ブランがシャブリのように、しかもより手の出しやすい価格帯で、ワインの選択肢の定番となるのに時間はかからなかった。

クロ・アンリとワイナリー犬


2000年、ソーヴィニヨン・ブランの故郷でもあるサンセールのブルジョワ家はフランス国外に出る決意をし、ワイラウ・ヴァレーに98ヘクタールの土地を購入した。その土地が当時マールボロで最も西のはずれにあったグローヴ・ミルよりも遥かに川の上流にあり、しかもこれまでの常識とは異なり、谷の底部から遠く離れた場所だったことから、地元の人々は彼らの頭がおかしいのではないかと考えたそうだ。ところがマールボロのソーヴィニヨン・ブランへの関心が爆発的に高まったことで、この地域は全てが1枚の巨大な単一栽培の畑と化し、ブルジョワ家所有のクロ・アンリから車で西に45分のところまで拡大したのである(パープル・ページ会員はこちらのワイラウの地図を参照されたい。最新版のザ・ワールド・アトラス・オブ・ワインですら既に時代遅れとなっていることがわかるはずだ)。

マールボロのソーヴィニヨン・ブランがイギリスで定番となったのはおそらく1980年代後半のことだが、今ではイギリスよりもアメリカでの勢いが強い。2021年、ニュージーランドはアメリカへの輸出国としてフランス、イタリアに次いで3番目に成功を収めた国となった。フランスもイタリアも、ニュージーランドの生産量の10倍以上を生産している国だ。マールボロのソーヴィニヨン・ブランの総輸出量(すなわち実質的にアメリカ人が購入するニュージーランドワイン全て)はスペインとオーストラリア、あるいはアルゼンチンを合わせた輸出よりも多いことになる。私はその成功をうらやむヨーロッパ以外のワイン生産国の人たちから、輸出市場を獲得するためにはどんな品種を推進していくべきかという質問をよく受ける。

一方、ブルジョワ家のように品質にこだわる実験的なマールボロの生産者たちはこの国際的な大成功が諸刃の剣であることに気付き始めている。マールボロの「秘訣」を工業レベルに転換するのは非常に容易だった。これは潤沢な水資源、十分な紫外線、自然に高収量が期待できるソーヴィニヨン・ブランのおかげだ。さらに都合がいいことにワインのスタイルは熟成期間が短いうえ、高価な樽を使わなくていい。結果としてこの地域は巨大企業が支配することとなり、その経営は巨大化の一途をたどった。そのような企業は基本的に繊細なニュアンスをワインに求めることはない。

ニュージーランドの高品質ワイン生産者グループ(The New Zealand Fine Wine Producers Group)は最近、「ニュージーランドの生産者はマールボロのソーヴィニヨン・ブランの均一な波に乗るよりも、面白みのあるワインを造ることに興味がある」というメッセージを広く伝える運動を始めた。ニュージーランドには662の小規模生産者がいる一方、中規模は66、大企業は16だ。後者は全てマールボロのソーヴィニヨン・ブランに多かれ少なかれ依存している。

消費者がニュージーランドと聞けば大量生産の、特定の品種と特定の地域だけのイメージと直結したイメージを抱く現在の状況は、とくに高品質なマールボロのワイン生産者にとって辛いものだ。彼らは樽を使わず若々しい(訳注:典型的なマールボロの)ソーヴィニヨン・ブランほどの利益を生まないにも関わらず、素晴らしいシャルドネ、シュナン・ブラン、リースリング、熟成したソーヴィニヨン・ブランやスパークリング・ワインを造るし、ピノ・ノワールの品質も年々向上している。

生産者にも消費者にも、マールボロにもそれと認識し、追い求める価値のあるテロワールが存在することを示すため、マールボロの新しいワイン地図が作成された。この地図に添えられたメッセージは、比較的職人的な生産者であるアストロラーベ、ブラック・キャンバス、ドッグ・ポイント、マヒ、ラパウラ(Rapaura)らによるもので、「マールボロのブランド価値の希薄化はワインの稀釈に起因するものであり、今はその転換点だ」という、ある種戦いの言葉である。

この地図の製作に先だったのがアペレーション・マールボロ・ワインの設立で、マールボロの最も野心的な生産者たちが一堂に会した、上記と同様だが更に規模の大きなグループだ。ブラインド・テイスティングを行う審査員によって、送付されてきたワインがこの団体のロゴを表示できるかを決める。却下される場合に最も多く見られる理由は?そう、稀釈だ。

これらの活動はカジュアルにワインを飲む向きには大きな影響はないだろう。しかしお手頃なワインを探す熱心なワイン愛好家は大いに興味をそそられるはずだ。マールボロの上質なワインには過剰な価格のつけられたものはないし、一般的な意見とは異なり、熟成によって非常に良くなっていくものもあるからだ。

また、小規模生産者の間でこれらの動きがみられるようになったきっかけも十分理解できる。(訳注:大企業である)インデヴィンは、ウェブサイトでマールボロに巨大タンクを所持しており、(ギズボーンとホークス・ベイにも巨大なワイナリーを所有)その設備だけで毎年3万トンのブドウを処理していると自慢げに書いている。創業者のダンカン・マクファーレーンの最新のプレゼンテーションによれば、2022年までにはその処理量は10万4千トンに達するそうだ。その経営はスーパーマーケットの自社ブランド用ワインをバルクで輸出することに特化しており、非常に大きな力を持っている。2021年、同社がニュージーランド最大の家族経営企業、ヴィラ・マリアを買収した際には、ニュージーランドのブドウ供給の17.3%を支配することになったと発表した。

インデヴィンはまた、ニュージーランド最大のブドウ畑管理会社の1つも傘下としており、ギズボーンにある国内有数の育苗商、リヴァーサンから数千本ものソーヴィニヨン・ブランを前払いで購入したとされている。ただ、これらの小さな苗木が今月初頭にこの地を襲った苛烈なサイクロン、ガブリエルにどれほど耐えられたのかは知る由もない。この記事を書いている時点で、ガブリエルが直撃したギズボーンの畑には実質的にアクセスは不可能だそうだ。

マールボロにある次に巨大な力といえばおそらくアメリカ人経営の多国籍企業コンステレーション・ブランドだが、フランスの飲料系企業ペルノー・リカールやオーストラリアのトレジャリー・エステートなどもまた明確な存在感を示している。牧羊の時代は遥か彼方だ。サステナビリティを意識するブドウ栽培者の中には冬に羊を使い、精密に機械選定されたブドウの畝間に植えられたカバー・クロップを思いのままに食むよう促す者もいたとしても。

優れたマールボロのソーヴィニヨン・ブラン


ここに上げた以外にも沢山あるのでMarlborough for connoisseursも参照のこと。

Astrolabe, Taihoa Vineyard 2021 13.9%
The 2020 is £28 Hic! Wine Merchants, £34.95 South Downs Cellars and $39.99 Share a Splash Wine Co, CA

Blank Canvas, Abstract | Three Rows 2019 13.5%
£22.70 VINVM

Clos Henri, Estate 2022 13.8%
This bottling used to be called Petit Clos, whose 2021 is £17.07 Vinatis and is widely available in the US from $15.97

Clos Henri, Otira Glacial Stones Single Vineyard 2021 14.4%
A new wine that will be available retail from May

Cloudy Bay 2022 13.2%
Widely available from £23.68 and, in the US, $24.99

Cloudy Bay, Te Koko 2020 13.8%
£42.49 GP Brands and widely available in the US from $41.98

Dog Point 2022 13%
Widely available from £16.95 and, in the US, $16.99

Dog Point, Section 94 2017 13%
£19.95 Roving Sommelier Wines, £21.99 Thorne Wines

Framingham 2022 12.5%
£15.75 London End Wines, £16 VINVM, £18.50 NY Wines and others

Greywacke, Wild Sauvignon 2016 14%
$35.99 Marty’s Fine Wines, MA

テイスティング・ノートと飲み頃はMarlborough for connoisseursも参照の子こと。世界の取扱業者についてはWine-Searcher.comを。こちらのデータベースには900以上のマールボロ・ソーヴィニヨン・ブランのテイスティング・ノートが。

原文

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